第38話 過去から君へのメッセージ
「だぁ〜〜〜〜っ!! も、もうダメッ!! 無理ぃ〜〜!!」
盗賊たちにヒーリングを施したエリザベットは、手当を必要とした人数が人数だっただけに疲弊し、遂にはその場にペタンと座り込んでしまう。
そんなへたり込むエリザベットの姿を見ているクロロは、先の戦闘を回顧して舌を巻いていた。
あの見事なまでのエリザベットの補助魔法がなければ撤退を余儀なくされるところだったからである。
回復魔法に治癒魔法、そして補助魔法までも扱える彼女の回復魔術師としてのポテンシャルは、名家の娘に留めておくには惜しい人材である。
「大丈夫か嬢ちゃん?」
「ちょっと休憩したらどうだい?」
「そうね……ハァ、……ちょうど……ハァ、……片付いたところよ」
エリザベットの状態を見て、ジードとアシルが駆け寄って来た。
「ホント補助魔法ってスゲェんだな! プロテクションだっけか? 俺はあの時、なんだか支えられてるっていうか、守られてるっていうか……何せその魔法のおかげで攻撃をしっかり耐える土台ができてたぜ。あんがとな!」
ジードは座り込むエリザベットの頭をポンと叩いた。
「僕も魔法障壁があったおかげで炎の熱さに怯むこと無く、攻撃に集中することが出来たよ。本当に助かった」
「ふ、2人してそんなこと言うなんて…………わ、私は当たり前の事をしたまでなんだからね!!」
エリザベットは感謝を素直に受け止められずフイッと顔を背けた。すると、顔を向けた先には、こちらをジッと見つめるクロロの姿があった。
「な、何よクロロ! ジロジロ……み、見ないでよね」
「へっ? あっ、はい。すみません」
別に動じる事なくあっけらかんとするクロロに、エリザベットはムスゥと不満気な顔で返した。
「ア、アンタら……すまねぇな。こんな俺たちに良くしてくれて。それに、まさかファルオルヴ家の御令嬢が俺たちのアジトにまで来て、更に俺たちの手当てまでしてくれるたぁ、世話ねぇな」
話かけて来たのは盗賊団の一人、カンデラだった。
「まったくよ! それで? アンタたちが晩餐会で自警団の警備網を掻い潜って侵入できたのには、自警団側に内通者がいたってことくらいおおよそ見当が付いてるの! 知ってるんでしょ!? そいつが誰なのか白状なさい!」
カンデラ含め盗賊団の一味は皆、目を逸らしだんまりを決め込む。
「ヘェ〜……アンタたちにここまでしてあげた私たちの恩を仇で返すつもり!?」
更に一味はだんまりを貫く。
「ハァ〜〜……わかった。アンタたちがここで白状しないようなら、町に連れ帰ったら証拠人として内通者の名前を吐くまで拷問させてもらうわ!」
「ご、拷問んんん〜〜っ!?」
エリザベットの冷酷無比な視線と辛辣な言動に戦慄が走る。
「わかったわかった! 白状するっ!! 内通者はトロワだっ!! シャトレイル家の三男坊、トロワ・シャトレイルだっ!!」
「やっぱり!! トロワだったのね!? あんの糞キノコヘッドぉぉぉっ!!」
エリザベットの眉間に怒りの念が露わになる。
「当初はよぉ、お頭がクローネ・スピネルに目星を付けてたんだ。そんで、ダリスに偵察に行ったらよぉ、まさかお頭が警備に当たっていたトロワに話を持ち掛けんだ! やめとけって思ったんだけどよ、何故か話がとんとん拍子で上手くいってよぉ。その後、トロワがこのアジトを訪れて今回の騒動の計画を持ち掛けに来たんだ。俺たちはクローネ・スピネルが手に入るって聞いてトロワの計画に賛同したんだ」
「じゃあ、トロワにとって何の見返りがあるってんだ?」
「なんでも、ファルオルヴ家の晩餐会で各名家の当主、要人らが集う面前でファルオルヴ家の威信失墜させるのが目的なんだとよ」
「呆れた……家職の自警団を巻き込んでまで事に及ぶなんて」
