第5話|情報商材への課金は止まらない
また売れた!!
スマホに通知が表示された瞬間、アミカは飛び上がった。心臓がバクバクと音を立てる。
画面には「報酬発生:250円」の文字。
今度はタンブラーではない。
ブログで一番最初に紹介した、大好きなムーンバックスのハウスブレンドコーヒー豆が売れたのだ。
「うそ……! コーヒー豆が売れた! 私の、一番大好きな商品が……!」
興奮は最高潮に達した。
全身の血が沸騰するような熱さ。
250円という金額が、まるで何百万円にも感じられる。
すごい!すごい!
周囲が見えないほどの喜びが、アミカを包み込んだ。パートの休憩中だったが、人目も気にせず、思わず両手でガッツポーズをした。
すぐにオンラインサロンのチャットを開く。
「聞いてください! また売れました!今度はムーンバックスのハウスブレンドです!私の大好きなあの豆が!」
絵文字をこれでもかと連打し、興奮をそのまま打ち込んだ。チャットはすぐに祝福のメッセージで埋め尽くされた。
「えー!那賀さんすごい!」
「連続で!?才能ありますよ!」
「私も続きたいですー!」
その言葉の一つ一つが、アミカの心に深く染み渡る。まるで自分だけが選ばれたかのような、特別な優越感が全身を駆け巡った。
そして、高嶋からも、すぐに個別のメッセージが届く。
「那賀さん!すごいじゃない!たった数日で二件も売れるなんて、本当に素晴らしいわ!やっぱり那賀さんのムーンバックス愛が、ちゃんと読者の方々に届いている証拠よ!本当に、私が見込んだ通りだわ!」
高嶋のメッセージに、アミカの脳内で鐘が鳴った気がした。カリスマだ。高嶋さんは、本当に私を理解してくれている。
高嶋のメッセージを何度も読み返し、アミカは歓喜に震えた。
高嶋も嬉しかった。
更なる高みに那賀を連れて行けるから。
「へえ。次はちゃんと売れてよかったね。でも、那賀さん、ここからよ。」
そう高嶋は心の中で呟き、次なる提案をすることにした。
「那賀さん、こんな短期で二件も売れるなんて本当にすごいことなのよ!この勢いを絶対に止めちゃダメよ!」
高嶋のメッセージは、アミカの心に再び火をつけた。
「私、もっと頑張ります!」
「ええ、もちろんよ。でもね、那賀さん。実は、みんなには難しくて、あまり教えていないことがあるの。でも、今のアミカさんなら、きっと理解できると思うわ。」
アミカの胸が高鳴る。
特別な情報だ。
私だけが、高嶋さんから直接聞ける。
「え、なんですか!?」
「もっと効率的に、もっとたくさんの人にあなたの記事を見てもらうための、特別なノウハウよ。正直、これは外部にはあまり出せないような話だから、ワンコインというわけにはいかないんだけど……でも、アミカさんの今のペースなら、すぐに元が取れて、お釣りが来るはずよ。」
「ちなみに、そのノウハウって、どんなものなんですか?」
勢いで購入する前に、一応尋ねた。
「那賀さん、SEOって知ってる?」
高嶋の声が、画面越しに響く。
「SEO、ですか……? 何だか難しそうな……」
アミカは首を傾げた。初耳だった。
「そうよね、聞いたことがない人も多いと思うわ。簡単に言えばね、あなたの書いた記事を、Googleとかで検索したときに、たくさんの人の目に触れるようにする、魔法みたいなテクニックなの。SEOを意識した文章にするだけで、検索される回数が何倍にもなるのよ!」
「え!それすごい!なんでそんなことまで高嶋さん知ってるんですか!?やっぱり高嶋さん、すごい!」
アミカの瞳は、期待で輝いていた。
迷いは完全に消え去った。
「私、買います!」
アミカは迷わず購入ボタンを探していた。この調子でいけば、3000円なんてすぐ元が取れる!だって2日で400円近く稼げたんだ。一ヶ月続ければ、簡単に数千円、いや、万単位になるかもしれない。頭の中ではとんでもない計算式が合理化されていた。
高嶋から送られてきた購入リンクをタップし、3,000円のノウハウ集を購入した。
タイトルは「検索エンジン上位表示の極意!SEOライティング完全攻略ガイド」。
早速中身を見る。
そこにはSEOの基礎から、キーワード選定、タイトルや見出しのつけ方、記事構成の考え方など、これまでアミカが全く知らなかった情報が丁寧に書かれていた。
・読者が検索しそうな言葉をタイトルや見出しにしっかり含める。
・記事の導入部分で、読者の悩みに寄り添うキーワードを使い、本文への興味を引く。
・本文中にも、キーワードを意識しつつ、自然な形で何度も登場させる。
「なるほど……!とにかく検索されそうなキーワードを意識することが重要なのね!」
アミカはまた感動した。
これまでの自分の記事は、ムーンバックスへの愛は込めていたけれど、検索する人のことなど全く考えていなかった。
これで、私の記事もたくさんの人に見てもらえるようになるんだ。
よし、早速やってみよう!
