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第5話:夢見るサポーター、エリクサーを持ち帰る

 自分の部屋に飛び込んだロイドは、ベッドに倒れ込むなり『黒い板』を強く胸に抱きしめた。




 神官は「あと数時間」と言った。

 ぐずぐずしている暇はない。すぐにでも眠りにつき、夢の世界へ行かなければならない。




(お願いだ……! あの時みたいに、すぐに夢を見せてくれ……!)





 ロイドは、リリアーヌが血を吐いた時に拭ったハンカチを一緒に握りしめ、必死に目を閉じた。



 焦れば焦るほど意識は冴えてしまうが、これまでの過酷なサポーター生活で培った『どんな状況でも即座に眠る技術』が、ここで奇跡的に発揮された。


 数分後。ロイドの意識は、深く暗い底へと沈んでいった。









 再び目を開けると、そこは天まで届く塔がそびえ立つ、あの見慣れた『異世界』だった。



 ロイドはすぐさま手元の黒い板――『みーちゅーぶ』を起動する。




「薬……! お嬢様の苦しみを、あの恐ろしい痛みを治す薬を教えてくれ!」





 ロイドが画面に向かって叫ぶと、夢の都合の良さか、画面がチカチカと切り替わり、一つの『広告』が大々的に映し出された。



 そこには、頭やお腹を抱えて苦しむ女性と、それを打ち払う光の演出。

 そして、力強い文字が画面いっぱいに飛び込んできた。




『痛みのもと、伝わりを両方解決!――痛みに負けるな!』




「これだ……! 痛みに負けない、薬……!」



 画面の中の音声が、明るく頼もしい声で語りかけてくる。



『あらゆる辛い痛みに早く効く! 鎮痛薬、バフリン!』



 映し出されたのは、青と赤の文字が書かれた白い小さな箱だった。




 ロイドには、医学の知識はない。

 この薬が、本当に役に立つのかもわからない。

 でも、お嬢様は痛がっていた。これは事実だ。


 痛みを取るものであれば、何かの役に立つに違いない。



「これだ! これを決済する!」



 ロイドは迷うことなく画面のボタンを強くタップした。









「……はっ!」



 ロイドが現実世界で目を覚ますと、その手の中には、夢で見た『バフリン』の白い箱がしっかりと握られていた。



「やった……! 待っていてください、お嬢様!」




 ロイドは部屋を飛び出し、リリアーヌの寝室へと全速力で駆け戻った。

 部屋の中では、当主がすがりついて泣き、神官が首を横に振っているところだった。




「どいてください!」




 ロイドは人々を掻き分け、ベッドの傍らに膝をつく。

 そして、箱の中から取り出した白い小さな錠剤を、震える手でリリアーヌの口元へと運んだ。



「ロ、ロイド! 何をしているのよ!」




 部屋の隅にいたメイド長が、血相を変えて飛んできた。




「その子にもう、変なものを飲ませないで! ただでさえ苦しんでいるのに、得体の知れないものを……!」

「これは、痛みに負けない薬です! 絶対に効きます!」




 メイド長の制止を振り切り、ロイドは水と一緒にその白い錠剤をリリアーヌに飲ませた。






 ――次の瞬間だった。






 カッ……!!



 リリアーヌの体から、目を開けていられないほどの眩い『黄金の光』が溢れ出したのだ。



「な、なんだこの途方もない神聖力は……!?」



 神官が、尻餅をついて震え上がった。


 


 この光景を見て、ロイドは確信していた。




 あの異世界は、確かに凄い文明の国だ。

 だが、あの映像を見ると、こんな効果はなかった。


 『ぷりん』も『高級トリートメント』もどこか変わった効果をもっていた。


 おそらく、異世界を渡って持ち込まれたものは、性能がその世界に合わせて強化されるのだ。



 ただの鎮痛薬は、世界を渡ったことで、超希少な霊薬『低級エリクサー』へと進化を果たしていたのである。




「あ……ぁ……」




 黄金の光が収まると、そこには信じられない光景があった。



 土気色だったリリアーヌの肌は、透き通るような桜色に戻っている。

 荒かった呼吸は嘘のように穏やかになり、それどころか、病に倒れる前よりも遥かに力強い生命力がその小さな体から満ち溢れていた。




「う、嘘よ……私の、完璧な呪毒が……!」




 メイド長が、信じられないものを見る目で後ずさる。

 数ヶ月かけて仕込んだ呪いは、全てロイドに消されてしまった。


 任務を達成しなければ、自分が殺される。


 だからこそ、苦肉の策として、この令嬢に直接毒を打ち込むという荒業に出たのだ。

 当然、姿は見られている……。




「ん……ぅん……。私……」




 ゆっくりと、リリアーヌがその美しい瞳を開いた。




「お、お嬢様……! よかった……本当によかった……っ!」




 ロイドはベッドの端に崩れ落ち、ボロボロと大粒の涙を流した。


「ロイド……、あなたが?」


 ロイドは、コクリと頷いた。

 ロイドの頭を、起き上がったリリアーヌが優しく撫でる。


 

「良かった……。娘よ……」

 

 誰しもがホッと胸を撫でおろす瞬間、唯一殺意をもった影が、スッと動いた。

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