第4話|アフェリエイトの真実
座談会を終え、アミカはすぐに500円の「アフィリエイトマニュアル」を購入した。
スマホにPDFがダウンロードされると、すぐに高嶋から1対1のメッセージが届いた。
「那賀さん、マニュアルのご購入、本当にありがとうございます! 那賀さんのムーンバックス愛をたくさんの人に知ってもらいましょうね! 初めて売れた時には、是非ムーンバックスでカスタムもりもりでお祝いしましょうね!」
画面越しの雲の上の存在だった高嶋が、一気に身近な、親近感の湧く存在になった気がした。アミカの胸は高鳴った。
マニュアルは、期待以上に丁寧だった。
スマホの画面キャプチャがふんだんに使われ、アフィリエイトの仕組みから、ブログの開設方法、記事の書き方、商品の選び方まで、ポイントが分かりやすく解説されている。
ネットで調べれば出てくるような情報ばかりなのだが、アミカはもうそんなこと気にもしない。
「やっぱり高嶋さんすごい!」と、ひたすら感心しながら読み進めた。
さあ、第一歩だ。
アミカはマニュアル通りにブログを開設した。
開設が完了した時、画面に表示された真新しい自分のブログURLを見て、思わず小さなガッツポーズをした。
「私のブログ……!」
まるで、自分の城を手に入れたような、特別な高揚感があった。
しかし、すぐに壁にぶつかった。
「一体、何を一番最初に書けばいいんだろう?」
マニュアルには「好きなことを書きましょう」とある。アミカは頭を悩ませた。
子供のこと、家事のこと、日々の生活。色々あるけれど、最初の一歩だからこそ、一番「私らしい」ものにしたい。
考えに考えた末、たどり着いたのは、やはり大好きなムーンバックスコーヒーだった。
「よし、私が一番好きな、あの豆について書こう!」
次に、記事に貼るアフィリエイトリンクの取得だ。
マニュアルの指示通り、ASPというサイトに登録し、ムーンバックスコーヒーの豆の広告を探し出す。
「これか……!」
画面上に表示された、見慣れたムーンバックスのロゴ。その横に表示された「アフィリエイトリンクを取得」のボタンを、ドキドキしながらクリックした。
複雑な英数字が並んだ文字列をコピーし、ブログの管理画面を開く。
「ブログのここに貼ればいいのね……。」
マニュアルの画面キャプチャと見比べながら、慎重に、そして正確にリンクを貼り付けた。
まるで、宝の地図の指示通りに進む冒険者のようだ。
そして、記事作成。
高嶋が言っていた「文章作成支援ツール」を使ってみる。
テーマとキーワードを入力すると、ツールがみるみるうちに文章を生成していく。
「すごい……!本当に書けてる!」
アミカは再び感動した。
これなら、文才がない自分でも、どんどん記事が書ける。まるで魔法のようだ。
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タイトル:【ムーンバックス愛が止まらない!】おうちで楽しむ至福の一杯!私が毎日飲んでるおすすめの豆はこれ!
こんにちは! ムーンバックスコーヒーをこよなく愛する那賀です!
今日は、私が毎日おうちで飲んでいる、とっておきのムーンバックスコーヒーの豆をご紹介します!
皆さん、ムーンバックスコーヒーって、お店で飲むのが最高!って思っていませんか?
もちろん、それも最高です! でも、おうちでも、お店で飲むような美味しいコーヒーが楽しめるって知ってましたか?
私がおすすめするのは、ムーンバックスコーヒーの「ハウスブレンド」です!
[商品の写真:ムーンバックスハウスブレンドの豆のパッケージ]
このハウスブレンド、本当にバランスが良くて、毎日飲んでも飽きないんです。
朝の一杯に、午後の休憩に、夜のリラックスタイムに。どんなシーンにもぴったり!
私も、この豆を使い始めてから、おうち時間がもっと豊かになりました。
お店に行く時間がない時でも、手軽に美味しいムーンバックスコーヒーが楽しめるって、最高ですよね!
ぜひ、あなたも試してみてください!
