第18話 VSグリフォン
グリフォンは地面を舐めるような低空飛行で迫ってくる！
「早いっ‼︎」
振りかぶった前脚での引っ掻きは、勢いも相まって凄まじい威力である！
シールドを構えるジードを体ごと弾き体勢を崩させたのである！そして、ジードの後ろにいたアシルに攻撃をしかける！
グリフォンはしっかりと2本脚で立ち、両前脚で交互に引っ掻く‼︎
繰り出されるその引っ掻きは目で追うのがやっとで、アシルは瞬きも許されないほどに斬撃を捌くのに手一杯で追い込まれている。
「くっ！」
何とか捌いているアシルにグリフォンは翼を羽ばたかせる。すると、その風圧でアシルの体は浮き上がり後ろへとのけ反りそうになる。
「ヤバい‼︎」
構える姿勢が崩れてしまい胴体がガラ空きになる。次の一撃を食らうと瀕死に陥るのは確実だ！
案の定、グリフォンは鋭い爪を突き立てアシルの胴体に攻撃を入れる！
「うぉぉぉらぁぁ‼︎」
迫り来る一撃とアシルの隙間に間一髪、ジードがシールドを滑り込ませ生命の存続を保持する。
グリフォンは上体を横へと捻り、長い尾を鞭のようにしならせ反動をつけるとアシルとジードを薙ぎ払う！
「ぐぁっ⁉︎」
2人は致命傷こそならないが、その叩きつける威力をもろに受け苦痛に顔が歪む。
アシルとジードは地面へと倒れる。
グリフォンは一度距離を取り体勢を整える。
アシルとジードはすぐ立ち上がりそれぞれ構える。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
2人とも息を切らしている。それほどさっきの攻防が激しかったのだろう。
すかさずクロロが持たせてくれていたポーションを飲み干す。
「強いですね……」
「ああ、だがまだいけるぜ！」
ジードはもう1度自らを奮い立たせる！
「クォォォォン‼︎」
またグリフォンから仕掛ける！
今度は飛び跳ねながら前脚を振り下ろしにきた！
アシルはそれを剣技で受け止める。
「虚空閃‼︎」
切り上げた刃と振り下ろされた爪が衝突する！
「がぁっ‼︎」
アシルの体にズシンと、とてつもない重量が掛かる。腕や肩、腰の骨が壊れそうだ！だがアシルは冷静さを失わなかった！爪に当てがう刃を滑らし、グリフォンの爪の生え際を狙って2撃目の剣技を放つ‼︎
「軌燕真月刃‼︎」
上へと斬りつけ振り払われた弧を描く斬撃は確かな感触があった！
「クギャァァ⁉︎」
グリフォンの前脚の爪が指から切り落とされグリフォンは仰け反る。
それを見たジードは素早く懐に入り込んだ！
「砕け散れぇ‼︎」
振りかぶったメイスは、グリフォンの胸部へと叩き込まれる‼︎
「剛牙粉砕極‼︎」
ジードの力強い一打はグリフォンを更なる深手を負わす！
「グワァァッ‼︎」
グリフォンは追い討ちをかけられる前にその場から飛び立ち、また石柱へと留まり距離をとった。
「いいの入りましたね！」
「結構手応えあったぜ！」
アシルとジードはグリフォン戦に光が見えたような気がした。
……が、グリフォンの次の攻撃にまた戦況は一変する。
グリフォンの体が光を纏う……。
「おいおい、魔法の詠唱かよ？」
「今のうちに詠唱を阻止しましょう！」
アシルはグリフォンの元へと駆け寄ろうとする！
「ダメです‼︎ここからだと間に合いません！」
様子を見ていたクロロはアシルを制止させる。
「なぜだ⁉︎攻撃を仕掛ければ詠唱を止めれるかもしれないだろ⁉︎」
「いえ、もう発動します。魔法陣からして風魔法ディアブル・ウィンド、厄介なやつです」
「厄介⁉︎」
「"追尾誘導する風の刃"ってとこでしょうか」
「クォォォォォォォン‼︎」
