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第51話 愚かな息子に断罪を

 〜ダリスギルド サブギルドマスター・ランスロットの執務室〜



「ーーー以上が彼らの証言並びに、自警団の証言に基づいてまとめた報告です。そして、これがその最終報告書になります」


「確かに受け取った。では、この報告書をギルド側の供述書類として裁判側にまわしておく。ご苦労だったな、リンゼイ」


「いえ、与えられた仕事をしたまでです。サブギルドマスター」


 ランスロットの労いの言葉に謙遜するのはギルドの受付嬢リンゼイである。

 彼女は高身長で全体的にすらっとしており、腰のあたりまで真っ直ぐに伸びた艶のある長い黒髪が良く映える。加えて、長く伸びた睫毛まつげの下にある切れ長の目と薄い唇、そして、感情表現の乏しさが彼女に冷艶な印象を与えている。


「依頼品の奪還は成功。依頼を受注した冒険者ニ名、サポーターが一名、同行した依頼者一名の無事を確認。一方でファントムハンズの頭目シモンとその配下、計四十名及び雇われのホグリッド兄弟の身柄確保。但し、ファントムハンズの一名についてはバラバラにされた焼死体で発見され、更に残り一名は逃走中……だったな?」


「はい、そうです。報告書の文末にはそう記載しましたが、間違いありません」


 そうか、と安堵の様子を見せるランスロットは続けて口を開いた。


「私はこの依頼を引き受けた冒険者と顔馴染みでな、依頼内容について問われて対応した手前、その後がどうなったか気になっていたんだ」


「顔馴染み……ああ、いつも目で追っておられる立派な盾を持った方ですね」


「んなっ!?……べ、別に目では追ってはおらん!!」


 頬を赤らめ否定するランスロットだが、「そうですか」と、まるで他人事のように涼しい顔で話すリンゼイに、別に深い意味は無かったのだと悟り更に羞恥した。

 ーーーゴホン。と咳払いをして気を取り直したランスロットは話を切り出した。


「今回の報告書は"不可解な点"がいくつか見られ私だけでは判断がつきにくい。そこでだ。君の意見も聞かせて欲しい」


 分かりました。と快諾したリンゼイは一呼吸置き、静かに口を開いた。


「正直驚きました。奪還目的のクエスト依頼が、俄かには信じ難い出来事が一度に多発する事態になるだなんて」


 驚いたなんて言う割には話し方に抑揚が無く、表情ひとつ変えずに話すリンゼイに、相変わらず本心で言っているのかとランスロットは些か疑問を覚える。


「奴らも予想していなかっただろうな……しかし、報告書通りならあの人数でよく事を収めたものだ。普通なら撤退するか救援を求めるところなんだがな」


 パラパラと報告書をめくるランスロットは、報告書の文字だけでは判断できない当時の情景を可視化しているようだった。


「私も同意見です。しかし、明朝に後続の自警団が駆け付けた時には、依頼を受注したメンバーの中で唯一意識のあったサポーターの彼が既に現場を取りまとめていたようで、自警団の出る幕は無かったと。自警団がやった事といえば、彼からの経緯・事態の報告とその証拠の確認、負傷者の応急処置、帰路での護送くらいで、自警団の団長も『彼が裏で陣頭指揮をしてくれたお陰で、スムーズに任務を遂行できた』と彼の働きに舌を巻いておりました」


「あのサポーターか……」


 何か思い当たる節があるのか、途端、ランスロットは怪訝そうな表情を見せた。


「あの?……どのような人物か伺っても?」


「そうだな。……これまでの報告書を見れば彼が如何にサポーターという枠に留まらない傑物けつぶつかという事が分かるのだが。わかりやすいものでいうと先日のヒュドラ討伐の件や、過去にはグリフォン討伐もだな」


「ヒュドラ討伐の件は私も耳にしていますが、グリフォン討伐も彼が関与してるのですかっ!?」


 冒険者のみならず誰もが一度は耳にした事があろう凶悪な魔物の名が連なり、感情表現乏しいリンゼイの顔にもさすがに驚きの色が見えた。


「今回のクエスト依頼達成も彼のサポート無くしては不可能だっただろうな。魔法陣の作成なんて昨日今日でできるものではないからな」


「私も良くは分かりませんが、豊富な知識とそれを具現化できる精妙な技量が要求されますよね? 増してや反転魔法陣となればより高度なものでしょうし……サポーターの彼がなぜ作成する事ができるのでしょう? 不思議でなりません」


