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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第十五話 あの日と同じ真夜中の満月

[2023/7/3/ 更新]

 浮き出たその影は壁のように……、はならなかった。

 というか、実際は何も起きてなかった。


 というのも、さっきまで両眼を思いっきり瞑っていた為、視界がぼやけて影が地面から浮き出てきたと錯覚してしまったのだ。


「あー……。はあ、やっぱり駄目みたいです……」


「お、おっかしいなー? 自然に存在するなら、使う感覚はこんな感じだと思うんだけど……」


 塞養さんは首を傾げ、右手を頬に当てている。

 その姿から、明らかに困っているのが窺える。

 正直、僕も今回はできると思った。

 だけど、やっぱりこの影の能力限定の使い方を一から模索する必要があるっぽいな。


「あら、浸夜と塞養さん。こんなところで何やってるの?」


 すると、母親が僕達の様子を見に駆け寄って来た。

 どうやら会計の机に置いておいた紙を見たらしい。


「あ、璃映さん。今浸夜くんに能力の使い方を教えてあげてたんですけど、上手くいかなくて……」


 塞養さんは母親に気づき、申し訳さなそうに今の状況を伝えていた。


「あら、そうだったの。塞養さん、ごめんなさいね。浸夜の面倒を見てくれて。この子最近能力について凄い調べてるみたいで、よく適正能力の本と睨めってしてるから。まあ、浸夜の能力は珍しいから、使い方も他と異なるんでしょうね」


 母親は塞養さんにそう言いながら、右手で僕の頭を撫でていた。


 いや、ちょっと待ってください。

 母さん、僕はあなたの前でその本を読んでいないのに、なんでそのことを知っているんだい。

 まさか、僕の部屋を覗いてたんですかね?

 それとも、エスパーですか?

