第12話 VSブラッディ
アシルとクロロは森の木々を掻き分け、疾風の如く応援要請の煙が立ち上る北の洞窟に向かっていた。
「ポイズンバット……体長は翼を広げると約200㎝。群れで行動し、鋭い牙で噛み付いてくる。牙には毒があり処置が遅れると死に至る」
クロロはポイズンバットの大まかな情報をアシルに伝える。
「クロロ、君の考えからして今回の依頼、どう思う?」
「……そうですね。想定外のことが起きたことは間違いないでしょう。
なぜか……パーティー内で裏切り及び、準備を怠った、環境変化に巻き込まれた、あと、クエスト中に強敵が現れた……」
「うーん。どれも嫌だなぁ」
「……けど、そんな状況になったとしても、困ってる人がいるんだ。それを見過ごすのは僕の正義が許さない‼︎」
「はい!サポートは任せて下さい‼︎」
段々と煙が近くなってきた。
「アシル‼︎森を抜けたら洞窟に着きますよ!想定外が起こったところに行くんですから、気を抜かないで下さいよ!」
「わかった!」
森を抜けると洞窟入り口前の広場に出た。
洞窟の前に人が倒れてこんでいる。風貌からしてソーサラーだ。
すぐ近くには魔石灯と応援要請を出した発煙灯が転がっている。
「大丈夫か⁉︎……だぃ……」
安否確認したアシルの表情が曇った。
クロロは瞬時に遺体の状態を把握する。
「神経毒ですね。即効性の毒なのに応援要請の為によくここまで……」
(⁉︎……この背中の傷……剣で斬りつけた様な……仲間割れか?)
「クロロ、奥へ行こう」
「魔石灯、借りてきますね」
アシルとクロロは中へと進んだ。
- 北の洞窟 内部 -
2人は真っ暗な洞窟を魔石灯で照らしながら進む。
コォォォォォ…………
洞窟内は風が進行方向から吹き抜けている。奥に抜け穴がなどがあるのだろうか?
ところどころで戦闘があったと思われるポイズンバットの死骸や、消費されたアイテムが落ちていた。
クロロは奥に進むにつれ洞窟の天井や壁に引っ掻いたような、えぐれている傷が無数についているのに気付いた。
「何だこれは?明らかにポイズンバットはこんな傷をつけないし、地形変化でもなさそうだ」
「ギィ‼︎……ギギッ‼︎」
次第に洞窟の奥が騒しくなり、その先で交戦中のようだ!
アシルは洞窟内に射し込む日の明かりが遠くに見え、そこで交戦中なのを確認した。そして、瞬時に戦闘状況を読み解く。
(1、2、3、4、5……5匹と1人が交戦中か)
するとアシルは走りながら抜刀の構えに入る。そして勢いよく踏み切り前へ跳んだ!
飛び込んだ勢いそのままに空中で身体を横回転させ敵めがけて抜刀する‼︎
「飛凰旋風刃‼︎」
回転しながら繰り出される乱撃は、複数のポイズンバットを斬りつけ、不利な戦況を大きく打開することとなった。
アシルは着地し、勢いを抑えながら地面を滑る。
「1匹逃した!」
アシルは全て倒せなかったようだ。
クロロは交戦する場へと追いついた。
そこにはまだ意識はあるが、毒により瀕死状態に陥っているウォーリアーを、ひたすらシールドで防いでいるガードナーの男がいた。
そのガードナーは、機動性を確保された黒灰色のフルアーマーを纏い、隙間への攻撃は山吹色のチェーンメイルが許さない。そして、なんといっても目を引くのは背丈ほどあろう頑丈そうな大きなシールドで身を挺している。更に特徴的なのは、男は左耳に羽根付きピアスを付けていることだった。
逃がしたポイズンバットは飛行しながら容赦なく噛み付く攻撃を仕掛ける。
クロロはガードナーの足元に横たわるウォーリアーを安全な場所へと引きずり、解毒薬で治療を施す。
「すまねぇ!そいつをよろしく頼む!」
ガードナーはそう言って腰に下げているメイスを手に取った。
アシルとガードナーで残りのポイズンバットと戦闘を繰り広げる。
「ギィギィッ!」
ポイズンバットは体を翻し攻撃を避け、己の攻撃に転じる。
ガードナーはポイズンバットの攻撃を防ぎ、アシルに攻撃の隙を与える。
