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第45話 反撃の愚策 

 一際大きい重厚音が響くとともに、アシルとジードの二人が重なり合う状態でエリザベットとクロロの元まで吹っ飛んで来た!

 後ろ蹴りで蹴り飛ばした英霊騎士の立ち位置からここまでの距離を換算すると、その距離約三十メートルはあろうか。

 見るからに疲弊し、立つこともままならない二人に、エリザベットのヒーリングの優しい光が包み込む。


 二人がやられてしまうのは必ずしもここまで連戦だったからとかではない。英霊騎士の強さが圧倒的過ぎるのだ!

 エリザベットがヒーリングをかけ終えると、糸が切れたように体がフラつき膝から崩れ落ちてしまった!


「ど、どうしたんだっ!? 急にっ!?」


 予想外の出来事で困惑の色を隠せない中、クロロがエリザベットの状態を確認する!


「ごめん……なさい、みんな……心配かけたわね。ちょっと、眩暈めまいがしただけよ……」


 辛うじて仲間たちの呼び掛けに答えるも、呼吸もままならず意識は朦朧としている。


「状態から察するに、これは典型的な魔力切れの症状ですね」


「ま、魔力切れ……」


「はい。エリザの体内魔力が枯渇してしまった為に意識障害を引き起こしたのです」


 一難去ってまた一難だ。入れ替わり立ち代わり現れる瀕死者に生命の危機に瀕する状況から一向に抜け出せない!

 ましてや回復魔術師ヒーラーが機能しないとなるとレジリエンスは著しく低下するというのに。


「すまないっ! エリザ、君をここまで追い込んでしまうなんて……!」


 前線を預かる二人は、こうなった要因が自分たちなのだと責任を感じ酷く肩を落とす。


「私の事は……いいから、あなた達はアイツを……」


 そう。仲間の心配ばかりに気を取られてはいけない。脅威は未だ拭えていないのだから。

 その英霊騎士はというと、こちらとは対照的に悠揚ゆうよい迫らぬ様子で、ウォームアップはここまでとでもいうのだろうか、手首を回したり、手の指を開いたり閉じたりといった仕草を繰り返し、体の感触を確かめているようだった。

 しかし、ここで英霊騎士は何かに反応を示した。そのまま好奇心の赴くまま、ある方向へのっそりと歩き出した。


「えっ?……ど、どこへ行くんだ……?」


 アシルはてっきりこのまま追撃されると思っていた為、思わず拍子抜けしてしまう。

 一体何を企んでいるのか、前衛を預かるアシルとジードは警戒網を張り巡らしてその行方を固唾を飲んで見守る。


「エリザ、今のうちにコレを……」


 そう言ってクロロが取り出したのは、青色の液体が入った小さな小瓶。

 すぐさま蓋を開け、朦朧とするエリザベットの口元へと運び飲ませていく。


「これは魔力回復薬エーテルです。今まで必要性が無かったもので、手持ちにはもうコレしかありませんが……」


 エリザベットは自分の体の中枢から末端にかけ、冷んやり爽快な何かが広がっていく感覚を覚える。

 たちまちボヤけた視界と周囲の音の聞こえ方が鮮明となり、多少のフラつきはあるものの立てるくらいまでにはなった。

 全快とまではいかないが魔力は数回なら発動できる感覚を得る。


 英霊騎士が向かった先にはフロアの端に倒れ気を失っているシモンがいた。

 傍らには大剣アロンダイトが無造作に置かれおり、英霊騎士はそれにそっと手を伸ばす。そして、片手で易々と拾い上げるや否や、剣身を優しく撫でていく。

 その姿は、まるで在りし日の旧友との再会を喜んでいる、そんな感慨に耽っているようにも見える……。

 クロロらは相手の出方がわからぬ故、その約一分ほど不気味な時の流れの中で硬直していた。

 すると今度はかつて己が体得した剣術の型だろうか、豪快、それでいて繊細な剣捌きを奮って見せる!

 見る者を虜にするその鮮やかな剣舞に言葉を失い、そして戦慄する!


