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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第二十二話 今日は六歳の誕生日

 その後、僕と塞養さんは総合集合住宅の敷地内の修繕作業を始めた。

 けど、どうやら被害は地面と柵のみ。

 総合集合住宅自体は無事みたいだ。


 それに、運よく住人が全員外出していたらしく、目撃者もいなかったらしい。

 まあ、それでも損傷箇所の範囲が広かったことや、僕と塞養さんの二人だけで修繕作業を行ったので、かなりの時間が掛かってしまった。


 戦闘と地面の修繕作業で二人の衣服や顔は泥だらけになり、修繕作業が全て終わった頃には、周囲には闇がたちこめて、すっかり夜になっていた。


「よ、よし。とりあえず、修繕完了だね……」


 塞養さんが疲れ切った顔を浮かべていた。


「は、はい。なんとか、終わりましたね」


 僕は息を切らせながら返事を口にした。


 正直、僕も塞養さんと同じでかなり疲れ切っており、立っていられるのが精一杯だ。

 できれば一秒でも早く横になりたい。

 それほどに今日は疲れた。


「じゃあ、お店に戻ろうか。多分、璃映さんも心配してると思うし」


「はい。戻りましょう」


 僕はその言葉を待ってました、と言わんばかりに即答した。

 そして、僕と塞養さんは店に戻った。


「た、ただいまー」


「た、ただいま戻りましたー」


 僕と塞養さんは店の中に入ると同時に、帰宅の挨拶を口にした。


 だが、二人は戦闘と修繕作業で疲れている上に、歩いて帰って来たので、生まれたての子鹿のように足がガクガクして、今にも倒れそうだった。

 それは表情からも滲み出ていた。


「あら、浸夜、塞養さん、お帰りなさい」


 店の中に入ると、そこには母親が立っており、笑顔で出迎えてくれた。

 けど、僕たちの姿を目の当たりにして、直ぐに心配そうな顔つきに変わった。

 恐らく今日何をしてたのかを聞いてくるはずだ。


「帰るのが遅いから心配してたのよ。それに、そんなに泥だらけになってどうしたの?」


 僕が思っていた通り、母親は泥だらけになった理由と帰りが遅くなった理由を聞いてきた。

 けど、そのまま二人で戦闘してました、なんてことは言えるはずもない。

 そんなことを口にしたら、多分母親は怒ると思う。

 だから、僕は何か他のことを言わなければと思い、


「あ、いやー、これは、あのー……」


 と母親に言い訳をしようと言葉を口にした。

 と同時に、塞養さんが、


「浸夜くんと本気の戦いをしてました!」


 と本当のことを母親に伝えてしまった。

 しかも元気よく。


 僕はそのまま口を開け、魂が抜けたような表情を浮かべた。


 言ってしまったよ……、塞養さん。

 まあ、考えなかった訳ではない。

 塞養さんならもしかしたら、くらいには思ってはいた。

 けど、本当にそのまま伝えてしまうとは……。


 すると、母親は徐々に笑みを浮かべていた。

 が、ただの笑みではなく、今まで見たことがないほどとても怖い笑みだった。

 僕は今まで色んな母親の顔を見てきたが、こんなに怖い笑みを浮かべているのは初めて見た。

 それほどに怒っているみたいだ。


「ん? 塞養さん? 今、なんて言ったのかしら? よく聞こえなかったんだけど?」


 母親は絶対に聞こえているはずなのだが、念の為かもう一度塞養さんに聞き返した。

 しかも、言うまでもないが言い方もとても怖い。

 一言一言が薔薇の棘のように心に突き刺さってくる。


「あ、えっと……」


 どうやら、塞養さんも母親の表情を見て戸惑っているようだった。

 しかも、怒られる恐怖で声が出せないでいるみたいだ。

 これを打開するには、やはり僕が今からでも言い訳を言うしかない。


「あの、母さん。違くて」


 僕は恐怖を感じながらも、母親に語りかけた。

 だが、


「浸夜。母さんは今、塞養さんに聞いてるから、ちょっと静かにしててね。分かった?」


 と母親は僕に向かって圧を掛けるように命じてきた。


「あ、はい」


 僕はその圧に負けて、咄嗟に返事を口にした。

 駄目だ。

 これは僕では対処できない。

 完全に母親の矛先が塞養さんに向いている。


「あ、あの……。浸夜くんと本気の戦いをしてました……。で、でも、二人とも怪我はしてないです。ご、ごめんなさい!」


 塞養さんは勇気を振り絞って、母親に向かってもう一度今日のことを伝えながら、深々と頭を下げた。

 すると、その言葉を聞いた母親の顔は、徐々に安心したような笑みに変わっていった。


