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第16話 イスカ

 ジードは目を覚ました。頭はクラクラして状況が掴めない。


 「生きているの……か?」


 かすれていた視界がだんだんと見えてくる……。すると目の前に映し出されたのはデスサーペントの顔面だった‼︎


「うぉぉぉぉ⁉︎」



 突然の恐怖の再来に身体が強張る!



「⁉︎」


 よく見るとデスサーペントは口を閉じ、その隙間から長い二枚舌を地面へと垂れ下げている。そして、頭には剣が垂直に突き刺さり息をしていなかった。


「ふぅーーっ」


 ジードは安堵のため息がこぼれた。恐怖は去ったと認識し仲間の存在が気になった。


 辺りを見るとアシルがクロロとロードランナーを看病していた。


「ジード!目を覚ましたんだね! クロロもロードランナーも無事だよ。今は、意識を失っているけどね」


「良かった……。アシル、これはどうなってんだ?」


「僕もよくわからないんだ……。なにせ目が覚めたら何故かデスサーペントが岩を丸呑みしようとしてる最中だったから、脳天めがけて剣を突き刺してトドメを刺したんだ。 その時にはみんな気を失っていたんだ」


「うぅ……」


 クロロが上体を起こし目を覚ました。


「皆さん……平気ですか?」


「あぁ、みんな無事だよ」


「そっか、あの薬……上手くいったんですね」


「薬……?」


「はい。デスサーペントのトグロに囲まれていた時、咄嗟に手に取った薬を使ったんです。かなりの賭けでしたがね……」


 クロロはデスサーペントの横を指差す。その傍らには蓋の空いた小瓶が転がっていた。


「あの薬は僕が"幻夢草ゲンムソウ"という幻覚・催眠効果のある草を調合したものなんです。効果は一時的ですが非常に強力です」



 ジードはうろ覚えな記憶をたどる


(あの時のどこからが幻覚・催眠だったのかわからねぇが、ただならねぇ恐怖心や頭が真っ白になる感覚は幻覚・催眠だったというのか……)


「とにかく無事で良かった。クロロ、アシル助かった。ありがとう!」


 ジードは助かった礼を2人に伝えるのだった。


 その後、ロードランナーも無事に調子をとりもどし、この不穏な場所を後に先へと進むのだった…………




・・・・・・・




 パーティーは再び風塵の塔へと歩き始める。しかし、アシルは何やら神妙な面持ちである。



(あれは本当だったんだろうか……)


 アシルはあの時見た光景に疑心を抱いていた。

 それはデスサーペントに薙ぎ払われ、岩壁まで飛ばされた拍子に意識を失っていた時のこと…………


 あの時、目が覚めて視界に飛び込んできたのは、クロロが黒いオーラを纏い、デスサーペントの下顎を拳で打ち上げた姿だったのだ‼︎


 デスサーペントは真上へと突き上げられ、その後、岩を獲物と錯覚し呑み込もうとしていたのだ。

クロロに纏っていた黒いオーラはすでに消えており、そのまま倒れて気を失ってしまったのである。


 クロロなら何かしらのアイテムでそんなこともできるのかもしれないが、あれは明らかにそういったものではない気がしてならない。

 (クロロには人知を超える何かがあるのだろうか……?)