「オ、オイオイオイ……鬼に金棒じゃねぇか? ヤバさに拍車がかかりやがった」


「あ、あんな奴相手に、今の私たちには何が残されているのかしらね?」


 英霊騎士の底知れぬ強さを目の当たりにした者たちは、己の醜さを知り、変に自分を納得させてしまう。


「もう、ここらで潮時かもしれませんね……」


 く言うクロロも別の意味でそのような言葉を漏らす。

 このまま今の状況を打破できないとなると、【クロロ】でいるのに限界を感じたからだ。

 判断を誤り、恐れていた事態を引き起こし、志半こころざしなかばで夢路を断念しなければならなくなった自分にひどく失望する。

 とはいえ事態は急を要している!

 自らの行いを省みる時間も、決断に迷っている暇もない。

 クロロは意を決して、全てを曝け出そうとした、その時だった!




「……諦めちゃいけない!!」



 

 クロロらは声のする方に目を向ける。

 するとそこには周囲の諦めムードを他所に、一人剣を構えるアシルの姿があった!

 きっと体は鉛のように重く、節々は悲鳴を上げ、立っているのがやっとだろう。けれども彼からは全くと言っていいほど諦める素振りが感じられない!


「僕たちは弱い……だけど! 弱くても、弱いなりの戦い方があるはずだ!! だから諦めちゃいけない!!」


 彼はこの期に及んで、まだこんなことを言って退けるのかと周囲は面食らう。敢えて言うなら「空気読めないのかよ!」とツッコミたくなるほどにだ。

 でも何故だろうか。心の奥底から何やら沸々と込み上げてくるものがあった!

 確かに依然として状況は良くない。だが仲間は誰も死んでなどいないし、体もなんとか動く。ならば、己の持てる力の全てを駆使し、抗えばいい!

 そんなアシルの不撓不屈ふとうふくつの精神が次第に仲間へと伝播していく!!


「み、見てなさい! 名家の意地ってのを……ね!」


「そうだな! まだまだ足掻いてやろうじゃねぇか!!」


 クロロは思う。

 彼の本領は、剣術もさることながら逆境に抗う不撓不屈ふとうふくつの精神だと。

 先の場面でもそうだった。

 不穏な状況の時ほど抗おうと立ち向かい、皆を鼓舞していた。

 一体何を根拠に、何が彼をここまで突き動かすのだろうか。

 つくづく不思議な奴だと思い、彼の言葉を胸に自問自答する……。


「"弱い"……か」


 確かにアシルの言う通りなのだろう。

 自分は生まれてから一度も自分のことを弱いと思った事はないし、言われた事もなかった。そして、サポーターの【クロロ】として新たな人生を歩み始めてもそれは変わっていない。

 今にして思えば、あの時の英霊騎士の殺気が原因で、思わず力で対抗する一辺倒な考えになっていたのだろう。そこに自分自身を買いかぶり思い上がった浅墓な慢心がこのような不甲斐ない結果を招いたのだ。

 クロロは自分の考えが如何に固執していたかを思い知り、それらの考えを排除する。

 この状況で今の私が出来る事は何だ……?

 別に完璧でなくても良い。

 少々の犠牲を払ってでも構わない。

 弱いなりの戦い方。

 サポートがどうこういう問題じゃあない。しかし、"サポーター"としてこの状況をクリアしないことには結果的に逃げてしまう事になる……。

 ならばどうするか。導き出した答えは至って単純だった。

 相手の力に力で対抗する策略ではなく、趣向を変え、別の観点から打開策を見出していけばいい!

 クロロが新たな指針を思い定めた時だった!!




(……そう。それでいい)




 それは、ほんの一瞬の出来事だった。

 周囲の時間が止まったかのような感覚を覚えたその時、背後からそっと誰かがクロロに耳打ちをしたのだ!

 その声に敵意は無く、ただ上から物を言う、生意気で、少しあどけなさの残る少年のような声……。

 まるで少年の姿のまま大人になったかのような、そんな人物像がクロロの頭に浮かび、咄嗟に振り返るも、それらしき人の姿は見当たらず、キツネにつままれたような感覚に陥る。

 一瞬の予断も許されない局面にも関わらずうつつを抜かす、クロロはそんな自分自身の神経を疑うも満更でもなかった。


「それでいい。か……」


 ただの幻聴とも思える非現実的な瞬間だったというのに、あの少年の言葉はしっかりと耳に残っている。

 こうした状況下において、自分の考えを肯定されたことが心強かったからかもしれない。

 今なら欲しい答えに辿り着けそう。

 クロロは再び両手の五指を節足動物みたくワシャワシャと屈伸させ、ザ・(完全)オール(掌握)マイン(領域)を展開する!!

