第十四話 序盤の難関を乗り越えよ
どうしよう。
これは困った……。
能力の使い方を頑張ろうと息巻いたのはいいものの、早くも行き詰まってしまった。
というのも、あの後家の中を駆けずり回ったら、一冊だけ『能力の使用方法』、という本を発見したので、母親にバレないようにその本を自分の部屋に持って行くことに成功した。
母親にバレてはいけない理由は、その本があった部屋に問題がある。
前にその本があった部屋に入ろうとしたら、
「浸夜、その部屋には極力入らないようにね?」
と母親から釘を刺されていたから、もしかしたら怒られる可能性がある。
というか、絶対に怒られる。
まあ、母親が僕にそう言った理由は想像がつく。
母親はとても綺麗好きで、いつも家中を隅々まで掃除している。
それなのに、その部屋だけは何故か埃が溜まっていて掃除している形跡が全くなかった。
これは僕の予想だけど、多分父親が生前使ってた部屋なんだと思う。
だから、多分そのままの状態で保管してるんじゃないかな。
そうだとしたら、当然罪悪感が生まれてくる。
ごめんなさい、父さん。
この本、少しだけ借りるね。
読み終わったらちゃんと返します。
僕は心の中で顔も知らない父親に向かってそう語り掛けた。
まあ、話を戻すと、その本に目を通して、早速書いてある通りに能力を使おうとした訳です。
けど、そもそも影の適性能力者が僕しかいない為、本に書かれている内容を試しても、うまく能力を扱えなかった。
本には主に炎・水・風・地の適性能力者に向けての能力の使い方が鮮明に書かれていた。
どうやら、この四つの能力は他の能力の始まりとして生まれた、要は元となっているかららしい。
因みに、この四つを使う適性能力者が最も多いみたいだ。
でも、全能力に共通することもあるみたい。
それは、能力を使うときは決まった言葉を発さないと発生しないということ。
思い返してみれば、試験闘技場に行った時も、鎧を纏っていた男性が必ず『炎纏』とか『炎壁』って言葉に発しながら戦っていた。
恐らくそれと同じで、例えば水の適正能力者がその能力を体に纏うときは、『水纏』。
目の前に壁を出現させたいときは、『水壁』。
というふうに、決まった言葉を発する必要がある。
まあ、それでもなぜか影の能力は使えなかったけどね。
あれから約一ヶ月が経ったが、特に能力については何の進展もなかった。
恐らく、僕のこの影の能力は他の能力とは異質なものなのだろう。
だから根本的に能力の使い方が全く異なっているんだ。
これは、序盤からやばいんじゃないか?
てことは、つまりこの影の能力を使えるようになるには、僕自身で新たに影の能力の使い方について調べて、一冊の本ぐらいまとめないといけないっていうことになる。
おいおい、なんてこった。
自分で言ってはみたものの、これはかなり絶望的だぞ。
この本だって何十年という月日を重ねていく中で、多くの人達がここまで鮮明に調べ上げてこの一冊が出来上がっている訳だ。
そんなの一体いつになったら使えるようになるって言うんだよ。
けど、多分他に選択肢はない。
かといって、例え一から調べ上げたとしても、影の能力が使える頃には僕は老人になっているだろう。
確実に冒険者基識学園の入学までには間に合わない。
仮にこれを試練だと考えても、流石に序盤から難関すぎるでしょ。
まあ、だからといって絶対に諦めはしないけどさ。
けど、序盤に乗り越える壁にしては、遥かに大きすぎる気がする。
僕は深い絶望感に襲われ、下を向きながら深いため息を吐いた。
あ、因みに今僕はお店の中に設置してある会計用の机の椅子に座っている状態。
五歳になってから、たまにお店の手伝いをしていて、主に店番を任されている。
まあ、今はまだ早朝だからお客さんは誰もいないみたいだけどね。
それに、考え事ができるのも今のうちだ。
昼間になるにつれて、お客さんがぞろぞろとお店に来店して下さるので、休憩する暇がないほど忙しい。
お店側からしたらいいことなのだが、好評すぎて逆に怖いほどだ。
「あら? 浸夜くんどうしたの? 何か悩み事?」
声が聞こえた方向に顔を向けると、そこには母親が経営している店(店名:卯月衣服店)に勤めている塞養さん(本名:塞養役雇)が立っていた。
僕が成長するにつれて、塞養さんはよく今みたいに話しかけてくれる。
それは嬉しい、嬉しいんだけど、陰キャで人見知りの僕にはハードルが高い。
が、そんな僕に対しても塞養さんはぐいぐい来るので、強制的に慣れました。
まあ、いい人っていうのは間違いない。
それに、ほぼ毎日一緒にいるから家族みたいな感じだ。
相変わらず前髪で隠れていて表情がよく分からないけど、とりあえずいつも明るくてとても陽気な人だということは分かった。
あと、塞養さんは僕が覚醒する約三ヶ月前からこの店で働いてる。
仕事内容は、基本は接客を担当しているが、たまに衣服も作っている、らしい。
というのも、一度も見たことがないのだ。
いつも店に来る時に自分で作った衣服を持参している。
前になんで店で衣服を作らないのか尋ねたことがあるが、
「ん? それはね〜、秘密だよ!」
と返されてしまった。
童話でいう、鶴の恩返し的な感じなのかな?
