第20話 英雄讃歌〜ファンファーレ〜
時は少し遡る…………。
ー 風塵の塔 屋上 ー
グリフォンがアシルを鷲掴みにし命の存続が危ぶまれる。クロロはアシルを助けに行こうと向かうが、不運にも足場が崩れ落下してしまったのである!
「ッ痛テェ…………僕は……あそこから落ちたのか……」
クロロは真っ暗な部屋で自分が落ちた天井から射し込む光を見ていた。
(そうだ!早くジードに知らせないと!)
事は急ぐ状況だ!
「僕は大丈夫です‼︎アシルを!アシルを助けてあげて下さい‼︎」
クロロは上に残されたジードに自分の無事を知らせた。
(上のことはもうジードに任せるしかない。どうかアシルを助けてくれ!そして皆、無事でいてくれ‼︎)
こんな状況では自分がサポートできる事は何も無く念じる他なかった。
「とにかく急いでここから出よう!……しかし、どうやって戻ろうか……」
クロロは仄暗い空間を見渡す……。それより奥はどこが果てなのかわからないほど真っ暗である。
(近くに階段も無さそうだな……他にないか探すか)
クロロは暗闇の中を進む……。時折、上から破裂音がし、音の振動がこの空間に反響する。
(ジード……あの武器を使ったんだな。だとすると君のその状況判断は1番正しい選択だと思うよ)
クロロは上で何が起こっているのか不安と焦りを感じずにはいられない。
(早く上へ戻らないと……そもそもこの空間はなんだ?何の為に作られたんだ?)
何か情報になるものがないか探そうとするが、この暗闇の空間で得られる情報は皆無だ。
(とりあえず引き返そうか……)
そう思い落下した場所へ体の向きを変えようとしたその時、向かっていた方向にあるものが視界に入った。
暗闇の奥にボンヤリと何かが光っている!
「あれは……何だ?」
光が灯る場所へと駆け寄る。
(あそこが出口に繋がっているのか?)
クロロは逸る気持ちを押さえ駆け寄ると全く予想だにしないものだった……。
「えっ…⁉︎」
ボンヤリと光るものの正体は、一冊の"本"
だった。
その本は飾り気のない簡素な祭壇に置いてある。
「何でこんなところに本が……」
クロロはその本を手に取ろうとした。
……その時だった‼︎
本はいきなり開きひとりでにページがめまぐるしくめくれはじめたのである!
「なっ!何だこれ⁉︎」
突然のことにクロロは驚きを隠せない。
ページのめくれるスピードは早く、風に煽られたクロロの髪が靡く。
すると、めくれるページから光る文字がいくつも舞い上がり宙に浮かびあがる。丁度、本の真上に浮いたまま規則正しく順番に並んでいく。
最後の文字が並んだと同時に本は閉じられたのだった。
「これは何かの魔法?それとも呪い?」
人智を越えた現象が目の前で起こり驚きを隠せない。
「そもそもこの浮かび上がっているのは何の文字なんだ?記号?」
クロロはこの光る文字が何を意味するのか全く理解できないでいた。そして、興味本位でその文字に触れようと手を伸ばした時、中央あたりの文字から羅列が崩れ始め渦を巻いて加速していく。
「うわっ⁉︎」
今度はクロロに向かって渦巻いている文字がひとつ、またひとつと額に吸い込まれていく!
呆気にとられるクロロは、有無を言わさず自身に向けられる未曾有の出来事に、なすがまま受け入れるしかなかった。
「…………………‼︎」
額に光る文字が吸い込まれていくと同時に、脳裏に見たことも、覚えのない風景や人物、会話などの情報が断片的に投影され流れ込んでくる……。
ーーーーーーーーー
(……⁉︎)
(ここはどこだ⁉︎)
「あやつがこのまま生み出し続けるのは危険じゃ」
「いかにも。この世の理を軽視し続けることは無論、見過ごす事はできん」
(誰なんだ?こいつら……)
「しかし、この世を永らえるためを想っての事ではないのでしょうか⁉︎」
(何を喋っているんだ……)
「だがな……事態は思ったより深刻なのだ………」
「お主はどう見る……オクストロスよ」
(…………⁉︎)
(ちょっと待て‼︎オクストロスだと⁉︎)
ーーーーーーーーー
(次は何だ……?)
