食料
あれから一週間が経った。
奇妙なことに、部屋のライフラインはすべて生きている。
電気も、水道も、ガスも普通に使える。
どこに繋がっているのかは分からない。
なのに、蛇口を捻れば驚くほど清潔なお湯が出る。
ただ、冷蔵庫の食品は、食べればちゃんと減る。
補充されたりはしない。そこだけは現実的だった。
つまり――食料は、いずれ尽きる。
だから俺は、畑を作ることにした。
元の世界では、部屋の中でレタスを水耕栽培していた。
ベランダ菜園用の種も、いくつか残っている。
スコップ代わりに園芸用のシャベルを持って、部屋の横の地面を少し掘り返していると――
「ただいまー!」
元気な声と一緒に、ハク――あの時の子犬が、森から飛び出してきた。
口にぶら下げているのは、ウサギに似た生き物だった。
額から小さな角が一本、ぴょこんと突き出ている。それ以外は、普通の動物だ。きっと。
「今日は肉料理だね!!」
嬉しそうに尻尾を振っている。
……そう。
この犬――喋る。
おまけにかなり大きくなった。もう、玄関ドアを潜れない。
二つある寝室のどちらかをハクの部屋にしようかとも思ったが、このサイズでは難しい。
可愛そうだが、今は、外で寝てもらっている。
まあ、でもこれはきっと、地震のショックで見ている幻覚だろうし。
あるいは、今際の際に、彼岸で見ている走馬灯的なものかもしれない。
だって、こんなにデカくて喋る犬が、いるわけがないんだ。
だが腹は減る。
とりあえず、俺はハクが捕まえてきたウサギ――そう、これはウサギだ――を、拾ってきた切株の上に置いてみた。
……捌くのか、これを。
正直かなり躊躇した。
でも、もう死んでいる。
食べなければ、もったいない。
それに、これが走馬灯なら、せめて最期まで、腹いっぱいでいたい。
「大丈夫大丈夫! 美味しいよそれ!」
気楽に言うハクの横で、俺は意を決して包丁を入れた。
ステンレスの包丁が、まだ温かい皮膚を割る。手に伝わる確かな重みと熱。幻覚にしては生々しすぎる感触に眩暈を覚えながらも、俺はイカの皮を剥ぐのと、魚を捌く要領で、ウサギを解体した。
血は切株と土に吸わせ、内臓と骨は、ハクが喜んで回収している。
そして部屋に戻り――
鍋に油を引く。
ストックしておいた玉ねぎと、ウサギ肉を炒める。
じゅわ、と油が弾ける。
焼き色がついてきたところで、水と、冷凍しておいたブロッコリーを入れた。
灰汁を取り、ガラスープの素と、最後に、カレー粉を入れる。
スパイスの匂いが、部屋いっぱいに広がった。
換気扇は回っている。
「わあああああ!! いい匂い!!」
開けた窓から、ハクが尻尾をぶんぶん振っているのが見えた。
そのとき突然、ドアがどんどんと叩かれた。
誰か――いるのだろうか?
こんな森に。いや、走馬灯に。
いったい誰が。
窓の外で、ハクの耳がぴくりと動いた。
「……変わった匂いがする」
俺は火を止め、お玉を置き、護身用のスタンガンを強く握りしめた。
ドアの外。
いや――そこにいるのは、果たして人なのか?




