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第44話 進退両難

 一同は目に強い刺激を受けるほどの眩い光に暫くたじろいでいた。

 光が和らいでいくに連れ、各々の視界を遮っていた残像効果も徐々に失せ、状況の移り変わりが明らかとなっていく。

 儀式召喚の名残りだろうか、フロアには水滴のような光球が点々と漂い、石床には生々しい召喚魔法陣の跡が烙印みたく刻まれている。


「あれは何だ? 人間……なのか?」


 逸早くその存在に気付いたのはクロロだった。次いで、他の者たちもそこへ視線を注ぐ。

 注目の的となったのは魔法陣跡の中央、鎧を全身に着飾った割と大きめの騎士が片膝を着き、ひざまずくような格好で静止していた。

 兜はフルフェイスな為、その顔を拝むことはできないが、その体は全身黄金に輝き、神聖なる尊さを感じさせる!

 少し半透明なのは金色こんじきの粒子の集合体だからだろう。この場合【霊体】というのが正解か。なので誰が見てもその存在が特異な存在なのだと一目でわかる。

 クロロ以外は何故、この場所に騎士が突如として現れたのか理解が及ばずフリーズしている。それだけではない。あの騎士から感じる何かしらの圧に気圧されてもいた。


「ってかなんでよ!? 儀式召喚は阻止出来たんじゃなかったの!?」


 思考停止を振り払おうと反射的にそうなったのか、それとも気圧されている事に我慢ならなくなったのかは分からないが、エリザベットは衝動的に周囲に不満を当たり散らした。

 それに感化されたかのようにアシル、ジードが正気を取り戻す。


「お、おう……た、確かにそうだ! 俺たちが撃った魔砲弾はクローネ・スピネルに命中したぜ! 俺はこの目で確認した! それにその後、魔力の暴風が止まったのはお前らも分かった筈だ!」


 アシルはジードの言い分と、自分の記憶と差異が無い事を確かめ首を縦に振った。


「けれども儀式召喚はこうして成功してしまっているし、それにマインドフレアの姿が無いのはどうしてなのよ!?」


 尚も、エリザベットの不満は止まらない。


「まさか、僕たちがあの光で目が眩んでいる隙に逃げたのかい?」


「いや、あの状態じゃあ逃走なんて到底無理だろうぜ……クロロよ、お前はどう思うよ?」


 クロロの推測はこうだった。

 あの眩い光の柱が立つ前、かなりの魔力の流動が見られたのは、マインドフレアが自らの命を代償として儀式召喚を成功させたからなのだという。その証拠にマインドフレアの姿は無く、魔力や気配さえも感じない。そして、あの騎士は間違いなく、この御膳立てされた舞台に現れた立役者なのだ。

 推測といえども妙に合点のいく推測だった。

 つまり、"最悪の事態"になったのだと皆が心に受け止める最中、そもそもなぜ騎士を召喚したんだと、ジードがクロロに問う。


「そうですね……おそらくはマインドフレアの話にあった、"かつてこの地で死闘を繰り広げた凄腕の騎士"なのではないでしょうか? 皮肉にもその実力を買っているからこそ、禁術レベルの儀式召喚を執り行い、【英霊騎士】として召喚し、敢えて私たちに当てたのだと思います……現に、そこに存在するだけでビシビシと伝わってくる、他を圧倒する神秘的、且つ邪悪なオーラこそが何よりの証拠です」


 ジードは「ケッ!」と、呆れたような声を吐き捨て英霊騎士を見やる。


「昨日の敵は今日の友ってか? 冗談キツイぜまったく……」


 僅かにだが仲間たちの間には正体不明の存在に対する恐怖心が解れ、揶揄からかう余裕が出てきたように思う。しかし、依然としてクロロは躊躇いの表情を浮かべている。何故なら、あの英霊騎士の能力はクロロでさえ未知数なのだからである。

 一つはっきりしていることは、このパーティーでは到底敵わない格上の存在であるということ。きっと戦闘になればただでは済まないだろう。

 本当ならそれを見越し、サポーターとしてあの英霊騎士の能力についてメンバーに助言し、退避を指示しなければならないのだが、ついさっきアシルの言った"逃げない"という、あの言葉が今もクロロの心を感化し続け判断を狂わせる要因となっていた。

 だが、手段が無いわけではない。

 "サポーターのクロロ"だと英霊騎士には敵わないだろう。しかし、人間化を解き、"魔王ノワル"となれば話は別。英霊騎士を代わりに始末する事など造作も無いのだが、そうなると正体がバレて都合が悪くなる……。

 最悪の場合、一線を越えなければならないのかもしれない……。

 いっその事、彼らを見捨てて見殺しにでもするか?……いやいや、ここまでやってきた仲間を見捨てるなんて自身のプライドが許さない。

 行き詰まったクロロの脳裏には、よからぬ考えばかり思い浮かぶ。

 いずれにせよ、アシルの言った"逃げない"という言葉は生半可な事を許さなかった。

 どうすればいい……? どうしたら英霊騎士をやり込める……?

