第十二話 卯月衣服屋
[2023/7/6/ 改変]
転生してから数ヶ月が経った頃、僕は足腰がしっかりして立って歩けるようになっていた。
しかも、日々発生練習を繰り返したことにより、声帯も徐々に成長していき、きちんと言葉を出せるようになっていた。
まあ、なんとかスタートラインに立てたって感じだ。
そして、僕の行動範囲が増えたことにより、この家のことも、この家の人のことも分かってきた。
まず、この家の一部を使用して経営している店。
正式には、『卯月衣服屋』という店名らしい。
そして、店長は僕の母親である『月影璃映』で、この店を始めるきっかけをくれたのが父親だったそうだ。
母親は物心ついた時から衣服に興味があり、自分で作っていたらしい。
それに、母親が着ている衣服は全て自分で作っているもので、冒険者組合に勤めている時も同じようにその衣服を着ていた。
そしてある日、冒険者組合に訪ねて来た一人の冒険者に、自分が作ったその衣服を褒めてもらえた。
そのことが嬉しくて自分で店を持ちたいと思うと同時に、その冒険者に惹かれたらしい。
その後、二十三歳の時に冒険者組合を辞め、その冒険者と結婚すると同時に、この店を始めた。
そう、その褒めてくれた冒険者が、僕の父親だ。
因みに、母親の誕生日は一月一日で、今は二十九歳。
つまり、今から約六年前にこの店を始めたことになる。
そして、母親が二十四歳の頃に僕が生まれた。
なので、その後は母親と父親と僕と三人で一緒に暮らしていた。
けど、父親はもうこの家には居ない。
でも、決して離婚した訳ではない。
じゃあ父親が家にいない理由はなんなのか?
その理由は、僕が一歳の時に亡くなってしまったから。
そう母親から教えてもらった。
死亡時期は、僕が覚醒した約四ヶ月前らしい。
どうして亡くなったのかは分からない。
というか、聞けなかった。
母親がそのことを言いたくなさそうだったから、僕も無理に聞くことはしなかった。
だが、予想はついている。
父親は冒険者だった。
そして、母親は内心では僕に冒険者になってほしくないと思っている。
応援するとは言われたが、多分その気持ちはまだ残ってるはずだ。
その理由は、試験闘技場で僕が冒険者を目指すと伝えた時の母親の表情や、その後の冒険者組合での態度から分かった。
じゃあ何故冒険者になってほしくなかったのか?
それは、父親が冒険者として死んでしまったからではないだろうか。
つまり、恐らく父親は魔獣に殺されたんだと思う。
だからこそ、母親は僕に冒険者になってほしくはなかった。
父親のように、死んでしまうかもしれないから。
そう考えれば、全ての辻褄が合う。
けど、今は違う。
母親は、僕が冒険者になるのを一生懸命になって応援してくれている。
多分、僕が子供ながらに抱いた冒険者になりたいという思いを一心に受け止めてくれているんだと思う。
だから、応援してくれているんだと思う。
そう思うと、僕は自然と目頭が熱くなり、涙を流していた。
そして、思ったんだ。
だからこそ、僕は絶対に冒険者になるって。
そう思った。
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それから約三年が経ち、僕は五歳になった。
とりあえず、あれからの出来事を説明すると、冒険者組合にて僕が影の適正能力者ということが判明し、この影の能力を極めると決めた。
そこまでは良かったのだが、そもそもどうやって能力を使うのか分からなかった。
まあ、当然といえば当然だよな。
逆に知ってたら怖いわ。
なので、母親に能力のことを聞いてみることにした。
「ねえ、母さん」
あ、因みに母親のことは『母さん』と呼んでいる。
理由は特にないんだけど、前世でも母親のことをそう呼んでいたので、この世界でも同じように呼ぶことにした。
「ん? どうしたの?」
母親はこちらを振り向いて、僕と目線が合うようにしゃがみながら返事をした。
「あのさ、能力ってどうやったら使えるようになるの?」
「あー、そうね。えっと、能力を使うには、まず魔力が必要不可欠なの。そして、その魔力を利用することで、それぞれに備わっている適正の能力が使えるようになるのよ」
なるほど、魔力が必要なのか。
うん。
で、魔力ってなんだい?
