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氷の王子様はなぜか俺にだけ当たりが強い  作者: 夜闇
第1章  すれ違う思い
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第1話  氷の王子様

 ドクン……ドクン……

心音がやけに大きく感じる。


息を大きく吸って、大きく吐く。


 意を決して、相手の方にそろそろと指を伸ばした。


「あぁああああああああっ!」

カードの裏に描かれていた絵柄は、ジョーカー。


 ババ抜き勝負、俺の負けである。



 「ほんと、千隼ちはやは弱いよなぁ。」

一緒にやっていた仲間三人が、大笑いした。


「だって、ババ抜きって心理戦じゃないか。難しいだろ?」

「そうだけど、お前はポーカーフェイスという言葉を知らんようだな。顔に出まくっているぞ。」

そして、ほっぺたを突かれる。


「むグゥ。」

と頬を膨らませて、嫌がっているという意を示した。


「それに、お前すぐ騙されんじゃん。」

笑いながら言われて、俺は反論できない。


 確かに俺は騙されやすい。


例えばほら、ババ抜きの戦略で、とってほしいカードを少し上に上げておくという幼稚な戦略があるだろ?

普通、みんなはそれを読んで上がってない方のカードをとる。


けど、俺はもしかしたら上がってないほうがババかもしれないということを考えてから、上がっている方を取るのである。


 みんなはそんな俺の性格をわかってるから、上がっている方にババを仕込む。

結果、見事に俺は引っかかるのである。


 で毎度毎度同じように考えて、今度こそ今度こそ、と思って上がっている方を取ると、毎度毎度ババなのである。


 「ほんと、お前は嘘を信じやすいよなぁ。そんなんで良く詐欺にひっかかんねぇよなぁ。」

「そうそう。千隼ちはやは人の言うことを信じすぎ。オレオレ詐欺とか絶対引っかかるタイプだね。」

トランプをやっていたメンツに交互に言われ、俺はため息をついた。


 カードを揃えて箱にしまい、友達に返す。


 「ま、ひどい嘘をつこうなんてやついねぇけどなぁ。」

「確かにね。ひどい嘘なんてつかれたことないもん。せいぜい、あれだ。あの〜、あそこにUFOがあるとか、先生が俺を呼び出してるとか、それくらいのもんだもんね。」

俺が言うと、みんなが吹き出した。


「なんだよ!」

と俺が怒ると、


「いやぁ、なんでもぉ。」

とニヤニヤしてごまかされる。


 いやほんとなんなの?



 「ってか俺、なんでひどい嘘をつかれることねぇんだろう。」

俺が聞くと、トランプをやっていたメンツはぽかんと口を開け、


「え、わかってねぇの?」

「いやぁ、なんでわかんねぇの?」

「逆に、みんなはわかんの?」

次々とみんなに言われ、俺は驚いた。


「いや、一つしかねぇもん。」

「だな。」

と顔を見合わせるみんなに、


「ねぇ、わかってんなら教えろや。」

と言った。


 するとみんなはニヤッと笑って、


氷の王子様アイスプリンスといつも一緒だからだろ。」















 って言われてたのが中一まで。


 中二になった俺は今でも、ひどい嘘をつかれたことはない。


 でも。

その理由が前と違うってことは、重々承知である。


 今俺がひどい嘘をつかれていない理由は、ただ俺に嘘をついてからかうよりも、ただ単に喋ってる方が楽しいとみんなが思ってくれたからだ。


 そして、俺はその理由に少しくすぐったい気分になりながらも、心が重いのである。


 昔の、氷の王子様アイスプリンスと一緒だからという理由の方がよかったかも知れないと。




 氷の王子様アイスプリンスというのは、俺が通っている、私立秋際学園しりつあきぎわがくえんのイケメン、氷藤涼貴ひょうどうりょうきのことだ。


氷藤ひょうどう』という苗字と、クールな外見、そして高嶺の花の近寄り難きオーラから囁かれ始めた通り名は彼にぴったりだ。


 涼貴りょうきはとてもカッコよくて、2歳からの幼馴染の俺でも時々びっくりするくらいだ。


当然女子にもモテる。


 俺は中一まで、俺にひどい嘘をつくと涼貴りょうきにどんなことされるかわからないという謎な理由でひどい嘘をつかれてこなかったわけだ。


 でも最近は、俺と涼貴りょうきの仲があまりよくない。


 基本、涼貴りょうきは誰とでも喋る。

結構優しいし、見た目が少し怖いだけで、そんなに怒るようなタイプでも無い。

(だから涼貴に何されるかわからないっていう考え方が意味不明なのである)


