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第8話 VSフェンリル

 朝になり魔物の襲撃も無かった。アシルもすっかり元気になり、一度、共にダリスへ戻る決断に至った。


 ベースキャンプの片付けも終え帰路につこうとした時、


「よし!行こう!」


 ……とアシルは言ったが帰路と逆方向へ歩こうとしていた。


「アシル!違いますよ!」


 すかさず呼び止め間違っていることを指摘した。


「えっ⁉︎…あぁ、すみません」


 アシルはクロロのもとまで戻り、同じ方向へ向かって歩く…。

数日間森をさまよっていたので無理もないかとクロロは思った。


 ……と、辺りの森の雰囲気がザァッっと吹く風と共に変わった。一気に緊張感が漂う。クロロは体勢を低く構えている。アシルも雰囲気を察知し体勢を整えている。


 すると風上の方から気配が近づいてくる。


 金色の鋭い眼光に頭から背中にかけ生えている赤い鬣を際立たせ、闊歩する一頭の狼が姿を現した。鋭い牙が見える口からは涎を垂らし、唸り声をあげ威嚇している。かなりの重圧を感じる…。


「…さがって」


 アシルはクロロを自分より後ろへ庇った。


「あれがフェンリルだ!俺の受けおっているクエストの討伐対象だ!」


 アシルは腰に提げている剣を抜刀し構えた。


 アシルは集中力を増していく…。


 クロロはまた新たな緊張を感じた。背筋がピリピリするような、何か触れてはいけないような感覚がアシルから感じ取られる。

 素性を隠しているとはいえクロロは実力申し分ない魔王だ。その魔王すらそう思わせるアシルにクロロは一目置いた。


「あいつ俺たちのこと、朝ごはんにでも見えるのかな?」

 アシルは冗談でこの緊張を少しでも楽にしようとした。



「アシル、すみません。2撃目で決めてくれませんか?」


 クロロは構えるアシルの背後から囁く。


「…!?……何か策があるんだな?」


 アシルは振り向かず返答した。


 暫し静寂な時間が流れる……。この場に聞こえるのは川のせせらぎだけ。


 アシルとフェンリルは互いに臨戦態勢で睨み合っている。


 痺れを切らし先に仕掛けてきたのはフェンリルだ!こちらに向かって一直線に走り込んでくる‼︎


「勝負は一瞬です!信じてください!!」


 クロロはそう言って足元の河原の石を掴みアシルに背を向け、向かってくるフェンリルとは真反対に掴んだ石を振りかぶり構えた!


 アシルは牙を剥き出し噛みつこうとするフェンリルに、振り上げた構えから絶妙な間合いで剣を振り下ろした!


 ……が、フェンリルは初めからそうするかの如く真後ろへバックステップし回避する。アシルの斬撃は空を裂いた!


 着地したフェンリルはまたこちらに迫り来ようとしていた!


 アシルはまだ振り下ろした体勢から立ち直れていない。


 その瞬間‼︎アシルの後ろから2体目のフェンリルが、森の茂みから現れこちらに向かって飛び出してきた‼︎

 しかし、既にそれを読んでいたクロロは、掴んだ石で2体目のフェンリルの頭部を打ち砕き吹き飛ばした‼︎


 クロロはすぐさま身体を反転し、1体目のフェンリルめがけ石を投げ込んだ。

 投げた石は、体勢が立ち直れていないアシルの上を通過し、迫り来るフェンリルの手前に落下した。

 すかさずフェンリルは飛び跳ね、こちらにむかって襲いかかってきた‼︎


虚空閃こくうせん‼︎」


 アシルは振り上げた剣でフェンリルの腹から背にかけ刹那の如く切り上げた。


 切られたフェンリルはクロロの手前で真っ二つに割れ、クロロが仕留めたフェンリルの横に無惨にも堕ちた。


 切り上げた構えから一連の流れで剣を鞘に締まったアシルは、ため息を1つ落とした。


 それを見ていたクロロはアシルの放った2撃目の一閃に脳内が痺れていた。


(なんという洗練された太刀筋……‼︎

一片の迷いも無く鮮やかだ……)


 次第に湧き立つ興奮と震え、そして自分ならあの一閃にどう対処するか考えていた。


(あぁ…闘いたい……)


 クロロの心中奥底で魔王の本性の鱗片が覗かせている…。




「ありがとう、感謝する」


 アシルの言葉に我に帰る。


「いえいえ、見事でした!」


 「私もアシルの剣気を感じたからこそあんな事が出来たんですよ」


 「……にしても、どうして2体目がいるのがわかったんだ?」


 アシルは問う、


「私の知る書物に、フェンリルは狩りをする時、必ずツガイ(夫婦)で行動するとあったからです」

「あと、1体目は狩りをするのに何故わざわざ風上で自分の匂いを獲物に晒し威嚇してみせたのか……それは、2体目が本命で1体目は獲物の注意を惹きつけるフェイクだったんです」


「なるほど…」


アシルは場面を思い返す。


「風下だと2体目は匂いも隠せるし、バックアタックがし易い環境だとおもったので、ある程度マトを絞っていたんですよ」

「あとは、アシルの構えが上段構えだったので1撃目は剣を振り下ろすと読んで、 1体目のフェンリルが、私に殺られたフェンリルを見て動揺して、作戦が無くなればパニックになり単調な攻撃になると判断し、手前に石を落とし、身動きが取れない滞空状態に持ち込めば、あとはアシルが2撃目を決めてくれると信じてました」


「いやぁ、こちらこそ見事と言うべきだね」


 アシルは少し呆れた表情で手を叩いた。


(あり得ない…初めて会った私の剣の腕、初めて対峙したフェンリル、置かれた環境、特性や習性、それらを知識と冷静な判断で戦術を組み上げ対応し実現する!)

(そして、自分で調合した薬や、心身満たせる道具や食料。ここまでできるサポーターは見たことがない。いや、サポーターという枠には収まらない)


(これはもしかすると私の……)


 アシルは先を見据える目でクロロを見つめた…。


「では、行きましょう!」


 クロロの掛け声にアシルはまた歩を進めた……






 歩いていくアシルの後ろで、クロロは佇んでいる…。


 足元には頭を半分ほど砕かれピクピクと痙攣をおこしているフェンリルが、目玉をぶら下げこちらを見ている…


 クロロは片足を上げ、勢いよく振り下ろしフェンリルの頭を踏み砕いた……。


表情は無心な顔で笑う。





 気付くとアシルはまた違う方向へ向かっていた。


「‼︎…あっ!また!」


「アシルー‼︎こっちですよー!」


「あ〜っ!そっちかーすみませーん………」

読んでいただき誠にありがとうございます。

貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。

日曜日夕方のジャンケンに勝てると思うので、作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。

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