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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第八話 陰キャは人混みに弱い

 まあ、正確には試験闘技場の外。


 けど、そこに着いた途端、最初に僕が感じたのは大勢の人たちの歓声だ。

 その歓喜に満ちている声が、僕の聴覚を刺激する。

 観客の人たちがどれだけ歓喜しているのか、 その声を聞いただけで鮮明に伝わってくる。

 それほどの歓声。


 しかも、その歓声を聞いていると、自然と僕の心も高鳴るようだった。


 ここに辿り着くまでに聞いた、闘技場、そして冒険者。

 そのワードだけでもワクワクしていた。

 けど、実際に自分の耳で観客の声を聞いたことで、まるで心まで少年になったかのように心が躍っている。


 これは恐らく、僕が男性だから、そう感じるのだろう。

 というのも、男性は基本的に戦いや武器に興味を示す特徴がある。


 ここからは、僕が居た前世の昔話。


 僕がまだ、いや、今生きている人間がまだ存在していない遥か昔、男性はいつも狩りをして戦っていた。

 例えば、マンモスを仕留めたり、猪を罠にかけたり、その為に自分たちで武器を作っていた。


 それが男性のやるべきこと。

 今でいう、仕事だ。

 それが何千年もの月日を経た今でも、男性の遺伝子の中に残っている、ということだろう。


 でも、それは決して動物を傷つける傾向にある訳ではない。

 それは、昔もマンモスや猪を殺したくて狩りをしていたのではないからだ。

 一重に生きていく為、子孫を残す為に行なっていたこと。


 はい、昔話終了。


 なら、なんで今でも男性は戦うのか?


 それは多分、戦うことで自分の強さを周囲の人たちに認めてもらえることが嬉しいから。

 それに、きっと自分が誰よりも強いと思うことで、更に強くなれるから。

 恐らくそんな理由。


 まあ、前世の僕は、運動神経も悪くて人一倍非力。

 だから、基本争いごと自体起こらなかった。


 ――あ、その前に、そもそも争うほど仲のいい人がいなかったわ……。


 はははっ。はぁ……。


 僕は気づいたら苦笑いをし、自然に吐息を一つ。


 それはそうと、気を取り直そう。


 気付いたら、母親は試験闘技場の出入り口であろう通路を通って歩いている。

 その通路は洞窟のように暗い中、真上に等間隔に設置してある照明の明かりが照らす。


 恐らく、この先に目的地である試験闘技場がある。

 すると、通路の先に、何やら影が見える。

 目を凝らしてその先を見ると、途中に一人の女性が立っていた。


 黄色の髪をおさげにし、緑色の瞳をした女性。

 恐らく、歳は二十代前半くらいの美女。

 てか、この世界に来てから、今まで見た人は全員が美女。


 女性は襟シャツの上に、ベストを着ている。


 ――ん?

 なんでだろ。


 なぜか、その女性が着ている服装には見覚えがある、気がする。

 前世に居た時に、どこかで見たことがあるような……。


 そうだ、思い出した!