 クロロはドツボにハマっていた。




 ダダンダンダダン……!!




 突然、バスドラムを力いっぱい叩いたような打音が騎士の胸部から発せられ、空間全体を激しく震わせる!! 今の打音が胎動だというのだろうか?

 これまで微動だにしなかった霊体騎士がゆっくりと立ち上がろうと動き始めた!

 クロロたちの緊張感がグッと高まる……!!

 【霊体】とはいえ動作に合わせて甲冑の擦れる音や金属音が聞こえることから、どうやら実体として存在しているらしい。

 鎧の右胸には紋章が掘られていたようだが、何かに貫かれてできた穴によって大部分が欠損していた。もしかすると、由緒正しき騎士だったのかもしれない。


「オイッ! アイツ、よく見りゃあ丸腰だぜ? 気迫はスゲェが、ひょっとすれば俺とアシルで何とかなるかもしれねぇ!!」


 確かにジードの言う通り、英霊騎士は武器や盾などのそれらしい装備は身に付けてはいないようだ。

 こちらも不安を噛み殺し、先手を取られぬよう敵の出方を窺う。

 その僅かにチラつかせた敵意を察知した英霊騎士は、コチラを見るや否や、敵意を露わにした者たちに対し殺気を放った!!

 殺気を当てられたクロロは、自分が無意識のうちに身構えていることに気が付いた。

 間違いない。この殺気はやはり本物だ!! きっと本能がそう言って警鐘を鳴らしているんだ。

 自己韜晦じことうかいしているクロロでさえこの有り様。おそらく、他の仲間なら、少しでも気を抜けば自我を保てなくなりそうな状態に陥っているに違いない。

 そう思った矢先、ハア、ハア、と息を荒げるアシルの姿が目に飛び込んできた!

 表情は苦悶に歪み、顔面蒼白。

 血管の収縮によるためか手足は痺れ、不滅の剣(デュランダル)は握ることすらままならず手から滑り落ち、呼吸は急速に間隔を縮め、挙げ句の果てには胃の中のものを吐瀉としゃする。


「うわあぁぁぁぁぁ……!! イスカァァァァァ……!!」


 その横では、ジードが突拍子もなく亡き妹の名を叫び出す!!

 どうやら過去のトラウマがフラッシュバックし、錯乱してしまっているようだ!


「アシル!! ジード!!…………クソッ!!」


 クロロの必死の呼びかけも虚しく、二人から真っ当な返事はなかった。いや、実際のところこんな様子じゃさすがに応答はないだろうと薄々わかってはいた。でも、自らが立てた望みに少しでも賭けてみたかった。

 仲間が次々と精神に異常を来す非常事態に、さすがのクロロも対応に苦慮する。

 そんなクロロを尻目に、今度は傍にいるエリザベットが腰を抜かしたように地面にペタンとへたり込んでしまった!

 クロロはかさずエリザベットに寄り添った。

 エリザベットは頭を抱えて小刻みに震え、ボソボソと何かを呟いていた。


「ウソ……何よアレ、嫌よ……やめてっ! 話しかけて来ないでっ!! イヤッ! 嫌よっ!!」


 多少、気性が荒い面はあるものの、根は知的で立場をわきまえている彼女。だが、今目の前にいる彼女は別人と思うほど何かに怯えきっている。

 その怯えようも今までの表面的な怯え方とも違う、もっと内面的な。もちろん英霊騎士の殺気もあるだろうが、他に彼女しか勘付いていない別の恐怖によって支配されているように思える。


「エリザ!! どうしたんです!? 気を、気をしっかり持って下さい!!」


 クロロはエリザベットの正気を取り戻そうと両肩を揺すって必死に語りかけた!

