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第3話 転移の宝玉

- 魔王城 王の間 -



 王の間では定例会議【オーギュリオス】が開かれ、魔族の将やその配下が一堂に集まり、時の迷宮より帰還した部隊より報告を受けていた。


玉座には魔王ノワルが鎮座している。


遅れて書物庫からラートムが戻り玉座の横に着いた。


「戻りました」


 しかし、ラートムの声はノワルには聞こえていない。

外の世界へ赴けないノワルにとって、この様な報告はとても楽しみにしているので周りが見えていないのである。


 報告では時の迷宮に人間が立ち入った形跡は無く、人間がこの魔王城へ侵攻してくる気配はないという。


 報告も終盤に差し掛かった頃、迷宮の回収物の報告がなされた。


「今回の探索で回収したものになります」

魔石やアイテムなどの報告が次々なされた。


「実は…回収物の中に驚くべきものが発見されました」


報告する配下は少し緊張した面持ちだ。


「ほぅ…それは何だ?」


「通せ!」


 報告している配下がそういうと、奥から別の配下がこちらに向かって来た。とても慎重に運ばれたそれは玉座手前の台座に置かれた。



 片手に納まるほどの灰色の球体。所々でくすみ、端から端にヒビが入っており今にも割れそうである。


「鑑定士よ、報告しろ」


配下が言う。


「【転移の宝玉】に御座います」


途端、周囲の配下達が驚きの声をあげる。


「静粛に!」


ラートムが言い放つと場に静寂が戻る。


鑑定士が口を開く。


 「空間を操る術は生きる者からは生み出せないというのは魔王様もご存知かと。

 今回、時の迷宮にて発見されたこちらの宝玉ですが、中層部にて壁の割れ目から隠し部屋が発見され、そこに転がっていたと見つけ出した者が申しておりました。

おそらくその隠し部屋では、遥か昔から時の歪みが発生しており、そこに迷宮の魔力が干渉し続けた結果、結晶化したと思われ、この様に存在するのは大変珍しく貴重なのです」


ノワルは玉座から身体を前のめりにし宝玉に見入っている。


鑑定士は続けて、

 「城の書物庫にありました書物によれば、色、形状、放たれている魔力からするに間違いなく転移の宝玉で間違いありません」

 「ですのでもし、これを勇者が発見したと仮定すると、直接こちらへ乗り込んで来るという危機は回避できたと思われます」


突然、ラートムが物々しい形相で怒鳴る。


 「貴様ぁっ‼︎ 魔王様が勇者に遅れをとるとでも言うのかこの戯けがっ‼︎」


ラートムは鑑定士を一喝した。


 「申し訳ありません!そのように申したつもりは微塵も御座いませぬ‼︎」

鑑定士は平伏し、冷や汗をかいている。


 ノワルにも覚えがあり、鑑定士の診断と合致した。確かに目の前にある宝玉は転移の宝玉であり、神話級の代物である。


「ラートム、よい。続けろ」


ノワルはラートムを宥め、鑑定士の報告を続けさせた。


鑑定士は平伏したままで報告を続けた。


 「ただ……発掘された転移の宝玉はひび割れしており、もし効力を使うとなればあと1回が限度かと思われます」


 …と、ノワルの心に衝撃が走った!

そしてノワルはなぜか反射的に立ち上がっていた。


 (この転移の宝玉を使えば……魔王城から抜け出すことができる‼︎)


ノワルは直面した事態に胸の鼓動が早くなった。


が、側近のラートムはノワルの思惑に瞬時に勘づいた。


 「魔王様なりませぬ。良からぬ事をお考えなさらぬ様」

…ノワルに釘を刺す。


「お前達!転移の宝玉は丁重に宝物庫へ保管しろ!」


 ラートムはこれ以上の報告はノワルに対して悪影響と考え、早々にオーギュリオスを終えた。

 ノワルは後ろ髪を引かれる思いで王の間を後にするのだった……。



********




 オーギュリオスから暫くし、やはり外の世界に思いを馳せるノワルは、自らの近くに外へと脱する手段があるのが分かると、魔王の地位や責務などどうでも良くなるくらい見境がなくなり、居ても立っても居られずどうしても諦めきれない。そして転移の宝玉が保管されている宝物庫へ忍び込もうと企てた。



 ノワルは城内を誰にも見つからないよう辺りを伺いつつ、宝物庫へと向かうのだった。自分の住処といえど不気味なほど静かであり、特に障害が起こる事なく宝物庫へたどり着いたのだった。




