【2時間目 冷徹姫の溶かし方】 運命との出逢い方②
「筆記用具よし、もらったプリントが折れない為のファイルも入れたし。あ、合格通知」
明日から高校生というステップアップに心躍り、必要なものを鞄に詰め込んでいるのだが、逸る気持ちが早く寝たいのだが寝かせてくれない。
高校を期に、親の協力を土下座で取り付けて一人暮らしを始めたが、未だに段ボールが山積み。部屋の隅にベッド、それと対の位置にチェストとテレビを置けただけで、あとは四角いままの段ボール。
期待と不安の入り交じった高校生活を夢見た少年、早乙女伊織。
中学までの友人が一人もいないため、ソロでの高校突入になる。
「そろそろ寝ないと」
部屋の電気を消して、ベッドに潜り込み強引に眠りにつく。
「やばいやばいやばい」
そんな翌日。
スマホの目覚ましを完全に無視して起床した早乙女は、目の前の時計に絶望した。
投稿初日は8時半に掲示板にクラス分けが張り出され、8時50分には着席し、9時には体育館での集会。
現在、通学路を自転車で全力疾走している彼の腕時計の時刻は8時47分。
クラスでの印象を少しでも好印象にしておかなくては、今後の立ち位置に大きく影響が出る。
「ここを曲がればすぐのはず」
夜更かしの賜物か登校ルートは頭に入っていた彼は、最終コーナーを曲がろうとしたところで、運命に出逢った。
「あぶない!」
T字路を右に曲がろうとする早乙女と、真っ直ぐTの横棒部分を左から右に走る少女の激突。
ラブコメであれば許されるだろうが、ただの人身事故。
幸い軽症ではあるものの、彼らには共通の目的があった。
「ご、ごめん。大丈夫か!?」
「どこに目をつけてるんですか。と言いたいところですけど、私も遅刻しそうなので」
それだけ言い残し、その場から去ろうとする少女だが、ぶつかった際に足でも捻ったのかどうにも足並みが悪い。
(このまま遅刻されたら、俺のせいだよな)
「なぁ、二人乗りで良ければ乗らないか?」
「重いって言ったら殴るけどいいですか?」
「本当のことしか言わない」
軽い罪滅ぼしのつもりで荷台に横向きに座らせ少女を乗せて、ペダルを回す。
(まさか、登校初日に女の子と登校てきるなんて)
こんなことなら、人とぶつかるのも悪くないか、などと危ない考えが浮かんだが、ただの事故だと思い返して自分を戒める。
心配していたほどの重さはなく、登校初日の鞄の中身は薄いため、前の籠も軽い。
そして、校門が見えたところで、彼らの隣を黒塗りの車が颯爽と通り抜ける。
「一度でいいから、あんな車乗ってみたいです」
「テレビで見たけど、結構天井低いらしいぞ」
「夢がないですね。あれ?校門に止まりましたね」
ペダルを緩めながらも、二人で車に目をやる。
早乙女はそこでもう1つの運命と出逢った。
およそ、高校の入学式では見ることはない車から、燕尾服の男性に開けられた扉から出てきたのは腰あたりまで伸びた黒髪の少女。
「二人乗りは校則違反ですよ」
車の隣で思わず止まってしまった早乙女と少女を見て、断罪してきた。
「いくら恋人とはいえ、ルールは守らなくてはいけませんよ」
「恋人じゃなくて、そこでぶつかってしまって足を痛めて乗せてもらったんです」
「そうでしたか。早とちりをして申し訳ございません。ですがルールはルールです。寝不足のあなたも」
少女が何かを言おうとした瞬間、3人が漏れなく遅刻をしたと告げるチャイムが鳴る。
3人が顔を見合せ、クラスの書かれた掲示板に目をやる。
「えっと、」
受験番号と紐付けされた自分の名前を探す。
「3組か」
「3組だ」
「3組ですか」
一斉に読み上げたそれぞれのクラス。
3人が思わず顔を見合せてしまうほどに、偶然の一致だった。