[ムーンバックスハウスブレンドの購入リンク]
【今すぐチェック!】ムーンバックス公式オンラインストアでハウスブレンドを購入する
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記事は完成した。
あとは「公開」ボタンを押すだけ。
アミカは、ゴクリと唾を飲み込んだ。
「これを押したら、本当に世界中の誰かに見られるんだ……。」
不安が、胸の奥からこみ上げてくる。
見ず知らずの人に、自分の文章が評価される。
もしかしたら、酷評されるかもしれない。怖い。
でも、同時に、「私の『好き』を、たくさんの人に伝えたい」という、純粋な思いが背中を押した。
「よし……!」
アミカは、指を震わせながら、公開ボタンをタップした。
しかし、数日経っても、ブログのアクセス数は伸びない。誰にも見られない。当然、報酬もゼロのままだった。
同じ座談会に参加した20代の若いママからは、オンラインサロンのチャットで「私もまだ全然ダメですー。本当に稼げるんですかね?」といった弱音が聞こえてくる。
30代後半の主婦も「色々なセミナー行ったけど、結局今回もダメなのかな……」と諦めムードが漂っていた。
アミカも焦りを感じ始めていた。
「本当にこのやり方で合ってるのかな……。」
マニュアルには「継続が大事」と書いてある。
高嶋も、オンラインサロンの定期的なメッセージで「大丈夫、コツコツが大事だから!」「もう少しで花開くはず!」と鼓舞してくる。
だが、具体的にどうすればアクセスが増えるのか、どうすれば商品が売れるのか、その答えはどこにもなかった。
そんなある日のことだった。
アミカのブログに、初めての報酬が発生したという通知が届いた。
「報酬発生:250円」
「え……!?」
アミカは目を疑った。
何度も画面を見直す。
確かに「250円」と表示されている。
たった250円。
されど250円。
初めての、自分の力で稼いだお金だ。
「やった……! やったー!」
アミカは思わずガッツポーズをした。
全身に鳥肌が立つ。
これまでの苦労が報われたような気がした。
すぐにオンラインサロンのチャットに「初報酬が出ました!」と書き込んだ。
20代ママからは「えー!すごい!おめでとうございます!」と絵文字付きのメッセージ。
30代後半主婦からも「私も頑張ります!」と返信があった。
そして、高嶋からも、すぐに個別メッセージが届いた。
「那賀さん!おめでとうございます! やっぱり那賀さんならやれると思ってました! 私の言った通り、コツコツ続ければ結果は出るんです。これで次が見えてきましたね!」
高嶋からのメッセージに、アミカは心底安心した。やはり、この方法は間違っていなかったんだ。
「もっと頑張ろう!」
アミカのモチベーションは一気に最高潮に達した。
250円という小さな金額が、アミカの心を完全に掌握した。
これでもっと稼げるようになれば、パート代を気にせず、自分の好きなものを買える。
子供たちにも、もっと色々な経験をさせてあげられる。
アミカの頭の中は、次のステップへと向かっていた。
......数時間前。高嶋愛生の自宅オフィス。
高嶋は、PC画面に向かっていた。
画面には、アミカのアフィリエイトブログが表示されている。
タンブラーの紹介記事。
高嶋は静かに笑い、マウスをゆっくりと動かした。
アミカのアフィリエイトリンクをクリックし、ムーンバックス公式オンラインストアで、タンブラーの商品ページを開く。
そして、購入ボタンにカーソルを合わせる。
「カチッ。」
低く、乾いたクリック音が、静かなオフィスに響いた。
「那賀さん、初めての報酬、おめでとう。タンブラー、大切に使わせてもらうわね。」
高嶋は、そう呟くと、PCの画面を閉じた。
「そろそろ那賀さんから報告来るかしら?」
その数分後、高嶋のスマホが光った。
オンラインサロンのチャット通知。
「売れました!!」
那賀からのメッセージだった。
高嶋は、すぐに那賀へのメッセージを打ち始めた。
「那賀さん!おめでとうございます! やっぱり那賀さんならやれると思ってました! 私の言った通り、コツコツ続ければ結果は出るんです。これで次が見えてきましたね!」
......高嶋は、笑っていなかった。