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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第四話 生きてた、と思ったらまさかの転生

 ――どこだ、ここ……。


 いつも寝起きが悪い僕だが、今回は一度の覚醒で意識も完全に覚醒した。

 瞼を開けて目に飛び込んできたのは、見覚えのない天井だ。

 つまり、今の僕は仰向けの状態。


 しかも、背中には全身を包み込むような寝心地のいいマットレスの感覚。

 どうやら、ふかふかのベットの上みたいだ。


 僕は仰向けの状態で周りを見渡した。

 恐らく病院、だと思うけど、それにしては病院ぽくないというか、いい意味で家庭的な一室だった。

 というのも、周りには机や家具などが配置してあり、生活感にあふれていた。


 多少違和感はあるけど、とりあえずこの場所を病院と仮定しよう。

 そして確実に分かったことは、僕はまだ生きていて、どうやらこの場所は天国でも地獄でもないということだ。


 死んだと思ったが、どうやら僕の人生はまだ続くみたい。

 とりあえず、何はともあれ生きていたことに僕は安心し、吐息をついた。


 すると、部屋の扉が開いて、一人の女性が入ってきた。

 黒色の髪をギブソンタックにして、黄色の瞳をした女性。

 恐らく二十代半ばくらいの美女だ。


 見た感じ、どうやら日本人だと思うが着ている衣服は異国のもののようだ。

 心のどこかでナース姿を期待していた僕は、少しばかり落胆した。


 いや、男性の人なら分かってくれるはずだ。この気持ちを。

 だって、意識がない間に病院らしき場所で覚醒した場合、ナース姿の看護師が様子を見にきてくれるのは定番の流れじゃないですか?

 追加で美女の看護師が。


 多分、それを期待して入院する人もいると思う。断言はできん。

 つまり、我々男性陣の頭の中では、病院=ナースなのだ。

 そうだろみんな?

 僕はそう信じてる。


 そんなことを頭の中で誰かに語りかけるように思っていると、女性が近くに歩いてきて僕の顔を覗き込んできた。

 女性と目が合うと、何故か嬉しそうに涙を流した。


浸夜(しんや)! 良かった、目が覚めたのね! 良かった……。本当に、良かった……」


 そして、女性は泣きながらそう言って、僕を抱きしめた。

 僕はというと、その女性の突然すぎる行動に意味が分からず放心状態だった。

 それに、今までの人生の中で女性に抱きつかれた経験がなかった僕は、どうしたらいいのか分からなかった。


 え、どうしよう。

 このままの流れで抱きしめても良いだろうか。


 ……。


 いや、やめておこう。

 陰キャにはハードルが高すぎる。


 まあ、とりあえず落ち着こう。

 てか。ん、浸夜? 誰? 

 この美女の知り合いの人、かな?


 でも、明らかに僕に向かって話しかけている。

 抱きしめられてるし。


 けど、残念ながら僕は浸夜っていう名前ではない。

 それに、この美女も僕は全く身に覚えがない。


 ――いや、そういえば前にも同じようなことがあった気がする。


 そうだ、確か夢の出来事だった。

 ということは、……え、まさかこれも夢?

 おいおい、嘘だろ。


 僕は焦って右手で自分の頬を思いっきり抓った。

 その結果、――ちゃんと痛かった。

 僕は右側の頬にじんじんと伝わる痛みを感じながら、頭の中を整理した。


 つまり、とりあえずこれは夢ではなく現実で、夢と同じようなことが起きているということか。

 うん、なるほどね……。


 つまり、よく分からんな。


 ていうか今更だけど、特に体に怪我をしている感じはしない。

 もし、あのままトラックに轢かれてたなら絶対に無傷な訳ないよな。


 なら、もしかして記憶喪失?

 例えば、あれから数ヶ月、または数年が経過していると仮定。

 で、体の怪我が治ったけど、僕の意識が覚醒しなかったんじゃないかな?


 よし、とりあえず僕自身の情報を思い返してみよう。


 僕の名前は日白陽開。

 今まで生きてきた人生の十五年間、唯一度も友達という存在ができたことがない、ごく普通の中学三年生。

 そして、『陰キャ』。いや、『陰キャを極めた男』だ。


 よし、大丈夫。

 ちゃんと覚えてる。

 どうやら、僕の記憶は正常に機能しているみたい。


 可能なら全ての記憶を消え去って、まっさらな状態で新たな人生を始めたかったが、流石に自分勝手すぎる願いだな。


 とりあえず、僕は至って正常。

 ということは、怪しいのはやはりこの女性だ。


 なら、もしかして僕をその浸夜っていう人と勘違いしてるのか?

 もしそうなら早く教えてあげないと。

 じゃないと、この女性にも、その浸夜っていう人にも悪い。


 こんな羨まけしからん状態を赤の他人の僕がこのまま堪能するなんて、とてもじゃないが僕の良心が許さない。


 けど、まあ教えてあげても、確実にただでは済まないだろうな。


 よし、頬にピンタされるくらいは覚悟しておこう。

 こんな美女にビンタしてもらえるなら喜んで!


