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第6話|こんなにお金を使ったのに

【警告】

主人公が精神的に追い込まれる描写があるため、気分が悪くなったら読むのをすぐにやめてください。

高嶋からの「プライベートセッション」の提案を受けてから、アミカは数日、眠れない夜を過ごした。


提示された19,800円という金額は、これまでの彼女の買い物とは比べ物にならないほど高額だった。


夫に内緒で手を出すには、あまりにも重い。

貯金を崩すことに、強い罪悪感があった。


それでも、アミカの心の中には、「変わりたい」という抗いがたい衝動が渦巻いていた。


このままパートに追われるだけの人生で終わりたくない。自分の力で稼ぎ、経済的な自由を手に入れたい。


高嶋さんの言う通り、これは未来への投資なのだ。そう言い聞かせることで、なんとか自分を納得させようとした。


そして、ついに意を決して、貯金通帳から少しだけお金を引き出し、高嶋の口座へと振り込んだ。


スマホ画面に表示された「振込完了」の文字が、鉛のように重くのしかかる。


「これで、アフィリエイトで稼げるようになれば、すぐに元は取れる。大丈夫、大丈夫……」


震える声で呟き、アミカは自分に言い聞かせた。

これは、私らしい働き方を見つけるための、確かな一歩なのだと。


そして迎えた、高嶋との初めてのプライベートセッションの日。

画面越しの高嶋は、いつものように穏やかな笑顔でアミカを迎えた。


「那賀さん、今日はよく来てくれたわね。この一歩を踏み出した那賀さんを、心から尊敬するわ。」


その言葉に、アミカの張り詰めていた心が、少しだけ緩むのを感じた。


高嶋は、アミカが抱えているであろう不安を先回りするように言葉を続けた。


「不安に思うこと、あるでしょう? 高い投資だったと感じているかもしれない。でもね、安心して。私は那賀さんの可能性を信じているし、必ず結果を出せるよう、全力でサポートするから。誰もが通る道よ。ここを乗り越えれば、見える景色はガラッと変わるわ。」


その声は、アミカの心に温かく染み渡り、不安を拭い去るかのように響いた。まるで、母親が子供を抱きしめるような、包み込むような優しさだった。


「那賀さんが抱いている、ムーンバックスへの深い愛。そして、家族を大切に思う気持ち。それは、アフィリエイトで成功するために、何よりも大切な『情熱』よ。その情熱を、どうやってたくさんの人に届けるか、一緒に考えていきましょうね。」


高嶋はアミカの心を徹底的に肯定し、やる気に火をつけた。この人なら、本当に私を救ってくれるかもしれない。

アミカは、改めて高嶋を信じようと誓った。


セッションの後半。

高嶋のアドバイスは、具体性を帯びてきた。


「那賀さんの文章は、情熱があって素晴らしいわ。でもね、それが『誰』に向けて書かれているのか、明確にする必要があるの。」


高嶋は、真っ白いボードを画面に共有した。


「ペルソナを作るのよ。誰にでも当てはまる言葉は、結局誰にも響かない。だから、あなたの記事を読んで、本当に救われる、本当に知りたいと思っている、たった一人の読者を思い描くの。」


「その人は、何を思って検索して、あなたのブログにたどり着き、何を期待して記事を読むのか。そこを突き詰めて考えていくのよ。たとえば、『ムーンバックスの豆で家計を節約したいママ』なのか、『おうちでカフェ気分を味わいたいけど、手間はかけたくない人』なのか。ターゲットが明確になれば、刺さる文章が書けるようになるわ。」


アミカは真剣にメモを取った。


「商品だけの情報じゃなくて、読者との距離を縮める必要があるのよ。例えばね、私が何の苦労もしていない、生まれた時からお金持ちのキラキラ女子だったら、那賀さんはきっと私から教えてもらおうなんて思わなかったでしょ?」


