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第24話 ウルガ

「うっ……うぅ………」


 野蛮女は意識を取り戻した。ところが、体にある違和感を感じる。


「……ンッ、ンッッ! おおッ!? なんダ、こレ!?」


 体を動かそうにも思うように動かせない!

 不思議に思った野蛮女は自分の体の状態を確認する。すると、いつの間にか体が大木に縛られてしまっていた。


「ワタシはなぜ縛られていル!?……それにコレ……は、外せなィィ……!!」


 野蛮女は足掻いても足掻いても金属製の紐が体に食い込むだけで、全く解ける気がしない。

 何か手はないのかと頻りに辺りを見渡す。


「んッ? ここハ……奴と戦っていた場所じゃないカ」


 空を見上げると、視界を覆うような大きな満月が煌々(こうこう)と輝き、月光がたゆむこと無く降り注いでいた。

 その時、ふと自分の目の前をフヨフヨと漂う小さな発光体が横切る。


「ン? 何だ……これハ?」


 これは一体どこから現れたのだろうかと、漂って来た方を追って行く。すると、自分が縛られている大木の幹に自生している担子器果キノコからであった。

 いつしかそれは一つまたひとつと増え続け、気付けば辺りは小さな発光体が無数に漂う何とも幻想的な空間と化し、次第にそれらは夜風に煽られ、空に向かって飛翔していくのだった……。

 それを目の当たりにした野蛮女は思わず、「わァ〜……」と感嘆の声を漏らす。


「この光景は滅多にないらしいですよ」


「ヒッ……!?」


 幻想的な時間にすっかり陶酔しきっていたところに、突然、背後に出没した存在に過敏に反応してしまう。

 誰かと思えば、先ほど自分が敗北を喫した相手だった。

 男は腕いっぱいに木の枝を抱えていた。

 どうやらワタシが気を失っている間に集めてきたらしい。そして、手際良くその木の枝で焚き火の支度をしながら語り掛けてきた。


「この胞子を飛ばしている担子器果キノコ睡眠茸マイコニドと言って、強烈な催眠効果を持つのですが、この時期、ある一定の月の光を浴びると一斉に発光する胞子を撒き散らすのです」


「ほほウ。害を成す性質を持ちながらも、心奪われる幻想世界を見せてくれるとハ。そんな二面性を持つなんて、まるでお前ェみたいだナ」


「残念ながら、私はあなたが思っているような人間じゃありませんので」


「カッカッカッカッ……それは言い得て妙だナ」


 二人は少し打ち解けた雰囲気ではあるが、野蛮女の疑りは相変わらずで、クロロの内心は穏やかではなく笑顔を取り繕うのだった。


「ところデ、何故ワタシを拘束して留まっていル? 見捨ててこの場から立ち去れば良かったものヲ」


 野蛮女の問い掛けに、クロロは少し困った顔をした。


「私はあなたに危害を加えるつもりはありませんし、戦う意思もありません。しかし、再び襲って来られては困りますので、やむを得ず拘束させてもらいました。それに、こんなところに無防備な人を置いて見過ごす事など私には出来ません。増してや、何か誤解をされたまま死なれては後味が悪いですからね。なので一度落ち着いて話がしたかったのです」


「話、ねェ……」


 野蛮女は辺りを見渡し、気を失う前の記憶を辿る。

 ワタシは奴の圧倒的な力によってあしらわれたに過ぎなイ。そしテ、奴はも偶然を装ったかのように振る舞うガ、あの時感じた強大な力の出所は間違いなく奴ダ。しかシ、その力をひた隠しにするのであれバ、ワタシはこれ以上何も言うまイ。

 この拘束を解く為には奴の言い分を聞き入れ、信頼を得る必要があるという事ダ。


「わかっタ。お前の気の済むまで質問に答えてやル」


「ありがとうございます。では、まず自己紹介をしましょう。私の名前はクロロ。ダリス出身でギルドに所属しており、冒険者のサポーターをしています。ここには回復薬の素材を採取しに来ました。あなたは?」


「ワタシの名は【ウルガ】! 【テンパノン】出身ダ。ワタシもギルドに所属している冒険者なんダ! ジョブは重戦士ブレイカーダ。」


「ウルガはテンパノン出身ですか! 実は私、別の町の冒険者に会うの初めてです! それで、この大湿林には何用で?」


 ウルガはここに来た経緯を話してくれた。

 聞けば、彼女はテンパノン領を統治する領主の護衛任務に当たっていたらしい。

 任務の内容は領地内にある新たな鉱物資源の採取場所を領主直々に現地視察するというもので、ギルドから推薦を受けた者たちで隊を編成し、現地並びに道中の護衛を任されていた。

