第十七話 塞養先生との能力訓練の成果
そして次の日、リビングにて母親と一緒に朝食を食べていた。
因みに今日の朝食は、フレンチトースト・ポテトサラダ・ウィンナー・目玉焼き、だ。
黙々と食べている中、僕は昨日起こったことを母親に報告する気でいた。
そして、僕は口の中のものを全て完食し、手に持っていたナイフとフォークをハの字にし、まだフレンチトーストが残っている皿の上に置いた。
「母さん!」
「ん? どうかした?」
母親は一度呑み込んで口の中のものを失くし、僕の呼びかけに返事をした。
「実は僕、昨日初めて影の能力が使えたんだ」
「え! そうなの! 凄いじゃない!」
母親は右手にナイフを持ったまま、口元に当てながら驚愕していた。
ちょっとナイフが危ないと思うけど、驚きのあまりなのか。
ま、まあ、ここまでは想定通り。
しかし、問題なのはここからだ。
「うん、それでね。この能力は何故か真夜中にしか使えなくてさ。それで塞養せん……、塞養さんに能力の先生になってもらって、能力訓練を続ける為に深夜に外に出てもいいかな?」
「あら、そうなの。もちろんいいわよ。じゃあ、塞養さんには私からもお願いしておくわね。能力訓練、頑張ってね」
母親は嬉しそうな笑みを浮かべていた。
え、なんとあっさり了承してもらえた。
正直反対されるんじゃないかってドキドキしてたんだけど、流石母親だな。
とりあえず一安心だ。
でも、やっぱり腑に落ちないな。
「う、うん。ありがとう」
僕は頭の中で疑問符を浮かべながら、母親にお礼を言った。
「ん? どうしたの?」
母親はそんな僕を見て疑問に感じ、心配そうに聞き返してきた。
「いや、てっきり反対されるのかと思ってたからさ」
「そんな訳ないじゃない。浸夜が頑張ってるのに、それを反対なんてしないわ。それに、前に言ったじゃない。浸夜が冒険者を目指すって決めたのなら、私は全力で応援するって」
「母さん……」
そうか。
母親はあの時(冒険者組合の時)に言ったことをずっと覚えてたのか。
思い返せば、今までも僕を応援してくれていたな。
本当に最高の母親だ。
心の底からそう思うよ。
「あ! でも、家の中では能力は使っちゃ駄目よ? 練習する時は絶対に外でやること。それと、真夜中に外に出る時は必ずお母さんに報告すること。いい?」
母親は優しそうな笑みを浮かべながら、僕に問い掛けてきた。
「うん。もちろんだよ」
元々母親に言ってから外に出るつもりだったから良かったー。
まあ、実は最初は自室で能力訓練をしようかと思っていたことは母親には黙っておこう。
結果は目に見えてるからな。
「あと、父さんの部屋から借りてた能力の本あるでしょ? あれもちゃんと元あった場所に戻しておくのよ? いいわね?」
母親は優しそうな笑みのはずなのに、何処となく怖い笑みを浮かべながら、再度僕に問い掛けてきた。
「あ。は、はい。分かりました」
やべ、すっかり忘れてた。
あと、やっぱりあの部屋は父親の部屋だったのか。
通りで僕に入らないようにって釘を刺してたはずだ。
僕は違うけど、きっと子供なら面白がって荒らしまくるだろうからな。
てか、なんであの部屋から能力の本を借りてたの知ってんの?
しかも、なんか笑顔が怖い……。
よ、よし。直ぐ戻そ。
その後、僕は母親に言われた通り、能力の本を父親の部屋に戻した。
何処からか突き刺すような目線を感じながら……。
そして、あれから約六ヶ月が経った。
その後も、塞養先生に教わりながら能力訓練を進めていった。
その成果の速度は凄まじく、最初は真夜中にしか使えなかった影の能力も、あれから塞養先生と共に能力訓練を重ねるうちに、なんと日中でも使えるようになったのだ。
そして、僕は新たに影の能力限定の能力をいくつか発見した。
それは、『補影』・『身影』・『縛影』・『貫影』・『治影』・『沈影』・『収影』・『出影』といったものだ。
それぞれの能力の説明をすると、まず『補影』は周囲の影を自分の影に取り込み、僕の体内に影を補充することができる。
つまり、これによって影が存在しない時でも影の能力を使うことが可能になったのだ。
先程言った日中でも使えるようになったのもこの能力のお陰だ。
それに、能力訓練をしてきて分かったんだけど、恐らく僕自身が影と一体化してるっていう感じなんだと思う。
というのも、あれから何度も外に出て能力訓練をしたけど、毎回日中に陽光を浴びると体から力が抜けていく感じがする。
なので、塞養先生に聞いてみると、
「うーん、それは多分相性じゃないかな?」
という答えが返ってきた。
けど、相性ってなんだ?
