第2話 ハルトの価値
ステージ上には、運がいいのか悪いのか2~30人程度の生き残った人たちで溢れかえっていた。中には、息をしているもののすでに瀕死状態の人や、銃弾を受け、負傷しているものが大半を占めている。見たところ、無傷でいるものなど春斗を含め背の低い子供数人程度しかいない。
出入口は既にシャッターで塞がれており、武装した集団の一連の行為には計画的なものがある。最初から袋のネズミだったというわけだ。一体何が目的で彼らはこんな殺戮をしたのだろうか。
しばらくすると、各方面に散らばっていたと思われる武装した人間が生存者を連れ、こちらへとやってきた。10人程度だろうか。自力で歩けない物もいる。戻ってきた武装集団は2,3階にいる見張りを含め50人以上はいそうだ。
「報告します」
一人の武装した男がちょうどステージ目の前にいるもう一人の男に一礼し、
「生存者43人。内、17人が男性。26人が女性と思われます」
まるで、どこかの軍人のような会話だ。
「報告ご苦労。それで、器の生死は?」
「今のところ確認できておりません」
「生存者の中にいる可能性は?」
「否定できません」
「わかった。君は各隊の隊長に少数部隊での生存者捜索の旨通達。その後解析チームと合流し、魔法を使用した形跡を探せ」
「了解」
男は「失礼します」と最後に言葉を残すと、そそくさとどこかへ走り去っていった。目の前にいる部隊の中で一番偉いであろう人物は顔を覆っているゴーグルやヘルメット、マスクを地面に脱ぎ捨てた。
春斗ら生存者はその時初めて襲撃者の素顔を見た。少なくとも日本人ではない。黒い肌に、装備越しにも伝わる屈強な肉体。
ある程度状況を確認できるようになった春斗は男の顔を見て事の深刻さに気付き始めてきた。殺人衝動を抑えきれない愉快犯がどれほど可愛いか。いまなら一人二人の殺人鬼だったほうがまだよかったとさえ感じる。
「ごほんっ・・・・・・」
男は咳ばらいをしこちらに視線を向ける。
「我々は、とある国の命を受け本作戦に当たっている」
外人とは思わせない流暢な日本語だ。しかし、今はどうでもいいことだ。
「所属機関及び我々の素性については守秘義務が課せられており、それを君たちに教えることはできない」
「我々もこれ以上君たちを殺したくはない。ただ一つ、要求を受け入れてくれたら解放しよう」
ここにいる生存者全員が固唾を飲んで次の言葉に耳を傾ける。
「魔女の器がこの中にいるはずだ。名乗りをあげて今すぐ出てこい」
冷静な男の顔が豹変した。
「ふざけんなよ!なんだよ魔女って。意味わかんねーよ」
一人の男が顔をしかめ、怒鳴り声をあげた。左手で抑える脇腹は血でにじんでいる。被弾したのだろう。
「確かにそうだ。いきなり言われても訳がわからないだろう。簡単に言えばこれは魔女狩りだ。名乗りを上げないなら全員殺すだけ。我々は魔女の器さえ殺せれば無関係の一般市民何人殺そうと咎められることはないからな」
ますます意味が分からない。分かることがあるとしたらただ1つ。きっと彼らはまた何人もの罪なき人たちを殺すだろう。恐怖心から何もすることができない春斗にも理解はできた。
依然、誰も何もできない状態が続く。何分経ったかわからない。先ほど声を荒げた男はだんだんと弱りはて、噴水広場の人々もこれが現実であることを理解し始めたとき、静寂な館内にはパトカーや救急車のサイレン音がうっすらと聞こえてきた。
「そろそろタイムリミットか」
目の前の屈強な男が小声でいう。
「各隊へつぐ。作戦をアルファからベータへ移行。作戦遂行後、速やかに撤退する」
男が胸の無線機にそう話しかけると、周りの男たちは一斉に銃を広場の人たちに向けた。
「すまないが時間切れだ。我々もこのようなことは極力避けたかったがやむを得ない」
叫びだす人々、皆が逃げようとした瞬間。
「撃て」
その一言で銃弾の雨が降り注ぐ。