 その甲斐あってか、エリザベットはクロロと目が合った瞬間、辛うじて我に返った。そして、説明不可能な戦慄にすくみ上がりつつ、ある方向を指差した。


「あ、あそこ……あの鎧の、穴……のところ……」


 クロロはしどろもどろに話すエリザベットの指差す方向に目をやる。その小刻みに震えるか細い指先は、英霊騎士のポッカリと空いた右胸の穴を差していた。

 驚いたことに、英霊騎士の鎧の中では沸々と湧いては弾ける泡のように、無数の顔面が次から次へと引っ切り無しに現れては消失してを繰り返している。


「あれが贄にされた死者たちの魂の成れの果ての姿……あれはもう悪霊ですね」


 悪霊へと成り下がった者たちの姿は何ともむごたらしく、とてもじゃないがまともに見られたものじゃなかった。

 英霊騎士の正体、それは神聖な人型の中に相反する邪悪な魂の集合体が詰め込まれた、謂わば"魑魅魍魎の匣"なのであった。

 クロロがその正体に気付いた時、いつの間にか頭の中は、悔い、怒り、嘆き、妬みなど、あらゆる負の感情を含んだ悪霊たちの喚く声でごった返していた。

 エリザベットもこの声が聞こえていたんだろうと思う。

 英霊騎士の殺気とは別に、ごく僅かな間に悪霊たちの害悪を過度に受けてしまえば、並大抵の人間ならこうなるのも無理はない。ましてや、エリザベットが悪霊たちの影響をこれほどまでに受けやすい原因も、死者たちの魂が魔力によって悪霊へと仕立てあげられたからで、魔力察知が可能なエリザベットは知らぬ間に悪霊たちの魔力化した怨念とリンクしてしまい、深く取り込まれてしまったのだろう。


「鬱陶しいですね……誰彼構わず手当たり次第に取りすがるのはやめてほしいものです」


 クロロはゆっくりと息を吸い、ある程度溜め込むと、腹の底に意識を集中させ瞬間的に大量の息を吐き出した!

 途端、頭が割れるような騒がしさが嘘みたいに消え去り、悪霊からの害悪をいとも簡単にあしらった。


「まさか、ここまでとはね……」


 結局のところ、英霊騎士の殺気がパーティーに及ぼした被害はクロロの予想の範疇を易々と超えていた!

 クロロは背負っているカバンのサイドポケットに手を伸ばす。


「状況が状況なだけに、出し惜しみなんてしてらんないですね」


 そう言って取り出したのは、黄色い液体の入った細長い透明のガラス瓶。これは貴重な草花から抽出して作り上げた気付きつけ薬だ。気絶や、気が遠くなった時などに意識を覚ます効果がある。また、一時的ではあるが興奮作用もプラスしたクロロの特製品だ。意識を取り戻した後の動きを良くするためだ。


「これを使ってリカバリーを図るしかない!」


 クロロは気付け薬のコルク栓を歯で噛んで引っこ抜き、エリザベット、アシル、ジードの順に半ば強引に飲ませていった!

 独特の味にメンバーは次々にむせせる。正気を取り戻した証拠だ。


っっっ! な"に"よ"……ごの"あ"じぃ」


「ゲホッ! ゲホッ……僕は、いったいどうしたんだ……?」


 直前の記憶が欠落し状況がいまいち把握できてはいないものの、即効性のある興奮作用の甲斐あってか体勢の立て直しが早い。

 見通しが立ったおかげでクロロの中では有用な選択肢が広がり、危機的状況に一筋の光明が差した気がした。



 ーーーカシャン!!……



 だだっ広いフロアに甲冑を着込んだ足音が響いた途端、アシル、ジード、エリザベットの表情が一気に凍りつく!

 そして知る。

 そうだ、自分たちはまだ恐怖の中にいるのだという事を。その現実が心身に重くのし掛かる。

 恐る恐る足音の方に目をやると、丸腰の英霊騎士は体の向きを変え、遠くからこちらをジッと見ていた。

 ーーービクッ!……と、皆の体が反射的に硬く強張った。

 たちまち先程の恐怖が再び甦える。

 英霊騎士は頭部全体を覆った兜から不気味な呼吸音を漏らしこちらへと向かって来る!

 しかし、まだ体が慣れていないからなのか、英霊騎士の歩行はどこか辿々しい。

 クロロは英霊騎士がこちらの間合いに入って来るまでの時間を予測し、その限られた時間に対抗手段を模索する!!

 

「……考えろっ! 考えるんだっ!! 英霊騎士を討ち取る手段を……!!」


 クロロはかつてないほど思考を加速させる!

 他のメンバーも、何かに取り憑かれたように答えを導き出そうとするクロロの姿に望みを託し、今一度黙って指示を待つ。



 ーーーカシャン!!……ーーーカシャン!!……



 一歩、また一歩と、着実にその脅威が近づいて来るっ!!