「過去の報告書から読み解くに、彼はあらゆる状況を瞬時に把握した上で、自らの感覚や知識、技術や道具を駆使して戦略を練り、導き出した最善策を仲間に指示するのだろう。勿論、仲間の実力を考慮しての事だろうがな。そんな彼の事だ、万が一の不測の事態の立て直し策も織り込み済みなんだろうな」


「言っては何ですが、彼はまるで戦場を盤上遊戯ボードゲームに見立てているかのようですね」


「かもしれんな。案外【盤上の支配者】にでもなったつもりでいるのかもな……まあ、さすがにそれは言い過ぎか」


 無表情のままずっと顎に手を当てているリンゼイ。まだまだ腑に落ちない点があるのだろう。自分が出した過剰評価に薄笑いを浮かべているランスロットに対し質問を続けた。


「ここまでクエスト依頼達成に貢献しているのにも関わらず、なぜ彼の功績を知る者が少ないのでしょう?」


 それはだな、とランスロットがリンゼイの質問に答える。


「クエスト依頼の受注は冒険者しか許されていない。なので依頼達成の功績は受注した冒険者しか評価されない。サポーターの活躍など表沙汰にはならないからだ」


「なるほど。彼の活躍を知る者といえば報告内容の閲覧が許可されたギルド内部の関係者か、仲間内だけという事ですか……だとしても、なぜ彼は活躍を世に知らしめたり慢心などせず今の現状で満足しているのでしょうか? 人は誰しも地位や名声を築き、人々の幸福を実現し財を成す事に重きを置くのが当然だと思うのですが……」


「そうだ。彼の不可解なところは、その他の誰とも違うところなんだ」


「"真に実力がある者は、その実力をひけらかさない"というやつでしょうか?」


「さあな。何故そのようなスタンスなのかは不明だが、そんなおかしな事、【ギルドマスター】が知ったら放っておかないぞ。きっと」


 ランスロットは細い顎に手を当て悪戯っぽく微笑んだ。


「あくまでも影の立役者に徹する理由……」


 その理由は一体何なのか。

 リンゼイが推察しようとした時、「要らぬ詮索はせんようにな」とランスロットから釘を刺された。


「そうですね。彼は地位や名声に捉われず、己の目的の為に活動している、そういった主義者ということ。ですね」


 冒険者になる者は様々な事情を抱える者が多く、素性を探る行為は御法度なのを失念していた。自分はその言葉の意味が痛いほど分かるというのに……。

 思い出される苦い記憶を振り払おうと、リンゼイは話を続ける。


「しかし、サブギルドマスター。サポーターの彼の事もことながら、やはり今回の報告書で特筆すべきなのは……」


戦士ウォーリア・アシルの件だな」


 ランスロットもリンゼイも共に、ある事象に関して鑑みなければならない気持ちを抱えていた。


「報告書にも記載しましたが、召喚された凶悪な騎士と対峙し、撤退か救援か否かの採択で戦う決断をしたのが彼だそうです。そして、窮地に立たされたその時……」


「鐘が鳴り響き、目覚めた戦士は白銀に輝くオーラを纏い敵を圧倒した。……か」


「類似していますね」


「ああ。これは【勇者の冒険譚】にある【勇者誕生アーサー・ベル】と類似している……」


 ランスロットは背筋のあたりに震えを感じていた。やがてその震えは心が勇み立つ感覚を連れて来た。一体何がそうさせるのかは考えずともすぐに理解できた。


 この世は遥か昔から人族と魔族の争いが繰り返され、その度に人々は魔族の脅威に晒されている。

 そんな死と隣り合わせの世界で語り継がれている一つの物語がある。それが【勇者の冒険譚】である。

 人々を脅かす魔族を討ち滅ぼす為に起ち上がった人間が神から力を授かり【勇者】となり、魔族を束ねる【魔王】を討伐するという実話をもとに書かれた一冊の書物であるが、いつしかこの物語は【勇者】の再来を夢見る人々の心の拠り所となり、行商人や吟遊詩人らが語り手となって各地へと知れ渡ると、人々は親から子へ、そして子がまたその子へと幾つもの世代を渡り、現在に至るまで語り継がれている。


