秋山麗奈の日記
秋山麗奈の日記
3月〇日
今日私は運命的な出会いを果たした。
妹と公園に遊びに行くと、たまに見かける遊んでみたかったあの子。
肩まで伸びていた綺麗な金髪は、4年の歳月で腰あたりまで伸びていて、勝気に見えた青い目。整った顔立ち。身長も低く本当に可愛い女の子だと思ってた。
私の家は貧乏で話し掛ける事も出来なかったけど、仲良くなれたらなって、真姫と話してた。
そんな私たちに、あの子から声をかけてくれた。その日はお姉さんも一緒に遊んでくれて楽しかった。
その日が真姫の命日になった。
あの子のお姉さんの命日でもある。
同時に私とあの子の人生を狂わせた日。あの日から私の世界は灰色に支配された。
お母さんは男を作って家を出ていった。
真姫が亡くなって、声を出せなくなった私の面倒を見るのに疲れたんだと思う。
お父さんは残った私を養おうと必死に働いたけど、世間の目はキツすぎた。小さな娘を亡くした可哀想な人だった父は、妻に逃げられた情けない男と言われ、いつしか仕事に行かなくなって、しまいには私を残して自殺した。
お父さんを恨んではいないけど、どうせ死ぬなら私も連れて行って欲しかった。
お父さんと真姫、目の前で2人、大事な人が亡くなった。いつしか表情を変えようとも思わず、無表情のまま過ごしていたら、いつの間にか表情すら変えられなくなった。
親戚は私を可哀想な子とは言うものの、引き取ってはくれず、父の葬式の場で、誰が引き取るか押し付けあってたっけ。
違う違う。こんな暗い話を日記に残したくない。
今日あの公園に行ったのはたまたまだった。
お寝坊して、どうせ遅刻だからととぼとぼ歩いてたら、真姫に呼ばれた気がして、公園に入った。
学校とか別に行っても行かなくてもどうでもいいとは思っているけど、生活費を出して貰う代わりとして、何があっても学校にだけは行くように叔母さんに言われているから、仕方なく通っている。
学校、将来、夢、私には思い描いてるものは何も無くて、学校を卒業したら適当に働いて死んでいくつもりだ。
別に死んだって構わない。むしろその方が私にとって都合がいい。
適当に働くって言っても、女の私に出来ることなんてたかが知れてる。
男性を相手にするお仕事だって、男性恐怖症の私には不可能だ。
だから、あの子に近づいて怖くなかったのは意外だった。
見た目が女の子みたいだからかな。本当に、後で書くけど彼の口から直接聞くまで女の子だと思ってた。
公園に入った私は、真姫が亡くなる直前まで、一緒に遊んでいた砂場を眺めてボーッとしていた。
しばらく眺めていると、知らない男の人にナンパされた。
最初は優しい声ではなしかけてきたけど怖くて何も言えずに居たら、気を悪くしたみたいで少々強引に腕を引っ張られた。
最初から私の体目的だったみたいで暴言も吐かれた。
やっぱり男の人は怖い。抵抗したけどあの子が来てくれなかったら多分連れて行かれてた。
私と、その男の人の間に割って入るように、綺麗な金髪の髪の毛がフワッと目の前を覆い尽くして、柑橘系のいい匂いがした。
灰色の世界の中で、あの子の金髪だけが色付いて見えた。
それから殴り掛かろうとした男の人をあの子が成敗。
そのまま殺してしまうんじゃないかってくらい怒っていてちょっぴり怖かったけど、小さくて可愛くて昔見たプリキュアみたいだと思うと怖さも和らいだ。
勇気を出して殴る手を止めたら、あの子が振り向いた。
4年前よく見かけた顔。だけどあの子の勝気で輝いていた目は、絶望と怒りに染まっていて、私のようだった。
だから少し話してみたくなって、あの子を呼び止めた。
凄く嫌そうに足を止めたあの子は素っ気なくて、ちょっぴり寂しさを覚えた。
多分あの子はお姉さんの事がショックで私の事なんて覚えて居なかったのだろう。
1つ2つ会話をしたら直ぐに立ち去ってしまった。
会話の中で驚いたのは、あの子は彼だったこと。
名前は春日悠太くん。15歳で私の1個年下。
聞いてもすぐには信じられなかったけど、彼が言うからには男の子なんだよね?多分。
けど近づいても怖くなくて、触れても震えなかった。
男性恐怖症になってから怖くないと思った初めての男の子。名前しか知らないけど、仲良くなりたい。