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備蓄していた俺、アパートの部屋ごと転移。異世界で宿屋始めます。  作者: 島田まかろん三世


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2/2

食料

 あれから一週間が経った。


 奇妙なことに、部屋のライフラインはすべて生きている。

 電気も、水道も、ガスも普通に使える。


 どこに繋がっているのかは分からない。

 なのに、蛇口を捻れば驚くほど清潔なお湯が出る。


 ただ、冷蔵庫の食品は、食べればちゃんと減る。

 補充されたりはしない。そこだけは現実的だった。


 つまり――食料は、いずれ尽きる。


 だから俺は、畑を作ることにした。


 元の世界では、部屋の中でレタスを水耕栽培していた。

 ベランダ菜園用の種も、いくつか残っている。


 スコップ代わりに園芸用のシャベルを持って、部屋の横の地面を少し掘り返していると――


「ただいまー!」


 元気な声と一緒に、ハク――あの時の子犬が、森から飛び出してきた。


 口にぶら下げているのは、ウサギに似た生き物だった。

 額から小さな角が一本、ぴょこんと突き出ている。それ以外は、普通の動物だ。きっと。


「今日は肉料理だね!!」


 嬉しそうに尻尾を振っている。


 ……そう。


 この犬――喋る。


 おまけにかなり大きくなった。もう、玄関ドアをくぐれない。

 二つある寝室のどちらかをハクの部屋にしようかとも思ったが、このサイズでは難しい。


 可愛そうだが、今は、外で寝てもらっている。


 まあ、でもこれはきっと、地震のショックで見ている幻覚だろうし。

 あるいは、今際いまわきわに、彼岸で見ている走馬灯的なものかもしれない。


 だって、こんなにデカくて喋る犬が、いるわけがないんだ。


 だが腹は減る。


 とりあえず、俺はハクが捕まえてきたウサギ――そう、これはウサギだ――を、拾ってきた切株の上に置いてみた。


 ……さばくのか、これを。


 正直かなり躊躇した。


 でも、もう死んでいる。

 食べなければ、もったいない。


 それに、これが走馬灯なら、せめて最期まで、腹いっぱいでいたい。


「大丈夫大丈夫! 美味しいよそれ!」


 気楽に言うハクの横で、俺は意を決して包丁を入れた。


 ステンレスの包丁が、まだ温かい皮膚を割る。手に伝わる確かな重みと熱。幻覚にしては生々しすぎる感触に眩暈を覚えながらも、俺はイカの皮を剥ぐのと、魚を捌く要領で、ウサギを解体した。


 血は切株と土に吸わせ、内臓と骨は、ハクが喜んで回収している。


 そして部屋に戻り――


 鍋に油を引く。

 ストックしておいた玉ねぎと、ウサギ肉を炒める。

 じゅわ、と油が弾ける。

 焼き色がついてきたところで、水と、冷凍しておいたブロッコリーを入れた。


 灰汁あくを取り、ガラスープの素と、最後に、カレー粉を入れる。

 スパイスの匂いが、部屋いっぱいに広がった。

 換気扇は回っている。


「わあああああ!! いい匂い!!」


 開けた窓から、ハクが尻尾をぶんぶん振っているのが見えた。


 そのとき突然、ドアがどんどんと叩かれた。


 誰か――いるのだろうか?


 こんな森に。いや、走馬灯に。

 いったい誰が。


 窓の外で、ハクの耳がぴくりと動いた。


「……変わった匂いがする」


 俺は火を止め、お玉を置き、護身用のスタンガンを強く握りしめた。


 ドアの外。

 いや――そこにいるのは、果たして人なのか?


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