 僕が小学五年生の時に、職場見学で母親の勤めていた銀行に行った時。

 その時、母親が着ていた服によく似ている。

 まあ、偶然だとは思うけど、だとしてもすごい偶然だ。


 女性の服を凝視していると、首に掛けてある紐が目に入った。

 しかもその紐の先には、名札のようなものがある。

 上段に小文字で『冒険者組合 受付嬢』。

 下段に大文字で『申取居散(さるとりいばら)』。

 と書いてあった。


 これで、この女性の名前と役職は判明。

 『冒険者組合』は、名前からして、恐らく冒険者に依頼をしたりする場所の名称。

 もしそうじゃなくても、冒険者に関係する何かってことは間違いない。


 よし、整理しよう。


 『冒険者資格試験』の内容は、冒険者になる資格があるのか試す検査。

 で、恐らくその試験の管理をしているのが冒険者組合。


 故に、この女性は冒険者組合の受付嬢として、今日ここに居る。

 そして、今やっているのは、入場者の確認だ。


 うん。恐らく間違いない。


「居散、久しぶり〜」


 すると、母親がその女性、申取さんに向かって右手を振りながら語りかけた。


 母親の喋り方や態度からして、恐らく知り合いなのだろう。


「ん? おー、璃映。久しぶりね。元気だった?」


 申取さんは、最初は目を細めて母親の顔を見つめていたが、直ぐに嬉しそうな笑みを浮かべ、右手を振り返した。


「ええ、お陰様で元気にしてたわ。今日は梅花病院の花守さんから、冒険者資格試験のことを教えてもらったの。それで、浸夜に見せてあげようと思って来たのよ」


「そうなんだ。璃映が試験闘技場に来るなんて珍しいと思ったら、浸夜くんの為だったのね」


 申取さんは僕の顔を見つめ、徐々に近づき、右手で僕の頭を撫でる。


「そっか……。もうこんなに大きくなったんだね、浸夜くん。良かったね、璃映。本当に……」


「ええ。本当に良かったわ」


 二人はどこか悲しそうな顔を浮かべた。


 そうだよな。

 僕は長い間覚醒しなかったんだ。

 申取さんが母親の知り合いなら、きっと同じように心配してくれていたはず。


「あ! ごめんね。時間取らせちゃって。どうぞ、今日は楽しんで行って」


 また嬉しそうに笑みを浮かべる申取さん。

 そして、母親に切符のようなものを一枚手渡す。


「ううん、こっちこそごめんね! ありがとう!」


 母親はズボンの右ポケットから財布を取り出し、その中から銅貨三枚を申取さんに手渡した。


 その時、少しだけ財布の中が見えた。

 その中には、銅貨以外に銀貨と金貨が何杯か入っていた。

 けど、札は見当たらない。


 どうやら、この世界の通貨は全て硬貨。

 そして、ここに入るのに銅貨三枚が必要。


 なら、大体の硬貨の価値は予想可能だ。

 銅貨一枚で百円。

 銀貨一枚で千円。

 金貨一枚で一万円。

 恐らくこんな感じ。


 つまり、ここの入場料は、前世でいうと三百円。

 それに、切符が一枚ってことは、子供は無料の可能性が高い。


 すると、母親は申取さんとの話を終え、そのまま通路を歩いて行った。


 そして、ついに僕は、初めて試験闘技場という施設を目の当たりにし、無意識に口が開いた。


 外からでも、大勢の人たちの歓声が聞こえていた。

 けど、中に入ると、更に歓声が周囲の壁に反響して響き渡っている。


 ここが……。

 ここが、試験闘技場か。


 僕は歓喜に満ちている状況に圧倒され、開いた口が塞がらない。


 しかも、僕は今まで甲子園やコンサートなどの、人が多い場所に行ったことがない。

 つまり、人生で初めての光景だ。


 試験闘技場は、恐らく円形場。

 周囲を見渡した感じだと、観客は五千人程度。


 まさに、甲子園に来ているような感覚だ。


 ――が。


 や、やばい。


 ワクワクしすぎて忘れてた……。

 今更だけど、僕人混みが苦手だった……。


 陰キャの人にあるあるだと思う。

 陰キャは極力人と関わりたくない。

 故に、人が密集している場所が苦手。


 特に、僕の場合、常に一人だったから大の苦手だ。


 なんで考えなかったんだ?


 よくよく考えると、闘技場=大勢の観客。

 なら、大勢の人が居るのは当たり前だ。


 なのに、今に至るまで全く考えなかった……。

 ということは、それほどにワクワクしていたってことか?


 まるで、見た目だけではなく、中身まで子供になったみたいに。


 僕はここに来たことを若干後悔しつつ、吐き気を催していた。

 そして、咄嗟に右手で口元を押さえ、それを阻止。


 因みに、母親はそんな僕には見ぬ気もせず、試験闘技場内に設置してある階段を降りていた。


 なんだと、その降りる振動さえも、今の僕には危険だというのに。

 あ、本当にヤバイかも……。


 母親は周囲を見渡し、最前列に空いている席を見つけ、そこに座った。

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