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タイトル未定  作者: 影丸
第一章 陰から影へ(転生編)
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第十一話 唯一人の影の適性能力者、その名は月影浸夜

 突如目の前が真っ黒な影に包まれ、僕は困惑した。


 それは当然だ。

 だって、この現象には見覚えがある。

 ついさっきも起きた出来事。

 あの時(前世の最後)と同じだ。


 あの時も目の前が真っ黒な影に包まれて、そのまま意識を失ってしまった。

 てことは……。


 僕は無意識に息が荒くなっていた。

 おいおいおい、嘘だろ。

 まさか、また僕は死ぬのか?

 ここからまた新たに始めようと思ったのに、なんだよそれ。


 言われるがまま、こんな得体の知れない板に触れてしまったばかりに、また……。

 僕は両眼を瞑り、『死』を覚悟した。


 だが、今度は真っ白な光が僕の瞼を微かに侵入してきた。

 なので、恐る恐る瞼を開けると、さっきまで目の前に広がっていた真っ黒な影が、徐々にその板の中に戻っていった。


 僕は直ぐに周囲を見渡した。

 すると、母親と乾牧さんを発見。

 そして、先程と同じ建物の中。


 よ、良かった。

 どうやら、死んではいないみたいだ。

 僕は胸に左手を当てながら、深い息を吐いた。


 でも、あの真っ黒な影は一体なんなんだ?

 今も、あの時も、全く同じ現象だった。

 

 まず第一に、最悪の状態にならなかったのは良かった。

 良かったけど、あの現象はもう真っ平だ。

 うまく言葉に出来ないけど、なんか嫌なんだよ。

 なんというか、元々ある僕の中の力が抜けるような。

 何もかも、失ってしまうような。

 そう、まるで『絶望』だ。

 そんな感じがする。


 とりあえず、もう出現しないことを願う。

 本当に。

 心から願うよ。


 いや、待てよ。

 もしかしたらこの検査する時は必ずあの真っ黒な影が出現するのかもしれない。

 うん、きっとそうだ。

 僕は期待を抱きながら後ろを振り向き、母親の顔を見た。

 だが、僕の期待とは裏腹に、何やら不安そうな顔を浮かべていた。


「ね、ねえ、掛保。私久しく人体検査見たことなかったけどさ……。こんな感じだったっけ?」


「いやー。こんな現象、私も初めて見るわ。通常なら真っ白な光が発生するはずなんだけど……」


 乾牧さんも母親と同じように不安そうな顔を浮かべている。

 しかも周囲を見渡すと、冒険者の人達や他の受付嬢の人達も驚いているみたいだ。

 そんな皆んなの顔を見て、僕は今起こったことを理解した。


 あー。うん、なるほどね。

 とりあえず、皆んなの反応から見て、これは異常な現象ってことだな。


 困ったな。

 なら、ますます意味が分からんぞ。

 まあ、恐らくあの現象が起きる原因は僕なのだろう。

 とりあえず、それだけは分かった。


「でも、ちゃんと検査は出来てるみたい」


 乾牧さんがパソコンのような機械に目を向けて、何やら操作し始めた。


「えーと、まず浸夜くんの種族は、瑠映と同じ練人種だね!」


 ほうほう。

 なるほど、僕の種族は『練人種』なのか。


 うん。でも、何それ?

 エルフとかドワーフとかじゃなくて、『練人種』?

 そんな種族名初めて聞いたぞ。

 名前からしてもどんな種族なのか全く想像がつかん。

 僕は眉間に皺を寄せながら、微妙な表情をした。


 そんな僕のことには目もくれず、乾牧さんは検査結果を読み上げていた。


「契約は、なしだね」


「それと、適性能力は……」


 けど、なぜか適性能力の所で言い止まった。

 しかも、なぜか険しい顔をしている。

 え、なになに。

 もしかして、そんな言いにくい能力なのか。


「ん? どうしたの、掛保?」


 母親もそんな乾牧さんを見て動揺が隠せないみたいだ。


「えっと……。適性能力は、影」


 そう言われた瞬間、僕と母親は驚いた表情を浮かべた。


「え、影? そんな能力聞いたことないけど」


 え、影?