「確かに……!」


アミカはハッと気づいた。

高嶋が、なぜ自分の悩みにあんなにも寄り添ってくれたのか。それは、アミカのような主婦層の心を掴むための、計算された自己ブランディングだったのだ。


「そう。那賀さんがどんな人で、どんな想いで記事を書いているのか。その『人間性』を見せること。それが、今の時代、一番大事な自己ブランディングになるのよ。」


こうして、初めてのセッションは終了した。

アミカの頭の中は、新しい知識と希望で満たされていた。


その後も、高嶋とのプライベートセッションは続いた。高嶋は「短期で結果を出すため」として、週に2回というハイペースでセッションを組んだ。


2回目のセッションでは、前回教わったSEOライティングをさらに深掘りした。


「那賀さん、読者はね、一つだけのキーワードで検索するわけじゃないのよ。例えば、『ムーンバックス 豆 おすすめ』だけじゃなくて、『ムーンバックス ハウスブレンド 淹れ方 初心者』とか、『ムーンバックス 節約 美味しいコーヒー 口コミ』みたいに、複数の言葉を組み合わせて検索するの。これが複合キーワードとか、ロングテールキーワードって言うんだけど、ここを狙うと、より確度の高い読者を呼び込めるわ。」


アミカは、自分がまるで特別な知識を得ているような感覚になった。

普段の生活では触れることのない、専門的な、まるで魔法のような言葉の数々。

すごく難しいことを私はしているんだな、と優越感に浸った。


3回目は、SNSの活用法についてだ。


「ブログだけだと、どうしても露出に限界があるわ。だから、X(旧Twitter)やThreadsで、ブログ記事を共有するの。でもね、ただ記事を貼り付けるだけじゃダメよ。ここでも自己ブランディングが大切なの。那賀さんがどういう人なのか、どんな日常を送っているのかを、写真と一緒に見せるの。」


高嶋は、映える写真の撮り方についても丁寧に教えてくれた。ムーンバックスでコーヒーを飲んでいるアミカの横顔、子供と公園で遊ぶ様子、綺麗に盛り付けられた食卓……。


アミカは、まるで自分がインフルエンサーになったかのような気分になった。


そして最後の4回目。総仕上げだ。

これまでに教えてもらったことを元に、高嶋と一緒にブログの記事をリライトした。


ーーーーーー

タイトル:【ムーンバックス大好き主婦が語る!】おうちカフェの秘訣「ハウスブレンド」で毎日を贅沢に!口コミと賢い節約術


こんにちは! ムーンバックスをおうちで楽しむのが日課の、主婦ブロガー那賀です。

「ムーンバックス 美味しい豆 自宅」や「おうちカフェ おすすめ」で検索してたどり着いたあなた!今日の記事は、そんなあなたのための特別な情報です。


[アミカ自身が自宅でハウスブレンドを淹れている、少しおしゃれな写真]


(写真のキャプション:お気に入りのマグカップでホッと一息。この時間が私の癒しです!)


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ーーーーーー


4回目を終えて、高嶋は満面の笑みでアミカを鼓舞した。


「那賀さん、覚えることたくさんあったと思うけど、本当に吸収が早い! 素直に実践できる人は必ず伸びるのよ。那賀さんなら、きっと売れっ子のインフルエンサーになれるわ! 私が保証する!」