 クロロは何パターンにも及ぶ筋書きを一斉に脳内でシュミレートし、その中で最良のものを採択する!

 瞬時に導き出された対英霊騎士のプロセス。

 遂行するには下準備が必要となり、英霊騎士の意識がこちらから逸れているこの機を逃したくなかった。

 まるで炎天下に薄氷の上を歩くような構築な為、時間が惜しい。後手に回れば一貫の終わりだ……。


「皆さん、ひとつ、よろしいでしょうか?」


 何か確信を得たのか、瞳の奥に光を宿したいつもの策士家の表情に、誰もが心に覆った不安や緊張といったものが一気に晴れ渡るような気がした!


「気持ちが吹っ切れたようだね。何か良い作戦でも?」


 アシルの問いに、クロロはいつもとは違った不敵な笑みで返してみせると、すぐさま背負い鞄のサイドポケットに手を伸ばしポーションを取り出した。その数、全部で六本。


「これが手持ち全てのポーションです」


 仲間四人、この数のポーションとエリザベットの残り数回のヒーリングで英霊騎士を相手するにしてはなんとも心許ない数だ。


「このポーションは全て、アシルとジードにお渡しします」


 クロロはアシルとジードに三本ずつ手渡した。


「僕たちに……かい?」


「お二人には引き続き英霊騎士の相手をして、注意を惹き付けて欲しいのです! もし、負傷しても回復はそのポーションだけで処置して下さい」


 その時の嘆願する彼の表情は切羽詰まり、申し訳なさを滲ませていた。


「オイッ!! どうゆう事だクロロっ!! これっぽっちのポーションで相手しろだとぉ!?」


「待って!!」


 食って掛かるジードを遮るように待ったをかけたのはエリザベットだった!


「こんなところでへこたれてらんないわ! 私はもう大丈夫だから! またケガしたら言いなさい! いつでも治療してあげるんだから!!」


 彼女なりの配慮か、意識を失いかけてもこれ以上士気を下げないようにと精一杯虚勢を張ってみせる。


「いや、エリザには別の事に専念してもらいます」


「ハァ!? 別の事っ!? なんでよっ!?」


 クロロから告げられた言葉に出鼻を挫かれたエリザベットも感情を露わにした。

 そんなエリザベットの顔の前に、今度はアシルが待ったをかけるように腕を伸ばして感情の矛先を遮った。


「これって作戦なんだろ? 詳細を聞かせてくれないかい?」


 クロロの意図を汲み取ったアシルが仲裁に入るかたちとなり、思い留まったジードとエリザベットは耳を傾けることにする。


「皆さん、すみません。何の説明もなしに自分ひとりで突っ走ってしまいまして……目的を遂行するには少々時間が足りず、つい……」


 この余裕の無さは、彼の思惑が如何に難儀なものなのかを露呈するようだ。

 クロロははやる気持ちを抑え、襟を正して話を切り出す。


「いいですか? 先ほど英霊騎士と戦ってみてお分かりの通り、今の私たちでは英霊騎士を倒すことは無理です」


 クロロが断言した言葉に各々が自分の不甲斐なさを痛感し、思わず唇を噛んだ。


「私も皆さんと気持ちは同じです。いくら考えても打ち負かすための算段は思い浮かびませんでした……しかし、英霊騎士に勝てなくとも、打つ手立てはあります!」


「ほ、本当なのかい!?」


「まぁ、決して簡単ではありませんが……」


「この際何だっていい! 一体どうやんだ?」


 すると、クロロは地面を指さす。


「今から私はこの足元にある英霊騎士の召喚魔法陣跡に反転魔法陣を施します。反転魔法陣を介し召喚に掛かった魔力と同じ量の魔力を召喚魔法陣に送れば、反転作用が働き、英霊騎士を異界に送還する事が可能になります!」