「ふーん。でも、魔力? ってなに?」
僕は疑問に思ったことをそのまま口にした。
「魔力っていうのは、要は体力のことよ。つまり、体力をつければ次第に魔力は増えていくはずよ」
ほうほう、なるほど。
じゃあ、魔力=体力ってことか。
うん、分かりやすい説明だ。
なら、まずは体力強化から始めることにしようかな。
「なるほど。じゃあ、まずは体力をつけることにするよ。ありがとう、母さん」
僕は嬉しそうに笑みを浮かべながら、母親にお礼を言った。
「うん。頑張ってね。応援してるわ」
母親も嬉しそうな笑みを浮かべていた。
なので、僕はまず体力強化をすることにした。
自分で言うのもなんだが、この三年間はめちゃくちゃ努力した。
まず二歳になってから、上体起こしを始めた。
更に、一日に三十回を目標にした。
正直、前世で運動を全くしなかった僕にとっては厳しめの目標だったけど、この時の僕はそれ以上にやる気に満ちていたのだ。
その結果、僕は毎日休むことなく行うことができた。
三歳になったら、更に腕立て伏せとスクワットを始めた。
実を言うと、二歳の時に腕立て伏せを始めようとしたことがあるのだが、母親にこっぴどく怒られたのでやるのを辞めてしまったのだ。
なので、最初は無理ない程度に一日に十回を目標に行うことにした。
しかも、三歳になったことで、上体起こしは約二倍以上の回数ができるようになっていた。
四歳になったら、ダンベルを使った実践的な筋トレを始めた。
その頃、ふと鏡に映った自分の姿に目を向けると、今までの体力強化の成果が僕の身に表れていた。
腹筋は割れ始め、腕や足にも筋肉が付いてきているのが目に見えて分かった。
そんな自分の姿を見た僕は、ますますやる気が漲っていた。
けど、その後も決してやりすぎない程度に僕は筋トレを続行した。
だって、母親と約束をしたからね。
絶対に無理はしないって。
だから、そのことを心に留めて無理をしない程度に頑張った。
そして、今は五歳とは思えないほど筋肉隆々な姿になった。
よし、これで基礎である魔力はかなり増えているだろう。
見た目は若干気持ちがられるぐらいになってしまったが、まあこれは仕方がない。
これも努力の成果だ。
あ、そうそう。
因みにだけど、僕の母親、月影瑠映は『癒』の適正能力者らしい。
どうやら、癒の適正能力者は傷を治すことが出来るみたい。
というのも、僕が三歳の時、家にあったダンベルを持ち上げようとしたら、何故だか分からないけど右腕が折れてしまった。
すると、それに気づいた母親が直ぐに駆け寄って来てくれた。
母親は僕の右腕を見て最初は焦燥感が高まっていたようで、
「浸夜! 大丈夫!? 痛くない!? いや、痛いに決まってるわよね!」
と、僕に向かって語りかけてきた。
そんな母親とは裏腹に、何故か当の本人である僕は至って冷静だった。
あー、折れたー。
みたいな。
そんな感じだったのを覚えてる。
けど、母親は一度深呼吸をして気持ちを落ちつせて、僕の折れた右腕に右手の平を突き出し、
「治癒:全」
と呟いた。
すると次の瞬間、母親の右手を中心に真っ白な光が出現し、気づいたら折れていた右腕が完全に治っていたのだ。
何が起こったのか全く分からなかった。
けど、とりあえず母親が治してくれたことは分かった。
骨が折れても一瞬で完全に治すことが出来るなんて、めっちゃいい能力だ。
まあ、その後めちゃくちゃ怒られたけどね。




