第7話 アシル
クロロはサポーターの準備に取り掛かる。
必要な道具やアイテムを揃えなければならない。
「そうとなれば、まずはダリスだな」
クロロは町の店や市場で買い物をする。金ならある。何せ珍しい素材を換金していたからだ。
「…と、……ロープ、ナイフと…」
「ひとまず道具はこれくらいか…」
「じゃ、お次は……」
クロロは郊外へ出て薬草や素材の採取、回収を始めた。上手く使えば何かに使えるかもしれない。
そういった知識なら魔王城の書物で頭に入っている。
素材やアイテムなど回収すると同時に、クロロは勝手に住んでいるボロボロの空き家を自分なりに修繕した。それなりに家と呼べるくらいにはなった。ひとまず生活する上で困る事は無いだろう。
一つ気になる事があった。家の中を片付けていると、薬を煎じる調合表や、道具が一式揃っていたのである。ホコリが被っていたり、中には使えない物もあったりしたが、元々の家主は医者か薬師だったのだろうか?
しかしこれは大いに役立たせてもらおう。
あと必要なもの、用意しなければならないことは何だろうか?
クロロは勇者の冒険譚を思い出したりもした。もし自分があの勇者のサポーターだったら。どういうアイテムが戦闘中に必要だっただろうか、旅先の野宿ではどんなもてなしがいいのだろうか、など余念が無かった。
*******
数日後、森の中を歩くクロロの姿があった。相変わらず薬草や素材収集をしているようだ。
すると遠くから川のせせらぎが聞こえる。
「よしっ!一旦河原で休憩しよう」
すると、河原に何か見える…。
「……⁉︎」
「人だ!人が倒れている‼︎」
クロロは急いで駆け寄ると、倒れていたのは青年だった。剣と甲冑を着ているが冒険者だろうか?
「息は…よしっ!まだある‼︎」
(負傷もしているし、衰弱が激しい…)
クロロは自分ができる最大の治療法を考える。
試したことは無いが、自分で調合した液体を飲ませた。その効力とはポーションに調合した薬を合わせたものだ。
ポーションは外的ダメージの回復効果があるものだが、調合した薬はその効果と合わせて滋養強壮効果もあるのだ。
「うっ…」
青年の意識が戻った。
「もう大丈夫だ」
「今は充分休むといい」
クロロは青年に暖かい声をかけた。
青年はまた眠った……。
*******
日も暮れてきた頃、時間経過とともに青年は次第に意識がハッキリしてきた。
「……すまないね」
青年はクロロに感謝を述べた。
「いえいえ。経過も良くなってきているようですし、人助けも初めてだったので、私もホッとしています」
「これからすぐ日没になるので今日はこの河原にベースキャンプを張りましょう」
そう言うとクロロは手際良くキャンプの準備を始めた。ここ最近の徘徊で馴れたものだ。
焚き木を囲みながら青年はことの経緯を語り始めた。
「僕の名はアシル。18歳。
ダリス出身の冒険者だ」
「改めて礼を言わせてもらおう。ありがとう」
「私の名前はクロロ。
ダリス近郊に住んでる。ジョブはサポーター……になる為の準備をしている」
クロロはアシルの身に付けている剣をみた。
「アシルのジョブは?」
「ウォーリアーだ」
「数年前に冒険者になったまだまだ駆け出しさ。この森へは魔物退治のクエストで来たんだが……このとおり迷ってしまったんだ」
「クロロが見つけてくれなかったら、今頃どうなっていたか…。もしかしたら魔族のエサにでもなっていたかもな……」
グゥ〜〜……
調子が戻ってきたのかアシルのお腹が鳴った。
「こんな話をしてるのに腹の虫が鳴ってしまうとは…」
「ほんとですよ。では、ご飯にしましょう」
クロロは食料を取り出した。
以前狩ったナックルベアの干し肉である。
肉に塩をすり込み干し肉にし保存食にした。サジの実で美味くなった肉の脂が干すことにより熟成され旨味が増すのである。更に火でかるく炙ると肉質も柔らかくなり芳醇な香りが広がる。
「…‼︎……う、美味い‼︎」
三日三晩彷徨いロクな食事をとれなかったアシルにとって、久しぶりの食事がこんなに美味しいご馳走だなんて夢みたいだった。
アシルは夢中になって食べた。
腹も満たされた頃、クロロが焚き木に粉を投げ入れた。
「それはなんだい?」
アシルが何を燃やしたのか聞く。
「この粉は魔物が嫌がる匂いがでるんだ。燃やして煙にして辺りに魔物が寄らないようにするんだ」
「どちらかが見張りをするとはいえ、就寝中の無防備な状態で襲われないようにする手段だ」
更にクロロはアシルに伝える。
「さっきベースキャンプ周辺の木に幾つもマーキングの爪痕があったんだ」
「間違いなく獣の縄張りに入っていると思う…」
アシルは静かに呟いた。
(もしかすると俺のクエスト対象の魔物か……?)
読んでいただき誠にありがとうございます。
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いつも私に反応しない自動ドアの開閉センサーが反応してくれるようになると思うので、作品の創作意欲に繋がります。
では、次話でお会いしましょう。