てことは、塞養さんは鶴になって恩返しをしに働いてる?
……。
うん、な訳あるかい。
てか、これは前世での童話だ。
この世界とは関係がないし、そんなことはあり得ない。
それと、塞養さんは『総合集合住宅』という集合住宅の大家もしている。
つまり、本業が総合集合住宅の大家で、掛け持ち、いや、所謂副業としてこの卯月衣服店で働いているということだ。
仕事内容までは分からないけど、恐らく多忙に違いない。
「いや、実は今能力を使おうと練習しているんですけど、何故か僕のこの影の能力は全く使えないんですよ。それで、どうしたらいいのか分からなくて困ってるんです」
僕は塞養さんに今の状況を伝えた。
けど、だからってどうすることも出来ないとは思う。
けど、思えば今まで一人で悩んでいるだけで誰にも相談をしてなかった。
だから、僕は最後の希望として塞養さんに救いを求めたって訳だ。
「そっか、なるほどね……」
塞養さんは右手を握り自分の顎に当てながら、考え始めた。
明らかに困ってる、よな。
まあ、そりゃあそうだよね。
そもそも、普通は能力が使えないっていう状況自体があり得ない。
それを使えないって言うんだから、困るに決まってる。
そもそも、なんで僕が誰にも相談しなかったというと、迷惑をかけたくなかったからだ。
母親はもちろん塞養さんも凄い優しくていい人だ。
だからこそ、あまり頼り過ぎないようにしていた。
なので、自分でできることは自分でやるように心掛けていた。
なぜなら、こうなることが分かっていたからだ。
この二人は絶対に僕のことを無碍にはしない。
そう断言出来る。
それは、この約三年間で良く分かった。
きっと僕の影の能力のことを相談しても、悩んで悩んで悩んで、いっぱい悩んだ上で、きっと色々と考えてくれると思う。
けど、それは同時にいっぱい困って、いっぱい迷惑をかけてしまうことになる。
それを分かっていたはずなのに、本当に僕は馬鹿だ。
自分でどうしもうも出来ないからって、結局塞養さんに迷惑をかけてしまった。
本当にいつまで経っても成長してないな。
成長したのは外見だけ、中身は全く変わらない。
あの頃と同じ、『陰キャ』のままだ。
まあ、とりあえず塞養さんに謝ろう。
そして、自分で考えよう。
「あ、すいません、塞養さん。大丈夫です。自分で頑張ってみるので」
僕は塞養さんに向かって謝罪の言葉を口にした。
だが、塞養さんは考え込んでいて、僕の声が聞こえていないみたいだ。
やばい。
めっちゃ考え込んでる。
そんな塞養さんの姿を見ていると、僕は段々罪悪感を感じ始め、心が痛くなった。
「あ、あのー。塞養さん、もう……」
「うん! よし、分かった!」
僕はもう一度塞養さんに向かって語りかけたが、塞養さんの言葉によって遮られた。
「浸夜くん! 私が能力の使い方を教えてあげるよ!」
そして、塞養さん両手を握り胸の前で構えながら、僕に語りかけてきた。
しかも、気のせいだろうか。
何やらやる気に満ちているように見える。
「え? あ、はい。ありがとうございます」
咄嗟に言葉が口から出てしまった。
おーい、何やってんだよ、僕。
そこは流れで謝って断れって。
塞養さん明らかにやる気になってるけど、多分無理してるって。
まあ、でも正直めっちゃ嬉しい。
多分、凄い悩んでくれて決断してくれたはずだ。
僕がこの世界で初めて誰かに救いを求めた。
その結果、能力を教えてくれると言ってくれているのだから。
これは素直に喜んで受け入れるべき、だろう。
それに、元はと言えば僕が相談したのが原因だ。
それで僕が断ってしまっては、それこそ塞養さんに申し訳ない。
そして、僕は塞養さんと一緒に外に出て、店の裏手に移動した。
まあ、仮に家の中で能力が使えて暴走でもしたら、確実に母親が怒るからね。