「ここなら魔力の干渉は受けない模様です」
「よし、此処に塔を建造し女神を監視する!そして、来たるべくその日に備えようぞ」
「もう、避けられないのですね……」
「そうじゃな……」
「もう猶予は残されておらん。臨界を超える前に手を打たねば……」
(手を打つ?………塔を建てる?臨界を超えるだと……?)
ーーーーーーーーー
クロロは突然の破裂音を聞き我に帰る。恐らくジードが放ったものだろう。そのおかげか、我が身に起こっていた不可解な現象から脱したのだ。
クロロは自分の額に手を当てた。どうやら見覚えのない映像が見えた事以外、何もなっていないようだ。
ボンヤリ光っていた本は、まるで炎に焼かれ灰になったかのように自然とバラバラと千切れる。その破片は光を失いながら跡形なく消え、本は消滅していった………
(なんとも不思議な体験だったな……まるで誰かの記憶のようだった……)
(見えた場面の会話に、塔を建造するとも言っていたな……恐らくその塔っていうのはこの"風塵の塔"のことで間違いなさそうだ!)
(余談だが、あの本は誰が、どんな意図があって残したのかは分からないが、世に存在しない神"オクストロス"と繋がりがあるのは間違いない。そして、まだ謎が多いがメーヴィスが言っていたラグナロクの時代から続くこの"世界の真意"について少し近づいた気がする……)
クロロは忘却の彼方に葬られた時代の真実を垣間見たのだった。
「クロロ!大丈夫かー⁉︎」
ジードはクロロが落下した穴を覗きこむ。
(⁉︎)
(そうだ!ジードとアシル‼︎)
「はーい。大丈夫でーす‼︎アシルは……アシルは大丈夫ですかー⁉︎」
「クロロー!なんとか生きてるよ……。ジードがグリフォンを討伐したんだ!」
アシルは足元がおぼつかないが無事だったようだ。
「クロロー!どうやって戻るんだー?」
「ロープを投げるのでどこかに結ぶか、引っ張って下さーい‼︎」
その後、クロロは無事に屋上に生還し、3人で勝利を喜び合うのだった………
そこから3人は帰路へと着く。
ロードランナーを失い持ち運べる荷物にも限りがある。泣く泣く貴重な素材も捨てることを余儀なくされ、クロロは頭を悩ますのだった。
*******
ー ダリスギルド ー
ガランゴロン……‼︎
グリフォン討伐からギルドに帰ってきた3人は、扉からなだれ込むように入ってきた!
「着いた〜〜!」
衣服もズタボロで、足元もおぼつかないほどに疲弊した3人は、残りの気力を振り絞り受付へと向かうのであった。
(……?)
3人はフロアの雰囲気に違和感を覚える。
フロアにはテーブルを埋め尽くすほどの冒険者がいるが、皆どこか浮かばれない表情であった。
受付ではカロナが出迎える。
「皆さん!お疲れ様です!うわぁ〜ハデにやられちゃいましたねぇ……でも、ご無事で何よりです!」
いつもブレないその笑顔はどんなポーションよりも心身疲労に効き目がありそうだ。
(僕の心の故郷はやっぱりここだ……)
クロロは相変わらずそんなことばかり考えていた。
「カロナさん。今日は冒険者が多いようですが、皆さん元気がないですね?」
アシルは場の雰囲気がどうにもおかしいことに質問せずにはいられなかった。
「実は皆さんギルドからの依頼で、禍々しい魔力の発生事件と、ダリス近郊の魔獣狩り事件の調査で遠征に出られていた調査団なんです。つい先程、最終調査を終え戻ってこられたばかりなんですが……数日かけて調査をされたのに思うような成果や収穫がなかったようで精神的にまいっておられるのだと思います」
「……⁉︎」
事の発端であるクロロはもう後ろめたい気持ちでいっぱいだった。
「私としては今のところダリス近郊は安全だというのが証明されたのですから、良い成果だと思うのですが」
カロナの胸の内は複雑そうだった。
「そうだ!皆さんは……討伐クエストの報告でしたね!」
カロナはクエスト台帳に目をやる。
「えっ………⁉︎グ、グリフォン?……グリフォンですって⁉︎」
カロナの目の色が変わる……。
「あの……証拠になるものは、お持ちですか?」
「では、これをお願いするよ!」
アシルは証拠となる素材を受付カウンターに置いた。
カロナは動揺を隠しきれず少し離れた場所にいる鑑定士に向けてアイコンタクトで合図した。それに気づいた鑑定士は、カロナの普段は見せない驚きようを見て受付カウンターへ気怠そうに向かう。
驚いて声も出せずクエスト台帳を指差すカロナ、それを見ながら受付カウンターに並べられた素材をみた鑑定士。
すると、鑑定士は血相を変える。何度見ようが目を擦ろうが紛れもない事実がそこにはあった。
「こ、こ、こ、これは間違いなくグリフォンの素材‼︎」
「グリフォンの眼に覇者の大羽根、それと怪鳥の大爪です‼︎」
カロナと鑑定士はアシル、ジード、クロロの顔を見る。
その3人は、すり傷や泥だらけの顔から揃って白い歯を見せるのだった。
するとカロナはおもむろにその場から大きめのハンドベルを持ち出し活気よく鳴らした‼︎
フロア中に鳴り響くその鐘の音は、フロアで辛気臭い面持ちの冒険者たちの注目を集めるのだった!