グリフォンが咆哮し、足元に魔法陣が浮かぶ！そして、魔法が発動した‼︎
人の背丈ほどの薄い半月形をした風の刃が4つ、目にも止まらぬ変則的な動きで迫ってくる！
「フッ‼︎」
アシルが軌道を読み斜め後方へステップして回避すると、瞬時に方向を変え間合いを詰める！
「ぐわぁ⁉︎」
避けたつもりが腕に切り傷を負った。
それをみたジードもシールドで受け流そうとするが、手前で方向が変わるので強い衝撃が伝わってしまう。
更に別の風の刃が襲う！
クロロも狙ってくる風の刃を凡庸ナイフで弾いたりアクロバティックな動きで回避する。
代わる代わる襲ってくる風の刃にパーティーは手も足も出ない。
と、そこにグリフォンが急降下してきた！
勢いよく着地し地響きを立てる‼︎その衝撃、風圧で3人はよろけてしまう。
「くそっ！こんな時に⁉︎」
無防備な状態に陥ったところに風の刃は容赦なく迫る。
「ぐぁぁぁ……‼︎」
回避もままらないアシルとジードはディアブル・ウィンドを受けてしまい、耐えきれない痛みに声が漏れる。
クロロは上手くナイフで弾き、その反動で体勢を立て直した。
パーティーを苦しめたディアブル・ウィンドは効力を失い消える。
しかし、目の前にはグリフォンがいる。完全に攻撃の間合いである。
グリフォンは前脚で薙ぎ払らおうと振りかぶる！クロロはダメージに怯んでいるアシルとジードを安全圏まで引っ張り投げた！
自身は防御の構えをとりながらナイフを迫りくる前脚側に突き立て攻撃を受ける！
クロロはまるで軽い物を投げられたかのように吹き飛ばされ、地面を滑りながら石柱にぶつかった。
「クロローー‼︎」
アシルはクロロの安否を危惧する。
「大丈夫です！」
クロロはスッと跳ね起きしてみせた。
クロロのナイフはグリフォンの前脚に刺さったままで気に障る様子だ。しきりにクチバシで外そうと躍起になっている。
隙をみせるグリフォンにアシルとジードは攻撃を仕掛ける。
「虚空閃‼︎」
「剛牙粉砕極‼︎」
気配に気づいたグリフォンは空へと飛び立ち間一髪のところで攻撃をかわした。
「アシル！ジード！今のうちに！」
そう言ってクロロは2人にポーションを投げた。
「ありがとう。助かるよ」
「すまねぇ、恩にきる」
2人はポーションを一気に飲み干し、瞬時に英気を養うのであった。
グリフォンは再び詠唱を始めた！全身が光を帯びる。
「今度はファル・ウィンドです‼︎」
クロロはグリフォンの魔法陣をみて魔法の性能を詠む。
無数の風の球体がコチラめがけ飛んでくる！
「ハーピィがやってきたのと同じ魔法だね‼︎」
アシルは攻撃をかわしながらグリフォンのもへと駆け寄る‼︎
「だな！俺はだんだん目が慣れてきたぜ‼︎」
ジードはシールドでいなしながらグリフォンとの距離を詰めていく。
ファル・ウィンドも消え再び迫撃戦となる。 2人は二手に分かれグリフォンを挟み撃ちにする！固まらず2箇所で攻撃した方が相手の戦力を分散し少しずつダメージを与えれると考えたからだ。
ましてやクロロのナイフが刺さった状態なら尚更効果は明確である。そしてもう一つ、退路を断つという点で上空へと逃がさないこともこの戦況において有効である。
上空へと逃げられると相手との距離をつくり、こちら側に不利な魔法の詠唱時間を作らせてしまうからだ。
「飛凰旋風陣・連‼︎」
「無命壊槌突‼︎」
アシルとジードは攻撃の手を緩めない‼︎
「ギギャァァァ……‼︎」
グリフォンは徐々に損傷を負う不利な状況に段々と冷静さを欠く。そして、飛び立つ初動に隙が生まれるのも承知で、無理矢理深手を負いながらも飛び立った！
「あいつ、上へ逃げやがった！」
