魔王城決戦で世界は救われません。
「とうとう来たかッ! 勇者共」
玉座から立ち上がった魔王はその大剣をブンブンと振り回す。
俺の感知スキルにはレベルは99と表示されている。
ラスボスにふさわしい強さじゃないか。
俺たちはこいつを倒して世界を救って見せる!
「行けるか勇者!」
俺の隣ではレベル85が盾を構えている。
魔王城一歩手前で買ったミスリルの盾がきらびやかに輝いていた。
レベル85のこいつにふさわしい装備だ。
「ああ、しっかりその盾で俺を守ってくれよレベル85!」
「ああ! 任せてくれ!」
キリッとした表情で頷いたレベル85。
こいつはどんな時でも頼りになるやつだった。
魔王の前でもそれは変わらない。
こいつは最高の仲間だ!
「勇者! 後方支援は私に任せなさい!」
俺たちの後ろで女術師が叫んだ。
こいつのレベルは88。
人類最高峰の回復魔法を操る頼れる後方支援だ。
ドラゴンに俺の半身がくわれたときも、彼女の魔法でなんとか生き残ることができた。
「レベル88、帰ったら一緒に暮らそう」
「もっ、もうっ。今は戦いに集中してっ!」
「おいおい、相変わらずだなお前たちは」
レベル88は頬を赤らめながら杖を構えた。
ふっ、まったくかわいい子猫ちゃんだぜ。
「支援魔法は僕が担当するよ!」
「ああ、任せたぜレベル89!」
後方支援はもうひとりいる。
彼はレベル89だ。
文字通り俊敏性をあげたり、攻撃力、防御力を強化する魔法を使用する。
とにかく頼れるやつだ!
こいつがいなければ勝てなかったであろう戦いは数え切れないほどにあるのだから。
「舞台は整ったようだな勇者。では我も本気を出すとしようか!」
魔王は大剣に膨大な魔力を溜め始めた。
俺たちはそれを見て身構える。
「ああ。来いっ! ステータスオープン! 開放!!」
俺が叫ぶと俺の前にはステータス画面が表示された。
そこに記された記述を見て、魔王は驚愕に顎を外した。
「なっ!? レベル999だとッ!?」
そう、その通り。
俺は死ぬ気で努力して雑魚スライムを狩り続けた結果、最初の村を出るまえにレベル999になってしまったのだ。
この世界のレベル上限は99だが、俺は転生者だ。
転生特典で女神から受け取った上限解放のスキルが、俺を限界突破させてくれる手助けとなった。
俺は勇者だ。
民を、いやこの世界を魔王から守る義務がある。
努力、友情、勝利、そのすべてを使ってこの魔王に勝って見せる。
「いくぞ魔王っ!! はあああああ!!!!」
「相手にとって不足なしッ! こい勇者っ!!!!」
両者の剣がぶつかろうとしたその瞬間。
突然の轟音が魔王城を襲った。
何事か? と俺達は一旦戦いを中止する。
「魔王様! 大変です!! い、隕石が降ってきます!!」
「い、隕石だと!?」
隕石? なにそれ?
そんな話聞いてないぞ!?
「お、大きさは?」
「直径10~15Kmと測定されております!」
「「な、なに~~!?」」
俺と魔王はその数字を聞くと膝から崩れ落ちた。
もう魔王だ勇者だ言ってる場合じゃない。
そんな大きさの隕石が衝突したら……。
このままじゃ世界が終わってしまう。
「勇者! 一体どうしたっていうんだ! なぜ剣を投げ捨てた!!」
レベル85のやつが俺に向かって大声で叫ぶ。
まるで俺を鼓舞するように。
こいつはいつもこういうやつだった。
俺が折れそうになると、こうやって俺を背中から押してくれる。
「勇者! お願いっ! 諦めないでっ!!」
レベル88の彼女も黄色い声援を送ってくれた。
いつもありがとうレベル88。
顔がめちゃくちゃタイプだったからこのパーティーに入れてみたけど、まさかここまで有能な回復術師になるとは思いもしなかったよ。
約束は守れなそうにない。
ゴメンな。
「勇者! ここで諦めては人類が滅亡してしまいますよっ!!」
レベル89のやつが叫んだ。
こいつはレベル88の弟だっていうから連れてきたけど、の割にはうちのパーティーで二番目にレベルが高くなった。
伸びしろがあったんだろうな。
「「「勇者!! 人類が滅亡するっ!!」」」
「「そりゃチクシュルーブ衝突体が降ってきたらこの惑星が滅亡するわ!!」」
俺と魔王は口を揃えて叫んだ。
その瞬間、俺たちはまるで恋愛映画のラストシーンのように目を合わせた。
きっと、あっちも内心『こいつも地球からの転生者なのか……』と思ったに違いない。
ちなみにそのチクシュルーブ衝突体ってなんのこっちゃというと。
こいつは恐竜を絶滅させた隕石だ。
ユカタン半島とかいうふざけた名前の場所に落ちたあれ。
つまり、
こいつがこの惑星に衝突したら、魔王討伐飛び越えて人類滅亡。
惑星の地殻が衝撃にめくれ上がってあの愉快なBGMが流れ出すことだろう。
「くそっ!! 勇者!! なにかいい考えはないのかっ!!」
魔王はあたふたしながら俺に助けを求める。
こんな最悪のシナリオ誰が想定できると?