 しかし、待てども待てども未だにクロロからの指示はない!


「クソォォォ……!!」


 迫り来る脅威に耐え切れなくなったのか、遂にジードが銀星銃イスカに魔石弾を再充填リロードし英霊騎士に狙いを定め発砲する!!


「おいっ!! ジードっ!! 待っ……」


 結局、クロロは何の指示も出す事ができず自己の判断で行動する結果となってしまった。特にジードはパーティーの最前線を預かる身だ。こうなるのも無理はない。

 続けとばかりにアシルも雄叫びをあげながら英霊騎士に向かって突進して行く!

 クロロには己の無力さに打ち拉がれている暇なんてなかった。そうしている間にも目の前で仲間が戦っている。サポーターとして出来ることをやらなければならない!

 フロアには凄まじい威力を物語るかのようにけたたましい金属音が鳴り響いた!!

 ジードの銃撃は英霊騎士の頭部に命中し、その殺傷能力の高さに体は仰け反っている。しかし、英霊騎士はゆっくり上体を起こし、再びこちらに歩みを進めようとする!

 どうやら、激しい衝撃音とは裏腹に弾の威力はヘルムの板金部分によって易々と分散されてしまったようだ!

 ジードは間髪を入れずに狙いを上半身に絞り順次攻撃を放ち怯ませにかかる!

 鈍い金属音が繰り返し繰り返し鳴り響く中、アシルは弾道を縫うようにして英霊騎士との距離を詰めて行く!

 アシルみたいに剣で甲冑の相手と戦う場合、闇雲に剣を振っててはダメなのだ。鎧の板金部は斬撃が受け流され、刺突は弾かれてしまう。狙うべきは関節部の隙間。そこなら刃が通り致命傷を負わせられる!

 アシルはそれを十分理解し、同時に今の自分が冷静であることを自覚する!

 再びアシルに訪れた超集中力状態(ゾーン)

 これを好機と、アシルは脅威なる存在を討ち払うべく、ずっと頭の中で思い描いていた連続技を試みる!


虚空閃こくうせんッ!!」


 左肩と胸の間を狙った下からの斬り上げ攻撃!

 続いて、そのままの勢いで体を捻転させ、回転しながら連続で斬り払う剣技を左側の脇腹から腰にかけて叩き込む!!


飛凰旋風陣ひおうせんぷうじんッ!!」


 英霊騎士の上半身の自由が効かない状態になったところで、更に続けて両膝と足首の関節部を狙い剣技を放つ!!


嵐刻らんこく瞬光烈破斬しゅんこうれっぱざんッ!!」


 一瞬のうちに繰り出される渾身の連続斬りの最中、アシルは姿を消し、刀身の反射光と斬撃音だけがその姿を残す!

 次に姿を見せた時には先程の位置より後ろに距離を置き、次の攻撃の予備動作に入っている姿だった!!


界雷かいらい煌牙瞬鳴突こうがしゅんめいとつッ!!」


 剣を水平に引いたアシルは前傾姿勢のまま深く腰を落とし、縮んだバネが反動で伸びるように一気に地面を蹴りあげ、速度ゼロ状態から一瞬にして全速力まで加速して剣を突き出す!!

 煌めく切っ先は稲妻の如き尾を引き、仰け反って膝を突く無防備な英霊騎士の喉を目掛け空を切る!!

 いくら頑丈で強固な鎧を纏っているとはいえ、技の威力全てが一点に集中した切っ先で急所を突けば一溜まりもないだろう!

 剣の切っ先が英霊騎士の首を突こうかという時だった!

 突然、なんの手応えも無いままピタリと剣技の勢いが止まってしまった!

 それどころか不滅の剣(デュランダル)が押しても引いてもびくともしないのだ!!

 あまりに自分の意に反した事態に、一瞬何が起こったのか分からなくなってしまう!

 堪らず切っ先部分を見やる。

 すると驚いた事に、英霊騎士が不滅の剣(デュランダル)の切っ先部分を人差し指と中指の間の付け根で掴み、刺突攻撃を防いでいたのである!!

 アシルは我が目を疑った。

 自分が繰り出した斬撃は紛れもなく渾身の力を振り絞り、関節部の隙間を的確に捉えた連続剣技だった。それなのに結果として英霊騎士の体を僅かによろめかせただけに留まり、挙げ句の果てには太刀筋を見極められる散々な結果となった。

 その計り知れないショックで心身共に硬直してしまったアシルを、英霊騎士が空いたもう片方の腕を後ろに引き付け、上半身を起こす力で勢いを付けた反撃の拳をお見舞いする!!


