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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第二十三話 親から子へ、そして先生から生徒へ

「さあさあ浸夜くん、早く座ろうよ! 今日はご馳走だよ!」


「あ、はい。あれ? 塞養さん、いつの間に着替えたんですか? それに、顔に付いていた泥もなくなってるみたいですけど」


 というのも、僕は塞養さんに目を向けると、何故か風呂に入ってきたように綺麗な姿をしていたのだ。

 いや、でも風呂に入ってる訳はないよな。

 現にさっきまで僕が入ってたし。


「むっふん! 実はね、浸夜くんがお風呂に入ってる時に私は総合集団住宅に戻って、お風呂に入って着替えてきたんだよ!」


 塞養さんはしたり顔をして、両手を腰に構えて胸を張っていた。

 なんと、ここから総合集団住宅までの距離はおよそ三キロメートル。

 つまり、歩いて三十分程度掛かってしまう。

 なのに総合集団住宅に戻って風呂に入り、またここに帰って来たのか。

 ん、ということは、約一時間程度は掛かるはずだ。

 え、僕ってそんなにも長湯してたのか?


「そうだったんですね。すいません、上がるの遅くなってしまって……」


 僕は直ぐに塞養さんに誤った。

 当然だ。

 だって僕のせいだもの。


「ううん! 大丈夫大丈夫! それに、元々忘れ物を取りに帰らないと行けなかったからさ!」


 けど、流石塞養さんだな。

 ここに来るまでは疲れ切っていたのに、完全に元気になってるみたいだ。

 いや、忘れ物ってなんだろう?


「そうですか。 ん? 忘れ物?」


 あ、考えてることが口に出てしまった。

 いつもこうなんだよな。

 まあいっか。

 本当に気になることだったし。


「うん! まあ、それは置いといて、まずは食べよ! 璃映さん、今日のためにいっぱい料理の勉強して、腕によりを掛けて作ってくれたんだから!」


 なんとあっさりスルーされてしまった。

 いや、でも塞養さんの言ってることも一理ある。

 早く食べないと料理が冷めてしまうからね。

 せっかく母親が今日のために料理の勉強を……、ん?

 料理の勉強?


「ちょ、ちょっと塞養さん! 勉強してたことは内緒にしてって言ったじゃない」


 すると、塞養さんの言葉に続けるように、母親が頬を赤くしながら恥ずかしそうに言葉を口にした。


「あ! す、すいません、つい……」


 塞養さんもやってしまったと言わんばかりの表情だ。


「もー! たまにはカッコつけようと思ったのにー」


 こんな母親は初めて見たな。

 まるで親に駄々を捏ねている子供のようだ。

 それに、母親は料理がさほど得意ではない。

 だが、テーブルの上にある料理は高級レストラン顔負けの品ばかりだった。


「これ、全部母さんが作ったの?」


「うう……。そ、そうよ。浸夜、いつも能力訓練頑張ってるからさ。今日の誕生日までに色々な料理を作り方調べて勉強したの」


 母親は両手で顔を覆って恥ずかしそうにしている。

 そうか、だから最近夕食後は直ぐに自室に篭っていたのか。

 今日作る料理の勉強をするために。


「そっか。ありがとう、母さん。凄く嬉しいよ」


 本当に、何もかもが完璧なサプライズだよ。


「そ、そう? なら良かったわ」


 僕がそう言うと、母親は両手を退けて、頬を赤くしながら嬉しそうに笑みを浮かべていた。

 そして、僕たちはリビングに設置してある椅子に座った。

 テーブルの上には、鳥の丸焼き、キッシュ、アヒージョ、パエリア、カルボナーラ、マカロニサラダ、牛のステーキ、そして最後に柏餅があった。

 しかも山盛りだ。


「ん、柏餅?」


 あ、いや、別に柏餅が悪いとか、嫌いなわけではないよ。

 ただ、少し異食だなって思ったんだ。

 それに、僕も母親も別に柏餅が特別大好きって言うわけでもない。

 だから少し疑問に思ってね。


「あ、それは私が持って来たんだよ! 私の……、あ、いや。私が好きなんだー!」


「そうなんですか。確かに美味しいですよね、柏餅。ありがとうございます、塞養さん」


 そういえば、塞養さんの忘れ物についてはスルーされたんだったな。

 てことは、塞養さんの忘れ物はズバリ柏餅で決まりだろう。

 というか、塞養さん柏餅好きだったのか。

 おいおい初めて知ったぞ。


 てか、今考えたら、塞養さんって結構謎が多いんだよね。

 できればこれから知っていきたいな。


「ううん! 喜んでくれて良かったよ!」


「じゃ、そろそろ食べましょうか」


「はい」


「はい!」


「いただきます」


「いただきます」


「いただきます!」


 三人とも両手を合わせて、同時に食事の挨拶を口にした。


 その後、テーブルの上にあった全ての料理を完食した。

 どれも全部が美味だった。


 そして、最後に五インチ程度のホールケーキが登場。

 その上には、蝋燭が六本立っており、母親が火を付けたと同時にリビングの電気を全て消した。

 となれば、皆さんお決まりのバースデーソングだ。

 それに、やっぱそれも前世と変わらないらしい。


 母親と塞養さんが歌い終えたと同時に、僕が大きく息を吐いて、蝋燭の火を全て消した。

 そのケーキもとても美味しくて、全身の疲れ切った細胞に糖分が駆け回っているようだった。


「ふぅ。ご馳走様でした! 全部凄い美味しかったです! ありがとうございます、璃映さん!」

 