 今回アシルに起こった現象がその中の記述内容と似通っていた部分あり、それによりランスロットは新たな勇者の誕生に期待を寄せてしまう余り、身体が勝手に感化されてしまったのだ。しかし、勇者の誕生と位置付けるには疑問に思うところがある。と自身の状況を客観的に俯瞰するもう一人の自分がそう言った。ランスロットは一度逸る気持ちを抑えリセットする。


「……しかし、飛躍的に戦闘能力が向上したとはいえ、一時的で、しかもトランス状態。その後は悶え苦しみ意識を喪失。そのまま丸三日も目を覚まさずか。……これは反動なのだろうな」


「現在は意識も安定したようで近いうちに復帰するとの事ですが、彼が目を覚ました後、その時の状況を尋ねてみたのですが……全く記憶にないと言っておりました」


 ランスロットは腕を組み、報告内容を見ながら思案する。


「やはりとても打算的なものとは思えん。あのサポーターの指示によるものでもなさそうだしな」


「偶発的だったということでしょうか?」 


「その可能性が高いな……」


 現段階で"勇者再来"を提唱するには不完全さを孕んでおり、いささか気が憚られる。ではどのように説くのか。

 敢えて言うなら"奇跡"としか言いようがない。曖昧で抽象的ではあるが、それが思案の末にランスロットが出した答えであった。

 ただ、勇者に通ずる事象のこともあり、ギルドとしてはアシルの今後の動向を追うという判断に至り、ランスロットは報告書の承認欄に押印するのだった。


「……しかし、もしかするとこれは、世界に変革をもたらす始まりなのかもしれないな」


「そうですね。私も心の片隅に留めておくとします」


 話も落ち着いたところで、リンゼイが退室しようと扉に向かおうとした時だった。突然、ランスロットから待つよう呼び止められた。


「何でしょうか?」リンゼイが振り返ると、先ほどまでの雰囲気とは少し違った、和やかな雰囲気のランスロットと目が合った。


「足の方はどうだ? 困ったことがあったらいつでも頼ってくれ」


 ランスロットは何の屈託なくリンゼイに話す。

 先ほど彼女は冒険者に要らぬ詮索はするなと言ったが、それとは違うのだとリンゼイは彼女の目を見てすぐに理解した。

 大抵の人は自らの承認欲求を満たしたいが為、押し付けがましい善意を見せ、かえってこちらを気の毒だと思わせてくる。つまり、無用な気遣いだ。ところが、彼女の振る舞いには裏表がなく、ただ単純な純粋な心遣いだった。


「お心遣いありがとうございます。この左脚の棒義足は時折痛む時もありますが、徐々に慣れてはきました。ギルドの業務につきましても皆さんのお力添えもあり、なんとかやれています」


 制服のロングスカートの上から労るように左脚を撫でるリンゼイは、小さく微笑んでいるように見えた。その姿にランスロットは少し安心を覚えるのだった。


「そうか。良かった」


「……では、私は業務に戻ります」


 それからリンゼイは「失礼しました」と言い残すと、不揃いな足音を鳴らし、執務室を後にするのだった……。









 ーーーガンッ! ガンッ! ガンッ!


 小槌ガベルを叩く音が法廷に鳴り響く。


「静粛にぃ! 静粛にっ……!!」


 神誥しんこう裁判の法廷に居合わせる者たちは皆、その最高裁判長の厳粛的な言動に静まり、そして注目する。


 この半円形ですり鉢状の法廷は、最下の証言台を見下ろすかたちで傍聴席が囲み、その傍聴席側中央の更に上、首が痛くなるほどの高さに最高裁判長の席が設けられている。

 そこに掛けるのはギアガ・フォルセティウス最高裁判長。

 髭も眉も白く長く、黒を基調としたガウン姿の小柄な老翁ろうおうである。しかし、その見た目に似つかわしくない凄みのある大きな声は、罪人ならずともその場に居合わせる者たちの襟を正させるようだった。