エリザベットはやれやれと、肩をすくめて溜め息を吐いた。
「それほどファルオルヴ家に恨みがあったって事なんじゃねぇの?」
「でも、これで言質が取れましたね!」
トロワの容疑が固まった。
それじゃあ、とエリザベットは高慢ちきな態度で盗賊たちのもとに歩み寄る。
「アンタたち! 今の発言、今回の一件の重要証言になるから参考人として神誥裁判の証人尋問で出廷してもらうから、そのつもりでよろしくね!」
「さ、裁判んんん〜〜っ!?」
盗賊団の一味はこれから降りかかるであろう面倒事に頭を悩ますのだった。
こうしてクロロらは、サリィから受け取った鍵を手に地下への鉄扉の前に立ち、開錠する。
冷たく重厚な鉄扉を開くと、少女の悲鳴にも似た鈍い音を立て、その音に呼び寄せられたかのようにこことは違った異様な空気を連れて来た。
「待ってくれ! アンタたち!」
呼び止めたのは、またしてもカンドラだった。
「どうした!? お前たちは大人しくここで待っとけって言ったろ?」
「いや、そうなんだがよ、一つ聞かせてくれ! アンタら、シモンのお頭を見なかったか?」
「いえ、私たちも見ていませんよ」
そう聞いてカンドラは肩を落とし、そうか、と呟いた。
「ひょっとしてあなたたちも知らないのですか?」
「もしかしてお前たちを置いて逃げ出したんじゃねぇのか?」
「お頭はそんなことしねぇって!! 盾のあんちゃん! お頭はどんな事があっても俺たちを見捨てたりするようなヤツじゃねぇ!!………多分」
「多分かよ……」
「何か気になっていることがあるようだけど、良ければ教えてくれないか?」
思い詰めた表情になるカンドラを見兼ねて、アシルはカンドラに問い掛けた。すると、カンドラは思いの丈を打ち明けた。
「実は、この古城をアジトにした時くらいから、お頭の様子がおかしくなっちまったんだ」
「おかしくなった?……具体的にはどうなのよ?」
「今までなら人情味があって統率力もあるリーダーだったんだが、どこか魂が抜けたような、口数も少ないし、仲間内で連もうともしない。何かブツブツ独り言を言ってる時もあれば、急に叫び出したり、俺たちに無茶な要求を突きつけたりと人が変わっちまったようになっちまったんだ……俺たちもお頭は盗賊団が組織としてデカくなってきたから責任感みたいなのが出てきたと思ってたんだが……」
そういえば、シモンの可笑しな行動については、シモンを追いかけたトロワ直属の自警団も、シモンは盗賊らしからぬ大剣を装備していたというのをクロロは思い出した。
「頼む! もし、その先にお頭を見掛けたら手荒にしねぇでくれねぇか!? 今回の事件解決に俺たち皆協力すっからさぁ!!……頼むっ! この通りだっ!!」
盗賊たちは皆、深々と頭を下げた。シモンという人物はそれほどまでに仲間たちからの人望が厚いのだと窺える。
「わかりました。出来るだけ期待に応えると約束しましょう!」
そう言ってクロロら4人は、今一度入り口まで足を運び、そして、意を決して仄暗い地下への階段を降りて行く。
壁には階段を照らす魔法石があるにはあるのだが、ほとんどが点いておらず明るさも疎ら。奥なんて見えたもんじゃない。
さすがにクロロが手持ちの魔法石のランタンを用意して明かりを確保する。
下へと一直線に伸びる階段。
先はまだ見えない。
足音の反響具合いからして階段はかなり下まで続いているようだ。
引き続き不測の事態に備え、警戒を怠らぬよう一段一段慎重に降りて行く。しかし、それから暫く降りると階段は終わり地下フロアへと辿り着いた。
一先ず何事も無く到着し一行は安堵する。
そのまま一定の緊張感を保ったまま、今度は階段の終着点から真っ直ぐに伸びる回廊を進んで行く。
回廊はかつての栄華を要所に残すも、今は見る影も無く荒廃と呼ぶに相応しい様相である。
