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君は、  作者: 千草色
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八月 side.桧凪 [2]

八月 side.桧凪 [2]

 私が生きる意味って何だろう。

 もう何年も、何百回も考えている問いは、これまでとは違う切迫感を伴っている。

 生きたいと思えないのに生きる必要があるのか。医療資源だって有限なのに。貴重な医療資源は生を望む人に与えられるべきで、

 治療を受けない理由は思いつくのに治療をする理由は思いつかないことにまた、生きることに向いてないんだな、と更に後ろ向きになっていく。

 決まらないまま、一日、三日、一週間と過ぎてゆき、──ある日仕事を終えてスマホを開くと、知らない番号から着信履歴があった。通知が来ることなどほとんどないSMSショートメッセージサービスアプリにも通知が来ている。

 怪訝に思いながらSMSアプリを立ち上げ、チャットを開いて、驚いた。

 ──突然すみません。

   私は、春乃の妹の美奈子と

   申します。

 一瞬、息が止まった。「春乃」は母の名前だ。昔、母が年の離れた妹がいると言っていたことを思い出す。苗字を名乗っていないから確証はないけれど、母の妹である可能性は高い気がした。

 ──090-✕✕✕✕-△△△△の

   着信履歴も私です。

   名前に見覚えがなかったら

   無視してください。

 向こうも私が母の娘だという確証は持てないのだろう。念の為確認してみたが、記載されている電話番号は着信履歴と同じだった。

 ──先日実家に帰省した際に、

   ある葉書を見つけました。

   五年以上前のその葉書には

   要件と差出人の電話番号と

   名前が書かれていました。

 五年以上前、というのでふと思い出した。おそらく、両親の訃報を知らせるために出した葉書のことだろう。すぐに捨てられてしまったのだと思っていたのに、よく残っていたなとよく分からない感傷に浸りながら、読み進めていく。

 ──今更何を、と思われるかも

   しれませんが 、私は葉書を

   見て初めて知ったのです。

   あなたと会って話がしたい。

   せめて、電話ででもお話し

   できないでしょうか。

 番号が違った場合を考えたのだろう。詳しいことは何も書いていなかったが、何故か私はそれが母の妹だと確信していた。

 すぐに返事を書く。

 ──連絡ありがとうございます。

   娘の桧凪と申します。

   葉書は捨てられてしまった

   のだろうと思っていたので

   嬉しい限りです。

   会いたいのは山々ですが、

   お互いの都合もあると思う

   ので、まずは電話で話して

   みたいと考えていますが、

   どうでしょうか?

 震える指で何とか文字を打ち、送信する。返事はすぐに来た。

 ──ありがとうございます!

   もちろん大丈夫です。

   都合の良い時間など、

   ありますか?

 ──今からでも大丈夫ですし、

   明日明後日も午後8時以降

   なら大丈夫です。

 返信を打ちながら、これまで経験したことがないような高揚感に包まれていた。緊張しているときのように、心臓が普段より大きく脈打っているのが分かる。

 ──では、今から掛けます。

 ──分かりました。

 メッセージを送信した後、間髪入れずに携帯が鳴る。応答ボタンをスライドして、スピーカーモードに変える。

『もしもし』

「はい。浜名桧凪です」

『連絡した、美奈子です。旧姓は毛利です』

 母の旧姓も毛利だ。間違いない。

「歳の離れた妹がいるとは聞いていましたが、こうして出会うとは思いませんでした。……その、実家と折り合いが悪いのだとも聞いていたので」

「そう、ですね。姉さんが家を出てから、うちの中でも勘当同然みたいな扱いでした。それで母も葉書を抽斗に仕舞い込んでいたんだと思いますから……それでも流石に訃報の葉書だけは捨てることもできなかったんでしょうね」

 何と答えて良いか分からず黙っていると、意を決したように向こうが尋ねた。

「あの、姉さんはどんなふうに亡くなったんですか?」

 想像していた質問だったが、実際に訊かれると思っていたより心理的ダメージが深かった。

 深呼吸をして、口を開く。

「父と母で出かけていたときに、居眠りで信号無視したトラックと交通事故を起こして…あっという間だったそうです」

 向こうで息を呑む音が聞こえた。

「そうですか……」

 はい、と掠れた声で答えると、それ以上何も言えなくなってしまう。

 沈黙を破ったのはまたも向こうだった。

「姉さんの、旦那さん…桧凪さんのお父さん方の実家とは今も行き来があるんですか?」

 何故そんなことを訊かれるのだろうと思いながらも、答えた。

「いえ。父方の祖父母は私が産まれる前に亡くなっているので」

「それは、大変でしたね。……その、もし良ければ、なんですが」

 電話口の向こうだが、言い淀んでいるのが分かる。何も言わずに待っていると、相手がゆっくり話し始めた。

「これから何か困ったら、遠慮なく頼ってください。……優しくて面倒見が良くて、頼りになって。私は姉さんが大好きでした。姉さんには何も返せなかったけど、せめてあなたには……」

 その先はもう、聞けなかった。

 本当に、なんてタイミングなんだろう。

 事実は小説より奇なり、という言葉が頭に浮かんだ。

「今更、ですよね。その、最後の最後の選択肢でも良いので、私があなたの力になりたいと思っていることだけ伝えさせてください」

 私がずっと黙っていたので誤解させてしまったのだろう。彼女が言葉を選びながら重ねるのに、首を振った。

「違うんです。そうじゃなくて」

 ちょっと考えて、口を開いた。

「私、白血病にかかってて。治りにくい種類で、あと五年生きれるかどうかも怪しいんです」

「え、」

 向こうは驚きのあまり言葉を失っているが、話し始めたら止まらなかった。

「治療するかどうか決めてないんですが、治療するとしても同意書に署名してくれる人がいなくて」

 一つ息を吸って、続ける。

「頼っても、良いですか」

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