「ダリスギルド准一級主査官カロナ・フィルナートより、ここにいる冒険者たちに通達する‼︎」
「ここにいる3名、ウォーリア アシル、ガードナー ジード、サポーター クロロの3名は、第1級討伐対象であるグリフォンを討伐し、ギルドはこれを受諾した‼︎そして、我らギルドはこの3名の果敢に挑んだ勇姿と、我らの本拠地へ無事に帰還したことを讃え、ここに"英雄讃歌"を宣言する‼︎」
カロナが高らかに宣言し終えると、フロアは時間が止まったかのようにシーンと静まり返っていた。
パチ……パチ……
静寂に包まれたフロアの外れから一音の拍手が響く。
パチパチ……パチパチパチパチ………
次第にフロアのあちらこちらから拍手が鳴り響く。それはすぐさま大きく一体となって、地鳴りのような大歓声と相まって、3人に向けられる称賛の嵐となるのだった‼︎
「うおぉぉぉぉぉぉ……‼︎」
「英雄讃歌だぁぁぁぁ〜〜‼︎」
3人のもとに職業や器量、老若男女問わずいろんな冒険者が集まり祝福する。
「やるっすねー!」
「おめでとうー‼︎凄えじゃねぇか‼︎」
「驚きだわ!あなた達、凄いじゃないの!」
アシルやクロロは自身に向けられた言葉を受け入れつつも、慣れない事態に困惑するのだった。
「おーーい‼︎お前ら全員隣同士肩組めぇ〜‼︎」
誰かが音頭を取る。
「おっ?あれ、やりますかぁ?」
(あれって何が始まるんだ?)
まだまだ新参者のクロロは何が起こるのかわからないでいるが、その場の雰囲気に流されていく。
一堂はみな肩を組み輪になり、一斉に大声で歌い出す!
その歌は、冒険者が困難に立ち向かい待ち受ける大敵を倒し、それにより弱者の救済となり讃えられる。……という内容の歌だった。
多くの冒険者はこの歌のように、この世界に蔓延る悪を打ち払い、弱者の、そして世界の希望の光となる為に冒険者を目指す。なのでこの歌はある種、冒険者の心の礎となっているようだ。
一方でクロロは、まるでグリフォンの討伐をした自分達の事をそのまま歌にしたようで、共感を得つつも、こそばゆさを感じずにはいられなかった。
「ワァァァァァァ……‼︎」
ひとしきり歌い終わるとフロアは妙な一体感が生まれ一層盛り上がる!先ほどの辛気臭い顔をする者などはもうどこにもおらず、皆、歓喜に沸いている。
「よっしゃ〜〜‼︎今日は朝まで飲むぞぉ〜‼︎」
「飯だぁ〜!飯持ってこ〜い‼︎」
クロロはいきなり始まったお祭り紛いに呆気に取られていた。
酒場のマスターはアゴをしゃくり下っ端達に指示を出す。
「ったく、忙しくなりそうだぜ……」
そう言って自身も厨房へと姿を消した。
階段に座り込んでいた吟遊詩人は弦楽器を取り出し、意気揚々と軽快な音楽を奏で、フロアの空間に彩りを添える。
「クロロさん、ほんっっっとうにお疲れ様でした!凄いです!たった3人でグリフォンを討伐するなんて偉業ですよ‼︎」
カロナはカウンター越しからクロロに声をかけてきた。
「カロナさん……」
クロロは振り返る。
騒がしいフロアの喧騒をよそに、クロロとカロナの2人だけの閑やかな時間が流れる……。
「カロナさん、質問いいですか?」
「はい、何でしょう?」
「この"英雄讃歌"って何なのでしょうか?」
カロナは受付からクロロの横へと歩み寄り話し出す。
「第1級討伐グリフォン……あの凶悪な魔物は数年前から多くの人々に悲しみと恐怖を植えつけ恐れられてきました。
ダリスギルドのみならず、他のギルドからも冒険者が討伐に挑みましたが、多くの命、仲間が奪われ、実力及ばず討伐を途中で断念、放棄する者も多く、討伐できる者がいませんでした」
「しかし、あなた方がグリフォン討伐を成し遂げた事により、グリフォン討伐で傷ついた冒険者や、悲しみや恐怖を抱いていた多くの人々に希望を与えてくれたのです。それに今回はダリス近郊の調査で編成された大勢の冒険者の行き場の無い沈んだ心をも動かしたんですよ!」
「あなた方が成し遂げた功績は、人々にとって称賛に値するものです。それにギルドにとっても大変名誉な事で、人々からの信頼や資金援助、町の人々や他ギルドからの顔も立ちますし、新たに冒険者を目指す者も現れるかもしれないのです!」
