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第15話 全滅

 空がだんだんと白みはじめた明朝、ジードはダリスの出入り口の門前に到着した。既にアシルが先に到着していた。


「おす!あとはクロロだけだな」


「あぁ、そうだね」


 程なくしてアシルとジードを呼ぶ声がする。


「アシル!ジード!お待たせ‼︎」


 クロロに呼ばれ振り向いた2人は驚いた!

 クロロは人間の背丈ほどの全長3mはあろうか、二本足で歩く大きなトカゲの手綱を引き、ともに歩いて来たのである。


「ロードランナーか!」


「そうです」

「貸出しなのですが、旅路はそれなりに長く、途中に町もないようなので今回はコイツに荷物を持たせて目的地まで行こうと思います」

「しっかり運搬用に飼い慣らされているので活躍してくれると思います」


「いいね。ロードランナーは雑食だから、エサも旅の休憩中にその辺で済ませれば気にすることもない、おまけに危険が迫ると知らせてくれるようだし」


「うん!僕にとってのサポーターさ‼︎」

(荷物を運搬できると、新しい武器の弾のストックの問題点を解消できる!……あとは弾の加工なんだけど……。)


 クロロは新武器の問題点を解消していく。


「それじゃ、行こう!」


 こうして、クエスト依頼の達成に向けダリスを出発するのだった。




*******



ー ダリス近郊 エーゲル大平原 ー



「ジード!右から突進がきます‼︎」


「オッケー!任せときなぁ!」


 5tはあろう巨体のデビルボアの突進をジードは正面から受け止める‼︎


 構えたシールドに額を強く打ち付けた衝撃で、鈍い衝撃音が周囲に響く!

 シールドの両端からはデビルボアの下顎の左右の長い牙がこちら側に覗き、そそり立っている。

 受け止めたジードの支える足は地面をえぐる!


 「アシル!今だ!」


 ジードは合図を出す。すると、アシルがジードの背後から脇腹を抜け、せめぎ合うデビルボアの顔の斜め前へと飛び出し技を放った‼︎


 「煌牙瞬鳴突こうがしゅんめいとつ‼︎」


 剣より放たれた突きは、デビルボアの顎下あたりに深く入り込む!厚い脂肪と硬い皮膚に覆われているので、こうでもしなければ致命傷を与えられないのだ。


「グロォォロォォォォロォゥゥゥ………‼︎‼︎」


 急所をとらえたのか、デビルボアはのたうち回りながら口や傷口からおびただしいほどの血を吐く……。暫くすると四本脚で立ち、消えゆく闘志を奮い立たせコチラを睨みつけるが、脚はカタカタと小刻みに震え、脈と同時に傷口から血が滴り落ちる。