グリフォンは上空でホバリングをしている。上空から睨み付ける眼光は先ほどよりも鋭く感じる。
「ギャァァァ‼︎」
人間如きにここまで傷を負わされたことが癪に触るようで、ワナワナと身を震わせて声を上げる。
そして、今度は1人ずつ狙っていく！踏み潰すように空から勢いをつけ落下し、引っ掻き回すとまたすぐ上昇する。そのような動きを繰り返す一撃離脱戦法に切り替えたようだ！
地面を強く揺らし襲い掛かるが、コチラも相手の動きを見極めてバックステップで距離を取ればかわせないこともないのだが……。
「くそっ！単調な動きだが、反撃ができない！」
アシルは手を焼いている！
グリフォンは標的を変えながら着地後の攻撃を繰り出し、敏捷性のある動きで相手との距離をとり再び飛び立つを繰り返す！
ジードを攻撃しに来た時、引っ掻こうとする前脚にクロロのナイフが刺さっていた！
ジードはそれを見逃さなかった！持ち前の動体視力で向かってくる前脚に刺さったナイフの柄の頭の部分をメイスで打ちつけた！
「グォォォォン‼︎」
グリフォンは痛みを堪えきれず叫び声をあげる。クロロのナイフは深くめり込みそのままグリフォンの前脚の指の股を裂いた！
クロロのナイフはグリフォンの血を地面に落としながら滑っていく。
「クォォォォォォォン‼︎」
グリフォンは一段と大きく咆哮する‼︎その気迫で周辺の空間はビリビリと震え、耳はその金切り音に耳鳴りを引き起こすくらいだ。
「クォォォォン‼︎」
グリフォンはその場でもがいて暴れている。どうやらかなり激昂しているようだ。何を仕出かすかわからない動きにアシル達は迂闊に手を出せないでいる。
するとグリフォンの目の色が変わった！
そして、大きな両翼を広げまた飛び立つ！
しかし今度は上空を飛ぶのではなく、塔の最上階あたりの外周をグルグルと回り始めたのである。
何処から仕掛けてくるかわからない状況にグリフォンから目が離せない。
クロロは落ちたナイフを拾う。
「やつは何をしかけてくる⁉︎」
「わかりません！僕にも予測不能です！」
「クォォォン！クォォォォォォォン‼︎」
グリフォンはぐるぐる回りながらまだ鳴き続けている。よっぽどはらわたが煮えくりかえっているようだ。
3人は屋上の中央に集まり背中を向け合いながら構える。
石柱と石柱の間から見え隠れする姿が何とも不気味だ。
「これだけ僕らに怒りを向けられると飛んで逃げたりすることは無さそうだね」
「こんな熱烈に思われるなんて自分に嫉妬するぜ！」
「ジード、冗談言ってる場合じゃないですよ。さすがの僕もこの状況はどうサポートしたらいいかわかりませんからね」
3人に緊張が走る……！
「伏せろ‼︎」
アシルの叫び声と同時に、けたたましい轟音が辺りの状況を一変させる！
突風とともに3人を大小様々な岩が体を打ち付ける‼︎
「……⁉︎」
岩が飛んで来た方向に背を向けていたクロロは、なぜ岩が飛んできたのか、どこから飛んで来たのか理解出来ない。ただ体中に痛みが走る。
すると、今後は先ほどとは別の場所からけたたましい轟音が鳴ると、その方向から突風とともに岩が体を目がけて飛んでくる。
「ぐうっ‼︎」
恐らくグリフォンが何か仕掛けてるのは間違いないが見当がつかない。
……と、クロロの前に我が目を疑う光景が飛び込んでくるのと同時に、不可解な岩攻撃の正体が判明するのだった‼︎
上空を旋回するグリフォンが塔の中央に向かって勢いよく突っ切る際、屋上の外周に立つ石柱を破壊し、その砕けた石柱の礫を3人にぶつけていたのである‼︎
「うわぁぁぁ‼︎」