「うん。本当に全部凄い美味しかった。ありがとう、母さん」


 最後のケーキを食べ終わり、塞養さんと僕が母親に感謝の気持ちを口にした。


「そお? 二人の口にあって良かったわ」


 母親は頬を赤くして照れていた。


「さてと。浸夜、改めて誕生日おめでとう! はい、これは私からよ」


 母親はそう言いながら、左側から綺麗に包装された両手程度の大きさをした一つの箱を取り出して僕に手渡してくれた。

 どうやら誕生日プレゼントのようだ。


「ありがとう、母さん。開けてもいい?」


「ええ、もちろん」


 僕は母親の言葉を聞いて、直ぐにそれの包装を丁寧に剥がし、箱の中身を確認した。

 その中には、左側の耳に掛けるタイプのモノクルと一つの円形のピアスが入っていた。

 しかも、モノクルの左側に鎖が付いており、そのピアスと繋がっているみたいだ。

 見た感じ、どちらも鋼でできている。


「これは、モノクルとピアス?」


 僕がそう言うと、何故か塞養さんがピクリと反応した。


「そうよ。浸夜に似合うと思ってね」


「ありがとう、母さん。大切にするよ」


 正直モノクルって凄くカッコいいなって思ってたから、僕はとても嬉しかった。

 それに、前世では陰キャだったから、目立つピアスもつけたことがなかったんだよね。

 というのも、なんか僕の中ではピアスは陽キャっていうイメージがあったからね。

 悪目立ちするのも良くないと思ったんだ。

 けど、今は違う。

 だって、ここならそんなこと気にする必要がないんだもの。


「うん。気に入ってもらえて良かったわ。ピアス付けてあげるから、こっちにいらっしゃい」


 母親はそう言うと立ち上がり、右側に設置してあるソファーに移動した。


「うん。分かった」


 僕もモノクルとピアスを右手に持って立ち上がり、母親の後ろをついて行った。

 すると、母親はそのソファーに座って、右手で太ももをポンポンっと叩いた。

 もちろん、それを見て僕も察した。

 これは膝枕だ。


 いや、分かってはいるけど、だからといって恥ずかしいのは変わらないよ。

 見た目は子供でも、中身は中学三年生。

 あ、今気づいたけど、中学三年生ならまだ子供だったわ。

 な、なら、これも流れ的に仕方ないのかもね。

 うん、仕方ない。


 僕はそう思い、頬を少し赤くしながら母親の左側から太ももに頭を乗せ、ソファーに横になった。

 そして、右手に持っていたモノクルとピアスを母親に手渡した。


「じゃ、ピアス付けるわね」


 恥ずかしいけど、ついに僕の人生初めてのピアスが……。

 ん、いや待てよ。


「あ、ちょっと待って」


「ん? どうかした?」


「えっと、よく考えたんだけどさ。ピアスって、痛いよね?」


 そう、ピアスを付けるということは、つまり耳に穴を開けるということだ。

 それは、少し抵抗がある。

 何故なら、僕は痛いのが苦手なのだ。

 まあ、痛いのが好きな人なんていないとは思うけど。


「ん? あー、それなら大丈夫よ。忘れてるかもだけど、母さんは癒の適正能力者だから、能力使いながらピアスを付けたら、痛みなんて感じないはずよ」


「あ、そっか。忘れてた」


 なるほど、そうか。

 母親は癒の適正能力者。

 なら、安心だな。

 本当にすっかり忘れてたわ。


「ふふふっ。じゃあ、今度こそピアス付けるわね」


「うん。お願いします」


 母親は僕の左耳に左手を当てながら、


痛癒(つうゆ)()


 と呟いた。

 と同時に、僕の左耳から痛覚が徐々になくなっていくような感じがした。


 そして、母親が次に、


治癒(ちゆ)(ぜん)


 と呟いたと同時に、左耳からなくなった痛覚が徐々に戻る感じがした。


「はい、終わったわよ」


 え、もう?