不気味な静けさを醸し出す暗闇は、一つの灯りと、それを頼りに歩く4人の足音だけを浮き彫りにさせる。
そこから更に進んだ先、回廊の壁に突如として現れたのは頑丈な作りの鉄扉だった。
「ここが宝物庫ね」
暗闇の中、エリザベットがポツリと言った。
鉄扉の隙間からは中の煌びやかな反射光が僅かに漏れ出し、この扉が宝物庫の扉なのだと一目瞭然だった。
その片開きの鉄扉は頑丈な見て呉れとは裏腹に、鍵穴部分には無理矢理こじ開けたような痕跡があり、痛々しく思えるほど激しい損傷具合だった。
きっと、無法地帯化してから盗賊団が再び宝物庫として使うまで、度々財宝目当ての賊の襲撃に遭ったのだろう。
なので、そこに財宝を守る役割は担っておらず、徒の扉でしかなかった。
あっさりと鉄扉を開くと、宝物庫の中は盗賊団がこれまでに奪ってきたであろう財宝が所狭しと乱雑極まりない状態であった。
「ま、まさかこの中からクローネ・スピネルを探せなんて言わねぇよな?」
「か、考えたく無いね……」
アシルとジードは想像しただけで冷や汗を流す。
「何言ってるのよ! 私もクロロも僅かながら魔力検知が出来るのよ。クローネ・スピネルくらいの物だったら流石にここに有るか無いかは分かるわよ」
「そ、そうか! ハハ……助かったよ」
クロロとエリザベットは早速、目を瞑り、意識を集中させて魔力検知を開始する。
静寂の中、アシルとジードは固唾を呑んで2人を見守る。
短い吐息をついたのはエリザベットだった。
「ここには……無い気がするけど、クロロは? どう? 何か感じる?」
エリザベットは横に並ぶクロロを見た。
クロロはある一点を見つめていた。そして、宝物庫の奥に山のように積み重なっている金貨に向かって指を差した。
「あそこ、あの金貨の山に埋もれて何かが白く光っています」
「へっ? どこよ?」
「あそこですよ、あれ」
「あそこに白く光っているものなんて何も無いわよ?」
エリザベットは目を凝らせども、クロロの言う白い光は見えなかった。
「えっ? 皆さん見えないんですか?」
皆、口裏を合わせたかのように難色を示すのだった。
「やだなぁ……ここですよ?」
クロロはその場所まで歩みを進め、金貨の山を掘り返すのだった。すると、白い光を放つ一冊の古ぼけた本が現れた。
「これって、もしや……」
クロロは直ぐに勘付いた。
以前、風塵の塔に訪れた際、自身の身に不可解な現象を引き起こした本と同じ本だという事に。
「なんだ。ただの本じゃないか。それにやっぱり光って……………いや、こ、これ、急に光始めたぞっ!?」
「ほんとだわ、光ってる……」
発見された本は皆にも分かるような変化が起こり始めた!
そして、本はその場所からスゥー……っと宙に浮かび上がり、おもて表紙から順に一枚、二枚と勝手にページがめくれ始めたのである!
「なっ! 何だこれ!? 罠か!?」
「皆さん! 不用意に近づかないで下さい!!」
皆、突然目の前で起こった不可解な現象に驚きの表情を隠せない!
すると、前の現象と同じく、独りでにめくれていくページから光る文字が蝶のように舞い上がり、本の真上に規則正しく順番に並んでいく。
終いには最後の文字が並んだと同時に本はゆっくり閉じられた。
「こ、この浮かび上がっているの文字はなんだ?」
「わ、分からないわ…………それに文字自体、私たちの知っている文字で無いのは確かね」
警戒心を保ちつつも、不可解な現象は次々に起こるので目を逸らさずにはいられない。
暫くすると、フヨフヨ浮かんで光る文字は中央あたりの文字から羅列が崩れ始め渦を巻いて加速していく。
「こ、今度は何だっ!?」
「キャア!?」
激しく渦巻いている文字がクロロ目掛けひとつ、またひとつと額に吸い込まれていく!!