 ところが、その視察を終えた帰り道、夜も更けキャラバンで野営をしていたところ、領主が忽然と姿を消したというのだ。

 何でもその領主というのが非常に厄介者で、日頃から領主の務めを途中で放棄し、しょっちゅう逃亡するらしいのだ。

 捜索に向かったウルガだが、その矢先、捜索隊とはぐれて道に迷い、食料も底を突き彷徨うこと数日、命からがら辿り着いたのがこのミュメレ大湿林だったという。

 ここは彼女が睨んだ通り、食料には困らなかった。

 水源はそこら中で確保でき、持てるサバイバル知識と実力行使で食料も手に入り、食い繋ぐだけなら申し分なかった。

 けれども、いずれ助けが来ると信じてずっと耐え忍んでいたが、唯でさえ人が寄り付かぬ辺鄙へんぴな場所ゆえ、助けは一向に来ないまま、いつの間にかこんなに日が経ってしまったという。期間にしておよそニヶ月というのだから驚きだ。並大抵の精神力ではここまで乗り越えられなかっただろう。


 だがしかし、クロロは彼女の楽観的な話し方が妙に気になった。それは冒険者としてではなく、別視点からの発言のようだったからだ。

 なので、ウルガに揺さぶりをかけて反応を見てみることにした。


「テンパノンの領主が未だ消息不明のままなら本当に一大事ですね。もし仮にその情報が表沙汰になれば役人どころか町中大騒ぎじゃないですか? 他人事ながらテンパノンの行く末を案じますよ」


「そ、そうだナ。ワタシも早く戻らねばな。カ、カカカカカカ……」


 クロロの言葉に、ウルガは明らかな動揺が見られた。

 やはり冒険者視点の発言ではないと思われる。

 何か特別な事情があるようだが、それはお互い様ということで、これ以上深掘りしない事にした。

 ……それはさておき、ウルガは話を続ける。

 そんな来る日も来る日も助けを待ち続けている中、突然今まで感じたことのない、とんでもなく強大で禍々しい力を察知し、急いでその場所に向かったところ、真っ二つに分断された巨大なトカゲの死骸を発見した。そして、周囲を警戒していると、再びその魔力を察知したので向かったところ、ギガンティスマイマイと対峙する私を見つけたのだという……。


 ウルガは話すうちに疑念が再燃したのだろう。思い出したかのように、再び疑り深い目でクロロをじっと見つめる。

 シラを切るクロロもポーカーフェイスで迎え撃つ。

 しばし無言の睨み合いが続いたが、先に口を割ったのはウルガだった。


「まっ、あの力がクロロじゃないとしてモ、クロロ自体強イ! 完敗ダ!」


「いえいえ。あれは偶然ですよ!」


「謙遜しなくてもいいと思うゾ。サポーターと聞いて素直に驚いタ! てっきり名のある戦士ウォーリア武闘家ファイター、いやアサシンと思っタ! もしかしテ、ダリスのサポーターって皆んなお前みたいな強さなのカ? だったらダリスの冒険者は一体どれほどの強さなのだろうカ! 興味が湧いてきタ!」


「いやいや! だから偶然なんですってばーー!! 」









 宵も更け、クロロはこのままここで野営をすることに決めた。

 早速、食事の準備に取り掛かる!

 焚き火の元で手際良く進む調理に、自然と辺りは食欲をそそる匂いが漂い始める。

 ところが、クロロは調理を開始した頃からずっと、何かしらの唯ならぬ気配を感じ取っていた。

 時折、その気配から威嚇する猛獣のような唸り声が聞こえていた。

 もしや、この匂いに誘われて魔物が集まって来てしまったのだろうか?

 とりあえずクロロは、向こうの意図がはっきりするまでそのまま気配に気付かぬふりをしようと考えた。

 しかし、その唸り声は調理が進むに連れ次第に大きくなっていく!

 まさか、姿を現すこと無く自分の警戒網を掻い潜って接近して来た者がいるのだろうかと思い、更に警戒を強める!