 ただ、命を落とす状況を覆したのは事実であり、今のクロロは至って平然だし、記憶にも自覚もない模様。


 この状況を喜ぶべきなのだろか………。アシルは疑念ばかりが残るが、今はひたすらに歩を進めるのだった………。




*******




 ついに風塵の塔の目前まで辿り着いた。


 この場所には荒れ果てた岩盤をくりぬいてできた洞穴があった。洞穴を抜けると岩に囲まれた地形があり、そこには自然にできたと思われる水辺があったのである。

 オアシスというには心もとないが休むには充分だ。


 このまま塔へと入り討伐へ踏み切るのも考慮したが、先の戦闘で疲労が蓄積されていたこともあり、明日の戦いに備え今日はここに腰を落ち着けるに至った。



 辺りは暗くなり、洞穴の壁は焚き火の炎に照らされ伸びた影が映る。

 皆、明日の為の武器の手入れや、装備の確認など準備を怠らない。



「2人とも、ちょっと話をいいか?」


 ジードは真剣な面持ちで口を開いた。



「今回、グリフォンを討伐するに当たって2人に伝えなきゃならないことがある。」


 アシルとクロロは動かす手を止めた。




「今回、俺がグリフォン討伐を選んだのには、ただただ地位や富、栄光の為に選んだわけじゃないんだ」




「実は……妹の仇なんだ」




焚き火の炎に照らされて、ジードの左耳の羽根付きピアスが煌めいている……。





*******





- 5年前 ダリス産業区 -




「お兄ちゃん!もうすぐ誕生日よね?」


「ああ、そうだっけか?」


 鍛治工房で甲冑の形成作業をしながら、素気なく返事するのはジードだった。


「もぉ!自分の誕生日でしょ!」


 ジードは一旦手を止め額の汗を拭う。


「あのなぁ……毎日コキ使われて忙しいのに、そんなのいちいち覚えてるわけねぇだろ?」


「何よ!私だって毎日1人で家事全部やってるんだからね!

 お父さんも、お兄ちゃんも炊事に洗濯、掃除、ぜーーーんぜんやらないクセに!それくらい何なのよ‼︎」


「イスカ……お前ホント最近おふくろに似てきたな」


「当然よ。私はこのクラフトス家のお母さんだから……よ!」


 妹のイスカは踏ん反り返って見せた。


 ジードとイスカはそのやりとりが面白おかしくなり、2人して笑った。


「バッカヤロォ‼︎手ぇ止めてねぇでサッサとそれ仕上げろぉ‼︎」


 突然、つんざくような怒鳴り声が工房の奥から聞こえてきた‼︎

 2人は顔をしかめる。


「ほら……怒られたじゃねぇか」


 ジードは小声で話し、イスカに原因の矛先を向けようとした。

 イスカはそそくさと工房を後にしようとする。


「あっ!そうだ!

 お兄ちゃん。誕生日プレゼントは私が手作りしてあげるからね!」


 去り際にそう言って工房を去っていった……。




- ダリス 市街 -




 イスカは誕生日プレゼントに何を作ってあげようかと脳内会議をしながら市街を歩いていた。


(お兄ちゃん、何をあげたら喜んでくれるかしら?美味しいお菓子なんてどう?……いやいや。そんなのありきたりだわ。

 編み物なんてどうかな?……いや、あまりそういうのは身に付けなさそうだし……。

 うーん……身につけてくれそうなものねぇ)



 その時、町の上空を銀色した鳥の群れが通り過ぎていった。


 「あれは…銀星鳥ぎんせいちょう。また戻ってきたのね」



【 銀星鳥ぎんせいちょう 】

季節によって生息地を変える渡り鳥。ダリス近郊の森が繁殖地になっており、毎年この季節になると飛来するのである。

その銀色の羽根は光をキラキラと反射し、2本に枝分かれした尾羽を広げ飛ぶ姿は、まるで星の形に見えることからその名が着いた。

また、"鍛治の神クランクラン"の使いといわれており鍛冶師のあいだでは特別な鳥なのである。



 市街を歩いていると町の女性たちが声をかけてくる。


「イスカちゃん、また新しい指輪できたら教えてね」


「うん。今度は新しいデザイン考えてるからまた見てってね」


「イスカちゃん、この間のネックレスつけたら旦那が褒めてくれたわ」


「そうなの?よかったわ」


「あっ!イスカちゃん!今度はいつあのブレスレット再販してくれるのかな?」


「材料が入り次第作りにかかるわね!」


 イスカの作る装飾品は、ダリスの女性たちからとても好評なのである。最近では結婚指輪の依頼をする男性も増えてきたとか。



(お兄ちゃんの誕生日プレゼント…………。

そうだ!銀星鳥ぎんせいちょうの羽根を使ったピアスにしよう‼︎)


