prologue
本当は、オリオン座なんて好きじゃない。あまりにもありふれていて、新鮮さに欠けるから。
それでも私は毎年探す。見つけられない年があっても、私の冬からオリオン座が消えることはなかった。——「初恋」、なんて陳腐なことを言いたくはないけれど。
暖かい部屋の中、冬の澄んだ夜空に輝く七つの星が閉じた瞼の裏に浮かぶ。街灯の明るさで、真ん中の三つがほとんど消えてしまっているオリオン座。
周りに街灯がない山の頂上で見た綺麗なのも知っているのに、一番に思い描くのはいつだって霞んだ星たちだ。
——あれがオリオン座らしいよ。リボンを斜めにしたみたいな形の。
懐かしい声が耳の奥で響く。あんなに大きいんだ、と驚く私に、君が笑って頷く。
——僕もそれ思った。問題だとあんなに小さく書いてあるのに。
あの頃ちょうど理科で天体をやっていたんだよなあ、と思い返す。問題でよく出てくるオリオン座って意外と本物見たことないよね、なんて話した三日後くらいに君は教えてくれた。
高校受験が近づいてきて、同時に卒業を意識し始めて、受験勉強に追われながらも感傷に浸らずにはいられなかった冬。
——あれから紆余曲折を経て辿り着いた今を、私は愛している。
だから。
私は、薄れていく意識をそのまま手放した。