アミカは、前回書いたコーヒー豆のアフィリエイト記事をリライトすることにした。
試行錯誤が始まった。
「『ムーンバックス ハウスブレンド 口コミ』とか、『ムーンバックス 美味しい豆 自宅』って検索する人が多そうかな。あとは『ムーンバックス 節約 自宅』とかもアリかも!」
アミカは、これまでただコーヒーが好きという気持ちだけで書いていた文章に、ターゲットのニーズという視点を加えた。
数時間後、リライトが完成した。
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タイトル:【ムーンバックス愛が止まらない!】おうちカフェで至福の一杯!「ハウスブレンド」口コミ&節約術を徹底解説!
こんにちは! ムーンバックスコーヒーをこよなく愛する那賀です。
ムーンバックスを家で楽しむための方法を検索してたどり着いたあなた!
今日は、私が毎日おうちで飲んでいる、とっておきのムーンバックスコーヒーの豆「ハウスブレンド」をご紹介します!
ムーンバックスのコーヒーを自宅で楽しみたい方や、おうちカフェを満喫できる方法を探しているあなたに、ぴったりの情報です!
[商品の写真:ムーンバックスハウスブレンドの豆のパッケージ]
このハウスブレンドは、本当にバランスが良くて、毎日飲んでも飽きないんです。
ムーンバックスに毎日行くのは高い。少しでも節約して美味しいコーヒーを飲みたい方にも最適!
朝の一杯に、午後の休憩に、夜のリラックスタイムに。どんなシーンにもぴったりで、自宅が最高のムーンバックスカフェに変わります。
私も、この豆を使い始めてから、おうち時間がもっと豊かになりました。
お店に行く時間がない時でも、手軽に美味しいムーンバックスコーヒーが楽しめるって、最高ですよね!
ムーンバックスのコーヒーでおうち時間を充実させたい考えているなら、ぜひ試してみてください!
[ムーンバックスハウスブレンドの購入リンク]
【今すぐチェック!】ムーンバックス公式オンラインストアでハウスブレンドを購入する
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「完璧!」
アミカは自己満足でニヤけた。
これで、きっとたくさんの人が検索してくれるはずだ。検索されまくって、記事がバズって、アクセス数が爆発的に伸びたらどうしよう!
そんな妄想まで始める始末だった。
しかし、現実は甘くなかった。
おかしい……どうして……?
記事をリライトして一週間が経った。
にもかかわらず、購入されたアフィリエイト報酬はゼロ。ブログのアクセス数も、あまり伸びていなかった。
高嶋さんの教えを守っているし、SEOライティングだって、完璧なはず!どうして?