「それって、もしかして【送還魔法リパトリエート】ってやつ?」


 クロロはエリザベットの質問に深く頷き、再び口を開く。


「そして、反転魔法陣に魔力を送る役はエリザ、あなたです!」


 エリザベットは思わぬ抜擢に自分の心臓の鼓動がドッと早くなるのを感じた。


「わ、私!?」


「ここまでエリザの活躍を見てきて、魔力制御に長けていることに驚かされました。その歳でその制御力があるからこそ、回復・治癒・補助、そして回復魔術師ヒーラーには珍しい攻撃魔法をも使いこなせているのだと」


「ほ、ほほぉん……」


 今し方(くじ)かれていた鼻は瞬く間に高々となった。

 自らの役割を振られたエリザベットは、ある疑問を抱く。


「でもクロロ、それって結構な魔力が必要になるんじゃないのかしら?」


「その通り、英霊騎士を送還するには召喚と同等の魔力が必要になります」


 クロロの話に耳を傾ける者たちは顔を見合わせ絶句した。

 何しろそれぞれの脳裏に浮かんだのは、あの周辺一帯を巻き込んだ大規模な超常現象を想像したからだ。

 それと同等の魔力を今更どうやって手配するのか?

 そもそも目星は付いているのか?

 考えてもさっぱり分からない。

 それぞれの思考はおのずと彼の口が開くのを待つこととなる。

 仲間の憂えげな視線を集めることになったクロロは、小さな咳払いをした後、話しを続けた。


「意識を取り戻し、動けるようになった程度の今のエリザの魔力量では、再び魔力切れを引き起こすでしょう。仮に、我々の有する魔力をかき集めたとしても、到底賄いきれません。そこで、《英霊儀式召喚グランド・サーヴァント》の時と同じく、対価としてクローネ・スピネルを使います!! エリザ、よろしいですか?」


 クロロは現在の位置から英霊騎士の向こう側に見えるクローネ・スピネルを指し示し、一応、律儀に使用許可を求めた。

 もともとはクローネ・スピネルの奪還の依頼だったのだが、それがまさかこんな事になるだなんて、一体誰が予想しただろう?

 そんな思いが脳裏をぎり、少し間を置いたエリザベットは、大きな溜め息ひとつ溢すと「わかったわよ!」と、覚悟を決める。


「では私は反転魔法陣を描いた後、あちらに転がっているクローネ・スピネルを取りに行きましょう」


 状況から判断して、この中で融通が利き、素早く行動できるのはクロロというのは明白で、尚且つ彼ならそれをやり遂げるという絶対的な信頼が皆にはあった。


「ところでクロロ? クローネ・スピネルにはあと、どのくらい魔力が残っているのよ? 当然、見当が付いてるからやるのよね? 私には今のクローネ・スピネルに残っている魔力量がただただ膨大だってのが察知できるくらいで、具体的な残量は察知できないの」


「私の推測だと、クローネ・スピネルの魔力残量はあと半分ってとこでした」


「は、半分って!?……ギリギリじゃない!? まさか召喚にそこまで魔力を消費していただなんて……!」


 クロロはあっけらかんとするエリザベットの事など気にも留めず、両肩を掴んで互いに向かい合わせになった。

 不意を突かれたエリザベットは、急にクロロが真ん前に現れたこと心臓が再び早鐘を打つ。


「エリザ。今から言うことを心して聞いて下さい」


「ひゃい……!!」


 昂る感情を上手く処理しきれないままのエリザベットは、クロロからの名指しに過剰に反応してしまい、思わず声が上擦ってしまった!


