1話:夢見るサポーター、パーティーを追放される
短編でやってしまったので、上げなおしました!
完結まで全7話。ストック済みですので、是非お読みくださいー。
「ロイド。お前、今日でこのパーティーをクビな」
冒険者ギルドに併設された酒場。
喧騒のなかで、リーダーである剣士のガイルはジョッキをドンッとテーブルに置き、冷たい声でそう告げた。
「え……? あの、僕、何か失敗を……?」
突然の宣告に、ロイドは目を丸くした。
寝ぐせが目立つ茶髪に、少しタレ気味の目。
昔から「お人好しで騙されやすそう」と笑われる彼は、この『紅蓮の牙』という中堅パーティーでサポーター(雑用係)として懸命に働いてきたつもりだった。
荷物持ち、野営の準備、武器の簡単な手入れ。
戦闘能力が皆無なロイドができることは、なんだって真面目にこなしてきた。
しかし……。
「失敗? 失敗しかしてねえだろうが! サポーターの分際で、何の役にも立たねえゴミスキル引きやがって!」
ガイルが苛立たしげにテーブルを叩く。
同席していた魔法使いの少女も、呆れたようにため息をついた。
「ほんとよね。ダンジョン探索中なら使えるかと思って眠らせてみても、なーんの成果もなかったしね」
「そ、それは違います! 一生懸命やっているんですが、夢はランダムだし、それに夢の中でもガイルさんたちは怖いし……」
ロイドは慌てて弁解した。
この世界では、人は生まれながらに一つの『スキル』を神から授かる。
そのスキルによって、自分がどう生きるかが概ね決まってくる。
攻撃系のスキルなら冒険者や兵士に、回復系なら治癒士や神官になるといった具合だ。
だが、中にはそれらに大別できない特殊なスキルを持って生まれるものもいる。
それらの多くは、冒険者の支援役であったり、商人や職人になる。
そして、ロイドに与えられたスキルは、『幻夢の戦利品』という特異なスキルだった。
スキルの使い方は、いたってシンプルだ。
夢を見る。そして、その夢の中に出てきたものを一つだけ、現実世界に持ち帰ることができるというスキルである。
「あぁ! それじゃなにか? 俺たちが悪いってのか?!」
ガイルが忌々しそうにロイドを睨みつける。
「お前を拾ってやったのは、その『夢の中からアイテムを持ち帰れる』って能力が使えると思ったからだ。レアアイテムを一度でもドロップしたら、無限に夢から持ち帰れるかもしれない。そう期待したのによ!」
ロイドのスキルは、夢で触れたものを現実に引き寄せる。だが、見る夢は完全にランダムなのだ。
そして、夢だからといって、全部が都合よく行くわけではない。
レアドロップの夢を見ても、そのドロップを持ち帰ろうとすれば、夢の中のガイルから奪う必要があるため、成功したことはなかった。
「この1ヶ月、お前が寝こけて夢から引っ張り出してきたのはなんだ? 『ただの石ころ』に『枯れ枝』、『謎のボロ布』……昨日に至っては『誰かの食べかけのパン』だぞ!? ふざけてんのか!」
「す、すみません……! 正直、持ってこれるのってこれが限界で……」
「もういい。お前みたいな給料泥棒のポンコツ、これ以上養ってられねえ。顔も見たくないからさっさと消えろ。退職金代わりだ、これはくれてやる」
ガイルは足元に転がっていた、使い古されたボロボロの鞄をロイドに向けて蹴り飛ばした。
中に入っているのはロイドの私物と、わずかばかりの銅貨だけ。
「あ、あの! これじゃあ今日の宿代にも……っ!」
「知るかよ。せいぜい道端で得意の昼寝でもしてろ」
取り付く島もなく、ロイドはパーティーを追い出されてしまった。
「はあ……またダメだった……」
夜。冷たい雨が降りしきる中、ロイドはトボトボと大通りを歩いていた。
やっとの思いで拾ってもらったパーティー。
それも、わずかな期間で追い出されてしまった。
これはロイドにとって、初めての経験ではなかった。
一番初めは、住んでいた村を追い出されたことだ。
ロイドのスキルは、夢を見ないと何も起きない。要するに、寝ないといけないのだ。
『いつも寝てばっかりで、何もしない怠け者』というイメージがついてしまうことに加え、起きている間のロイドは実質『スキルなし』と同義であり、その働きは子供にも劣ると見なされていた。
そんな彼の未熟さを恥じた両親は、ロイドを村から追い出したのである。
根が真面目なロイドにとって、貢献したいのに出来ず、サボっていると非難されることは耐えがたいものだった。
「何で僕ばっかり、こんな目に……」
ロイドの目から、勝手に大粒の涙が溢れてくる。
顔についた雨と共に涙をぬぐうと、前を向いて歩きだした。
手持ちの銅貨では、一番安い木賃宿にすら泊まれない。
雨風をしのげる場所を探して街の裏通りを彷徨っていると、ひっそりと佇む廃墟に行き着いた。
壁には色褪せた看板がかかっている。
『異世界勇者・記念博物館』。
大昔、異世界からやってきて魔王を倒したという勇者。
その遺品を展示していた場所らしいが、今では誰も勇者のことなど覚えておらず、完全に放置されたボロ屋と化していた。
「ここなら……雨はしのげるかな」
軋むドアを開け、ホコリまみれの館内に入る。
展示物のほとんどは盗まれたか風化しており、残っているのはガラクタばかりだった。
ロイドは部屋の隅に座り込み、ふと、足元に落ちていたものに目を留めた。
それは、黒くて四角い、手のひらサイズの薄い板だった。
表面はガラスが激しく割れていて、真っ暗で何も反応しない。
(勇者の遺品……かな? なんだか分からないけど、これ、売れるかな)
これがお金になれば、少しでもご飯が食べられるかもしれない。
ロイドはその『黒い板』を大切に両手で包み込むように握りしめ、冷たい床に横たわった。
「……今日は、せめて温かいご飯を食べる夢が、見られますように」
疲労と寒さで限界だった彼は、泥のように深い眠りへと落ちていった。
まさかこの時握りしめた『黒い板』が、ロイドの運命を、大きく変えることになるとは思いもしなかった。




