第6話 甘いもの
シャッシャッ………
九、十人いる部屋なのに、静かにペンの音だけが響いている。
みんな、自習室で頭に知識を詰め込み、それを応用する練習を繰り返しているからだ。
ぼくもその一人。
苦手である国語や、得意であるからもっとのばしたい理数系をさっきから繰り返している。
マルツケの結果はそんなに悪くなく、満足のいく結果だ。
それでもぼくは10時までは絶対にここにいるという目標があるので、まだ椅子に座ったままだ。
時計が十と十二を指すと、ぼくは立ち上がった。
この時間まで残っていたのは、ぼくを含めて三人だけ。
帰ろうとすると先生に鉢合わせたので、
「さよなら。」
と形ばかりの挨拶をしておく。
「お、さようなら、涼貴くん。」
男の、少し太ったその先生はそう言うと、余裕を持ってゆったりと歩いて行った。
んっ………
伸びをしながら制服のポケットに手を突っ込み、ぶどう味のタブレットを取り出す。
口に入れると、すっと甘さが広がって、酷使した脳がゆっくりと癒されていくのが感じられる。
昔から、頭を使った後はこれを食べることを習慣づけている。
でも。
やっぱり、頭を使った後はお腹がすく!
糖分うんぬんじゃなくて、シンプルにしょっぱくて、がっつりしたものが食べたい!
本音をぶちまけながらも、顔は平然とする技を身につけた。
途中でコンビニでも寄ろうかな?
四階から一階まで一気に駆け下りると、一番近いコンビニをスマホで検索。
あ!
ぼくの好きなチキンが売ってるとこが一番近い!
これは、神様からぼくへの、チキンを食べろというお告げだと思う!
と、心の中で勝手に罪悪感を消しとばして、スキップしそうな足を抑えた変な歩き方でコンビニへ向かう。
ガラス?のケースの中に入っているチキンと、ホットドッグを頼むと、しばらく頼んだ後チキンをもう一つ追加した。
店員さんはニコニコしたままそれらを袋に入れて、
「374円になります。」
「あ、はい。」
細け〜。
とか思いながらきっちり払い、1円のお釣りもなくコンビニを後にした。
歩きながらチキンを食べる。
「熱っ!」
と思わず声にして周りの人から怪訝に見られたぼくは何一つ悪くない。
というか、今こうやって食べて、家帰ってからもご飯を食べるんだから、体重はどうなってることやら………
ま、目に見えてひどく太ってなければまだ大丈夫!………のはず。
ホットドッグに立ちながらケチャップとマスタードをつける。
この、パチンって潰すようにしてソースをかけられる容器は、ディスペンパックって言うらしい。
なんか、雑学番組で言ってた。
これを発明した人は天才だと思う。
だってすごい便利だもん。
あ〜、立ち食いって罪悪感より満足感が勝つよな。
ぼくはそうだけど、ほかのみんなはどうなんだろ?
千隼なんかは、歩きながらソフトクリームとかチュロスとか余裕で食べてたなぁ。
あいつ、甘いものすっごくたくさん食べれるんだ。
それに、お菓子づくりも上手で、そこら辺のケーキ屋なんかより美味しいと思っている。
特にうまかったのはシュークリームとかエクレアとかブラウニーとか………
千隼の作っていたお菓子の味を思い出しているうちに、どんどんお腹が減ってきた。
「家、まだかなぁ。」
と呟くと、すでに家に到着していることに気づく。
「ぼくはバカなんじゃないだろうか。」
闇の中呟いて、鍵を使って家の中に入る。
「ただいま〜。」
ヨナがでむかえに来てくれた。
「お〜、よしよしよし。わしゃわしゃー。可愛いなぁ、元気だなぁ。」
ヨナのもふもふを堪能していると、
「おかえり涼貴。今日の夜はお好み焼きよ。早く手を洗って食べなさい。」
「お好み焼き。ぼくの好きなやつだ。」
「そうよ。だから早く手を洗っていらっしゃいって。」
「はーい。」
玄関にカバンを置くと、洗面台で手を洗う。
急ぎたいけど、でも菌が入ってお腹が痛くなるのも嫌だし。
ビュン、と風の音をさせながらリビングに行き、自分の席について手を合わせた。
「いただきます!」
そして、最初の一口目を大きく頬張った。
読んでくださってありがとうございます!!
千隼、お菓子作りもできるんですって!
女子力高すぎませんかっ!?
わたし、クッキーぐらいしか作れませんよ!??
あと、牛乳プリンとか。
おかし作りできる男子って、いいなぁ。
作者の気持ちはほっといて、次の話も読んでいただけると嬉しいです。