「それを皆で讃えずしてギルドとしての責務が務まりますか⁉︎」
(か、顔が……ち、近い……)
カロナは力説するあまり、距離感を見誤っている。
「それに……」
(⁉︎)
「私個人としても……」
カロナはクロロの両手をそっと包み込むように握る。
(えっ……⁉︎ちょっ……)
クロロは急な不意打ちに心臓が縮み込む。
追い打ちをかけるようにカロナの上目遣いに気が動転しそうだ。
「一度……」
(えっ⁉︎え〜〜⁉︎いきなり⁉︎……こ、心の準備が……)
「"英雄讃歌"の宣言、やってみたかったんです〜‼︎」
(……へっ⁉︎)
「いつも他の方がやっててずっと憧れてたんですが、やっと念願叶いましたよ〜!どうでした?おかしくなかったでしょうか?」
「す、素晴らしかったですよ」
「よかったぁ〜!」
クロロは肩を落とすのだった……。
「おーい!ここにグラス余ってんだ。誰か持ってけぇ〜!」
「はーい!私いただきまーす‼︎」
そう言ってカロナは湧き立つフロアに紛れ込んでいった。
(ハァ……ま、いっか)
フロアの賑わいはとどまる所を知らない。しかもその要因は自分達のことを讃えてのことだ。
クロロは"冒険者のサポーター"として初めて認められたと感じるのであった。
「おいっ‼︎」
(……‼︎)
「主役がこんなとこ突っ立ってねぇでグリフォンの話聞かせろやぁ!」
藪から棒に、片手に酒瓶を持った冒険者が肩を組み絡んできた。
「いいですよ!とことんお話ししますよ!」
クロロも冒険者が集う酒の席へと消えたいった。
・・・・・・・
ジードは酒場のカウンターで1人酒を嗜んでいた。
「マスター、同じのをくれ」
そう言ってランスロットが横の席に着いた。
「仕事はいいのか?」
「あぁ、今日はもう仕事にならん」
「ちげぇねぇ、フロアでこんだけ騒がれちゃあ無理ねぇわな」
「…………………」
「…………………」
しばしの沈黙が流れる………。
先に沈黙を破ったのはランスロットだった。
「グリフォン、討伐したんだってな」
「あぁ……」
「実は、グリフォン討伐の依頼書を見た時、誰も受注しなければ私が引き受けようと思っていたんだ……」
「…………………」
ジードは何も言わずに手酌する。
「その為にこの5年間、やつを討伐することだけを目標に己を磨き実力をつけてきたつもりだった。それが認められてか今はギルドマネージャーにまでになったが……」
「だが、依頼書を掲示する時にお前の姿が見えてな……。やはりこれはお前じゃないとダメだと思った……」
「あの日の私の無念さより、お前が受けた苦しみの方が言葉にできないほどのものだと承知しているつもりだからな……」
ジードは口を開く。
「すまねぇ……なんか勝手に背負わせたみてぇだな」
「そんな事はない……ただの私の傲りだ」
ランスロットはグラスの中で揺らめく自分を見つめる。
「イスカは、お前のその気持ちに喜んでると思うぜ……」
「そうだと……いいな………」
グラスの氷は溶けて崩れ、時間の経過を知らせる………
「そういえば、仇を討ったが冒険者はまだ続けるのか?」
「そうだな。おもしろい奴らとも出会えたしな……その奴らのおかげで昔の自分にケリをつけられたし、護る力の可能性をも広げてもらった……この恩はとてもじゃないが返し切れるもんじゃねぇ。だから、これからは奴らの力になってやりてぇんだ」
ジードは冒険者達と盛り上がるアシルとクロロを遠くから見つめる。
「驚いたな……決まったパーティーを組まず、ずっとノラだったお前からそんな言葉がでるとはな」
(どうやら、"そのおもしろい奴ら"のおかげで、心の傷は克服出来たみたいだな)
ランスロットはジードの心境の大きな変化に安堵するのであった。
「……ところで、お前はどうするんだ?」
今度はジードがランスロットに話しかける。
「何がだ?」
「冒険者。ずっとギルドマネージャーをやってくつもりか?かつては"戦乙女"とまで言われてたじゃねぇか?」
「おいっ!やめろ!その二つ名を呼ぶな‼︎……恥ずかしいだろ⁉︎」
ランスロットは頬を赤くして嫌がるそぶりを見せる。
「いいじゃねぇか!俺は好きだぜ?」
「へっ……?」
ランスロットはジードが口にした言葉に過敏に反応し思わず浮ついた声が出てしまった!