 途端、前脚から崩れ体勢を崩すと、ゆっくりと横たわり絶命するのだった……。



「アシル!そっち引っ張って下さい!」


「こうかい?」


「デビルボアの肉は今夜の飯に使いましょう!ちょっと臭みはありそうですけど、香草で誤魔化せばなんとかなるでしょう……」


「おい!顎の牙はどうする?」


「根元から折ってロードランナーに背負わせましょう!良い値段で売れると思いますよ!」


 パーティーはデビルボアから戦利品を調達した。



・・・・・・・




旅路は長く、たわいもない遊びをすることもしばしば……。


「さっ!ジード、どっちだ⁉︎」


クロロとジードは指で弾いたコインを右手か左手、どちらに隠したかを当てる"コイン当てゲーム"をしていた。


「簡単!簡単! 右だ!」


「正解です!」


「よしっ!これで15連勝〜‼︎」


「凄いな、ジード!このゲームは誰も君には勝てない」


 最下位のアシルは脱帽している。


「そうだろ〜?俺は目には自信があるんだ!」


「…………………」


 クロロはジードを見て不敵な笑みを浮かべている。

 クロロはこの遊びでジードのもつ可能性に確信を得たようだ…………。



・・・・・・・



落ちゆく日差しは燦然たる光を放ち、周囲の山々の頂を抉るように照らす。



 ジードは辺りを見渡し、日没がせまっているのを確認した。

 すぐそこには広く窪んだ地形に大きな岩陰があり、キャンプをするには良さそう場所だった。


「みんな!今日はこの辺りでキャンプしよう!」


 ジードはパーティーに声をかける。


「了解。お疲れ様!」


 アシルはその場に座り込み、空を見上げて溜め息する。


「それじゃ、キャンプの準備するね」


 クロロは手際良く作業に入る。




・・・・・・・




 焚き火を囲みながら食事にする。


 途中で倒したデビルボアの肉は、香草、香辛料で味付けして焼いてみたが、やはり臭みは消えきれずクセのある肉だった。だか、みな何も言わずに淡々と腹を満たした。

 このような状況では、腹を満たせること自体が当たり前ではなくなっているからである。




 世も更け、焚き火の暖かさが心地良いのか、ロードランナーは地面に寝そべり身体を休めている。

 アシルもロードランナーにもたれかかり寝ている。


 ジードとクロロは見張のために起きていた。


 クロロは新武器の設計図を見ながら弾の加工について模索していた。


 「何見てんだ?」


 ジードは頭を抱えるクロロを見兼ねて声をかけた。

 クロロは新武器の発明からのいきさつをジードに話した………。





「お前すげぇな‼︎こんな画期的なもの思いつくのかよ⁉︎」


 ジードは驚嘆する。




「ほぅ、なるほどね……。トリガーを引くと撃鉄が魔法発動の刻印が刻まれた撃針をノックして、加工された魔石の弾の魔力が発動し魔砲弾が射出されるわけね」

「それで、撃ったと同時に次弾が装填されるか………。魔砲弾の制御は?」


「撃針に刻印された魔法陣が、魔砲弾の属性や威力など全て同じになるように制御してます」

 

「これがあれば誰でもその辺の魔物にだって対抗できる!まぁ、使い方によっちゃ人間同士の争いの道具にもなるがな……」


 ジードは新武器のもたらす可能性と危険性を感じるのであった。



「あと、問題点は旅先で弾、飛射物の加工が出来れば残弾数を気にする事はほぼ無くなるんだけどなぁ……」


「弾の加工ね……どれ、魔石貸してみな!」


 ジードは何やら得意げに自分のカバンから複数の金属性のヤスリを取り出した。それぞれヤスリの目や形が違うので物により使い分けるのだろう。

 すると、それらを器用に使い魔石を削り出し、物の見事に加工して見せたのである!


「おぉぉ‼︎すげぇぇ‼︎完璧だよ‼︎」


 クロロは目を丸くする。


「あとはこの筒にはめてかしめこむ!」


 ジードは仕上げを施す。


「できたーーー‼︎」


 クロロは大声で叫ぶ!


「ギギャアッ⁉︎」


 クロロの声に驚きロードランナーとアシルは飛び起きる!


「凄い!ジード‼︎こんなの普通はできないぞ⁉︎」

(これで、新武器を使える条件クリアだ‼︎しかも、適合者はジードしかいない‼︎)


「実は俺の生まれは鍛冶屋でさ、幼い頃から装飾品の加工や修理、親父の作った武器やら防具のバリを削ったり色々やってたんだ。もちろん自分で武具を作ることも出来るぜ。設備はいるがな。」


「そうなんだ。意外だな」


「例えば……そうだ!クロロが使ってるナイフ貸してみな」


 ジードはクロロのナイフをカバンから出した砥石を使って研ぎ始めた。


「デビルボアの肉をサバいてた時、切りにくそうにしてただろ?……でも、こうやって研いでやると………」


「おお‼︎」


 なんと!クロロ愛用のナイフは、煌びやかな輝きを取り戻したのである‼︎


「スゴイ‼︎なんでも切れそうだ!」


「これくらいなんでもないさ」


 クロロはジードの潜在能力に驚きの連続だった!




*******




〜 討伐遠征2日目 〜



 次第に辺りの風景は緑も少なくなり、岩肌が剥き出しの荒野へと移り変わる。

 小高い岩山から遠くを覗くと、陽炎の彼方に突出した塔が揺らいで見える。



 パーティーは地道に歩を進める………。


 塔に近づくにつれ、時折吹く風は強さを増し、空は舞い上がる砂埃で霞んでおり太陽の光を遮る。


 気候の変化は精神にも変化をもたらす。

 突風は周囲を騒がしくさせ、危険を知らせる音を阻害し、視界もおのずと悪くなり一層、警戒心を張り巡らせなければならない為、口数も減り心労をきたす。



 そんな警戒心を掻い潜り、背後からジリジリと一同に魔の手が忍び寄る……。


「グァ⁉︎」


 その存在にいち早く気付いたのはロードランナーだった!