 そんな能力あるのか。

 口には出さなかったが、僕も母親と同じ反応。


 しかも、え、聞いたことがない?

 二人の会話からして、母親も昔はこの冒険者組合で働いていたはずだ。

 その母親が聞いたことがないって、確かに母親はそう言った。

 それって、まさか……。


「うん。私も初めて見た。けど、間違いないわ」


「しかも、ちょっと待って!」


 乾牧さんは目を見開き、パソコンのような機械を凝視していた。


「どうしたの? そんなに慌てて」


 乾牧さんのその様子を見て、母親も心配そうに語りかける。


「いない……」


 すると、乾牧さんが聞こえないような声量でぽつりと呟いた。


「え?」


 母親が聞き返すのも当然だ。

 さっきの乾牧さんの言葉は僕でも聞き取れたのが奇跡と思えるほどとても小さかった。


「今まで登録した人の中に影の適性能力の人が、一人もいないの!」


 すると、次に先程の声量がなんだったのかと思えるほど、今度は大きな声で乾牧さんは言葉を発した。


「それって、どういうこと?」


 母親はそんな乾牧さんの様子と発した言葉に驚いているようだった。

 まあ、僕もだけど。


「つまり、浸夜くんはこの世界で初めての影の適性能力者ってことよ!」


 乾牧さんのその言葉は、建物中に響き渡った。

 そして、冒険者の人達や他の受付嬢の人達が一斉にこちらを振り向き、ざわつき始めた。


「ええ! そんな……、そんなことって……。でも……」


 母親は口元に右手を当て、途轍もなく驚いていた。

 そんな母親とは裏腹に、僕は平然とした顔をしていた。


 だよね、予想的中。

 いや、でもマジか。

 そうじゃないかとは思ってたけど、まさか世界初の影の適性能力者だなんてね。


 二人の反応から見て、恐らく凄いことなんだろうな。

 でも、なんというか、地味な能力だ。


 可能なら炎とか氷とかの能力を期待してたんだけどね。

 なんか汎用性高そうだし。


 いや、けどよくよく考えたら、今の僕には適している能力じゃないか?

 前世で『陰キャ』を極めた僕が、転生したこの異世界で『影』の適性能力者になるなんて。

 これは運命的だろ。


 それに、今の僕はシャドウによって変わる勇気と力を与えて貰った。

 さっきそう解釈した。


 なら、もしかして『シャドウ』だから『影』なのではないだろうか?

 いや、流石にそんな訳ないって思うかもしれない。

 けど、そう考えればあの現象にも、何故さっきみたいに僕の時だけ出現したのかにも全て納得がいく。


 だから、僕はそう信じるよ。

 この影の能力は、シャドウの力。

 シャドウが僕に与えてくれた、僕だけの力だ。


 つまり、あの真っ黒な影によってこの世界に転生したのも、あれもシャドウの、この影の能力によるものだったってことか。

 そうか、この世界に転生したのも、この容姿も、この力も全てシャドウが僕の為に与えてくれたものだったんだ。

 本当に、全部シャドウのお陰だったんだな……。

 ありがとう、シャドウ。

 僕は心の中でそう思った。


「瑠映、これは凄いことよ! 絶対に冒険者にさせるべきだよ! 浸夜くんが冒険者になりたいんなら尚更!」


 と、僕が自分の能力について考えていると、乾牧さんが母親を向かって語りかけていた。


 乾牧さんが言う通り、もちろん僕も冒険者になるつもりでいる。

 能力がどうであれ、それは変わらない。

 けど、母親は何故か浮かない顔をしていた。


「うん。もちろん、浸夜が冒険者になりたいなら、私は全力で応援するわ」


「じゃあ……」


「けど」


 乾牧さんが言い出すのを断ち切って、母親が続けて話し出した。


「けど、最終的にそれを決めるのは、浸夜自身が決めることよ。だから、私から冒険者になるように強要することはしないわ。絶対に……」


「瑠映……」


「ごめんね。別に冒険者にしたくない訳じゃないの。でも、珍しい能力を持ってるからとか、特別な力を持ってるからとか、そんな理由で冒険者にしたくない。だから、浸夜が例えこの世界で唯一人の影の適性能力者だからって、そんな理由で冒険者にはしたくない……」


