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備蓄していた俺、アパートの部屋ごと転移。異世界で宿屋始めます。  作者: 島田まかろん三世


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1/2

ここは、どこだ?

 明け方。揺れがようやく収まった。


 スマホの電波は一切届かず、ネットも通じない。

 部屋は静まり返り、暗闇だけが広がる。


 震度7とか。

 もっとあったんじゃないだろうか──体にはまだ、揺れているような感覚が残っている。


 建物が崩れたらまずい──直感的にそう思った俺は、枕元にいつも置いているスニーカーを履き、防災用のリュックを背負い、ホイッスルを首に掛けた。それから、警棒タイプのスタンガンを握りしめる。


 息を整え、ドアノブに手をかけた。


「はあ!?」


 ドアを開けると、視界いっぱいに深い緑。鬱蒼とした森だ。


 樹海……的な?


 いやいや、俺が住んでいたのは首都圏だった。

 二階建てのアパートの二階で、階段を上がって直ぐの、2LDK。風呂とトイレ付きで、家賃、月7万8千円の築15年の部屋だ。


 一階部分は、地下に沈んだ――とか?

 でも、目の前は駐車場だったはず。それから、一軒家と、同じようなアパートもあったはずだ。


 足がすくむのを感じながら、一歩外に出た。

 足元の土は湿っていて、森の匂いが鼻を突く。


 空を見上げる。

 青い空――それを覆うほどの、巨大な鳥に似た何かが、悠々と飛んでいる。


 プテラノドン……的な?


「ここ……、どこ……」


 白亜紀とかにでも、タイムスリップしたのだろうか。


 俺は振り返った。


 狭い廊下のフローリングが見える。

 硝子などは、飛び散っていないように見えた。

 あんなに揺れたのに、割れていない。


 両脇にあったはずの、アパートの他人の部屋がない。

 俺の部屋だけが、そこにぽつんと置かれている。


 ここが現代で、樹海だったとして。

 こう……俺が借りている部屋だけがポーンと飛んで、ゴロゴロッと揺れて、ドーンっと置かれた――とか?


 じゃあ、空に飛んでいたあれは?


 ああ、なるほどね。アンデスコンドルかな。

 翼を広げると3メートルくらいあるっていうし。


 まあ、その十倍くらいの大きさに見えたのは、混乱していたせいで――きっと目の錯覚だったんだ。

 だとして。ここはアルゼンチンかコロンビア……。


 ああ、日本から、えらい遠くまで飛ばされた――って違くね!?


 え!? どこここ――!?


 そのときどこからか、「クゥン……」と、細い鳴き声がした。

 森の奥、木の陰に、それはいた。


 目を凝らすと、小さなハスキーの子犬が倒れている。

 いや、丸っこい感じからして、アラスカンマラミュートかもしれない。


 どっちでもいい。

 この絶望の淵で、俺はその「毛玉」と目が合ったのだ。


 周囲に、親犬はいないようだ。

 俺は戸惑いながらも、子犬に近づいた。


 背中を怪我している。

 そっと、子犬を抱き上げた。


 温かい。


 子犬を抱いたまま、俺は自分のアパートの部屋の風呂場に行った。

 窓からは、薄明かりが差し込む。

 昨夜溜めていた水は、そのまま残っていた。


 シャワーの栓を回してみる。

 出るはずがない。

 どこに繋がっているというのだ。


 だが、出た。

 お湯に変わる。


 信じられないが、今は考えないことにしよう。

 犬用のシャンプーを手に出し、泡を作る。


 これは、「モモ」用のシャンプーだ。

 実家にいる時から一緒だった、雑種の犬。


 専門学校を卒業して、六年目の、24歳のときに一人暮らしを始めた。

 ここは、モモと二人で住むために借りたのだ。


 けど、モモは既に老犬で、ここに越してきて二年も経たないうちに歩けなくなって……。

 深夜残業でなかなか帰れない俺は、結局モモを、実家に返した。


 このアパートの契約は、今年、切れるはずだった。


 モモと両親は、きっと無事だろう。


 そう思いながら、俺は、怪我をした子犬に温かいお湯を充てた。

 怪我をした場所を、ふわふわの泡で丁寧に洗う。


 よおく洗い流してから、タオルで乾かし、怪我をしている周囲の毛を刈った。

 ガーゼにたっぷり犬用の軟膏を塗って、怪我をした場所に貼りつける。

 包帯を巻き、エリザベスカラーをつけながら、俺は言った。


「いいか? 治るまで、舐めたりしちゃだめだからな」


 子犬はこくりと頷いた。

 言葉が通じるのか。まさか。

 だが、可愛い。


 それから水と、犬用の缶詰をあげてみた。

 よく食べてくれた。

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