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第3話|有料商材買いました

今日は、この前申し込んだWeb座談会の日だ。


スマホをタップし、Web会議のリンクを開く。

画面に切り替わると、高嶋愛生の満面の笑顔が飛び込んできた。

彼女の背後には、まるでカフェのようなおしゃれな背景。無料セミナーの時と同じ、洗練された雰囲気だ。


「皆さん、こんにちは! 高嶋愛生です! 今日はお忙しい中、私の特別座談会にご参加いただき、本当にありがとうございます!」


高嶋の声は、画面越しでも熱を帯びている。


参加者は、アミカを含めて3人。

高嶋の他には、少し控えめな雰囲気の40代くらいの女性、そして20代くらいの若いママ、アミカと同年代か少し上に見える30代後半の主婦がいた。


この少人数制が、またアミカの心を掴む。

まるで、選ばれた人だけが参加できる、特別な空間のようだった。


「今日はね、皆さんがもっとあなたらしく働くを実現するために、私の大切なパートナーをご紹介したいんです。佐藤ゆき子さんです!」


高嶋が紹介すると、控えめな女性がはにかむように会釈した。


佐藤ゆき子は、見た目はおしゃれとは言えず、どちらかといえば地味で、話もうまくない。

それが、なんだかアミカには少しホッとする部分だった。


「私と一緒だ……」


「ゆき子さんはね、私と出会うまで、本当に苦労されてたんです。でも、私のメソッドでね、たった半年で、ご自身でしっかり稼げるようになった、素晴らしいママなんです! じゃあ、ゆき子さん、簡単に自己紹介をお願いします!」


高嶋に促され、ゆき子が話し始めた。

声は少し震えているが、その言葉には実感がこもっていた。


「は、はじめまして、佐藤ゆき子と申します。私も、パートだけでは家計が厳しくて、夜中に内職したりして、本当に毎日が必死でした。そんな時に、愛生さんと出会って、アフィリエイトというものを教えてもらって……。」


ゆき子は言葉を選びながら、ゆっくりと話す。

アミカは、彼女の言葉の端々に、自分の姿を重ねていた。

無理している笑顔、疲労感の滲む声。

きっと、この人も私と同じように、頑張りすぎているんだろう。


「正直、最初は半信半疑でした。私にできるのかなって。でも、愛生さんが本当に丁寧に教えてくれて、言われた通りにやってみたら、本当に売れたんです! 先月は、実は3万円の報酬をいただくことができました!」


ゆき子の顔が、パッと輝いた。

その小さな成功が、彼女にとってどれほどの喜びだったか、その表情が物語っていた。


アミカは、その輝きに目を奪われた。


3万円。


今の自分にとっては、どれだけ大きな金額だろう。パートの収入に3万円プラスされたら、どれだけ生活が楽になるだろう。


「ね?ゆき子さん、すごいでしょう?」


高嶋が満足そうに微笑む。


「ゆき子さんは、本当にパソコンも苦手で、文章を書くのも得意じゃないって言ってたのに、私と一緒に頑張って、ここまで結果を出されたんです。これって、特別な才能とかじゃなくて、『正しいやり方』と『諦めない気持ち』があれば、誰でもできるってことなんです。」


高嶋の言葉は、アミカの心にスッと入ってきた。特別な才能なんてない、私でも。


そこから座談会は、アフィリエイトの基礎知識の説明へと移っていった。


アフェリエイトの仕組み、商品の探し方、デモ画面を使った簡単な解説、そして「稼ぐコツ」と称する三選。


どれもネットで調べれば出てくるような内容で、特別な情報は何もない。


それでも、高嶋はファシリテーターとして巧みに場を回し、参加者の質問を促し、ゆき子の成功例を効果的に挿入する。


20代の新米ママは「へぇー!すごい!」「楽して稼げそう!」と目を輝かせ、30代後半の主婦は、これまで失敗してきた自分と重ね合わせるように、前のめりでメモを取っていた。


「ところで、皆さん。文章を書くのって、苦手意識がある方、いらっしゃいますか?」


愛生がそう問いかける。

20代ママと30代後半主婦が頷き、アミカも小さく頷いた。


「そうですよねー! 文章書くのって大変!私もそうでした。でもね、今は本当に便利になったんです。実は、簡単に文章を作ってくれる優秀なツールがあるんですよ!」


高嶋は、画面にツールのデモ画面らしきものを映し出した。まるで魔法のように言葉が紡がれていく様子に、アミカは目を凝らす。


「これがあれば、文才がない、時間がない、っていう方も、もう大丈夫!あなたの『好き』を、どんどん記事にしていけるんです。」


そして、高嶋は自身のネット銀行の画面を共有した。入金履歴の一覧。


「これ、先月の私の報酬明細なんですけど……見てください! 42万円! まさか自分がこんなに稼げるなんて、最初は夢にも思わなかったです。」


数字は説得力があった。


42万円。


それが、アフィリエイトで稼いだ金額だという。

アミカは、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「もちろん、これは、私がコツコツと積み重ねてきた結果です。アフィリエイトは一撃ではなく、小さな小銭稼ぎの積み重ねが重要ですからね。でも、小さな積み重ねが、やがて大きな金額になる。それがあなたらしい働き方で実現できるんです。」


