同じ顔
『みんな元気でやってる?』
あたしは沸かしたお湯で紅茶を入れながら美織に言った。
どうもさっきから何かがおかしい。彼女はこんなに自信なさげな表情をする子ではなかったし、ここに来てからもずっと下を向いている。
『あ……うん。みんな無事に卒業したよ』
ちくりとあたしの胸が痛む。
卒業……と言われてあらためてあたしもみんなと一緒に卒業したかったんだと気づいた。
同時に心のどこかで誰かが失敗して卒業できなければいいのに……と少しの嫉妬心があったことに気づいて恥ずかしい気持ちになった。
もちろん口に出して言えることではない。
そんな気持ちに蓋をしながらあたしは『良かったね――』と言った。
『うん』
美織は下を見つめながら頷いた。
卒業したあと、みんなは大学に行ったり、就職したり、それぞれの事情に従って進路を決めたらしい。
『美織ちゃんはどうするの?』
『うん……そのこと……なんだけどね……』
美織は歯切れ悪く話をし始めた。
『あのね……まだ誰にも言えてないんだけどね……』
誰がどう見てもまともではない。
もう泣き出しそうな顔をしている。
どこかで見たことのある顔だ。
そう。
夕凪がお腹にいることが分かった時のあたしと同じ顔をしている……
美織が話し出す前にあたしはすべてを悟ってしまった。
『ごめん。話の腰を折るようだけど……まずは暖かい紅茶でも飲んで』
あたしは自分がこんなに重たい相談をされて自然に話ができるとは思わなかった。
たぶん……
美織は1年前、あたしが夕凪を妊娠して産んだことを覚えていて相談に来たのだろう。
他の友達でこんな重たい相談に乗ってくれる子などいないに決まっている。
子供を産むだなんて別世界の話だと思っているからだ。
あたしだって夕凪を産むようなことがなければ同じように思っていた。
当り前だ。
十代は子供なんだから。
以前のあたしならこんな相談を受けて、すべてを聞かずに話の結論を予測するのは無理だっただろう。
『え??どうしたの???』とか無神経に聞いてしまいそうだ。
それで……聞いた後も冷静に話などできないだろう。
たぶん自分のことではないにしても目の前の美織と同じようにバツが悪くなって下ばかり見てしまったかもしれない。
『うん』
あたしがすすめたので美織はマグカップに入れて目の前に置いた熱くて甘い紅茶を一口飲んだ。
『あの……』
『全部言わなくてもいいよ。なんとなくわかったから……』
『え……』
『あたしも美織ちゃんと同じ顔をしてたはずだから。1年前は』
『……そうなんだ……』
『ご両親には言ったの?』
美織は首を横に振った。
なんだか嫌々している夕凪のようだ。
『相手の人には?』
『……言ってない……。てゆうか言っても『知らない』とか言われそう』
あたしの時もそうだったのだが、世の中無神経な男が多すぎるのではないかと思う。
知らないとはなんだ!
やることやっといて知らないでは済まされないことは小学生だって分かる道理だろう。
『そうなんだ……。でも一応ちゃんと言った方がいいよ』
『……言うの?』
『相手の人より先にご両親に話した方が良いと思う』
『……やっぱり言わないとダメなの?』
『じゃあ、だれにも言わずにどうするつもりなの?』
『……』
『でしょ。言いづらいならあたしも一緒に行ってあげるから』
しまった……
つい余計なことを言ったなあ……と自分でも一瞬思った。
でも、何もしなかったら美織はとんでもないことをしでかしそうで怖い。
自分一人で産んで、赤ちゃんと自分を傷つけてしまうとか……。
なんで分かるのか……別にニュースで見たとかではない。
もっと身近な理由だ。
それは……。
あたしも同じことを考えたことがあるから。
こっそり産んでしまえばなんとか隠せるかもしれないと……少し思ったことがあるから。
そんなの冷静に考えたら無理なのに……。
『……』
無言の時が過ぎる。
気まずい瞬間だ。
『ふえええ。ふえ、ふえ、ふえ……』
不意に気の抜けたような可愛い声がした。
隣の部屋のラックで寝てる夕凪の寝言だ。
『へ?』
『赤ちゃんでも寝言言うんだよ。すごいでしょ』
あたしたちは目を合わせて笑った。
夕凪は本当に空気の読めるいい子だ。