クロロに向けられた不可解な現象に対して他の3人の心は置いてけぼりをくらい、ただただ呆気にとられるだけで、あれよあれよと言う間に事が進行していく。
光る文字が額に吸い込まれていくと同時にあの時と同じく、脳裏に覚えのない情報が断片的に流れ込んでくる。
クロロの視界には必死になって声をかけてくる仲間が見えた。しかし、その声は次第に朧げになっていき、段々と意識が遠退いていくのだった……。
◆
気が付くとクロロは広々とした場所にいた。しかし、ここがどこなのか見当がつかない。
見覚えの無い初めての場所。
聖壇らしき所も見受けられ重要な場所であることは明らかだった。
見渡すと、数人が集まり皆がこちらに注目していた。
その者達の身なりや佇まいからして神と呼ばれる者達だろう。
周りの風景からしてもおそらく、また神々の戦いの時代の記憶を見せられているのだろう。
「もう、時間だ……」
突然、自分の意思とは関係なくこの体が言葉を発した。
違和感が凄まじいが自分の意識だけが憑依しているのだと知る。
「まさか、我々の力が及ばずこのような事になろうとは……」
「だが、もう躊躇っている暇などありゃせん……決断せねばならんのだ」
辺りは物々しい雰囲気に包まれ、聞こえてくる話し声からしても分かる通り、神々は堪らず口々に胸の内を吐露する。
ーーーと、突然何かが胸元にぶつかり体が押される。
「嫌っ!! 嫌よ!! 行かないで……オクストロス…………私を、ひとりにしないで!!」
視線を落とすと胸元に美しい女性が悲痛な表情を浮かべ、私の事をオクストロスと呼びながら縋り付き、その思いを訴え掛けていた。
「すまないエルロフ……これは唯一【時の調律師】になれる私にしか出来ない事なんだ。分かってくれ……」
オクストロスはエルロフと呼ぶ女性の頬に手を伸ばし諭すように優しく当てがう。エルロフもその手を自分の両手でキュッと包み込む。
「今ここで私が世界を調律しないと、この世界はメーヴィスの意のままになってしまう」
「わかってる……わかってるわ……………だからね、私もオクストロスが残してくれるこの世界を優しく照らす月になって、ずっと見守り続けることにするの。これでいつまでもあなたと一緒にいられるでしょ?」
エルロフは目に涙を溜めてオクストロスに微笑みかけた。
「ありがとう。エルロフ………………じゃあ、行ってくる」
後ろ髪を引かれる思いで振り返り、聖壇に続く階段を登る。
オクストロスの心情がダイレクトに伝わってくる。
壇上に上がり、正面を指差して上から下に振り下ろすと、目の前の空間が縦に裂けて光が渦巻くゲートが現れた。
オクストロスは一歩ずつ歩を進め、その空間の中へと入って行く。
「オクストロスッ!!」
後ろを振り返ると、エルロフが他の神々の制止を振り切らんとしている姿だった。
「どれだけ時が経っても!! どんなかたちでもいいからっ!! 私はまた、あなたに会える時を待ってるからっ!!」
顔をくしゃくしゃに歪めて泣き叫ぶエルロフの姿を最後に、オクストロスは空間に消えていった…………。
◆
「…………ロ…………………ク………………………クロ…………ロ…………………クロロ…………………………クロロっ!! クロロっ!!」
自分の名を必死に呼ぶ声で、クロロは徐々に意識を取り戻す。
「エ、エルロ……フ?」
朧げな意識の中、目を開くとエルロフが神妙な面持ちでこちらを覗き込んでいた。
おかしい。そんな筈はない。
今し方現実で目覚めたという自覚があったクロロは直ぐさま違和感を覚えた。
そう思い、今一度はっきりと瞼を抉じ開ける。
すると、そこに居たのはエリザベットであった。
エルロフとエリザベット。
まるで合わせ鏡みたく良く似た2人の顔。
直近で見ていたオクストロスの記憶が見間違えさせたのだろう。
程なくして体の感覚も戻りつつあり、金貨の山の上で仰向けに寝そべっているが故、寝心地の悪さに上体を起こす。
「私は……気を失っていたんですね」
「おぉ!! 目ぇ覚めたか! クロロ!!」
「ハァ〜〜……良かったぁ〜」
緊張の糸が切れ、皆は安堵する。
「大丈夫かい、クロロ?」
心配そうな顔でアシルが言う。
「ええ、すっかり。皆さん、ご心配をお掛けしましたね……それで、どのくらい気を失ってたのでしょう?」
「……10分くらいだね」
「そう……ですか」
「その間、エリザときたらワーキャー喚いて大変だったんだぜ?」
「ジードっ!! 茶化さないで!! そ、それを言うならジード、アンタだって血相変えてオタオタしてたじゃないの!?」
ジードは不意をつかれギクっとする。
「お、俺は……そんなこと、し、してねぇし!」
「嘘おっしゃい!! してましたっ!」
「してねぇ!!」
「してました!」