 イスカは装飾品に使う材料を揃えにリーゼ市場へと向かった……。



・・・・・・・



「ねぇ、また家畜が襲われたみたいよ」


町の住人は何やら不穏な噂話をしている……。


「またか。この間は農作業してた老人が殺されたばかりだというのに……」


「いつまで怯えながら生活しなきゃいけないんだ!」


「冒険者は何をやってるんだ⁉︎」


「何度か討伐を試みてるらしいが結構てこずっているらしいぜ」


「えー?それでもダメなの⁉︎」



 ダリスでは最近現れた魔物による被害が多発しているようだ。






- 鍛冶屋ゴンド -




「ただいまー」


「おう。イスカか、今日は晩飯つくっといたぞー」


「へぇ。お兄ちゃんにもそんな心があったのね」


「まぁな、いつもやってもらってばっかじゃ悪りぃしな」


「ありがと。いただきまーす」

(えっ⁉︎、おいしんだけど…)


「あっ、そうだ。最近強い魔物が出現してるみたいだから気をつけるんだぞ」


「そうなの?私、銀星鳥ぎんせいちょうの羽根を取りに行こうと思ってるの」


「ダメだ、あの辺りは最近、今話した魔物の被害が出たところだ」


 イスカは一瞬だけ、しかめっ面をかます。


「………わかったわ。銀星鳥ぎんせいちょうの羽根はあきらめるわ」

(お兄ちゃんはお父さんと同じで頑固だから何言ってもこっちの意見は聞かないわ。 こっそり行くしかないわね)


「うん。それでいい」

(なんだ?やけに素直だな……)





*******





明くる日、身動きの取りやすそうな服装に、少しばかりの道具バッグをもったイスカの姿があった。いいつけを破り銀星鳥ぎんせいちょうの羽根を取りに行くようだ。


「よしっ!行こう。お兄ちゃんには内緒だけど、魔物に気をつけていれば大丈夫よね!」



 イスカは人目につかない裏道を選び、ダリスの外を目指す。



 入り口門のところでイスカは討伐から帰ってきたランスロットと出会う。

長い金髪にボディラインがくっきりわかるタイトなスーツに巨大なランス、片手には大型の獣の生首を持っている。


「イスカ、今から出ていくのか?」


「ランスロットさん。すぐそこで素材を取りに行くだけ。すぐ戻るわ」


「ならいいが、近頃は凶暴な魔物が現れている。気をつけてな」


「ありがとうございます」


 イスカはランスロットと会話を済ますと銀星鳥ぎんせいちょうの住処へと向かうのだった。




*******




「すまない。このランスを修理したいのだが」


 鍛冶屋ゴンドを訪れたのはランスロットだった。


「おお、ランスロットか」


 出迎えたのはジードだった。

すぐさまランスの状態を確認する。


「どれどれ……うーん。これくらいなら全体を磨いてやるだけで大丈夫だと思うぜ!」


「そうか。なら頼む」


「オッケー。そこに座って待ってな」


ジードはすぐに作業に取り掛かるのだった。





*******





「あっ!ここね」


 イスカは銀星鳥ぎんせいちょうの群れが巣食う木の下に到着した。


「ピアスに使うのに良さそうな羽根は落ちてないかしら?」


 イスカは木々の周りを歩き回り銀星鳥ぎんせいちょうの羽根を夢中になって探しつづけた。

 暫く夢中になって探していると、やっとピアスにするのに相応しい羽根をみつけた。


「うん!これなら良いのができそう!」


 目的を達成した。そうなると早くジードに渡して喜ぶ顔がみたい、お祝いがしたい、そんな気持ちが起こるのだった。


「そうだ!昨日作ったピアスフックもあるし、このままここで組み上げてしまいましょ」





*******





「よっしゃ!出来上がったぜ!」


 ジードは頼まれた修理が終わった。


「ありがとう、素晴らしいな。まるで新品みたいだ。いくらだ?」


「15000メルスでどうだ?」


「わかった。支払おう」



 ランスロットは料金の支払い時に不意に思い出した。


「そうだ、私が討伐から戻ってきた時、入り口門のところでイスカに出会ったぞ」


「そうか」


「何でもすぐ近くに行くだけだからすぐ戻ると言っていたが……まだ戻ってこないな」



(私、銀星鳥ぎんせいちょうの羽根を取りに行こうと思ってるの……)

 ジードは昨日、イスカが外に出て行こうとしていたのを思い出した。


「すまん!ちょっとイスカを探してくる‼︎」


 ジードはすぐさま店を飛び出して行った!