いきなりの事で心が急に締め付けられるような思いに駆られ心拍数が早くなる!そして、その言葉が本当なのか恐る恐るもう一度訪ねてみる。
「い、今なんて?」
「ああ、お前の二つ名だよ。俺が冒険者になった頃、何しても上手くいかない時だって、お前は魔物討伐を率先して引き受け前線で戦ってただろ?だから憧れてたんだよなぁ……って、あれ?どうした?」
ジードはランスロットの方をみると、なにやら感情を押し殺し小刻みに震えている!
「お……お前!…わ、わわ……私を揶揄うのもいい加減にしろぉ!」
「わゎ⁉︎な、なんだよ‼︎」
酒場のマスターは2人のイザコザにグラスが巻き込まれないようすぐに掴んで避け、なんとも言えない呆れた表情を浮かべるのだった……。
・・・・・・・
ギルドには多くの町の人が騒ぎを聞きつけ集まる。その中にはグリフォンに家族や仲間を殺された者たちがアシルやクロロ、ジードに感謝を述べていた。
祝杯は夜通し行われ、ある者は歓喜に酔いしれ、ある者は新たな決意を抱き、そして皆は、大いなる明日へ期待に胸を膨らませるのだった!
*******
ー ダリス 産業区 ー
鍛冶屋ゴンドには、ジードの姿があった。
ゴンドは工房の奥で座り込み、ジードに背を向け何かを研いでいた。
「親父……」
「…………………」
ゴンドは返事もせず、工房には擦り合わせる音だけが聞こえている。
「ケジメ、つけてきた」
(⁉︎)
一瞬、間が空くと再び擦り合わせる音が聞こえる。
「そうか……」
ゴンドはそう言うとおもむろに立ち上がると、ジードには見向きもせず次の作業に勤しむ。
「それと……これ、ありがとう。こいつが無きゃ全滅していた」
銀色に艶めく銀星銃をゴンドに見せた。
「あと、冒険者をまだ続けようと思ってる。恩を返さねぇといけねぇ奴らがいるんだ……親父には迷惑かけるが……」
「迷惑だなんて思っちゃいねぇよ」
ジードは今日、初めてゴンドと目が合った。
「自分のやりてぇようにやりゃあいい。後悔だけはすんじゃねぇ。それだけだ!」
それはいつも聞き慣れた言葉だった……。
「そいつを貸しな!」
ゴンドはジードの持つイスカを渡すよう要求した。すると、先程まで磨いていた物をイスカのバレル部に取り付けた。
「親父これは……」
「ブラッディの刃翼で作った銃剣だ。
短剣や針剣を付けようとしたが、重さで射撃精度の低下や反動が掛かりすぎちまう。だがこの素材は翼だ。軽くないわけがねぇ。オマケにそこいらの刃より切れ味が良いと来たもんだ。こいつにとっちゃあ打って付けの代物だ!」
「これで更にお前や仲間を護れるはずだ!」
「親父……ありがとう、本当に!」
ジードは父の不器用だけども真っ直ぐな懐の深さを痛感し涙した……。
写真にうつるイスカは温かな笑顔で親と子を見守っているのだった……。
読んでいただき誠にありがとうございます。
貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。
よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。作品の創作意欲に繋がります。
では、次話でお会いしましょう。
※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。




