同級生の相談
美織には金曜日の夕方にうちに来てもらうことにした。
基本的に赤ちゃんがいると忙しい。
自分の時間もほとんど持てない。
……ということは実はそんなにない。
慣れるとそれなりに自分の時間を持てたりする。
もちろん、何時間も一人の時間を楽しむようなことはできないけど、ちょっとの空き時間を使って読書を楽しんだりすることぐらいはできる。
実際、あたしは夕凪が寝ている間に車の免許の勉強をしたりしている。
ではなぜ、赤ちゃんがいる主婦は自分の時間がほとんどないのか……要は家を空けられないということなのだ。つまり友人とショッピングに出かけたり、カフェでおしゃべりしたりする時間がないという意味での自分の時間が持てないということなのである。
あたしは結婚していないから分からないけど、一人でいるときにできたことが子供の世話のせいでできなくなることは多い。しかし視点を変えて考えると何もできないわけではないということも分かる。
家で楽しめる趣味はそこそこ育児をしながらでも楽しめるのだ。
自分の時間を確保することができるというのはそういう意味だ。
そんなわけで……あたしは金曜日の夕方に美織に来てもらうことにしたのだ。
家で会うぶんにはまったくもって支障はない。
それに変に喫茶店など言ってお金を使う必要もないから節約にもつながる……と考えてしまうあたしは、人よりも早く所帯じみてきてしまったのかもしれない。
金曜日の夕方にしたことにも理由がある。
まあ、これは単純な理由。
次の日がお休みだからだ。
ただ、お休みと言っても家事は休みにならないし、夕凪の世話もある。
しかし、家事にしても夕凪にしても……仕事が休みの日は大幅に寝坊しない限りは大きな支障にはならない。
仕事の場合は大変なことになってしまう。
だから次の日がお休みである金曜日の夜は比較的ゆっくりできるのだ。
ありがたい話なのだが……夕凪は人見知りしないし、あまり泣かない。
夜泣きで何度も起こされることがあるということを産む前は聞かされていた。
確かに生まれた直後、数か月は夜泣きしていたが、首が座った半年後ぐらいには拍子抜けするぐらい泣かなくなっていた。
若すぎて人生経験のない母親を思いやってくれたのかもしれない。
彼女は笑顔でいることが多い。
赤ちゃんの世話は大変だし、手間もかかる。でも無垢な笑顔をこちらに向けてくれているのを見ると嬉しくなってくる。
あたしという存在を世界で一番必要としてくれている。
今更だが……本当に産んでよかった。
ピンポ――ン
古いタイプの玄関チャイムなのでやたら大きな音で部屋中に音が響き渡る。
ちょっと緊張しながら玄関の前に立つ。
友人と言っても、そんなに仲が良かったわけではないのだ。
なんの相談だろうと思うと少し緊張する。
夕凪はさっき少しの離乳食とたくさんのミルクを飲んで、ゲップを出したら気持ちよくなったらしく、ラックの上で眠ってくれた。
本当に空気の読めるいい子だ。
『どうぞ』
あたしは笑顔を作って言った。
仕事をはじめてから、学生時代と確実に変わったことは作り笑いが多くなったことだ。
『久しぶり……』
美織はバツが悪そうにあたしを見ながら言った。
『久しぶり。上がって』
『ありがとう』
こんなに自信なさげな子だっけ?
付き合いは少なくとも、遠くから見てどんな子だったかという印象ぐらいはある。
てゆうか……メールアドレスを交換しているぐらいなので、そんなに仲良くないと言っても、まったく付き合いがなかったわけではない。
あたしが知っている赤山美織はこんなに自信のない表情をするような子ではなかった。
どちらかと言えばいつも輪の中心にいるような子だったと思う。
何が彼女をこんなにさせたのだろうか。
『あの……これ……』
美織はおずおずと駅前で買ってきただろうケーキを差し出した。
『ありがとう。ちょっと待ってて。紅茶でいい?』
あたしはお湯を沸かすために立ち上がった。