アミカはパニックに陥っていた。
「高嶋さん、どうしよう、全然売れないの!」
助けを求めるように、震える指でメッセージを送った。すぐに高嶋から返信が来た。
「那賀さん、落ち着いて。そういうときだってあるわ。でも、那賀さんがやっていることは間違ってない。大丈夫よ。」
高嶋は、アミカにGoogleアナリティクス(ブログのアクセス状況を分析するツール)の画面を共有するように指示した。
アミカが自分のブログの管理画面を共有すると、高嶋はにこやかに言った。
「ほら!見て! PVは確実に伸びているし、色々なワードで検索されているでしょう?ほら、『ムーンバックス 家で楽しむ』とか、『おうちカフェ おすすめ』とかで、しっかり検索されているわね!」
「ほんとだ……!」
アミカは画面の数字を見て、妙に納得した。
確かに、少しずつではあるが、数字は動いている。
「そう。たまたま今週はうまくいかなかっただけ。那賀さんがやっていることは間違っていないわ!大丈夫よ!」
高嶋は、優しい声でアミカを安心させる。
だが、その声の奥底には、別の意図が隠されているのが、アミカには分からなかった。
「ただ。」
高嶋の声のトーンが、少しだけ変わった。
「那賀さん、あなたはもっと大きく羽ばたける才能がある。ここまで頑張ってきたのに、ここで終わらせるのはもったいないわ。」
高嶋は、ゆっくりと言葉を選びながら続ける。
「私も那賀さんに寄り添って、もっと成果を出させてあげたいんだけど……実は、私のマンツーマンのセッションは、特別なオプションになってしまうの。」
画面に、新しい提案書が表示された。
プライベートセッション(マンツーマン指導)
* 高嶋愛生による個別指導
* 全4回コース
アミカの思考は停止した。嫌な汗が流れる。
視線が、提示された金額に釘付けになる。
19,800円。
「い、いちまんきゅうせん……はっぴゃくえん……。そんな……払えるわけ……」
声にならない呻きが漏れた。
怖い。怖い......。
高嶋は、画面越しにアミカの表情をじっと見つめていた。その瞳は、まるで獲物を見定めているかのように、冷たく光っていた。
「那賀さん。安くないのは分かっているわ。私も本当に那賀さんを助けてあげたいから、この価格で提供しているの。佐藤ゆき子さんも、このセッションを受けて、初めて安定的に稼げるようになったのよ。考えてみて。たった19,800円よ? もし、あなたが月3万円稼げるようになったら、この金額なんてすぐにペイできるでしょう? そこから先の利益は、全部那賀さんのものになるのよ!」
高嶋の声が、アミカの耳の奥にねじ込まれるように響く。そして、高嶋が畳み掛ける。
まるで、アミカに思考する時間を与えないかのように。
「那賀さん、あなたは本当にこのままでいいの? また、いつもの生活に戻るんですか? パートに追われて、お金の心配ばかりして、自分の時間も持てない。そんなんだから、あなたはいつまでも取り残されているんじゃないですか? 変わろうとしないから、ずっとその場所で苦しんでいるんでしょう?」
言葉のナイフが、アミカの心の奥底を深く抉る。
図星だ。
その通りだ。
今まで、何度そう思ってきただろう。
「私はね、那賀さんに本当に幸せになって欲しいから、こうして厳しいことを言っているのよ……!」
高嶋の瞳から、一筋の涙がこぼれ落ちた。画面越しの彼女は、まるでアミカの苦しみを共に背負っているかのように、悲痛な表情をしていた。
その涙を見た瞬間、アミカの目からも、大粒の涙が溢れ出した。
高嶋の言葉が、胸に突き刺さる。
そう、今までずっとそうだった。
チャンスを見つけても、結局怖くて一歩を踏み出せない。
このままでは、また同じ後悔を繰り返すだけだ。
変わりたい。
私らしく、自由に生きたい。
もう、誰かの顔色を窺いながら、何者でもない人生を送るのは嫌だ!
アミカの心の奥底に燃え盛っていた小さな炎が、高嶋の言葉と涙によって、巨大な業火へと変わっていく。
「高嶋さん……私、もう一度頑張ってみるので、ご指導お願いします……!」
アミカは、震える声で懇願した。
もう……後戻りなんてできない……。