グリフォンは休む事なく次々と石柱を破壊し礫をぶつけてくる。3人は予測できない方向からの攻撃になす術なく深刻なダメージを受け、立つのもままならないのだった……。
＊＊＊＊＊＊＊
けたたましく鳴っていた轟音がやんだ………。
今は風の吹く音だけが鳴っている。
塔の屋上に並んでいた石柱は数えるほどしか残っておらず、散らかる瓦礫とアシル、ジード、クロロが横たわっていた……。
次第に空からゆっくりと翼を羽ばたかせる音が近づいてくる……。この状況を作り出した大空の覇者 グリフォンであった。その様は優越感に浸っている。
「うっ…」
「がはっ！」
3人の意識はあるようだ。だがその様子は芳しくない。
「やばい……な…」
ジードは何とか立ちあがろうと痛む体に鞭を打つ。
「みん…な……大丈夫ですか？」
アシルは剣を支えに何とか立ちあがろうとする。
「痛ってぇ……やってくれますね」
クロロは自身に乗っかる瓦礫をどかし跪く。
「クォォォォォォォン‼︎」
反撃もできない冒険者たちに追い打ちをかけるようにグリフォンは詠唱を始めた！
グリフォンに小さな光が集まりだし全身が輝き始めた！塔上空の天候もそれに呼応するかのように分厚い雲を発生させ鬱蒼とし、風も吹き荒れ状況は目まぐるしく変化する！
「何を……始めようってんだ⁉︎」
ジードはこの目の当たりにしている状況を必死に理解しようとする。
「あれは……上級風魔法、ディオゲイル・ウィンド‼︎」
「上級……⁉︎」
アシルはクロロの言葉に死が頭をよぎった。
「あいつ……これで決着をつけようってんだな⁉︎」
クロロは討伐を中止し退避することも考えたが、散らかった瓦礫で降りる階段を塞がれてしまっていた。瓦礫をどかそうにもこの負傷した体では、魔法の発動までに瓦礫をどかすことは到底間に合わない。
「皆さん、あまり回復の効果は見込めませんが、今、手元にある最後のポーションです」
クロロら3人はこれから襲い来る攻撃に対し少しでも生存率を上げる為、ポーションを飲み干した。
「あとは出来るだけ大きな瓦礫の影に身を隠して踏ん張って凌いでください！」
「あぁ！……わかった！」
それぞれおぼつかない足取りで倒れた石柱の影に身を潜めた。
「クォォォォォォォン‼︎」
グリフォンのチェックメイトを彷彿とさせる咆哮が、唸る曇天にこだまする‼︎それを合図に幾重にも重なる幾何学模様の魔法陣が上空へと描かれた‼︎
ジリジリと辺りが揺れ動き出す。そして一陣の風が吹く。次第に風はまとまりを得て暴風へと様変わりするのだった！
上級風魔法ディオゲイル・ウィンドは、風塵の塔の屋上を渦巻き状に包み込み、ありとあらゆるものを我が物顔で巻き上げていくのだった。
「痛ッ⁉︎」
「ぐあぁぁぁぁぁ……‼︎」
吹き荒れる風は体を斬りつける刃となり、散らかる瓦礫も吹き飛ばされて体に叩きつけられる！
塔を包む暴風の渦は、曇天の黒雲を引き寄せ天と地を繋ぎ合わせる。そしてその光景を喝采するかのように稲光が走る。
このとてつもない現象は地響きのような音を空へと響かせ、冒険者を更なる死の淵へと陥れるのだった…………。
読んでいただき誠にありがとうございます。
貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。
よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。
食後の睡魔に勝てると思うので、作品の創作意欲に繋がります。
では、次話でお会いしましょう。
※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが？』も是非よろしくお願い致します。