外で行った方が安全ではある。
それに、もしかしたら怒るだけでは済まないかもしれないし。
あ、それと、その間にお客さんが来る可能性もあるので、会計用の机の上に、『ご来店頂き、誠にありがとうございます。現在秘密の訓練中の為、お店を留守にしております。ご用件がありましたら、お手数ですがお店の裏手をお探し下さい』っと書いた一枚の紙を置いておいた。
これで何かあれば呼びに来てくれるだろう。
外に出た途端、朝ということもあり、陽光が僕と塞養さんを明るく照らしていた。
この世界に転生してからほとんど外に出なかったからか、何故か陽光に照らされると体から力がなくなっていく感じがした。
まあ、多分気のせいだとは思うけど。
「よし!」
塞養さんが気合いを入れる為、両手同志を勢いよく合わせた。
相当気合が入っているように見える。
もしかして、何か対策を思いついたのかな?
そうか、だから僕に能力の使い方を教えてくれるって言ったのか。
だとしたら、これは心強いぞ。
「じゃあとりあえず……、何から始めよっか?」
僕は眉をハの字にし、がっくりした。
何も考えてなかったんかい!
てっきりいい案が思いついて僕に教えてくれるのかと期待していたが、どうやら思い違いだったようだ。
まあ、相変わらず元気はいいけど。
「あ、そうだそうだ! まず最初に、私の能力を見せてあげるよ!」
塞養さんは思い出したかのように、もう一度両手同志を勢いよく合わせた。
てか、よくよく考えたら塞養さんが能力を使ってるところって見たことないな。
一体何の適正能力者なんだろう。
「いくよー! 良く見ててね!」
「はい」
塞養さんは右手を前に突き出しながら、
「風壁!」
と言葉を発した。
すると、塞養さんの前に風が集まって来て、徐々に分厚い風の塊になり、巨大な四角形の壁が構成された。
大きさは、塞養さんを全て覆うほどの大きさ。
それに、見ただけで分かる。
恐らく、普通に蹴ったりしてもビクともしない、それほどに強度な壁だと実感した。
「見ての通り、私は風の適性能力者なんだ! で、風の能力だとこんな感じで自然に存在する空気を利用して使うの! だからさ、浸夜くんの影の能力も地面に映る影を利用したら能力を使うことができるんじゃないかな!?」
そうか。塞養さんは風の適性能力者だったのか。
初めて知った。
見ただけじゃ分からんかったわ。
それに、自然に存在する空気を利用して風の能力を使う、か。
確かに、影も空気と同じで自然に存在する。
塞養さんが言ってることも一理あるな。
「なるほど。そうか、確かにそうかもしれないですね」
僕は塞養さんと同じように、両手を握り胸の前で構えた。
一応、笑顔のつもりでいるのだが、多分無表情に近い表情だと思う。
鏡で自分の顔を見なくても予想できる。
だから、とりあえずポーズだけでも分かりましたよ感を出しておこう。
「うん! じゃあ、それを踏まえて浸夜くんもやってみよう!」
「はい。分かりました」
僕は一度深呼吸をし、気持ちを落ち着かせた。
そして、塞養さんと同じように右手を前に突き出した。
「浸夜くん、イメージだよ! 影の壁を作るイメージをするの!」
更に塞養さんがアドバイスをしてくれた。
なるほど、イメージか。
「はい。イメージ。イメージ……」
僕は両眼を瞑り、頭の中でイメージした。
でも、イメージって具体的に何をすればいいんだろう?
まあ、きっとさっき塞養さんがやってた風を集めるイメージを、影に変換したらいいんだろうな。
よし、集中しよう。
周囲の影を一箇所に集めるイメージ。
影を支配して、影の壁を作るイメージ。
よし!
イメージが完全に整った。
僕は両眼を見開き、
「影壁!」
と言葉を発した。
すると、なんと周囲の影が地面から浮き出てきた。