アミカは、高い買い物だったけれど、高嶋さんを信じて本当に良かったと心から思った。

あの頃の自分よりも、今の自分は圧倒的に成長できている。ブログも、SNSも、こんなに「ちゃんとした」ものになったのだ。


「よし!ここから絶対に稼いで、まずは月に3万円を目指すぞ!頑張れ、私!」


アミカの心の中は、異様なほどの熱量で燃え上がっていた。


「頑張ってね、那賀さん!」

高嶋は、満面の笑みでそう告げた。


「何かあったら、また相談してね。」



そして一ヶ月後。


売れた……。


アミカの声は、力なく、虚ろだった。

たった1つだけ売れた…250円だけ売れた…。


「どうしよう! 嘘でしょ!? え!? どうして!!」


パニックが、波のようにアミカを襲う。顔から血の気が引き、息が荒くなる。


「どうして!どうして!高嶋さんの言うことは全部守ったのに!なんでなのよ!!」


怒りと絶望がない交ぜになり、アミカは手に持っていた携帯電話を、壁に投げつけてしまった。ドン、と鈍い音が部屋に響く。


「どうしよう……!もう2万円以上も使ってる!どうしよう!どうしよう!」


全身の震えが止まらない。呼吸は速くなり、眩暈がする。


「家族で貯めたお金を使ったんだから……なんとかしてよ!!」


崩れ落ちるようにリビングの床に座り込み、アミカは両手で頭を抱え、ただ泣き叫んだ。

この事実を夫が知ったら、どうなるだろう。想像するだけで、胃が締め付けられる。


それでも、アミカは、泣きながら自然と高嶋の電話番号を探していた。縋るように、震える指で通話ボタンを押す。


「高嶋さん!どうしよう!どうしよう!」


繋がった瞬間、アミカは泣きながら、堰を切ったように状況を訴えた。


高嶋の声は、驚くほど冷静だった。


「那賀さん、まずは落ち着いて。大丈夫、大丈夫よ。アフィリエイトは長い目で見るものだから。今はたまたま、そういう時期だっただけよ。私だって、波があるわ。月10万円いかない時だってあるの。でも、トータルで見たら、きっとプラスになるから。信じて。」


まるで、冷静沈着なカウンセラーのように、高嶋はアミカを慰め、安心感を与えようとする。


「でもね、那賀さん。もし、あなたがどうしても今すぐにでも高額の報酬が欲しい。この現状をすぐにでも打開したい。そう考えているのなら……実は、一つだけ方法があるの。」


高嶋の声が、優しく、しかし確信を持って響いた。


「それはね、もっとたくさんの人と情報を共有すること。もっとたくさんの成功事例を知ること。それから、誰にも相談できない悩みを打ち明けられる場所を見つけることよ。それが、最高の学びになるの。」


高嶋は、そう言うと、あるオンラインサロンの案内を送ってきた。


「ここは、本当にたくさんのアフィリエイターがいて、互いに学び合っている場所なの。佐藤ゆき子さんももちろんいるし、初心者からベテランまで、色々な人がいる。そういうところで、たくさんのヒントを得ることも、すごく重要よ。」


アミカは送られてきたリンクをクリックした。オンラインサロンの紹介ページ。


月額は9,800円。


「もう……無理ですよ……!高嶋さん、私に払えるお金は……これ以上ありません……!」


アミカは、力を振り絞って拒否した。


「那賀さん。気持ちはとてもよく分かるわ。」

高嶋の声は、さらに優しくなった。



「でも、那賀さん、ご家族で貯めたお金を使ってしまった、と言ってたわよね?」



アミカは、言葉を失った。その通りだった。


「……はい。」

蚊の鳴くような声で答える。


「……旦那さんには、まだ言ってないのよね?」


その言葉が、アミカの全身を凍りつかせた。


「……はい……」


「じゃあ、那賀さんは、すぐにでもそのお金を返さないといけないんだよね? そのお金が原因で、那賀さんの大切なご家庭が崩壊するなんて、私も本望じゃないわ。家族のため、子どものために、一生懸命貯めてきたお金なんでしょう?」


高嶋の言葉が、アミカの頭の中で最悪のシナリオを描き出した。


このことがバレたら、夫は怒り狂うだろう。離婚? 子どもたちと離れ離れになる? 想像するだけで、全身の血が凍り付く。


もうダメ...何も考えられない...


誰か...助けて...


お願い...助けて......


「那賀さん!どうするの?本当にこのままでいいの?このまま、この小さな失敗で負けてもいいの?那賀さんの使ったお金で、家族が離ればなれになってもいいの?」


もう、アミカには考えることができなかった。

ただ、目の前の地獄を避けるために、縋るように高嶋の言葉に頷くしかなかった。


「……オンラインサロンに、入ります。」


力なく、そう伝えた。


誰か......

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