 なんの痛みも感じなかったけど。

 けど、左耳に左手を触れると、そこにはちゃんとピアスが付いていた。


「ありがとう、母さん。本当に全然痛くなかったよ」


「そうでしょ? 母さんこう見えて凄いんだから」


 うん、本当に凄いと思う。

 もしかして、母親なら簡単な病気程度はその癒の能力で直せるんじゃないかと思うほどだ。

 そして、僕は母親からモノクルを受け取り、左耳に掛けた。


「どうかな?」


「うん。凄く良く似合ってるわよ」


「うん! 浸夜くんカッコいいよ! 良く似合ってる!」


「あ、ありがとうございます。えへへ」


 自分では似合ってるのか分からないが、二人の反応からして嘘は言ってなさそうだ。


「じゃあ、次は私から! 浸夜くん、誕生日おめでとう! そして、能力訓練お疲れ様! これからも頑張ってね!」


 塞養さんはそう言いながら、左側から綺麗に包装された長細い一つの箱を取り出して僕に手渡してくれた。

 が、めちゃくちゃ重い。

 刀でも入ってるんじゃないかと疑うほどの重さ。

 まあ、そんな訳はないだろうけど。

 まだ六歳だし。


「ありがとうございます、塞養さん」


 僕はその長細い箱を床に置いて、包装を丁寧に剥がした。

 あ、開けてもいいか聞くの忘れてた。

 ま、まあいっか。

 塞養さんも許してくれるはずだ。

 きっと。


 そして、包装を剥がすと、木箱が顔を出した。

 もうその時点で立派なものだということが分かる。

 僕は胸を高鳴らせながら、その木箱を開けた。

 すると、中には鉄刀が入っていた。


「おお。これは、鉄刀ですか?」


「そう! まあ、刃が付いてないから、戦闘には使えないんだけどね! だから、護身用や練習用に使って欲しいな!」


「ありがとうございます。大切に使いますね」


 まさか本当に刀が入っているとはね。

 いや、流石塞養さんだ。

 やはり常識の斜め上を行く人だな。

 けど、刃が付いてないのは安心した。

 大切に使おう。

 そして、もっと強くなろう。


「うん!」


 斯くして、誕生日会が終わった後、母親と塞養さんは食べ終わった食器や壁の飾りを片付けていた。

 僕はというと、自室に戻って塞養さんから貰った鉄刀をベットの横に立て掛けた。

 その後、僕は机の上に置いていた鏡を手に取り、自分の姿を見つめた。


 そして、思ったのだ。

 うん、僕ってカッコいいなって。

 あ、いや、決してナルシストに目覚めた訳ではないよ。

 先程母親から貰ったモノクルとピアスを身に付けた自分の姿を見て、似合うと思っただけなのです。

 だから、決して自分を褒めているのではなく、モノクルとピアスを褒めているのです。

 と、自分の世界に浸るのは終えるとして、外の空気でも吸ってこようかな。


 僕は店を出て、裏手に設置してある椅子に座っていた。


「ここにいたんだね、浸夜くん。探したよー」


 すると、塞養さんがこちらに向かって歩いて来た。


「はい。探してたって、どうかしたんですか? 塞養さん」


「ん、うん。ちょっと浸夜くんに聞きたいことがあってね」


 気のせいか、今の塞養さんからは先程のような元気がなくなっているように感じた。

 というか、今日の戦闘の時みたいに、とても真剣な表情だ。


 塞養さんのその表情から伝わってくる。

 それがなんなのかは分からないけど、恐らく大事なことだ。


「僕に聞きたいこと、ですか?」


「そう。浸夜くんはさ、なんで冒険者になりたいのかなって?」


「あー、そっか。確かに、塞養さんには言ったことなかったですね」


 なるほどね。

 確かに大事なことだよな。

 ていうかそっか。

 塞養さんに言うのすっかり忘れてた。


「うん。だから、ちょっと気になってね」


「僕が冒険者になりたいって思ったのは、二歳の時に試験闘技場で見た冒険者を目指している人が魔獣と戦っている姿に憧れて、カッコいいって、そう思ったからです。あんな凶暴な魔獣を倒して沢山の人を守る、沢山の人のためになれる職業に。だから、僕は冒険者を目指すことを決めました」


 まあ、正確には前世の父親に憧れて、この世界で英雄になろうって決意したから。

 そして、冒険者っていう職業が、僕の中にある英雄に近しいものを感じたからなんだけど、当然前世のことを言うわけにはいかないから、試験闘技場のことを言っておこう。

 それに、理由としては間違ってないし。


「そっか……」


 ん、これだけでは不足だったのかな?

 塞養さんは何故か浮かない表情をしていた。


「ん? 塞養さん?」


 僕は気になって塞養さんに尋ねてみた。


「ねえ、浸夜くん」


「え、はい」


 けど、どうやら塞養さんは聞こえていなかったようだ。

 逆に呼ばれるとは。

 まあ、とにかく何か僕に伝えたいことがありそうだな。


「なら、浸夜くんは、冒険者にはなれないよ」


「……え?」


 僕は胸に刀を刺されたような思いが全身を駆け回った。

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