 僕は覚悟を決めて、女性の顔を見つめた。

 けど、ずっと泣いている女性を見て、次第に自分も悲しい気持ちになり、自然と口をつぐんだ。


 だって、その涙から伝わってくるんだ。

 その浸夜っていう人を心の底から心配していたんだってことが、痛いほどに。

 例え勘違いをしていたとしても、この女性の涙は決して嘘ではない。

 理由はそれだけで十分だ。


 なので、僕は女性を落ち着かせようと、慰めるように右手で背中をさすってあげた。

 ――けどその時、僕はあることに気づいて、


「……ン?」


 と不意に声が出た。


 右手のひらの感触がいつもと違う……。

 うまく言葉にできないけど、なんというか、小さい。

 え、こんな感じだったかな?


 それに、この女性に抱きしめられた時から薄々感じていたけど、もしかして僕の体縮んでない?


 なんか漫画とかでありがちな展開だけど、そうとしか思えない。

 というのも、生物に備わっている感覚機能である五感の内の二つ、触覚と視覚がそれを証明している。


 まずは触覚。

 この女性は明らかに僕よりも大きい。

 僕の身長は百六十九センチ。

 なのに、僕の体を包み込むほどの大きさ。

 あとさっきの右手のひらの感触ね。


 それと視覚。

 この女性に抱きしめられた反動で、上体を起こして気づいたけど、目線がいつもより下というか、何もかもが大きく感じる。

 まるで自分が子供になったみたいな、そんな感覚。


 うん、確実に体が縮んでる。

 多分子供くらいになってると思う。


 よし、もう一度分かったことを整理しよう。

 恐らく僕の体は縮んでいて、この女性は浸夜という人を抱きしめている。

 ん、ということは……、え?


 もしかして、僕はその浸夜っていう人、いや正確にはその子供に転生したってことか。

 というか、今の状況から見て、そうとしか考えられない。


 となると、この女性は恐らく僕が転生したであろう、その浸夜っていう子供の母親だ。

 仮に母親でなくても、身内の人には違いない。

 だって、赤の他人に対してこんなにも心の底から泣いている人は早々いない。

 けど、万が一間違ってたら失礼だから、母親(仮)と呼ぼう。


 すると、女性は一頻り泣いて、やっと僕から離れた。

 そして、両袖で涙を拭き、両手で僕の両肩を優しく掴んだ。


「ごめんね、いきなりのことでびっくりしたよね。とりあえず、目を覚まして良かったわ……」


 女性は目元を赤くしながら、嬉しそうに笑みを浮かべた。


 いや本当にびっくりしたよ。色々と。

 生きていたと思いきや、まさか転生していたとはね。

 道理で体になんの怪我も残っていない訳だ。

 もしあのままトラックに轢かれていたら、手足は包帯でグルグル巻きの状態のはずだからな。


 でも、僕が転生した浸夜という子供にも多分余程のことがあったのだろう。

 その女性の安心した表情を見て、僕も嬉しい気持ちになった。

 今の気持ちを伝えようと、口を開いて言葉を発した。


「ヨ、カッ、タ」


 あ、駄目だ。

 全然声が出せない。

 子供といっても、恐らく幼児なのだろう。

 言葉を発しようとしても、うまく発音することができなかった。


 そんな中、なんとか言葉にできたのがその四文字だった。

 けど、そのたった四文字の言葉に、今の気持ちを全て載せた。


 すると、恐らく僕の気持ちが伝わったのだろう。

 その女性は嬉しそうにニッコリと笑った。


 続いて、女性は僕の額に右手のひらを当てた。

 ひんやりとした手のひらの冷たさが頬に広がるのを感じる。


「うん。熱はないみたいね。だけど、念の為お医者さんに診てもらいましょう。少し横になってて。今お医者さんに連絡してくるからね」


 そう言って女性は立ち上がり、部屋から出て行った。

 僕は少しばかり緊張していたのか全身の力が抜けたように、ベットを背に体を倒した。


 それにしても、転生か……。

 まさかアニメやラノベみたいな状況をこの身で体感することになるとはね。


 第二の人生があるのは嬉しいけど、この浸夜という子供には申し訳ないな。

 最終的に僕のせいで彼の人生を奪う形になってしまったのだから。

 そう思うと、なんとも言えない罪悪感を感じる。


 けど、だからこそ、彼の分まできちんと生きよう。悔いがないように。


 というか、そもそもここは現代と同じ世界なのか?

 それとも、アニメやラノベでいうところの異世界なのか?


 もし異世界なら、その世界特有の能力みたいなものが存在したらいいな。

 僕はそんな淡い期待を抱きながら、改めて決意する。


 正直、まだ分からないことはある。

 というか、分からないことだらけだ。


 けど、この世界で今度こそ憧れの存在になれるように、『英雄』になれるように、頑張ろう。

 そう頭の中で訴えながら、僕は右手を前に突き出し、強く握った。

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