高嶋はさらに、自身のPhotogramを見せるかのように、きらびやかな写真を次々と提示した。


ブランドバッグを手に微笑む自分、韓国旅行で満面の笑みを浮かべる自分、ムーンバックスコーヒーのカップを片手にリラックスした表情の自分。


「これね、全部、私自身へのご褒美なんです。頑張った自分に、小さな贅沢を。ゆき子さんも、最近、ずっと欲しかった時計を買われたんですって!」


隣でゆき子が「はい!」と恥ずかしそうに頷く。


「皆さんにも、こんな未来、手に入れてほしいんです。貴方の未来は、こうなるよって、私は自信を持って言えます。」


高嶋は、参加者一人ひとりの目を見つめるように画面越しに訴えかけた。


「皆さん、これまで本当に頑張ってこられましたよね。子育てに、家事に、仕事に。もう十分頑張ったじゃないですか!次は、あなたらしい働き方をしませんか?」


アミカの胸が、熱くなった。

そうだ、私は十分頑張ってきた。


「そうですよね? このままじゃ、きっと何も変わりませんよね。」


高嶋の問いかけに、20代ママが力強く頷く。


「でもね、今変わらないと、もう変わりませんよ。時間は、あっという間に過ぎ去ってしまいますからね。」


高嶋の言葉に、アミカの心に小さな焦りが生まれる。このままでは、また昨日と同じ明日が来る。

終盤になり、高嶋が口を開いた。


「さて、今日お話しした内容は、本当に触りの部分だけ。もっと具体的に、どうやって稼ぐのか、私のノウハウをまとめた『ママに特化したアフィリエイトマニュアル』という有料マニュアルをご用意しました。」


アミカの心臓が再び跳ねた。

やはり、有料か。


「通常は5000円で販売しているんですけど……今日は特別に! なんと500円でご提供させていただきます!」


「500円!?」


20代の若いママが、思わず声を上げた。

アミカも耳を疑った。


たった500円? ワンコインじゃないか。


「そうなんです。ワンコインで、あなたの人生が変わる第一歩を踏み出せるんです。もちろん、これはスタートのマニュアル。もっと深いノウハウや、個別サポート、私と直接話せるオンラインサロンなど、色々なオプションはありますが、まずはこのマニュアルから始めてみませんか?」


高嶋はそう言って、画面に購入ページのリンクを表示させた。


「もちろん、無理にとは言いませんよ。」


高嶋の声は優しい。


「でも、もし少しでも『変わりたい』という気持ちがあるなら、このワンコインから、始めてみることをお勧めします。だって、やらなきゃ、何も始まらないですからね。」


座談会の熱気が最高潮に達する中、30代後半の主婦が声を上げる。


「……私、是非やりたいです! やります!」


彼女の真剣な眼差しに、アミカは心を揺さぶられた。この人も、私と同じように、何かを変えたいと必死なんだ。


「素晴らしい!ありがとうございます!」


高嶋は満面の笑みで答えた。


「じゃあ、那賀さんはどうされますか?別に今決めなくてもいいんですが...」


高嶋の視線が、画面越しにアミカに向けられた。

その瞳は、優しく、けれど確実にアミカの心を射抜いていた。


「でも、那賀さんならきっと大丈夫。私もサポートするから。騙されたと思って、一緒に頑張ってみませんか?」


アミカは、スマホを持つ手が震えるのを感じた。

本当にできるんだろうか。こんなに簡単に稼げるんだろうか。


怪しい。でも、たった500円だ。


「ゆき子さんも3万円稼げたんだから、私だって……。」


もし、3万円稼げたら……。


パートのシフトを減らして、ムーンバックスコーヒーでノートPCを広げ、好きなコーヒーを飲みながら、自分のペースで記事を書く。そんな「私らしい働き方」ができるかもしれない。


子供たちのおもちゃを、値段を気にせずに買ってあげられる。

夫に遠慮せず、自分のためのちょっとしたご褒美を買える。


何より、自分の力で、誰にも文句を言われずに、お金を稼ぐことができる……。


アミカの脳裏に、ムーンバックスコーヒーの店内で、笑顔でPCに向かう自分の姿が鮮やかに描かれる。


怪しいという気持ちの奥底で、アミカの心は無意識ながら、ワクワクと高鳴っていた。


やらなきゃ、何も始まらない。

ダメだったら、別にやめればいいだけじゃないか。


愛生の声が、さらなる夢を見せる。


「那賀さんは、お金が入ったら何したいですか?たった3万円でも、できることはたくさんありますよ?その未来を、一緒に叶えましょうよ!」


その未来が、まるで手の届くところにあるかのように、鮮明に脳裏に描かれた。


アミカは、指を震わせながら、購入ボタンをタップした。

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