「してねぇっての!!」
「してましたぁー!」
ジードとエリザベットの押し問答が始まった。
アシルとクロロは互いに顔見合わせ苦笑いする。
「緊張感がありませんね……」
「ああ、まったくだね」
押し問答を繰り返しているジードはエリザの言い分を躱してクロロに問いただす。
「ところでよぉ、あの本、結局何だったんだ?」
「うん、クロロが気を失った途端、あの本は灰のように散り散りになって消えていったよ」
「私もクロロが気を失ったからヒーリングを掛けたけど、効果は無さそうだったし……今、こうして何ともないのならトラップや呪いの類でも無さそうよね」
「あの本の在り処はクロロでしか察知できなかったし、あの現象の影響もクロロにだけしか受けなかった。これは僕の憶測で安直かもしれないけど、まるであの本は初めからクロロがここに来ることを待っているかのように思えた」
「確かに、そう言われても不思議じゃねぇ……」
クロロはこの不可解な現象を見られてしまった以上、思い切って打ち明ける決心をした。
「わかりました。先ほどのような現象について、皆にも話しておこうと思います……」
クロロは本を通じて体験した内容、実は過去にも同じ経験をしていた事など、素性がバレない程度に仲間に説明した。
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「神々の戦いの時代ねぇ……」
「メーヴィス、エルロフ……そして、オクストロスか…………」
「メーヴィス、エルロフについては今も信仰・崇拝され、人々にも馴染みのある神よね。でも、オクストロスなんて神は聞いたことがないわ……」
一考した後、アシルが口を開いた。
「そうだね。今は全然分からない事が多い。けど、僕が思うに、あの本はオクストロスからクロロに向けたメッセージなんじゃないかな?」
「メッセージ……」
確かに、なぜ自分なのか、なぜこのような方法で、どのような意図があるのか、色々と分からない事だらけだけれど、アシルが言った言葉が、今はとても腑に落ちるのだった……。
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「結局、宝物庫にはクローネ・スピネルは無かったわね」
「そのようですね……あと、手掛かりがあるとすればシモンですね」
「けど、シモンの野郎は未だ行方がわからねぇんだぜ?」
「皆んなでこの古城の中を隈無く探さないといけないのかもね……」
「か〜〜〜〜! ラクにはいかせてくれねぇかぁ〜〜」
ジードはスムーズに事が運ばない事に頭をかきながら不満を口にする。
ーーーその時、指先で首筋を優しく撫でるかのような怪しげな風が地下フロアを吹き抜けた。
「エリザ!」
「えぇ、私も感じたわ」
「どうしたんだい?」
クロロ、エリザベットの挙動の変化にアシルが反応する。
「今、回廊を吹き抜けた風に混じって、ファルオルヴ家の館で感じたのと同じ異質な魔力が流れ込んで来ました!」
「じゃあ、高位の魔術師か? 魔物か!?」
「わかりません。けど、調べてみる必要がありそうです」
4人の間に一気に緊張が高まり、再び回廊に戻る。そして、異質な魔力が流れて来た方向を確かめる。その方向は回廊の更に奥。よく見ると、遠くに小さな灯りが見えた。
「皆さん、行きましょう」
クロロの掛け声で捜索を再開する。
目指す灯りまで真っ直ぐに続く不気味な回廊を進んで行く。
細心の注意を払い歩を進めると、回廊の突き当たりに今にも消えそうな灯りに照らされて、大きく立派な両開きの扉が見えて来た。
「そういえば、あんな扉あったっけ?」
「いや、正直暗くて見えなかった」
確かに、あそこに明かりなど灯っておらず真っ暗だった為、あそこに扉があったことさえクロロも分からなかった。
「そうよ! そもそもなんで勝手に明かりが灯るわけ!?」
「そうですね……あの扉の向こう側から流れて来る異質な魔力に反応しているのかも知れませんね」
「俺たちのこと歓迎してるんじゃねぇのか?」
エリザベットは止めてよと言わんばかりの険悪な顔つきでジードを見た。
そうこうする間に、あれこれ想定していた不測の事態も起こらなかった為、一行は難無く灯りが照らす回廊の終着点に到着したのだった。
読んでいただき誠にありがとうございます。
皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。
よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。
では、次話でお会いしましょう。
※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。