 僕は母親という存在の凄さに驚愕していた。


 ま、まあ、あの部屋に入ったことはバレてないみたいだから、一先ず良しとしよう。


「いえいえ! とんでもないです! それに、結局私は……、何も出来なかったので……」


 塞養さんは何処となく落ち込んでいるみたいだった。

 その姿を見て、僕も悲しい気持ちになった。


 塞養さんには本当に申し訳ないことをしたな。

 僕が相談してしまったばっかりに。


「ごめんね、浸夜くん。何も役に立てなくて」


 いや、謝るのは僕の方です。

 本当にすいません、塞養さん。

 でも、ここは謝るよりも、お礼の気持ちを伝えよう。


「いえ。そんなことないです。凄い勉強になりました。ありがとうございます」


 その言葉を聞いた塞養さんは、徐々に元気が戻っているように見えた。


「そう、なら良かった! 何かいい案が浮かんだら、また教えるね!」


「はい! ありがとうございます!」


 そして、母親と塞養さんは店の方に戻って行った。


「あ、そうだ。浸夜」


 母親は足を止め、僕の方を振り向きながら語りかけてきた。


「ん、なに?」


「今日はそんなにお店忙しくないから、遊んでいていいわよ」


「そっか。分かった」


「けど、無理はしないようにね」


「うん」


 母親はこぼれるような笑顔を浮かべ、店の方に戻って行った。


 その後、僕は引き続き能力が使えるように練習を続けた。

 もちろん、塞養さんに教えてもらったイメージをしながら。

 けど、結局影一つ動かすことも出来なかった。


 そして、その日の夜。

 完全に陽は沈み、辺りには闇がたちこめていた。

 僕は夕食を食べ終え、自室のベットに横になっていた。


 けど、何故か眠れない。

 まあ、その理由は分かってる。

 それは、影の能力についてだ。

 それが頭の中を駆け巡っていた。 


 僕は横になった状態で、ベットから見て右側の壁に掛けてある時計に目を向けると、短針と長針がちょうど〇の位置を指していた。

 どうやら、そのまま深夜になっているみたいだ。

 僕は一気に上体を起こし、自然とため息をついた。


 そして、僕は気分転換がてら、外に出ることにした。

 そのまま店の外に出て、ふと空を見上げると、綺麗な月が顔を出していた。

 それは日の丸のように大きな月で、卯の花のように真っ白だった。


「いい月だな。そうか、今日は満月か……」


「そういえば、あの日も同じ満月だったな……。しかも、今と同じ真夜中だった」


 僕は店の裏手まで歩き、設置してある椅子に座りながら、その満月を眺めていた。

 そして、あの日のことを思い出していた。


 そう、シャドウとの別れの日のことだ。

 そして、僕が何も出来なかった、絶望した日。


 そうやって、昔のことを考えていると、どこからか誰かが走っている足音がした。

 しかも、その音は徐々に大きくなって段々と僕の方へ近づいて来ているのが分かった。

 え、誰だ。

 こんな深夜に……。

 まさか、空き巣か?


 ……。


 いや、そんなわけ。

 空き巣ならこんなに足音を立てて走ったりはしないし。

 もし本当に空き巣だったら、相当間抜けだぞ。

 まあ、だとしても怖いんだけど。


「はぁ……、はぁ……、はぁ……」


 徐々に足音と混じって、息切れの音がも聞こえてきた。

 そして、辺りに広がる闇の中から、その足音の犯人であろう、人の影が表れた。

 影は僕のすぐそこまで迫って来ていた。


 僕はその影が近づくにつれて、心臓の鼓動が大きくなるのを感じた。

 そして、近くにあった石を五個程かき集め、いつでも投げれるように一つずつ両手に持った。

 そして、立ち上がり、投げつける大勢に入った。

 よし、いつでも来い。

 もし空き巣だったらこの石を投げつけてやる。


 すると、その人物の姿が徐々に見えてきた。

 一番に僕の目に飛び込んできたのは、頭に被っているニット帽だ。

 うん。

 ん、ニット帽?


 そう、なんとその人物は塞養さんだったのだ。

 塞養さんが息を切らしながらこちらに走って来た。

 どうやら足音の犯人は塞養さんだったみたいだ。

 よ、良かったー。

 僕は両手に持っていた石を地面に投げ捨てて、右手を胸に当てながら吐息をついた。


 けど、それでも疑問は残る。

 塞養さんだったことに安心したものの、そもそもなんで塞養さんがこんな深夜に走って来たのかが分からない。

 何か忘れ物でもしたのだろうか。

 まあ、とりあえず本人に聞いてみよう。


「塞養さん? ど、どうしたんですか? こんな深夜に」


「ご、ごめんね……。いきなり……こんな……深夜……に」


 聞いたものの、塞養さんは答えれる状態ではなかった。

 塞養さんは膝に手をついて、ゼーゼーと息を吐いている。

 恐らく全速力で走って来たのだろう。


 とりあえず、訳を聞くのは塞養さんの息が整ってからにしよう。

 特に急ぐ理由もないし。


「浸夜くん。私……、思い……ついた……の」」


 けど、塞養さんはまだ息を切らした状態で、再度僕に向かって語りかけてきた。

 だが、塞養さんには申し訳ないけど、言葉が途切れていてよく聞き取れない。


「え? な、何をですか?」


 僕は咄嗟に聞き返してしまった。

 あ、またやってしまった。

 さっき塞養さんの息が整ってからにしようって決めたばかりなのに。

 いつまで経っても直んないわ。


 すると、塞養さんは右手を胸に当てながら、ゆっくりと息を吐いた。

 どうやら完全に息が整ったみたいだ。

 なんと、タイミングバッチリ。


「いきなりごめんね? こんな深夜遅くに。でも、これだけは伝えないとって思ったんだ!」


 塞養さんは先程口にしたことを、再度僕に向かって語りかけた。


「いえ、全然大丈夫です。けど、そんなに急いでどうしたんですか? 伝えないといけないことって?」


「浸夜くん!」


「は、はい」


「私、思いついたの! 浸夜くんの影の能力がなんで上手く使えないのか、その理由について!」


「え! 本当ですか!」


 なんと。

 それで急いで走って来てくれたのか。

 やっぱ塞養さんはいい人だな。


「うん! ずばり、原因は時間帯だよ!」


 塞養さんは人差し指を立てながら、自信満々にそう言った。

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