「相性? ですか?」
僕は頭の中で思っていたことを、そのまま言葉に発した。
「そう! それぞれの能力には相性というものが存在するの! 例えば、炎は水や地に弱く、逆に炎は樹や氷に強い、みたいな感じ!」
塞養先生は右手の人差し指を立てながら、分かりやすく説明してくれた。
多分、相当自信があったのだろう。
誇らしげな表情を浮かべている。
ほぼ顔見えないけど。
「なるほど! じゃあ、僕の影は光や炎に弱く、逆に影は……、ん? 特に強みは思いつかないな」
僕の数少ない知識を絞って絞って絞りまくったが、それでも思いつかなかった。
けど、影の相性のいい能力って難しくない?
多分ないよそんなの。
「うーん、そうだなー。強いていうなら……、光、じゃないかな?」
多分ないって思ってたけど、流石塞養先生だ。
あっさりと答えを導き出してしまった。
だけど、僕は少し疑問に思った。
「光? でも、さっきの感じだと、影は光に弱い。てことはその逆で、光は影に強いんじゃないですか?」
そう、さっき言ったように、影は光に弱い。
だから、影が光より強いっていう答えは少しおかしいように感じた。
「うん、確かにそうだね!」
どうやら、塞養先生も僕が言ったことに納得しているみたいだな。
「なら……」
「でもね!」
僕が続いて言葉を発しようとしたら、塞養先生がそれを遮った。
しかもめっちゃ早い。
「逆に言えば、影は光があってこそ、より濃く引き立つの!」
「だから、影は光に弱いけど、逆に影は光に強いってこと!」
「なるほど! じゃあ、つまり影と光は相互関係にあるってことですか?」
僕は頭の中にもあったそれっぽい単語を思い浮かんだので、合ってるか分からないけど、一応聞いてみた。
「相互関係? あ、うん! そうそう! その相互関係にあるの!」
塞養先生は頭の上に疑問符が浮き出たような表情を浮かべていた。
え、塞養先生。
反応からして分かってないのバレバレですよ。
まあ、多分合ってると思いますけど。
うん。多分、ね。
「でも、だとしても今の浸夜くんに起こってる現象はおかしいんだよねー」
塞養先生は右手を握り自分の顎に当てながら、不思議そうに呟いた。
「え、そうなんですか?」
その言葉を聞いた僕は、咄嗟に塞養先生に質問した。
僕に起こってる現象がおかしい、だと。
「うん、例え炎の適正能力者が水に触れたからって力が抜けていくっていう人なんて今まで聞いたことないのよね。だから、影の適正能力者だとしても陽光を浴びると力が抜けるはずはないと思うんだけど、見た感じでも浸夜くんは明らかに陽光の影響を受けてるみたいだね」
「はい、間違いないと思います」
僕は自信をもって断言するように答えた。
今まで自信満々に言葉を発することがほとんど、いや、滅多にない僕が言うんだから間違いない。
「ということは、恐らく影の適正能力者故の特性みたいな感じなのかもしれないね」
「そうですね」
やっぱりか。
もしやとは思っていたけど、これも要は影の適正能力者限定の試練的なやつなのか。
まあ、だからといって、もう弱音は吐かないよ。
序盤の難関だった影の能力自体は使えるようになったんだ。
なら、きっとこの試練も乗り越えられるはずだ。
「よし! じゃあまず、この現象の対策を考えていこう!」
「はい!」
ということで、その対策を考えた結果がこの能力って訳だ。
この能力によって多少の陽光を浴びても力が抜けるようなことはなくなり、日中でも黙々と能力訓練を行うことができるようになった。
そして、『身影』は僕の分身を影で構成することができる。
この能力を使うことで、店の手伝いを分身になせて、僕は能力訓練に励むことができるようになった。
けど、この能力はまだまだ不完全な状態だ。
何故なら、分身といっても元は影なので、光に当たるとやがて徐々に亀裂が入っていく。
その亀裂が全身を巡ると分身は完全に崩れ、元の影に戻ってしまうのだ。
それに、今のところは一人か二人が限界だ。