 調理も一旦ひと段落した頃、クロロは唸り声がする方向に気付かれないよう静かに横目で見る。ところが、そのような猛獣は近くにはおらず、そこに居たのは大木に括り付けられこうべを垂れるウルガだった。

 気のせいだったか。と調理の仕上げに入ろうとした時だった!

 再び猛獣が唸る!

 今度は激しさが一段と増し、今にも飛び掛かりその鋭い牙を突き立てようかという緊迫感を漂わせてきた!!

 さすがに容認できないところまで差し迫ったので、クロロは追い払おうとすぐさま視線を返す!!

 すると、クロロの視線が捉えたのは、溢れ出る生唾を必死に啜りながら出来上がった料理を血走った眼でガン見するウルガであった!


「お前かーーーい!!」


 なんと! 猛獣の唸り声の正体はウルガの腹の音だったのだ!

 まさに"腹の虫"ならぬ、"腹の猛獣"が鳴いていたのだった。


「ジュルリ……いヤ、すまン。久しぶりに料理というものを目の当たりにしたラ、つい……ナ?」


 まぁ、彼女の性格からすると無理もないのかもしれない。

 ここ二ヶ月もの間、食料は豊富にあれど調理というものをまともにして来なかったのだろう。なので、この反応を目の当たりにすれば、良心が働いてしまう。


「た……食べます?」


「エ〜〜ッ!! 良いのカァ〜〜〜ッ!?」


 その一言を待っていました! と言わんばかりに目を輝かせるウルガ。

 あの時の狂乱染みた気配など何処どこへやらという風であった。

 この調子ならもう拘束を解いても良いかもしれない。そう思い、クロロは大木に縛り付けた金属製の紐からウルガを解放する。


「ふィ〜〜……この金属製の紐、全然切れねぇのナ?」


「知り合いの鍛治師に頼んで造ってもらったんですよ」


「こんなのを発案するとワ。このくらいの太さの縄だったら自力で引き千切れるんだガ、これは幾つもの細い金属線がり合わさっているからとても強イ。力尽くで引き千切ろうとしたら逆にこちらの身が千切れそうになル」


 本来は魔物を拘束するためのものだったのだが、見立て通りこれで正解だったとは。彼女の発想も含めたパワフルさに、クロロは呆れてものも言えないのだった。


「それよりも、コレ! 美味うまそうだナァ〜? 何のスープだァ?」


 真っ先に焚き火の火にかけられた料理の前に陣取ったウルガはクロロに問いかける。

 焚き火には丁度良い大きさに砕かれたギガンティスマイマイの殻の破片を鍋代わりに、乱切りされた肉やら野菜やらが一同に味付けされたスープの中で踊っている。


「これは"死殺鹿キラーエルクの干し肉を使ったポトフ"です! 熱いので気を付けて下さい」


「んあぁ〜〜……火の通ったメシは久しぶりダ〜〜」


 期待で胸を膨らませているウルガを他所に、クロロはそれらを器によそっていく。

 沸き立つ湯気の奥にウルガのほころぶ顔が見え隠れする。


「ホント、あの時の悪相が嘘のようだな」


「んオ? なんか言ったかァ?」


「いえ、何も。ささッ! 食べましょう食べましょう!」


 ウルガは具材を木匙きさじすくう。まずは肉だ。

 程良い厚さにカットされた脂身のない赤身の部位。さて、どんなものなのか。逸る気持ちを抑えつつ、息を吹きかけ丁寧に冷ます。

 粗熱が冷めたと思われたところで恐る恐る口の中に入れ、同時に一噛み入れる。すると、肉の繊維の隙間に隠れていたスープがジュッとにじみ出す。

 滲み出たスープを舌全体に乗せると、肉本来の味に混じり、塩と香辛料の存在をしっかりと感じた。

 その悪魔的シナジーは、咀嚼そしゃく中にもかかわらず、ウルガの味覚に次の一口を催促させる強烈なインパクトを与えた!