「そう。怪我をしてないなら良かったわ。安心した」


 母親は先程のような怖い声ではなく、何処となく優しい声を口にした。

 どうやら、母親は怪我をしてないかっていうのが気がかりだったらしい。

 まあ、正確には怪我をしたけど完治したんだけど、それを言うとまた振り出しに戻ってしまうだろうから黙っておこう。


「は、はい!」


 母親に返事をすると同時に、塞養さんは頭を上げた。


「浸夜。お風呂できてるから、先に入ってらっしゃい」


「うん。分かった」


 とりあえず、許してもらえて良かったー。

 危うく追い出されるかと思ったわ。


「塞養さんはちょっとこっちに来てもらえる? 手伝ってもらいたいことがあるの」


「はい。分かりました」


 塞養さんは母親の後ろをついて行き、そのままリビングの方に向かって行った。

 何を手伝うのか気になるが、とりあえず風呂に入ってさっぱりしよう。

 僕は風呂場、もとい洗面所に移動した。


 そして、僕は泥だらけの服を脱ぎ、洗面所に設置してある洗濯機の中に放り込んだ。

 その後、浴室に入って体を洗い、付着していた泥を綺麗に落とした。


 できれば直ぐにでも風呂の中に飛び込みたいところだが、この泥だらけの状態で湯船に浸かる訳にはいかなかった。

 最後に入るならともかく、この後もまだ塞養さんと母親が湯船に浸かるからな。


 だから、僕の泥で湯船を汚す訳にはいかない。

 まあ、理由は結構普通だ。


 体を綺麗に洗った後、僕は湯船に浸かりながら、今日の塞養さんとの戦闘を思い出していた。


 今日の塞養さんとの戦闘で、かなり多くの新しい能力を使えるようになった。

 けど、疑問はある。


 それは、なんであのタイミングに新しい能力を発見できたのか、ということだ。

 確かに僕は、このままでは塞養さんに勝てないって思った。

 だから、勝てるように、勝つためにどうしたらいいか考えて、試した。

 その結果、新しい能力を使えるようになった。


 つまり、これは戦闘によって窮地に立ったからこそ、真の意味でこの影の能力の使い方がわかってきたんだ。

 てことは、これからも戦闘を重ねていけば、まだまだ新しい能力を発見できる可能性がある。


 いや、まだまだここからって訳だな。

 これは、極め甲斐がありそうだ。


 僕がそう考えていると、時間があっという間に過ぎてしまっていた。

 やばい、まだ塞養さんが風呂に入ってないっていうのに、長湯し過ぎた。


 僕は急いで湯船から出て、衣服を着てリビングに向かって歩き出した。

 とはいえ、流石に疲労が蓄積されていて、今にも瞼が閉じてしまいそうだった。


「遅くなってすいません。塞養さん、次お風呂ど……」


 そして、僕はリビングの扉を開けながら、そこにいるであろう塞養さんに向かって語りかげようとした。


 だが、僕の声を掻き消すほどのクラッカーの音がリビング全体に響き渡り、周囲にはクラッカーの火薬によって発生した硝煙の匂いが漂っていた。

 僕はその音に驚き、疲れ切った瞼を強制的に見開いた。


 すると、目の前にいたのは、両手にクラッカーを握ってその先をこちらに向けている母親と塞養さんの姿だった。


「浸夜! お誕生日おめでとう!」


「浸夜くん!お誕生日おめでとう!」


 母親と塞養さんは先程両手に持っていたクラッカーをリビングに設置してある四角形のテーブルの上に置いた。

 そして、両手同士を合わせてパチパチと拍手しながら、同時に僕に向かって祝いの言葉を口にした。


 そうか、今日は僕の、六歳の誕生日だ。

 戦闘のことで頭がいっぱいで、すっかり忘れていた。


 それに、リビングを見渡すと、壁などに飾りが施されているのが分かった。


 なるほど。

 母親が塞養さんに手伝ってもらいたかったのは部屋の飾りだったのか。

 それによく考えてみれば、母親が店の入り口で僕たちを出迎えてくれたのも納得がいく。


 恐らく、リビングに飾りをしている最中に僕たちが帰って来て、そのままリビングに向かうのを避けるためだったのだろう。

 てことは、例え僕が泥だらけになっていなくても、風呂に誘導して塞養さんと一緒に飾り付けをするつもりだったってことか。


 そうか、今に至るまで全く気づかなかった。

 これぞ完璧なサプライズってやつだな。

 けど、本当に嬉しい。


 僕はそう思うと、体に蓄積されていたはずの疲労が抜けていくような感じがした。

 そして、僕は嬉しそうに笑みを浮かべながら、


「ありがとう。母さん、塞養さん」


 と母親と塞養さんにお礼を伝えた。

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