Tomorrow is another day
初投稿です。拙いところもあると思いますが寛大な心で読んでくださると幸いです。
なぜこんなことになったのだろう。ずっと死にたかった。まだ生きているのか、臆病者めなんて幻聴すら聞こえていた中ずっと続いていた『今日』はいつの間にか楽しみな『明日』に変わっていた。
受験した大学にことごとく落ち、浪人せず滑り止めに受験した大学に進学した。やりたいことは何もできず、高校、下手をすれば中学の復習のような授業に行くのが億劫になり、生まれてはじめて授業をサボタージュした。
「なぜわたしは生きているんだろう。生きていたって良いことなんてないだろうに」
この問いは高校二年から続いている。続けていたって答えが出るわけがないのはわかっている。それでも考えずにはいられない。誰かに相談したところで中学、高校の友人はほとんどがもう繋がっていないし、大学ではエキストラスキル『コミュ障』を意図せず発動し話しかけようとするだけで冷や汗をかいてしまう。親にも言ったが説教した後に頑張れなんて心にもないことを口先で言う。そして強制的にその話を終わらせて奨学金の話を始める。
天皇サマの代替わりに伴う十連休は味方のいない教室から逃れ、壊れかけたわたしの精神を治す時間をくれた。文字通り時間稼ぎでしかなく、ほとんど意味のない十日間だったが。
ゴールデンウィークも終わって数日、わたしは駅のホームで電車を待っていた。その時数年悩んでいた問いに不意に答えが出た気がした。そもそもわたしは令和に生きていてはいけない人間だったのだ。丁度良いことにここは駅のホームだ。次の電車が来るときに線路に飛び込めばすぐにでも死ぬことができる。
嗚呼、やっと楽になれる、まもなく~と電車が来るアナウンスも流れる。他の人には申し訳ないが死ぬときくらい自分勝手にやらせt…
「ねぇ!貴女!」
突然腕をがっしりと掴まれ話しかけられる。わたしの心臓が口から出そうになるほど跳ね上がる。体も一緒に跳ねてないか心配だ。
「…何ですか?」
振り返って見てみると腕をつかんでいたのはいくらか年上の女性だった。同性でも綺麗だと思う。そんなことをしているうちに電車はとっくに停止し、ドアから乗客が降りていく。…冷静になったのか死ぬのがとても怖くなった。邪魔されると覚悟が薄れるというのもわかる気がする。
「この後どこに行くの?時間ある?」
「まぁ、ないわけではないですけど」
「じゃあ、この電車乗って。これ逃したら15分こないから」
疑念は多少あったが、見知らぬ人に話しかける度胸のあるこの女性になんとなく興味が湧いた。発車メロディーが鳴り始めたのにも促され、電車に乗る。
電車のなかは人がまばらで席も空いていたがあえて誰もいないところでつり革に掴まる。
「貴女、死のうとしたでしょう?」
その一言で一気に警戒心を強める。こいつも説教垂れる気なのか、と。
「…どうしてわかったんです?」
「貴女、死んだ魚の目をして線路を見ていたから」
どうやらわたしは端から見ても気づくくらい目に光がなかったらしい。
「死んだら負けとか言う気もないし、説教する気もないわ。ただ、私の目の前で死んでほしくなかっただけ。自分勝手でしょう?」
「お陰さまでわたしは死ぬのが怖くなりました。どうしてくれるんですか」
「それは良かった」
ふふ、と彼女は微笑む。
わたしの気持ちを知ってか知らずか電車は走り続ける。
「………」
「………」
「それでわたしはどこに連れていかれるんですか?」
沈黙に耐えられなくなったわたしが話しかけてしまう。
「私の喫茶店」
「そうですか」
…私の?
「あ、次で降りるよ」
「え?あ、はい」
降りた駅は県庁所在地で高層建築が立ち並ぶ場所だった。
「見える?あそこ、あれがそう」
改札出てすぐのマンションの一階、CAFEとかかれた看板が見える。
彼女がドアにふれる。カランカランと音を立ててドアが開く。
と、そこで彼女が不意に振り返る。
「そう言えば自己紹介してなかったよね。私は筑紫澪。貴女は?」
「わたしは…三上馨です」
「よろしくね、馨ちゃん。」
「よろしくお願いします。……澪さん」
控えめにわたしが下の名前で呼ぶと澪さんは微笑みながら喫茶店のなかへ入るよう促す。
わたしたち二人を吸い込んだドアはふたたび音を立てて閉まった。
わたしは今頃肉片となって、警察が回収しているところだったのだろう。それが今わたしを引き留めてくれた女性澪さんにコーヒーを入れてもらっている。
…彼女はなぜわたしを助けてくれたのだろうか。なんて考えながら店内を見回す。
「まだお昼には早いからすいてるけど大学が近いからランチタイムにはそこそこ混むのよ」
何て言いながらカウンターにコーヒーを置く。確かにわたしと澪さん以外に客や店員の姿は見えない。二人きりであるのを確認したのか澪さんが話しかけてくる。
「ねぇ、貴女に何があったか教えてくれない?言いたくなかったら言わなくても良いけれど誰かに話した方が楽になるって言うじゃない?」
今日初めて会ったにもかかわらず、わたしは澪さんに隠し事はできないな、逆らえないな、なんて思いながら私の負の感情を全て澪さんに伝えた。
「大学なんてやめちゃえばいいのよ」
なんて突拍子のないことを言うから少し驚いた。
「本気でいってるんですか?こっちは真面目なんですよ!」
「本気じゃなきゃこんなこと言わないわよ。貴女に必要なのは大学じゃなくて心療内科、単位じゃなくて休養。お金がないのならここで雇うこともできるし」
今日初対面の人にこの人は優しすぎる。
「…どうして」
「え?」
「どうしてついさっき名前を知った人にそこまでしてくれるんですか、…わたしは相談しても親でさえお前の気持ちが弱いからだって説教をしたのに…なんで…」
声が震える、涙が頬を伝う。
「…貴女と同じようなことを患ったことがあるのよ。誰も信じられない、自分は孤独っていう感覚。だからこそ貴女が死のうとしているのもわかったし、それを引き留めなきゃって思ったの。死んだら後悔もできないから」
それを聞いてなぜかわたしは安心した。この人は信頼できると心が弛緩する。コーヒーが冷めていることがわかるくらい一気に冷静になる。涙を拭い、息を吐き出しコーヒーを一気に飲み干し立ち上がりながら澪さんに言う。
「また来ます」
「そう。気をつけて帰ってね…ちょっと待って!」
ドアに手を掛けていたわたしは立ち止まる
「なんですか?」
「携帯貸して」
澪さんに携帯を渡すとふるふるとしてすぐに返してくれた。
「いつでも連絡してね」
「わかりました。じゃあ、また」
「またね」
わたしが店を出ると入れ違いで大学生であろう女性が店内にはいる。時刻は十二時半。大学も昼休みに入るであろう時間だ。誰も信じられなかったはずなのに澪さんの言葉は不思議と信じられた。この一瞬でなぜ生きてるのかなんでどうでも良くなった。曇天の空に光が指すようにわたしの心には澪さんがいる。また逢う日まで、なんて思いながら駅までの道を歩き出す。