 ーーーゴッホン、とギアガは一度大きく咳き込むとおもむろに立ち上がった。


「今し方、我は神より裁きの御言葉を賜った」


 その時、丁度天井から差し込む光が薄暗い法廷の証言台をスポットライトのように照らした。

 証言台には手首を錠で縛られたトロワ・シャトレイルが立ち、光で目を細めながらギアガの方を見上げる。


「トロワ・シャトレイル! そなたを魔族結託並びに殺人教唆及び、名家反逆の罪で有罪とする! これはダリスの社会的秩序を揺るがしかねない極めて悪質な罪禍である! よって、神はこれを重罪として扱うよう命じられた!」


 傍聴席で拝聴するエリザベットの父、パウロス・ファルオルヴはそれを聞くなり「当然の報いだ」と険しい顔をして呟いた。


「お、おおおおお待ち下さいぃぃっ!! ギアガ最高裁判長殿ぉぉっ!! ほ、ぼぉくは無実なんですぅっ!! ぼぉくは魔族に操られていたんですぅっ!! 重罪人だなんてぇ〜、あんまりでぇすっ!!」


 重罪と聞き情緒を乱すトロワはギアガに弁解と不服を申し立てた。


「身の程をわきまえろトロワッ!! この期に及んでまだそのような事を抜かすかっ!? これ以上名家の恥を晒すでないわっ!!」


 傍聴席からトロワを叱り飛ばすのは、自警団の団服の上からシャトレイル家の紋章が背中に入ったチェスターコートを纏う、歳の割に精悍せいかんな顔つきの男性。ダリス四名家の一つ、シャトレイル家当主でトロワの父、クラウス・シャトレイルであった。


「パ……と、父様ぁっ!?」


 身柄を拘束された日から顔を合わす事がなかった実父からの無慈悲な扱いに、トロワは今やっと後ろ盾がない事に気が付き、自らが全ての責任を取らなければならないという事を痛感するのであった。


 ーーーガンッ! ガンッ!


 再び小槌ガベルの叩く音が法廷に鳴り響いた。


「双方口を慎め……それに、罪人の発言は一切認められていない。ここは神聖なる神の法廷ぞ?」


 ギアガの言葉にクラウスはそれ以上何も言わず、片手を胸に当てギアガに一礼をしたまま後ろに引き下がった。


「重罪人トロワよ。そなたは今し方無実などと言っておったが……良いか? 知っての通り事件・事案を取り扱うシャトレイル家と裁判を取り扱うファルオルヴ家、両家の関係は密接と言えよう。しかし今回の一件においては、その両家の者が当事者となっておる事から、付帯や忖度が無いよう第三者機関を交え、公平に調査・精査し整合性を図った上、神に裁決を仰いだ次第だ。裏付けも取れておるし、情状酌量の余地もない! 今更(あざむ)こうなどしても神の眼は誤魔化せぬぞ!」


 ギアガは長く伸びた白い眉毛から鋭い眼をギロリと覗かせトロワを上から睨みつけた。


「ヒィッ!?」


 トロワは身も心も萎縮いしゅくする。


「では神罰を言い渡す! 重罪人トロワよ! そなたを無期限の牢獄送りとする!!」


 ギアガが下した神罰に法廷は一瞬ざわつきを見せたが、すぐに静まり返った。


「私の言葉は神の御言葉である。神の御意思は決してくつがえらん。そして今後、新たな証言によっては死罪も有り得る。心しておくように。以上!……では、これにて神誥裁判を閉廷する!!」


 そう言うとギアガは最後に小槌ガベルを一度叩くと、席を立ち足早に法廷を後にした……。


 閉廷されるや否や、法廷は早速この裁判の話題で持ちきりとなった!