レベル999の俺でも隕石はどうにもできないぞ!
「無理だ!! 空を見てみろ!! あの大きさだぞ!!」
「ちょっと!! どうして勇者は魔王と仲良く会話してるの?」
現地人であるこいつらはことの重大さがわかっていない。
今は、魔王と協力してなんとかこの状況を打開しなければ。
「魔王! お前はレベル99だな?」
「ああ、だがなぜそれを……」
「そんなこと言ってる場合じゃない! 生物最強の俺たちで力を集めてこの惑星を救うぞ! 戦いはそのあとだ!!」
俺は一度投げ捨てた剣をひろうと立ち上がった。
あの必殺技を放てばもしや……、この隕石を砕くことができるかもしれない。
「はっ。魔王と勇者が共闘で世界を救うか……。これはきっと歴史には残らないのだろうな……」
魔王は不敵に笑うと剣を空に向けた。
そこには既に空を覆い尽くすほどの隕石が近づいてきていた。
まったく。
異世界にもNASAが必要だってだからあれほど言ったのに。
人類なんて魔王の前にこういった非常災害で滅ぶ可能性があるとあれほど……。
いや、今は文句を言っても仕方がないか。
これがラストチャンスだ。
「いくぞ! 魔王!!」
「ああ! 勇者!!」
「「はあああああああああああああああっ!!」」
俺たちは一緒になって剣に魔力を込めた。
最強と最恐の一撃が、人類を砕かんとする隕石に向かって放たれる。
「「スターバーストォッ! ストリーーーーーーームッ!!!!」」
これが俺たち二人で最強の二刀流十六連撃だあああああ!!
俺たち二人の剣から斬撃が飛ばされると、その攻撃が隕石に直撃する。
だが。
「「やっぱ……むりか」」
まるでサウナストーンに垂れた汗がジュワッと蒸発するようにして斬撃は飲み込まれた。
これはもうだめだ。
「勇者、最後に貴様と共闘できて楽しかったぞ」
「ふっ。ああ、俺もだ」
俺は魔王とかたい握手を交わした。
「ちょっと二人共どうしてそんなに仲良くなるの!?」
「勇者が洗脳されたぞ! 俺たちで助けないとっ!」
「ぼ、僕はあの頭上の岩石がやばいと思うんですけど……」
直後、
隕石が直撃した。
こうして俺たちの冒険は幕を引いたのである。
⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎
「ん? ここは……」
あれ? おかしい。
さっき衝撃に飲まれて死んだはずなのに目を覚ました。
見慣れた風景だ。
確かここは最初の村……。
『やっほー。女神だよ~。なんか未来で君からの信号が途切れちゃったみたいだから、やり直し? させてみた! まあ、あらかた魔王にやられちゃったんだと思うけど! でも、安心して。一回目で失敗することは全然恥じゃないよ! 誰にでもあることだから!!』
ま、まさか……。
『そんなに怖がらなくても大丈夫! 何度でも強制的にやり直すスキルを付与しといたから。これで効率よくレベルじゃんじゃん上げて、楽々魔王を倒してよ! それじゃ~ね~』
「あっ、ちょっ!!」
妖精に扮していた女神は消えた。
う、嘘だろ?
俺はまた、膝から崩れ落ちた。
結末を想像すると、笑いが止まらない。
だって、どうやったって。
この世界の人類が……。
「チクシュルーブ衝突体に勝てるわけねええええだろおおおおおおおおおおおっ!!!!」
これで、俺の異世界生活は
おしまい。