 最後尾でロードランナーの手綱を引くクロロは、振り返ると、自分がスッポリと覆われそうなほどの大口を開き、今にも噛みつこうと言わんばかりの大蛇の姿だった‼︎


(こ、こいつは……デスサーペント‼︎)


【 デスサーペント 】

 体長約50mもあり胸部にある模様で相手を威嚇する。自分より大きな相手でさえも恐れず毒牙にかけ、大木の様な胴体で締め上げ丸呑みにする死を司る大蛇。その名前の由来は、仕留め損なったとしても狙った獲物を執拗なまでに追いかけ執着することから、人々は昔から胸部の模様に出会ったら最後と"死の恐怖"を植え付けられているからである。



 クロロはすぐさま前へと走る‼︎……が、ロードランナーは怯えて立ちすくんでいる!

 標的をロードランナーに絞ったデスサーペントは覆いかぶさるような高さから一気に胴体目がけ噛み付く‼︎



 その時‼︎


 金属音が響き渡り、デスサーペントの牙とデュランダルがせめぎ合っている!

 なんと、アシルは間一髪のところでデスサーペントの噛みつきを阻止したのである‼︎


「ぐっ!ぐぐぐっ……‼︎」


 アシルは両手で剣を振り抜こうとするがビクともしない。刃で抑えている牙からはトロみを効かせた毒汁がドロドロと垂れている。


 その威圧感で我にかえったロードランナーはその場から距離を取り、先頭にいたジードもすぐさまクロロとロードランナーの前に立ち防御線を張る。


 アシルは次の一手に移ろうとするが、今の均衡を失すると毒牙の餌食になりかねない為、身動きがとれないでいる。

 しかし、デスサーペントの方は容赦なく仕掛けてくる。

 胸より下の身体をくねらせ反動をつけ、鞭のように胴体をしならせアシルを勢いよくなぎ払った‼︎


「ぐぅっ……⁉︎」


 アシルはその衝撃で吹き飛ばされ岩壁に叩きつけられた!

 岩壁に叩きつけられたアシルはズルリと滑り落ちグッタリしている。どうやら叩きつけられた衝撃で気を失ってしまったようだ。


 デスサーペントは攻めることをやめない。目の前にはまだ獲物がいるからだ。


「くそっ‼︎」


 クロロとロードランナーを守るジードは、デスサーペントと目を合わせ出方を伺う。


 デスサーペントは3人の周りをグルグルとひたすら回りながらジードと攻防を繰り広げる!

 クロロは自分達の周りをデスサーペントの身体によって退路を塞がれるように囲われていること気がついた。

 次第にその身体の壁は塀のように高くなっていく!そう、デスサーペントは3人を囲んでトグロを撒き始めたのである!


「ジード!デスサーペントの胴体に囲まれました‼︎」


「逃げ場はないのか⁉︎」



「……上しか」


 上が逃げ場にはならないなんて分かりきったことだった。例え上へと逃げようとしても遠慮なく噛みつきの攻撃を喰らうからだ。



(これはさすがにヤバいな……正体がバレるだろうけど魔王の力を出さざるを得ないか……?)


 クロロはせっかく手にした夢の時間を諦めるのを覚悟で、この状況を打破する覚悟を決めようとしていた。


(他に何か方法は……)



 ジードは緊張からか恐怖からなのか、自分の心臓の鼓動が激しく脈を打つのを感じる。


     (……ドクン)


 ロードランナーは蛇に睨まれたカエル状態。


(……ドクン)       (……ドクン)

 次第に囲む範囲は狭くなっていき、長い胴体を重ねて壁が高くなる……。まるで大きな壺にいれられたかのようだ。

    (……ドクン)       (……ドクン)


(………ドクン) (……ドクン)

 ジードは刻々と迫る死の恐怖にうちひしがれそうだ。   (……ドクン)(……ドクン)(……ドクン)(……ドクン)

 デスサーペントは真ん中の空洞めがけ口を開いている。このまままとめて丸呑みにでもするのだろうか……。いや、それともトグロを締め付け圧迫死させられるのだろうか……。

    (……ドクン)(……ドクン)

 失われつつある戦意の隙間にそのような考えばかりが入り込む。(……ドクン)



 やがて体の力は抜け……   (……ドクン)


           思考も停止………



頭は真っ白………  (……ドクン)



           だんだんと視界は狭くなり…………





(……ドクン)





(……ドクン)目の前が真っ暗になった……………。

読んでいただき誠にありがとうございます。

貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。


よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。

私の寝つきが良くなると思うので、作品の創作意欲に繋がります。


では、次話でお会いしましょう。


※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。

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