「美味イッ! 美味いぞコレッ!! 何なのだこの肉ワッ!?」


 食感にしてみてもそうだ。舌触りは繊維質な割に、思いのほかすんなり噛み切れた。ほぐれるといった感覚に近い。

 これはあらかじめ食べやすく、そして、味が入りやすいよう筋切りをし、香草を使って臭みを消したりと、丁寧に下拵したごしらえがされたことが伺える。

 元々は保存食にするための加工なのだろうが、きっと他の料理の食材にもなるよう考慮されているのだろう。

 そのような事を考えているうち、気付けばウルガは二口目を口に運んでいた。

 お次は乱切りされた野菜たち。

 木匙きさじからはみだすほど乗せられていたが、それをこぼさぬようそのまま口の中に運び込むと、行き場の無い野菜たちがそれぞれ自己主張してくる。

 思いがけず必要以上に口に入れた手前、これでは咀嚼に思い切りが必要か、そう思ったのだが、どれもそれぞれの歯応えを良い意味で残しつつ、容易たやすく歯が通った。

 噛めば噛むほど野菜特有の甘味が絶妙に混ざり合い、味わい深さがでてくると、嚥下えんげするのに幾許かの躊躇ためらいを覚える。

 それでも、飽くなき食欲に抗える筈もなく、一口、また一口と木匙を口へと運んでいく。


 夢中になって食べ進めていると、気付けば器の中身はスープのみとなっていた。

 ここまで、一つひとつの具材が持つ本来の味が、クロロの施した味付けによっていい具合に引き立てられいたのを感じた。

 そして今、目の前にあるこの琥珀色のスープには、この料理の"何たるか"が詰まっていると言っても過言ではない。

 ウルガはその答え合わせをするかのようにスープをすする。

 旨みが効いたスープを口の中に留め、胃へと一気に落とし込む。

 熱を帯びたスープは喉元を通り過ぎると、胸の辺りがジンワリと火照るのを感じた。やがてその熱は全身へと染み渡っていく……。

 ただ空腹が満たされればそれでいい。その程度に思っていたのに、これは毎日でも食べたくなる、そんな味。

 おまけに栄養バランスも良いときたもんだ。たらふく食ったとて、後腐れの無さがまた心地良い。

 腹も心も満たされるとはこういう事なんだろう。

 吐息混じりに余韻に浸るウルガはそのように思うのだった。


「……あの、おかわり、まだありますんで遠慮なくどうぞ!」


「ほ、ほんとカッ!?」


 クロロの言葉を聞くや否や、ウルガは残りのスープをゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干していく。そして、形振なりふり構わずおかわりをすると、よそわれた器ごと食べてしまいそうな勢いでガッついていく!


「……グッ! グフッ!? ガッフッ!!」


「そ、そんなに慌てなくても」


 咽せるウルガの背中をクロロは優しくさするのだった。









 あっという間に飯を平らげた2人の目の前には、空っぽの器が並べられている。


「ア〜〜〜……食っタ食っタ! 美味うまかっタァ〜〜!」


 天を仰ぐようにそう言い放ったウルガは、そのまま後ろに倒れ、大の字で寝っ転がった。

 どうやら"腹の猛獣"も大人しく沈静化したようである。


「喜んでいただけたようで良かったです」


 代用した殻の鍋の中も、器の中も全て綺麗さっぱり無くなったのを見て、クロロは嬉しく思った。

 それから暫くして、クロロが後片付けを始めた時だった。大の字で寝転がっていたウルガが思い立ったかのように急に立ち上がると、身に付けているガントレットやグリーブを順番に外し、ポイポイッとその辺に投げ捨てていく。

 彼女のことだ。腹も膨れたので、その状態になって朝まで就寝するのだろう、クロロはそう思っていたのだが、有ろう事かそのままビキニの紐にまで指を掛け、おもむろに引っ張りあっさり脱ぎ捨てたのだ!


「ええっ!? ちょっ!? 何やってるんですかっ!?……って、うわぁっ!!」


 更にウルガはクロロの意表を突き、勢いよく両手で突き飛ばして仰向けに転倒させた!

 月明かりをバックに露わになったウルガの恵体をクロロは見上げるかたちで目の当たりにする。

 鋼のような引き締まった肉体は、これまでの鍛練と戦闘で磨かれたのであろう。

 それとは対照的に柔和で豊満な乳房が異彩を放っている。

 それらはまるで同じ人間の体の部位とは思えないほどアンバランスなのだが、の手のギャップに欲情を覚える性的嗜好の持ち主にとっては生唾ものだろう。

 それはさておき、一体なぜこんな事をするのだろうか?

 もしや、寝る時は全裸になるタイプの人!?

 いやいや、ただ単に報復かもしれない。

 でも、殺気は感じられない。

 意図がまったくわからない!