 母親の顔は徐々に険しくなっていった。

 その顔を見ただけで伝わってくる。

 母親がどれだけの思いで言っているのかが。

 きっと母親は、内心では僕に冒険者になってほしくないんだ。


 でも、母親の気持ちも分かる。

 僕は魔物に立ち向かっていく男性に憧れ、冒険者になりたいと思った。


 けど、さっきの戦いを見て分かった。

 冒険者っていうのは、そう簡単になれる訳ではない。


 それに、例え冒険者になれたとしても、怪我をする時もあるってことだ。

 最悪の場合、死ぬ可能性だってある。

 つまり、冒険者は危険な職業だ。


 それを分かっているのに、冒険者にしたい親はいないと思う。

 少なくとも母親はそう思っているはずだ。


 けど、それでも僕は冒険者になりたい。

 決して能力が珍しかったから、とかそういう理由じゃない。

 僕は決めたんだ。

 この世界で冒険者になるって。

 英雄になるって。

 そう決めた。

 そう誓った。


 だから、僕はこの気持ちを母親に伝えたい。

 伝えないとって、そう思った。


 そして、僕は母親の右手で服を掴んだ。

 すると、母親が僕の方に目線を向けた。


 分かってる。

 僕はまだ声帯が未発達の状態。

 だから今は声を出さない方がいい。


 けど、これだけは伝えなくてはいけない。

 例え、今日声が出せなくなっても、僕の気持ちを伝えたい。

 今の僕の気持ちを分かって欲しい。

 だから、僕は気持ちを、この言葉を発するんだ。


「ナ、ル」


「ボゥ、ケン、シ、ヤ、ナル」


 声が掠れる。

 発音も正しく出来ない。

 けど、それでもこの気持ちは言葉にしたい。


 すると、母親は涙を流していた。


「そう……。それでも浸夜は、冒険者になりたいのね……」


「ゥン」


 僕は頷き、その二文字を口にした。


「そっか。よし、浸夜がそう決めたのなら、私は全力で応援するわ」


 母親は右袖で涙を拭きながら、安心したように声を発した。


「けど、いい浸夜。これだけは約束して。絶対に無理はしないこと。いい?」


 母親は両手で僕の両肩を握りながら、真剣な表情で僕に語りかけた。


 僕は頷いて、母親に向かって右手の小指を差し出した。

 すると、母親も同じように僕に向かって右手の小指を差し出した。

 そして、互いの小指を合わせて、その約束を交わした。


 そんな母親と僕の姿を見ていた乾牧さんも、もらい泣きしていた。

 そして、冒険者の人達や他の受付嬢の人達が僕達に向かって拍手をしていた。


 その後、乾牧さんがパソコンのような機械を操作して、隣に設置してある印刷機のような機械から一枚の紙が出てきた。

 乾牧さんは右袖で涙を拭き、その紙を取って僕に手渡した。


「じゃあ、浸夜くん。これが現時点での君の登録記録だよ」


 僕はその紙を両手で受け取り、じっと見つめた。

 その紙にはこう書かれていた。



 ◻︎人体検査結果


 冒険者組合登録日:陰歴二〇九八年九月九日


 名前:月影浸夜(つきかげしんや)

 適性能力:『影』

 種族:練人種

 生年月日:陰暦二〇九六年六月九日

 年齢:二歳

 契約:なし

 称号:なし



 その人体検査結果には、適正能力以外にも名前や今日の日付や僕の生年月日などが書かれていた。

 その中で、一番に目に入ったのは名前だ。

 この時、僕は初めて自分のフルネームを把握した。


 そうか。

 月影浸夜。

 それが、今の僕の名前。

 うん、いい名前だ。


 というのも、兎を飼っている人の間では、兎は亡くなったら月に帰るといわれる。

 つまり、月影の月は兎で、影はシャドウってこと。

 うん、今の僕にぴったりな名前だ。


 僕は改めて思う。

 この世界で、『月影浸夜』として。

 『唯一人の影の適性能力者』として。

 この世界で、必ず『冒険者』になる。


 前世で陰キャを極めた僕だけど、転生したこの異世界では唯一無双の『影の能力』を極める。

 そしてこの世界で、今度こそ憧れの存在に、『英雄』になる。

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