「さっきの技、スゲェじゃねぇか!」
「君こそ、長時間よく仲間を庇っていたね。」
「あぁ。何度もくじけそうになったぜ!」
辺りを見渡したガードナーはアシルに問う。
「おい!ソーサラーはいなかったか?」
アシルの斬撃がポイズンバットの羽に傷を負わせる。
「ギィィ……⁉︎」
ポイズンバットは奇声をあげ地面に落下した。
「ダメだった……」
アシルは残酷を告げる。
「……⁉︎」
「くそぉぉ‼︎」
ガードナーはそう言って振り下ろしたメイスで地面に落ちたポイズンバットにとどめを刺した。
「‼︎……ギィィィッ…………」
ポイズンバットはめいっぱい翼を伸ばして小刻みに震え、その後は力が抜けそのまま動かなくなった。
「はぁ………まずはありがとう!」
「俺はジード。あっちはエドガーだ」
「僕はアシル、ウォーリアだ。あっちはサポーターのクロロです」
洞窟内は時折り風が吹き抜け一抹の静寂をあたえる…。
「こちらの方は治療終わりましたよ。あとは安静にしていれば助かるでしょう」
「ジードはケガありませんか?」
クロロは負傷者の治療を終えジードに尋ねた。
「俺か?俺ならどこもキズを負ってねぇ」
(無傷⁉︎……普通なら長時間耐えきれないぞ?
ジードはガードとしての力量はかなりのものなのだな。確かに相手の攻撃を瞬時に見極め最善の方法で受けていたし、いったいどんな見え方をしてるんだ?)
「ところで何があったんです?」
「………それより、早くここを出よう!」
「あいつが戻ってくる!」
「あいつ?」
「この想定外を引き起こした元凶だ!」
ジードは洞窟の風の吹き抜ける要因になっている天井の落盤によってできた大穴を見つめる。
……と、大穴から射し込む光が一瞬通り過ぎた影に遮られた。
すると天井の大穴から滑空しながら体をくぐらせ翼手類が洞窟に侵入してきた‼︎
そのままパーティーの頭上を超え、洞窟出口への道を塞いだ。
「ギィィヤャァァァァ………‼︎」
先程のポイズンバットとは一回り以上大きく、赤黒い両翼を広げ凄まじく威嚇する‼︎
「あれは……ブラッディ‼︎」
「ブラッディ⁉︎」
クロロは書物にあった情報を伝える。
「ブラッディはオオコウモリの亜種であり、手と脚それぞれ独立した翼を持った体の構造になっています!見ての通り翼の指骨は刃になっているから、羽ばたくと同時に周囲を斬り刻みます。もちろん吸血能力も一回の吸血で致死量になるくらい吸うから、巡った血で体が赤黒くなるんだ」
「それでブラッディか……」
ジードはシールドを構えアシルとクロロを守る大勢をとる。
「こいつがポイズンバット討伐中にいきなりちょっかい出してきやがったんだ!」
「洞窟内のえぐれたキズ跡も、こいつが羽ばたいた時についたのが原因だったんですね」
クロロはエドガーを背負う。
「退路を塞がれた以上やるしか無い‼︎」
アシルは覚悟を決める。
「くるぞ‼︎」
ブラッディは鋭い翼で迫ってくる!
独立した4枚の翼で斬りかかってくるのを、ジードは見極めシールドでガードする。
「くそっ‼︎コイツ常に斬りかかってくるから隙が……ねぇ!」
「うぉぉぉ……‼︎」
アシルも剣で応戦するが、翼の斬撃に耐えるのが精一杯だ!
「このままブラッディの攻撃を受け続けてるだけじゃいずれやられる!」
「おい!アシル!クロロ‼︎何か策はねぇのか⁉︎」
「じゃないとこっちがもたねぇ‼︎」
「ギィィィィ……‼︎」
ブラッディはひたすらに猛攻を仕掛けている!
クロロは瞬時に戦略を練る。
(ブラッディも所詮コウモリ……口からの超音波を出し状況を把握している。
それを逆手に取り手持ちのアイテムで怯ますことはできる。
ただ、あの翼がある限り不用意に胴体に攻撃は仕掛けられない……が、頭ならいける!)
「だがどうやって……」
クロロは状況的視野を最大限に広げる!
「ゴォォォォ……」
(風……)
遠くから風の吹きあげる音が聞こえる。
その瞬間、洞窟内に突風が引き抜ける!