それ以上だと耐久性が脆すぎて、デコピン程度の力で崩れてしまう。
まあ、これからの訓練次第って感じだな。
そして、『縛影』は影を紐のような形状にして対象を縛り上げることが出来る。
これはあまり使うことはないけど、恐らく犯人や魔獣を拘束するのに有効だと思う。
そして、『貫影』は影を針のように鋭くし、対象を貫くことができる。
訓練した結果、鉄程度の強度であれば簡単に貫くことができるようになった。
つまり、『縛影』で対象を拘束して、『貫影』で貫くっていう連携攻撃が可能な訳だ。
そして、『治影』は怪我などをした時に、その場所を影で覆うことで治すことができる。
怪我を治すところは癒の能力と同じ。
けど、この能力は僕自身にしか使えない。
前に塞養先生が段差に躓いてしまい、転けて足を怪我したことがあった。
その時に、僕はこの能力を塞養先生に使ったのだが、怪我を治すことはできなかった。
結局、そのあと母親に治癒してもらって、なんとかなったけどね。
だから、仮に誰かが怪我をしていたとしても、この能力では治すことができないみたいだ。
多分、その理由は『補影』の時に言ったように、僕自身が影と一体化しているからなんだと思う。
つまり、正確に言うと『治影』は影で覆った場所を治すのではなく、影を損傷した場所を治す、もとい影で補うってことだ。
そして、『沈影』は自分自身、または誰かを影の中に沈ませることができる。
この能力は、言うなれば世界の裏側に行くことができるって感じ。
というのも、この能力で影の中に入ると、そこには地上を歩いている人が立体的な影となって歩いている。
まるで本当に生きているかのように。
けど、そこにあるのは間違いなく影。
そして、それは建物も同じで、立体的な影となってそこにはある。
つまり、この能力は地上で起こっていることを影の中で実現することができる。
それと、この能力は誰とも目を合わせることなく移動することができるので、陰キャの僕にとってはとても素晴らしい能力だ。
けど、この能力もさっきの『治影』と同じで僕にだけ限定。
この能力を発見した時に、一緒にいた塞養先生も影の中に入ったんだけど、立体的な影が見えたのは僕だけで、塞養先生は周りを見渡しても真っ暗で何も見えなかったらしい。
まあ、それでも汎用性はかなり高い。
最後は、『収影』と『出影』。
この二つの能力は、二つで一つ的な感じで使う。
というのも、『収影』は影の中に物などを収納することができる。
対して、『出影』は影の中にある物などを取り出すことができる。
どちらも片方が欠けては成り立たない能力。
だから、二つで一つって訳だ。
因みに、『収影』で影の中に物などを収納して、また『収影』で影の中にある物などを取り出すこともできる。
けど、それだと対象の物を取り出すのに少々手間が掛かってしまう。
それに対して、『出影』は取り出したい対象の物を頭の中で思い浮かべるだけで、影から出てくるのでとても便利だ。
そういう理由から、『収影』と『出影』は両方ないと成り立たないという訳だ。
『沈影』と少し似てはいるけど、確実に違いはある。
例えば、『沈影』で影の中に物を沈ませると、そのまま真っ逆様に降下し続けて二度と取り出すことができなくなる。
そして、『収影』で影の中に僕が入ると、その中は網状になっていて、とてもじゃないが身動きができなかった。
それに、『沈影』なら影の中でも呼吸ができるけど、『収影』では呼吸ができない。
というよりも、恐らく真空状態だ。
つまり、『沈影』は生き物限定で、『収影』は無生物と食料限定という訳だ。
しかし、まさかこんなにも早く新たな能力を見つけることが出来るとはね。
どうやら難関だったのは最初だけで、序盤の試練を乗り越えてからは結構あっさりと進み続けることができた。
やっぱ練人種っていい固有能力だわ。
母親と塞養先生も練人種らしいし。
見た目は普通の人間と何も変わらないけど、逆にそれがいいね。
よし!
この調子でどんどん影の能力を極めていくぞ!




