第7話
授業が終り、帰り道を歩いていた時である。
普通なら受信するまで気にも留めないメール相手の事を、華雅里は思い出してしまったのだ。携帯電話をカバンから出してメールの受信暦を確認する。アップルからのメールは、その後も受信していない。
普段なら、変な質問には返事をしない華雅里だったが、どういう訳か華雅里はアップルへの返事を入力し始めた。
私の国だと最終学歴は大学院になるのかな。
自身の固体を増やすって、どういう意味ですか?
私、自分を増やせないんですけど?
出産っていうのならあるけど。
アップルさんの好きな食べ物はなんですか?
好きな映画は?
好きな有名人は?
スポーツはする?
するとしたら、どんなスポーツですか?
華雅里は、携帯を持って返事を待った。アップルからの返事は必ず来る。華雅里には自信があった。
華雅里の予想どおり、返事は約十秒後に来た。返事の速さは、華雅里の予想外だった。
「はや!」
華雅里は、言いながら返事を読んだ。
大学院というのがあるのですね。
どんな所でしょうか?
分裂では自身の固体を増やさないのかな。
出産というのは、どういう事なのでしょうか?
ミサキさんの国で使う言葉と、私が使っている言葉が違うのでしょうか。
把握するのが難しいですね。
私の好きな食べ物は、ナトラステリというものです。
海中に生えている苔で、そのままでも食べれますし、漬物にしてもおいしいです。
好きな映画は、ホノハニヘレメです。
勇者の冒険物語で最後の大どんでん返しには意表を突かれました。
好きな有名人は、ポーガ・デンドロコです。
実に個性的でインテリジェンスの高いものを感じて好きです。
スポーツはします。
氷の上を滑るのが好きで、特に滑る時の道具は決まっておりません。
今度は、私の質問です。
同じ種族間で起きた大きな喧嘩を教えて下さい。
メールを読んだ華雅里の足は止まっていた。
華雅里は、渋谷駅の入り口で棒立ちしていたのである。
「何この返事。訳が分かんない。全然知らない名前だし。同じ種族間で起きた大きな喧嘩って戦争の事? この前、テレビで放送していたミツバチ対スズメバチじゃないよね……。普段、英語を話さない国の人なのかな。言葉が違い過ぎて、読むのが難しい」
華雅里は、渋谷駅構内の隅へ移動して、カバンを床に置いてその上に座り込んだ。
「なんだか分からないけど、悪い人じゃないみたい、こうなったら、とことんメールしてみよう」
同じ種族間で起きた大きな喧嘩って、
第一次世界大戦や第二次世界大戦の事?
アップルさんって、大戦の事、習わなかった?
世界的に有名のはずだけど?
このメールをアップルへ送信した時、ある不思議な事が起こった。
華雅里の携帯電話のコールが鳴ったのである。画面に表示されたのは、電話番号を登録していない表示されないアップルの名前だった。