「名家の御子息がまさか……ねぇ?」


「御子息によって顔に泥を塗られようとは」


「クラウス様のあの精悍な顔が曇ったところなんて私は見とうなかった」


「神からあのような神罰が下ろうとはな」


「おいおい、牢獄ってまさか、あの【イナレラデ牢獄】か!?」


「世の極悪人が一同に収監されているっていう要塞牢獄のこと……!?」


「その牢獄に無期限だぞ!?」


「とはいえ神罰を受け入れんと大衆に示しが付かんだろう」


「この裁判で世間に明るみになった以上、クラウス様も大変よねぇ」


「他の名家の動向も気になるわ」


「いやいや! それよりも他の町との関わりにどう影響が出てくるかだろう!?」


 騒ぎ立てる面々を差し置いてトロワは自身の行く末について頭がいっぱいだった。それもそのはず、下された神罰がある意味死よりも恐ろしい罰であったからだ。


「牢獄ぅぅぅ〜っ!? しかも、むむ、無期限んんん〜!? 僕みたいなのがならず者たちの集団の中に入れられたら、悲惨な末路を歩むのは目に見えてるぅぅ〜っ!!」


 トロワの脳裏に、ならず者たちからあんな事やそんな事、下劣で非道の限りを尽くされる未来が想像できた。


「オイッ! さっさと行くぞっ!!」


 トロワは二人の憲兵に両脇を抱えられ、強制的に連行されていく。


「やめろぉ!! 離せぇぇっ!! オイッ!! お前らもシャトレイルの者だろぉ!? 言うことを聞かないとクビだぞぉ!! クビぃっ!!」


「黙れっ! さっさと自分で歩けっ!!」


 憲兵たちはトロワの言葉など全く意に介さずそのまま連れて行く。


「ああああ〜〜……違う! 違う! 違う! 違ゔぅぅぅ……悪いのはじぇんぶあのじゃじゃ馬娘なんだぁ〜〜〜っ!! ぼぉぐは悪くなぁ〜〜いぃぃ……いやだぁあぁぁぁぁ〜〜〜……」


「周りはこんなに騒いでおるというのに、当人のお前がこの期に及んでまだ保身に走るというのか……」


 無理矢理退廷させられながら醜態を晒すトロワに、クラウスは目も当てられなかった。

 そんな怒りを通り越して呆れていたクラウスの横を、ちょうどパウロスが通り掛かり、クラウスはパウロスを呼び止めた。


「パウロス! この度は息子が多大なる無礼を働き誠に申し訳なかった! これもひとえに当主として、また父親として不徳の致すところだと痛感している。改めて心よりお詫び申し上げる。……この通りだ。」


 クラウスはパウロスに深く頭を下げた。すると「フンッ」と鼻を鳴らしたパウロスは、クラウスに頭を上げるよう促した。


「それでパウロス、そちらに対しての賠償なのだが……」


「そんなものは後でいい。今ここで話すべき事ではない。それにまずは貴様の家族の心配をする事だな」


「家族の……?」


 クラウスはパウロスが一体何を言っているか理解できなかった。てっきり誠意を見せろと罵られ、今からでも多額の賠償金や不合理な誓約を要求されたりするのだとばっかり思っていたからだ。


「今回の事で家族に与えたショックは大きいだろうからな。まずはそちらを安心させてやれ。話はその後だ」


「そ、そう言って頂き感謝する。……でもどうしてこのような配慮を?」


「これから貴様が歩む苦難の道を、私は今まで歩んできたからな。その苦労がどんなものかが私には分かる。今後貴様が苦しくなった時、苦しみを分かち合う家族がいるだけでどれだけ救われ支えとなってくれるか。私の場合家庭をないがしろにしてしまった結果、今では家族にどう接して良いか分からず、関係修復すらもできぬ有様だ。今なら……いや、それはいい。とにかく今は家族の時間を作り絆を確かめ、今後について話し合っていくことだな。これは教訓として受け取っておけ! 私のようになりたくなければな」


 パウロスは相変わらず居丈高いたけだかな態度で話してはいるが、これはこの男なりのアドバイスで優しさなのだろうと、クラウスは素直に受け止めておくことにした。


「そうだな。肝に銘じておこう」


「では失礼するぞ。私は忙しい」


「ああ、ではまた改めて場を設けるとしよう」


 クラウスは法廷を去って行くパウロスを見届けながら思う。

 パウロス・ファルオルヴという男について少々思い違いをしていたようだ。この男はいつもファルオルヴ家の名声を博する為、地位や権力に固執する居丈高いたけだかな男だとばかり思っていたが。内に秘めた思いが故の行動だったのかもしれないと。


「さて、皆を集めて久しぶりにナックルベアの肉を煮込んだデミグラスシチューで食卓を囲もうとするかな……」

読んでいただき誠にありがとうございます。

皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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