「送還魔法を成功させるに当たって絶対的条件があるのです」


「じょ、条……件?」


 淡々と話していたクロロの表情がグッと厳しいものへと変わり、エリザベットの心のトキメキはサーっと消え去って冷静さを取り戻す。


「それは一度反転魔法陣に魔力を送り始めたら最後、何があっても絶対にその手を止めないで下さい」


「ちょっ!? 何言って……」


 エリザベットは思わず耳を疑った。

 クロロの発言が意味すること、それは"例え仲間の命が犠牲になろうとも回復行為はするな"という意味なのだ。

 目的の為とはいえ、命を見過ごす事が回復魔術師ヒーラーにとってどれほど心苦しく擬かしいものなのか。想像しただけで途中から言葉が見つからなくなる。


「召喚魔法陣は魔力が必要値に達する前に手を止めてしまうと、それまで送り込んだ魔力は消失してしまうのです。そうなった場合、失った魔力をまかなう手段はもうありませんし、仮に魔力を賄えたとして、また一から魔力を送るとなるとアシルとジードが持ち堪えられないでしょう。ここが狂えば英霊騎士の解放は不可能と思って下さい」


「僕たちにポーションを託す理由はそう言う事だったんだね」


「なるほどな……理解したぜ」


 仲間の犠牲を出さない為にも、エリザベットのポジションは如何にして魔力を送り続けることに意識を集中するかが重要視される。

 ここに来て、今まで考えてもみなかった仲間の期待と全責任がエリザベットの肩に重くのし掛かる。


「この状況を打破するには、エリザ無くして成し得ません!」


「……わ、わかったわ。とにかく、魔力を送り続ければいいのね? やってみる」


 正直なところ、エリザベットはあれやこれやと説明されたが内容がしっかりと頭に入っているとは言い難かった。なぜなら想像の域を遥かに超える事態に焦りや緊張も相まって(私情もあるが)、現実味がなく他人事のような気にさせられているからだ。

 不安も恐怖も尽きない。だが、己の威信を賭けて役割を全うする、そう心に誓う!


「……以上が今回の作戦です! 皆さん、よろしく頼みます!」


「ああ! そっちも頼むよ!」


「ほんと、クロロはいっつも無理難題を言いやがるぜ。まったく! 俺たちの骨はちゃんと拾ってくれよなー!」


「縁起でもないこと言わないの!」


 作戦会議が済んだところでそれぞれが配置に就くと、クロロは背負いカバンを下ろし、外套の内ポケットから儀式用の塗料の入った丸い手のひらサイズの缶ケースを取り出し、足元の砂を適当に払い除けて直ちに準備に移る!

 お払い箱となった今でも異様な存在感を放つ円形の召喚魔法陣。

 改めてよく見ると、幾つもの文字と幾何学模様がある法則に則って掛け合わさり、形成されている。

 クロロは缶ケースのフタを開け、人差し指の腹で儀式用塗料を拭い取ると、冷んやりと冷たく、砂埃にまみれ凹凸した石床に刻まれた召喚魔法陣の外接円上に、なんの迷いもなく直径1メートルほどの真円を描き、そのまま円の内側に複雑な術式を流れるように描いていく!

 まるで何かに取り憑かれたように走るクロロの指先。エリザベットみたいな素人目に見ても分かる。このような芸当、並大抵の者では到底真似できない。

 まさに神業とも言える彼のスタンドプレーは、傍らで見守るエリザベットを虜にした。

 しばらくその光景に見惚れていると、クロロから不意に話しかけられ我に帰る。


「エリザ、今回のこと……本当に申し訳ありません」


「何よ? 突然」


「いえ、依頼者だというのにこのような事態に巻き込んでしまって……」


「今更何言ってんのよ! 私がアンタたちに無理言って同行したのよ? アンタたちが気にする事じゃないわ。旅は道連れ世は情けってヤツよ!」


 クロロは出発前にエリザベットに向けて自分が言った言葉を思い出した……。


《仲間同士が助け合いお互いの弱点を補完することで、困難な試練さえも成し遂げる確率や生存率などが数倍にも膨れ上がるのです》


 自分の言った言葉をそっくり返されたようで、何だか心の奥にむず痒さを覚える。そして、クロロは本当にいい人たちに恵まれているんだなと感じるのだった。

 一瞬の気の緩みも許されない攻防を繰り広げているアシルとジード。

 魔力が尽きるまで献身的に処置を施したエリザベット。

 正直、みんなとっくに精も根も尽き果てているだろう。なのに、無茶な指示を出す私の事など責めようともせず、己を奮い立たせて脅威に立ち向かおうとするのは、ずっと私のことを信頼してくれているからなんだと!

 そんな仲間たちの事を想いながら反転魔法陣を描き終える!!

読んでいただき誠にありがとうございます。

皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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