正反対の武士
暗雲立ち込める平原にて
二人の武士が構えを取っていた
一人は一本の刀を正眼に構えた筋骨隆々の男
名を龍我
冷静沈着な性格をしており、好機を絶対に逃さない。
もう一人は二本の刀を両手に持ち下にダラリと垂らしたホッソリとした体躯をした男
名を竜魔
戦闘狂であり、強い敵と戦えば戦うほど強くなって行く。
正反対とも言える両者の戦闘スタイルもまた、正反対
龍我は卓越した足腰と瞬発力を生かして敵を翻弄し、一刀の元に敵を切り伏せる
竜魔は二刀流を扱うセンスと強靭な足腰により生み出される圧倒的な手数とスピードを持って敵を翻弄し、敵に全く攻撃する機会を与えない
「そろそろ準備は整ったかな?」
「ああ」
「では、始めようか」
竜魔が宣言すると、竜魔は走り出して一気に龍我に近づく
そして、射程圏内に入ると竜魔はまずは腕試しと飛び上がり刀を一刀降り下ろす
「…………」
龍我はその姿をしっかり捉えながらも放たれた一撃を刀を横にして受け止めた
ぶつかった刀がキィン!と甲高い金属音を鳴らす
「うんうん、さすがだね。じゃあ、次行くよ」
余裕綽々と言った様子でそう言って竜魔は使ってなかったもう一刀を横に振るう
龍我の頭に一瞬、刀を傾ければ受け止めれるのではないかと過るが、それをすぐに振り払う
そんな事をすれば最悪刀が折れると考えたからだ
「っ!」
龍我は刀に力を籠めて押し返すとすぐさまその場から離れて距離を取る
「やるねぇ~~今度はもう少し本気で行くよ」
獰猛な笑みを浮かべてそう言った竜魔は、先程とは全く同じ速度で近づいた
だが、同じだったのはここまでだった
竜魔の射程圏内に龍我を捉えると、今度は素早い腕捌きで十にも及ぶ斬撃を繰り出した
「っ!!」
いきなり増えた攻撃に少し目を見開くが、すぐに表情を戻すと的確に斬撃を捌いて行く
「うんうん。これぐらい対応できないんじゃあ相手にならないから、対応してくれて良かったよ。これならもっとも~~~っと本気で良いよね?」
竜魔は獰猛な笑みの中に楽しげな笑みを浮かべると数十にも及ぶ斬撃を繰り出す
「っ!?!?」
その斬撃の数に驚きの表情を浮かべる龍我
それが隙となって何撃か受けてしまうが、その後はなんとか対応して凌いだ
そこで一度距離を取り、両者は仕切り直す
「これで驚いてるの?ちょっと、期待外れだな」
竜魔は残念そうに呟くが、その瞳はギラギラと輝いており「まだまだこれぐらいじゃあ殺られないよね?」と言外に問い掛けているようだった
まだまだ余裕がありそうな竜魔に対して、先程から防戦一方の龍我は静かな闘志を滾らせながら好機を待っていた
「さっきから黙りか……残念だよ。まあ、良いけど」
竜魔は肩を竦めると、先程以上の速度を持って一気に龍我に近づくと、先程と同じく数十にも及ぶ斬撃を繰り出した
龍我はそれを冷静に対処しながら、攻撃のタイミングを待つ、待つ、待つ
「はぁ……攻撃のタイミングを狙ってるようだけど、そんな事をしても無駄だよ」
竜魔はそう言うと速度を上げ、360度全てから攻撃をして行く
「くっ」
その攻撃に龍我は対応できなかったらしく、どんどんと体に傷をつけられて苦悶の声を漏らした
「このまま終わってしまうのかい?そんな訳ないだろう?君の本気を見せてくれ」
「良いだろう」
ずっと煽られている事に耐えられなかったのか、久しぶりに言葉を発した龍我は攻撃を受ける覚悟で竜魔に攻撃を繰り出した
「おっと、危ない」
危うく一刀の元に断ち切られそうになった竜魔は地面に足が着いていた片足に力を籠めて後ろに下がった
「交わしたか」
振り切った姿勢の龍我は、チラリと退避した竜魔を確認して姿勢を戻した
「ははは……本気で僕を殺しに来てるね。良いよ、その気概。とても気に入った。その気概に応えて、僕も本気を出そう」
そう言った竜魔は刀を逆さに持ち替えると、姿勢を低くして一気に駆け出した
その速度は弾丸の如く
龍我が竜魔を認識できた時には、竜魔は龍我を射程圏内に捉えていた
「さあ!これを乗り越えてみせてくれ!!」
竜魔は目にも止まらぬ速度で腕を動かし、龍我の全周いに200にも及ぶ斬撃が放たれた
「っ!!」
龍我は数にこそ驚愕に値する物を感じたが、二度目ともなると冷静に対応できるのか、斬撃の合間を縫って回避して行く
その際に攻撃できる機会があれば狙うのだが、狙おうと思ったタイミングで邪魔が入るので中々攻撃できずにいた
そのなんとも知り尽くされたタイミングでの攻撃に、龍我は段々と冷静さを失って行く
「ほらほら。攻撃して来ないと何時までも続くよう?」
「くっ!ぐっ!」
それは集中力にも影響し、攻撃を受ける回数が増えて行く
「君には期待してたけど、無理だったみたいだね」
満身創痍になって行く姿を見て自身の勝利が揺るがないと思った竜魔は、残念そうに呟く
だが、その油断が仇となった
「ふん!」
「なっ!?」
攻撃を受け続けるだけだった龍我が卓越した足捌きと瞬発力で一気に竜魔に近づくと、瞬間的に力を籠める事で素早い一刀を振り下ろした龍我は竜魔を肩から腰にかけて一刀両断した
ドシャリと、自身の血で染め上げられた平原へと落ちた竜魔は楽しげな声を上げる。
「ははははははははは!!スゴい!スゴいね!まさか!このタイミングを狙っていたとは!!僕の負けだよ!!」
斬られたというのに、竜魔に恨みと言った物はなく
ただ単純に好機を狙い待ち続けた龍我を称賛する想いだけに溢れていた
「せ、界、、でも、、、、、ふぅ。上位に入ると貴方と戦えて良かった」
龍我は息もたえたえと言った様子ながらも、感謝の気持ちを伝えた。
「ありがとう!最後に戦った強者が君で良かったよ!」
「あ、りがとぅ、、、ございま、、す、、、、」
そう言って龍我は息を引き取った。
「ああ~~あ……もう戦う事はできないのか~~」
血を流し過ぎて朧気になる視界で空を見上げながら残念そうに声を漏らす。
「僕もそろそろ、か」
死期を悟った竜魔は最後に青く澄み渡った空を脳裏に記憶して瞼を閉じたのだった。