「アシルっ!! 危ねぇっ!!」


 その初動に逸早く気付いたジードはアシルの首根っこを掴んで引っ張り、間一髪のところでアシルの前に盾を滑り込ませた!

 ズズンッ!!……と、今まで経験したことのない衝撃が盾を通して伝わる!


「なんつーパンチだよ……!!」


 全身の骨が粉々になりそうな、重たく、規格外な一撃を食うも、ジードはなんとか耐え凌ぐ。しかし、そのたった一発のダメージの蓄積が著しく、以後、万全な防御体勢を維持できそうにないことを自覚する。

 後方から様子を窺っているクロロは、持ち前の洞察力で英霊騎士の実力がどれほどのものなのかを先程の一撃から推測していた。

 丸腰だからと挑んではみたものの、その精錬された身のこなしを見るに、格闘術は熟練の域、いや、それ以上の域に達しており、付け入る隙などなかった。また、常軌を逸したパワーからして、圧倒的な力を秘めているのは確かで、こちらが束になったとしても英霊騎士との力の差は歴然というのが結論。

 先程まで抱いていた一筋の光明は暗闇に閉ざされ、クロロは途方に暮れる他なかった。


「アシル!! 大丈夫かっ!? 次が来る!! 俺だけじゃ対処しきれねぇ!! 陽動を仕掛ければ、スキが生まれるかもしれねぇ!!」


 喚起を促すジードに、アシルは意を決し再び不滅の剣(デュランダル)を構え雄叫びをあげてジードとともに果敢に挑んでいく!!

 だが、英霊騎士との戦いにおいて、そこに戦いの秩序なんてものはなかった。

 ただただ一方的に繰り出される強襲の嵐。

 譲られることの無い支配権。

 英霊騎士は闘争本能の赴くまま、存分に戦いに身を投じ、殺戮を楽しむマシーンと化す!

 アシルとジードはその理不尽とも思える運命ちからに、抗う術など残されていないのかと模索する!

 それが功を奏してか、英霊騎士は甲冑姿とは思えないほどの動きで攻め立てて来るが、精神と肉体がまだ上手く定着していないせいなのか、時折動きに齟齬そごが見られ隙が生じていた!

 アシルとジードは、そこを突いては立て直しを図り、応戦し、必死に喰らい付いていく!!

 だが、例え息の合った二人のコンビネーションで凌げたとしても、決定打を欠けばいずれジリ貧状態になるのは明らか。

 クロロはかなうはずないと分かっていながらも、それでも目の前の脅威に抗おうとする彼らを見て、衝動的に苦し紛れの策を講じる。


「エリザっ!! 早くアシルとジードにプロテクションを!!」


「も、もうやってるわよ!」


 クロロはエリザベットの機転を利かせた行動に安堵した。同時に、手足を小刻みに震わせながらも恐怖に屈してる場合じゃないと、そう自分に言い聞かせて成すべき事を遂行した彼女の姿が思い浮かんだ。

 そんな彼女のことを思うと、パーティーの指揮を執る役割を果たせず、仲間それぞれの独断に委ねてしまっている現状に、クロロはつくづく自己嫌悪に陥る。

 それにしてもプロテクションの効果を受けている二人が、依然として防御と回避を最優先に立ち回っている事に疑問を感じる。

 怪訝けげんそうな顔をするクロロを見て、エリザベットが震える声で話し掛けた。


「クロロも気付いたようね? あの二人の立ち回り方に……」


「もしや、プロテクションが効いていない……とか?」


 いや、そんな筈はない。

 クロロの目には確かにプロテクションの効果を得ている二人の姿が映っていたからだ。

 多分、アシルとジードもプロテクションの効果を得てしても、英霊騎士の攻撃が命取りになり兼ねないと判断してのことだろう。二人の鬼気迫る表情がそれを物語っている!


「あと、信じ難いことに今の二人にはプロテクションを重ねがけしてる状態なの……それなのに……それなのに! 私のプロテクションがアイツの攻撃に対して意味を成さないだなんて、どうなってるのよっ!?」


 魔法の効力は精神力に左右されるというが、エリザベットは精神的に安定を欠く状況下でありながらも的確にプロテクションを発動させてみせた。おそらく、効力としては申し分ない。

 それを重ねがけしているにも関わらず、ただの打撃が上回っているとは……。


「ハハ……ホント、型破りにも程がある」


 クロロは鼻で笑うしかなった。

読んでいただき誠にありがとうございます。

皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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