「‼︎」
「よし!みんな‼︎ブラッディを倒してこの洞窟を脱出しましょう‼︎」
「何だ⁉︎何かあれば言ってくれ‼︎」
「ではまずジードはひたすらブラッディの攻撃からこちらを守って下さい!」
「もうやってる‼︎」
「僕はアイテムでブラッディを一瞬怯ませます」
「アシルは僕が仕掛けたタイミングでジードを踏み台にしてブラッディの頭に攻撃を仕掛けてください!」
「了解‼︎」
「ギャャァァァ……‼︎」
「うおぉぉぉ……‼︎」
ジードはブラッディの攻撃を一身に受け止めガードしている!
「ぐおぉぉ……‼︎まだかっ⁉︎」
コォォォォォ…………
クロロは遠くのほうで風が鳴っているのを感じた……。
「今だっ‼︎」
クロロはポケットから取り出した魔石を地面に叩きつけた‼︎
すると割れた魔石は眩い光を放つ‼︎
「っ………‼︎」
眩い光とともにジードは耳に微かな違和感を覚えた。
「ギャャァァァ……⁉︎⁉︎」
ブラッディは混乱している!
「アシル‼︎」
「うぉぉぉぉぉぉぉ……‼︎」
アシルは勢いよく助走し、ジードの背中と肩を踏み台にしてブラッディの頭めがけて跳んだ‼︎
しかし、アシルは跳んだ瞬間、自分の剣の間合いがブラッディの頭に届かないことに気付くのだった‼︎
(こ、これじゃダメだ‼︎ブラッディに届かない‼︎)
次の瞬間‼︎
「ゴォォォォ……」
洞窟を抜ける突風がアシルの背中を押し、跳躍距離をかせいだのである‼︎
(いける‼︎)
「うぉぉぉぉぉ……‼︎」
「迫撃雷追突‼︎」
アシルのデュランダルは怯むブラッディの脳天から下顎に掛けて貫いた‼︎
「ギシャァァァァァ……‼︎⁉︎」
「うおぉらぁ‼︎」
ジードもメイスでブラッディの顔面をぶちのめす‼︎
ブラッディは地面に墜落した。
アシルとジードはブラッディにトドメを刺す。
「ギギィィィ………」
ついにブラッディは力尽きた……。
「はぁぁぁ〜〜……」
ジードはその場に座り込み安堵した。
「ジード!よく耐えてくれた‼︎」
アシルはジードを労う。
「お前こそ、最高の一撃だったな!アシル‼︎」
2人は互いをたたえ合う。
「いや、でも……勝てたのはクロロのお陰かな」
アシルはこの勝利の立役者、クロロに目をやる。
ジードもクロロを見つめ、ブラッディを討ち取った流れを思い返す。
(確かにそうかもな……あのサポーターが使った魔石は、光でブラッディの注意をそらすのともう一つ、ブラッディの嫌がる周波数を出す効果のあるものだ)
「クロロか………あいつ本当は何者だ⁉︎」
「サポーターって言ってたが、サポーターっていやぁ冒険者の飯炊きやら荷物持ちだろ⁉︎あいつそんなんじゃおさまらないぜ⁉︎」
「俺らの力量と敵の特徴、環境を把握して、ここぞという時に適材適所のアイテムを使って上手く切り抜けやがった……あいつのジョブ、本当は戦術士?それとも薬師か?いや、風水師?」
ジードは頭の整理がつかず、堰を切ったかのようにアシルに疑問を投げかける。
クロロは早速ブラッディから素材をとっている。その表情は新しいオモチャを与えられた子供みたく生き生きとしている。
「クロロはサポーターさ……ただ、普通とは明らかにかけ離れた可能性を持ったサポーターさ」
アシルとジードは、黙々と素材獲りに夢中になっているクロロを唖然たる面持ちで見つめる。
「あっ……‼︎アシル!ほら‼︎見て下さい!貴重な素材獲れましたよー♡」
読んでいただき誠にありがとうございます。
貴方の貴重なお時間と共有できましたこと、大変嬉しく思います。
よろしければ温かい評価とブックマークのほどお願い致します。
僕の腰痛がやんわりになると思うので、作品の創作意欲に繋がります。
では、次話でお会いしましょう。
※本作のサイドストーリー『迷子の女の子のサポーターに魔王の婚約者はいかが?』も是非よろしくお願い致します。