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第7話:夢見るサポーター、旅に出る

 ルミエール商会のある街を出立する、その日の朝。

 ロイドは商業ギルドの個室で、ギルドマスターから手渡された皮袋の中身を見て、目玉が飛び出そうになっていた。



「白金貨が、五十枚……!?」



 白金貨一枚で、平民の家族が一年間遊んで暮らせる大金である。

 それが五十枚。一生どころか、孫の代まで豪遊しても使い切れないほどの莫大な財産だった。



「私も驚いたよ。いったい、何を販売したらこんな金額になるんだか……、いや、商人にそれを聞くのはマナー違反だな。すまない」

「い、いえ……」



 当主からの依頼(泣きつかれた)で、バフリンの残りはルミエール商会に販売することになった。


 確かに、お嬢様が今後も狙われる可能性はあるし、なによりもお嬢様のために持ってきた品だ。

 御礼も兼ねて、残りを譲ることにした。


 ただ、霊薬のエリクサーの出処など知れれば、何をされるかわからない。

 秘密厳守を条件に販売したのだが、どうやら守ってくれているようだ。



「シルバーランクの商人なら、ギルドの魔導金庫に預けておくこともできるが、どうする? いつでも全国のギルドで引き出せるから安心しろ」

「あ、ありがとうございます……! そのほうが安心なので、よろしくお願いします!」



 首から下げたシルバーランクの証である銀のプレートが、ズシリと心地よい重みを放っている。



 これでもう、宿代に困って道端で寝ることもない。

 誰の顔色を窺う必要もなく、自由に旅をして、夢の中で好きなものを探せるのだ。



 ギルドを出たロイドの足取りは、羽が生えたように軽かった。





 ◇ ◇ ◇





「ロ、ロイドォォォォォッ!!」




 街の正門をくぐり抜けようとしたその時。

 背後から、ひどく掠れた情けない声が響き渡った。



「……え?」



 振り返ったロイドは、思わず息を呑んだ。

 そこに這いつくばっていたのは、泥まみれのボロ布を纏い、ゲッソリと頬をこけさせたひどく薄汚れた男女だった。



 かつて、ロイドを「給料泥棒のポンコツ」と罵り、雨の夜に蹴り出した『紅蓮の牙』のリーダー・ガイルと、魔法使いの少女だった。



「ガ、ガイルさん……? どうしてそんな……武器や防具は?」

「売ったんだよぉ……! 売るしかなかったんだ……!」



 ガイルが、地面に額を擦り付けてボロボロと涙を流す。

 周囲の冷ややかな視線など気にする余裕もないほどの、完全な土下座だった。



「お前を追い出した次の日から、急に宿屋から叩き出されて……! 冒険者ギルドに行っても依頼は受けさせてもらえねえ、どの店に行ってもパン一つ、水一杯すら売ってくれねえんだ! ルミエール商会のブラックリストに乗ったって……!」



 ガイルの後ろで、魔法使いの少女も泣きじゃくっている。



「お願い、ロイド! 私たちが悪かったわ! あなたがただのサポーターじゃなくて、商会お抱えの天才錬金術師だったなんて知らなかったの! だから、お願いだから商会の当主様に言って、私たちの許しをもらってちょうだい!」

「なんなら、お前がパーティーのリーダーでもいい! 俺たちはお前の奴隷として働くから、だから見捨てないでくれぇ!」




 なりふり構わず泣き叫び、すがりついてこようとするかつての仲間たち。

 その惨めな姿を見て――ロイドの心は、自分でも驚くほど冷え切っていた。


(人とは、なんて醜いんだ……)



 自分が利用できるとしれば、なりふり構わずにすがりつく。

 両親でさえも、今の自分の資産を知れば、尻尾を振ってくるんだろうか。



 ロイドは、あまりのおぞましさに、吐き気すら覚えた。




「……お断りします」




 ロイドの静かで、しかしはっきりとした拒絶の声に、ガイルたちがビクッと肩を震わせる。



「僕にはもう、あなたたちを信じることは出来ない」



 ロイドは首元の銀のプレートを見せつけるように掲げた。



「商人として、あなたたちのように『仲間の価値を見極められず、いらなくなればすぐにゴミのように捨てる』ような底辺の人間とは、絶対に取引しません」

「あ、あぁ……ロ、ロイド……」

「さようなら。もう二度と、僕の前に現れないでください」



 冷たく言い放ち、ロイドはきびすを返した。


「ちょっと待てよ、この無能が!」

 ガイルは、木の棒を構えて、ロイドに飛びかかる。


「下手にでりゃいい気になりやがって! そのプレートよこせええ!!」


 ロイドは、懐から殺虫スプレーを取り出すと、ガイル目掛けて噴射した。


 『狙った獲物は逃さない!』のキャッチフレーズ通り、どんなに適当に噴射しても当たるチート性能付きということは既に判明している。



「ぐぎゃああああ!!」


 ガイルは、ゴロゴロと地面を転がると、泡を吹いて気絶した。


 残された魔法使いは、ロイドの攻撃を見ると、ガイルを置き去りにして逃げていってしまった。 


 

 ロイドは、何だか哀れになり、ガイルの傍らに銅貨を一枚置くと、その場を立ち去った。





 ◇ ◇ ◇





 街の喧騒から離れ、ロイドは街道を一人歩き出した。



 見上げる空は、どこまでも高く澄み渡っている。

 ポケットの中には、莫大な財産と、異世界の夢を見せてくれる『みーちゅーぶ』の黒い板。



「さて、今日は早めに野営の準備をして、また便利な道具を探そうか」



 今夜はどんな夢が見られるだろうか。

 美味しい食べ物か、それともまた、この世界の常識をひっくり返すような魔法の道具だろうか。



「ふふっ、楽しみだな」



 心優しい少年は、誰の期待にも縛られることなく、自分だけの夢を求めて、広い世界へと歩き出した。


 

(了)

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