 こんな事になるなら拘束を解くんじゃなかったと後悔するクロロを前に、恥じる素振りなど皆無なウルガが蠱惑的に微笑む。

 その堂々たる姿は、逆にこちらが恥ずかしく思えてくる。


「さぁクロロ!! ワタシとまぐわおうではないカ!! そしテ、ワタシを孕ませるのダ!!」


「まぐわう〜っ!? ど、どうしてそうなるんですかっ!?」


 ウルガのまさかの発言はクロロを更なる動揺へと誘う!!


「???」


 ウルガは何故拒まれるのかが理解できず首を傾げた。


「どうしてカ……? そんなの決まってるだろウ。それはクロロ、お前が強いからダ! それも圧倒的にナ」


「わ、私は強くなんて……言ったじゃないですか。あれは偶然ですって」


 ウルガは四肢を地面に付けて四つん這いになり体勢を低く構えた。そして、丁度狩りをする獣が獲物との距離をジリジリと詰める時みたく、ウルガもクロロとの距離を徐々に詰めていく……!


「偶然などではなイ。お前がまだまだ力を隠し持っている事はよくわかっタ。だが安心しロ。もう詮索はしなイ……」


 月影に光るウルガの眼光は、後退りするクロロをジィ〜……っと見つめて離さない。


「……だ、だとしてですよ!? だとして、なんでまぐわうことになるんですかぁ〜!!」


 ウルガは答える。


「そノ……女はナ、強いと認めた男を前にするト……こウ……たぎるのダ……」


「た、滾るって……ちょ、ちょっと! ウルガさん? ち、近いですよ?」


 ウルガはクロロに覆いかぶさると、耳元に顔を寄せて甘い声色で囁く。


「生き物の本能というのカ?……強い奴の子を産むのは自然の摂理……だロ?」


 ウルガの吐息が肌を撫で、クロロは首の後ろの辺りがピリピリする。


「さァ……ま・ぐ・わ・お・ウ」


 ウルガはクロロの耳タブを、カプッと甘噛みする。


「°*☆¥※€○#〰︎……!!!!??」


 反射的に体を大きくビクつかせたクロロは、マウントポジション状態のウルガを無理矢理押しのけて後退り、ウルガから距離を取った。


「なんダ……クロロは初心うぶだナ」


「初心も何も、わわわわわわ私はそんなつもりはありませんからねっ!! それに、こういう事は、きちんと段階を踏んだ2人がですね……」


「おまえの子種でワタシを孕ませるだけダ! ホラ! ワタシは既にいい具合なんダ! チャチャっとで済ませるからヨ!」


「しません! しませんよ!! 何ですかっ!? いい具合って!? そ、それ以上するとまた縛り付けますよっ!!」


「そうか、断固拒否カ……」


 残念そうなウルガは少し上を見上げ一瞬考える。


「……よシ、ならばワタシがクロロに孕ませたいと思わせれる女になれば良いのダ! そうとなれバ、また明日から鍛錬だナッ!! カーッカッカッカッ……!!」


「いや、早く服着て下さいよぉ……」


 とりあえず難を逃れたクロロは、今になってドッと押し寄せた疲労感に苛まれるのであった。










 翌朝、クロロはウルガの話をもとに、この場所からテンパノンへの方角を割り出し、ウルガとともに大湿林を抜けたのだった。


「良いですかウルガ。このまま真っ直ぐ進んで行けばテンパノンに到着するはずですから。あと、渡した水と食料は大事にして下さい」


「おウ! 助かル! 色々とすまなかったナ! 次、また会える日ヲ、ワタシは楽しみにしているゾ!」


「とか言って、また会った時襲わないで下さいよ」


 クロロに念を押されたウルガはそれをまるで気にする素振りも無く、ニカッと微笑み返してその場を後にする。そして、暫く進んだ先で突然振り返ったウルガは、見送るクロロに向かって大きく手を振りながら何やら叫び出した。


「じゃあナ〜!! クロロ〜〜!! 必ずお前ェに相応ふさわしい女になってやるからナ〜〜〜!!」


 もし次に彼女に会った時、どんな災難が降りかかるのか、想像しただけで寒気を覚える。


「ハ、ハハ……」


 苦笑いするクロロが手を振り返すと、ウルガは再び歩き出したのだった。

読んでいただき誠にありがとうございます。

皆さんと貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。



"野蛮女"ことウルガさん。何か隠しているようでしたね。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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