「おいっ!ちょっ……待てっ‼︎」





*******





「やったぁ!でーきた。

うん!我ながら上出来だわ!」


 イスカは出来上がったプレゼントを早く渡したくてたまらなさそうだ。



 ---突然、座り込む自分の周りに黒い影が覆いかぶさって来た!そして……



 ズシンッ‼︎



 地響きとともにイスカの目下にとてつもなく大きな猛禽類の脚が見えた!その時間差で強風がイスカに吹きつける。


「えっ……?」


 視線を上へと向けると、上半身は猛禽類、下半身は獅子のような大型の魔物が両翼を広げ、鋭い目でイスカを睨んでいた。


 木々に留まる銀星鳥ぎんせいちょうの群れは一斉に飛び立つのだった。




*******




「あの一帯、鳥の群れが飛び立ってる!」


「私には、何も見えないぞ⁉︎」


 ジードとランスロットはダリスの外に出てイスカの元へと急いで向かう。


「イスカのやつ、やっぱり銀星鳥ぎんせいちょうの住処へ行きやがったんだ!」

(それにあの気配……嫌な予感がする!無事でいてくれぇ‼︎)




・・・・・・・




 イスカは大型の魔物から必死で逃げていた!


「キャーーー!」


 魔物は前脚の鋭い爪で引っ掻こうと振り抜くが木々が邪魔をし、イスカは何とかかわす。


「ケェェェェェェン……‼︎」


 魔物は甲高い鳴き声を上げながらイスカを追いかけ続ける‼︎


「キャッ⁉︎」


 イスカは木の根っ子でつまづいて転んでしまった‼︎

 大型の魔物はイスカの前に立ちはだかる。


「ケェェェェェ……‼︎」


 魔物はイスカを威嚇する!


 イスカは恐怖に満ちて顔が蒼くこわばる。足腰は震えて立てない!


「イスカーーー‼︎」


 遠くからジードの呼ぶ声が聞こえる!

 イスカは勇気を奮い立たせ兄の声に応える‼︎


「お兄ちゃーーーん‼︎」


「イスカ‼︎」


 ジードはイスカの姿を確認した!しかし、すぐ側に大型の魔物が両翼を広げて襲い掛かろうとしている姿に絶句する。


(な、何だあの魔物は………⁉︎)


「あいつはグリフォン‼︎」


 ランスロットは魔物の名を明かした。


 イスカは奮い立たせた勇気のお陰で逃げの一歩を踏み出せた。


「キェェェェェン‼︎」


だが、無情にもグリフォンはその鋭く尖った爪でイスカへ攻撃を仕掛ける‼︎



「お兄ちゃぁぁぁん‼︎助けてぇーーー‼︎」


「イスカァァァーーー‼︎」


 森に絶望が響き渡る‼︎




冥獄螺旋槍めいごくらせんそう‼︎」



 ジードの背後からランスロットの声が聞こえた瞬間、真横を閃光が駆け抜け、グリフォン目がけ巨大なランスが投擲された‼︎

 放たれたランスは空間の歪みを螺旋状に纏いながら一直線に飛んでいく‼︎


 しかし、グリフォンはそのランスの攻撃に易々と反応し、前脚でランスを捉え地面に押さえつけ攻撃を無効化してみせたのである!