 宝物庫の扉は鉄でできた両開きの扉で、重苦しい重厚なつくりである。両扉には架空の獣の顔を形取ったドアノッカーがあり鉄の輪っかが付いている。その輪っか同士を紫色に光る鎖がグルグルと絡みこの先への侵入を拒むかの様に睨んでいるようだった。


 ノワルはその光る鎖に手を当てると、鎖は光を失い途端に弾け飛び消えていった…。


「案外簡単に解除できたな……」


 すると、ひとりでに扉は開きノワルは呆気なく宝物庫へ入るのだった。




- 魔王城 宝物庫 -



 宝物庫には金銀財宝はもとより、宝剣や魔剣、武具や、各ダンジョンや洞窟、神殿などの世界で発見された貴重な物の数々が所狭しと並び、時色褪せぬ輝きを惜しみなく魅せていた。


 宝石や装飾品が置いてある一画に、先程の転移の宝玉が置かれていた。ノワルは転移の宝玉を前にし、語りかける。


 「転移の宝玉よ!其方の力がまだ残っているのなら、今いちど、我に与えたまえ‼︎」


すると、転移の宝玉は鈍く光り、ノワルの頭上へと浮いた。



「なりませぬぞーーっ‼︎」


 堰を切ったかのように宝物庫へ大勢の配下が押し寄せノワルを囲んだ。事態は先程の静寂とは打って変わり、慌ただしい事態となった。


 するとノワルの足元に複雑な幾何学模様をした赤い光の魔法陣が現れ、そこから宝物庫扉のドアノッカーにあった様な鎖がノワルの四肢を拘束した。


「やはりな。私をあざむこうなど笑止千万‼︎」


ノワルを囲む配下の奥から緩歩するラートムの姿が…


「ぐっ…」


ノワルは鎖を引き千切ろうとするも全く敵わない。


 「もしやと思い宝物庫の扉に私の術を仕掛けておいて正解でした」


 ラートムは不敵な笑みを浮かべ、配下を掻き分けノワルの側まで近寄る。


 「宝物庫扉の鎖は私の意志とリンクしているので、何かあるとすぐわかるのですよ」


「おぉ!さすがで御座います!ラートム様!」


配下達はラートムを持て囃す。


 「この俺が身動き取れないとはな。【呪縛閻鎖じゅばくえんさのラートム】と言われるだけのことはある!我が側近として申し分ない」



 「何をおっしゃる!我がとて全力でノワル様を抑えるのに必死だというのに…!」


 2人はせめぎ合っているが、ノワルはこの状況を打破する術が無く諦めようとしたその時だった。



ノワルの頭の中に声が聞こえる…。


「汝の目指す場所を唱えよ…!」


 ノワルは頭に語りかけてくる方をみると、頭上に浮かぶ転移の宝玉だった!


ノワルは咄嗟に叫ぶ。


「魔王城から1番遠い町…‼︎」


 すると転移の宝玉が音を立てて割れたと同時に魔王は灰色の光に包まれ魔王城から一瞬にして姿を消したのである…‼︎


 力を失った宝玉の欠片が、先程までノワルがいた場所へと落ち、辺りに散らばる。



「ノ…ノワル様……き…消えた……」


「まさか…転移の宝玉が発動したというのか⁉︎」


ラートムはたった今起こった事態に動揺を隠せない。

 配下達も事態を把握し、また、側近のラートムの動揺っぷりを目の当たりにし硬直している。


そしてラートムは脆くも膝から崩れ落ちる。


「くそぉっ‼︎」

ラートムは散らばった宝玉の欠片を片手で薙ぎ払った。


 「魔王様の側近とあろうこの私が……ぐっ…この様な事になろうとはっ……」


「うおぉぉぉぉーーー‼︎」

「赦されぬ!赦されぬぞぉぉー‼︎」


 ラートムは自らの不甲斐なさ、悔しさ、僅かばかりの妬みの感情に我を忘れている。

 脳裏にはノワルと共に過ごした思い出がフラッシュバックで蘇ってくる。

顔面は…阿鼻叫喚だ。


配下達は、ただ呆然と立ち尽くしている。


「魔王様〜!魔王様〜〜‼︎」


ラートムの叫びが魔王城に虚しく響くのだった……。

読んでいただき誠にありがとうございます。

貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。

私が間違えて買った味のプロテインも美味しく飲めると思うので、作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。

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