そりゃ、読書してる方が好きなやつだけど、話しかけたら必ず返してくれるし。



 でも。

最近は、なぜか俺にだけ、あたりが強い。


話しかけたら、ギンって睨まれちゃうし。

目があうとすごく気まずいし。


 もちろん、俺には覚えがない。


 ずうっと普通に過ごしてきたのに、中二になった途端、態度がコロッと変わったんだ。



 今でも俺は、ひどい嘘をつかれない。

というか、嘘をつかれない。


みんなが、俺と普通に喋ってる方が楽しいと思ってくれて嬉しい。


 けど、涼貴りょうきと仲が悪くなったのは辛いんだ。


 2歳からの幼馴染だし。

学校だって、このエスカレーター式の学園でずうっと一緒で、クラスだって離れたことがないのに。


 冷たくされるのはやっぱりやだなぁ。


 あ、誤解すんなよ。

俺は、別に涼貴りょうきのことが好きなわけじゃない。


 あ、いや、好きだけど、好きじゃないって言うか………

恋愛的じゃない、友情的な好きって言うか………


ま、そういうこと。





 「お〜い、千隼ちはや。次移動教室だぞ!」

教室の外から友達に言われて、慌てて頷いて教科書を抱える。


 ちらっと教室の一番左端の前から3番目………つまり、涼貴りょうきがいつも座っている席を見た。


当然、最後まで教室に残っていたのは俺だけなので、いない。


やっぱ、先に行っちゃったか。


 昔は、涼貴りょうきの方から俺を誘ってくれたのになぁ………


 「早く、早く!」

外から友達に急かされて、走って外に出る。






 授業は理科。

今日は実験である。


 先生の注意事項の羅列があった後、早速同じ班の友達が、


千隼ちはや、何するかわかった?」

「大まかにしかわかんねぇ。」

「そうだよな。ま、一緒に頑張ろうぜ!」

眩しい笑顔を作って拳を突き出す友達に、拳を合わせる。




 俺の班はみんな優秀なので、滞りなく実験は終了。

成功した3班のうち、ひと班に食い込んだ。








 「ただいま。」

玄関の扉を開けると、珍しいことに母がいた。


「あれ、今日は早いんだね。」

確かに俺がちょっと塾によってたっていうのもあるけど、それにしても早い。


「あのねぇ、今日は残業しなかったのぉ。」

とガッツポーズをする母に向かって、


「残業は普通しないんだよ。」

とツッコむ。


 荷物を片付けるために二階に上がることにする。


 茶色い木のドアを開けて、電気をつけると、俺はかばんをハンガーラックに引っ掛けて、ベッドにダイブした。


 しばらくうつ伏せで過ごすと、ハイハイして窓に近寄る。


カーテンを開けると、向かいの涼貴りょうきの家が見えた。


 ………あれ?

涼貴りょうきの部屋の電気がついてる。


 そういえば、今日は塾にいなかったな。


いつもは、毎日10時半くらいにしか帰ってこないのに、珍しい。


 暗闇の中に浮かび上がる涼貴りょうきの家のシルエットを眺めながら、ため息をついた。


 昔はあの家にも結構出入りしてたんだけどなぁ。


 犬のヨナくん、元気にしてんのかなぁ?

 読んでくださってありがとうございます!!


 これからは、『少年陰陽師』と並行連載になります。


 あと、なるたけ今日中にプロフィール集を出します。

ちょっとネタバレを含むので、もし嫌な方は明日or明後日or明々後日ぐらいに投稿される第2話を読んでからにするといいかも知れないです。


 あ、そうだ。

この話、千隼・涼貴・千隼・涼貴の順番で視点が変わっていきます。


混乱しないように先に書いておきます。


 それでは、次の話、もしくはプロフィール集のあとがきの方でお会いしましょう。

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