「なっ……⁉︎」


 ランスロットは渾身の力で放った投擲をいとも簡単に処理されてしまった予想外の事態に驚きを隠せないでいた。


 そして………




 グリフォンの爪はイスカを背後から貫いていた………。



 「イスカァァァ---‼︎」



 イスカは自分の腹部から異物が突き出ている状態に違和感を覚え、自分の体がどのようなことになっているのか全く理解できないでいた。

 そして、自分のだと認めたく無かったが、真っ赤な血が腹部から滲み出ているのを見ていると、急に胸がつっかえるのを感じ咳き込んだ。

 すると口から大量の血反吐が溢れる……。


(あぁ……やっぱりこの血は私のなんだ)


 イスカは自分の信じたくない現実に落胆するのだった……。


(?……私を呼ぶ声がする……)


 イスカは声のする方へ視線を向ける。


(お兄ちゃん……なんて顔をしてるの?それにランスロットさんも………)


 急に、イスカの視界が左方向へと流れる。


 グリフォンはイスカを貫いた前脚を振り払ったのである。

 振り飛ばされたイスカは無惨にも地面を転がる。


 ジードはイスカの元へと駆け寄った。


「イスカァ……おい‼︎イスカ‼︎」


 ジードは懸命にイスカの名前を呼ぶ。


「きっさまぁぁぁ‼︎」


 ランスロットはグリフォンのむごい仕打ちに激高する‼︎

 グリフォンの懐に素早く入り込み、押さえつけられているランスを力づくで奪い返す‼︎

そこからはグリフォンと一対一の迫撃戦を繰り広げる!



「イスカぁ……何で…何でなんだよぉ」


「お……兄…ちゃん………」


 ジードはイスカの手を握り抱き寄せる。


「ぉ…兄………ちゃ…ん………ごめ………ん……な………さぃ……」


「いいから……もう、いいから…」


 2人のまわりには血溜まりが広がっている。


 イスカは必死に何かを伝えようとする。


「……こ……れ…………」


「これが何だ?どうしたんだ⁉︎」


 イスカは握った手の中から羽根付きピアスをジードに見せて渡そうとする。その手は今にも温かさが途絶えそうにふるふる震えている。


 「…ぉ……誕…生………日…………ぉ…め………で………と……」


 イスカはゆっくり瞼を閉じ、眠るように意識を失った。


「おい、イスカ……目ぇ開けろ‼︎イスカ!」





「イスカァァァァァァーーー‼︎」





 ジードの叫びが無情にも響く。

それを戦いながら背中で聞いたランスロットも呼応するかのように叫び、仇を討とうと猛威を振るった!

 しかし、興味が逸れたのか、グリフォンはいきなり体躯を揺らし羽ばたいて飛んで行ってしまい、激しい交戦は呆気なく幕引きとなった。


 ランスロットは空へと飛びゆくグリフォンをただ眺めるほかなかった。


「くそぉぉぉ‼︎」


 悔しさ、無念さ、情けなさ、様々な負の感情が一気に押し寄せる。

 激しい一騎打ちを物語るかの様に、ランスロットの衣服はズタボロで肌身の大部分があらわになっている。




「……‼︎」


 ジードはイスカの握る手に微かに反応がある事に気がついた。


(まだ間に合う‼︎)


 ジードはイスカを背負いダリスへと戻るのであった。

 力無くもたれかかる人間を背負うのはとても重たい。背中は血が服に染みてベタつき、持ち上げる手に血が流れ込むと滑りそうになる。

 だんだんとイスカが冷たくなっていくのを感じるのだった。


(夢であってくれ……夢であってくれ……夢であってくれ)



 ジードはそう念じるしか手立てがなかった。





*******





 墓地にて手を合わせるジードの姿があった。




"我が愛する家族


    イスカ・クラフトス


           ここに眠る"



 そう書かれた墓石には銀星鳥ぎんせいちょうの羽根が置かれている。


「イスカ、聞いてくれよ。親父はこんな時でも仕事ばっかやってんだぜ。ホント何考えてるかわかんねぇよ……付き合いきれねぇ。だから俺、家を出ていくよ」


「それでさ……俺、冒険者になるよ」


「俺さ、もう嫌なんだ……イスカを目の前で失った俺のような思いを誰にもさせたくない。だから、せめて目の届く範囲の人たちだけは護ってやりてぇんだ‼︎」


「どこまでできるかわからねぇが、イスカ、見守っててくれ………」



 ジードはそうして左耳にイスカが作った羽根付きピアスをつけた。

読んでいただき誠にありがとうございます。

貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。

寝違えた首の痛みも無くなると思うので、作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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