夜の途中
ヴァンパイアが外に出たいと言い出したので、大晦日の夜に車を出した。田舎と言うほどでもないが、やはり田舎なので、普段より人通りは少ない。
ふとミラーを見て気づく。設計ミスじゃなかった。愛車をなで回して謝りたくなる。ヴァンパイアを助手席に乗せていると、ミラーが変だ。時々、何と言うか、歪んでいるように見える。
「ねえ。鏡、だめなの?」
「あ。いってなかった。ちかくにいるとときどきなる。わたしはわれない、ゆがむほう」
首をかしげる。鏡が割れるタイプと歪むタイプが存在する? ますます謎だらけだ。割れるタイプはさぞ生活し辛いことだろう。
「今後から鏡、見てみようかな。どのくらい歪むんだろう」
「あんまりみないほうがいい。つきにとんじゃうらしいから」
よくわからない言葉が出てきたが、とにかく、歪む鏡を眺めるのはおすすめしないとのこと。たしかに、それが趣味と言われたら不健康な感じはする。
「あと聞きたいことがね」
「なあに?」
なに、じゃなくて、なあに、だって。横に並んで声だけ聞いていたら幼い子どものようにも感じる。ヴァンパイアは、じっと見れば、大人の女性に見えるのだが。
「私にくれたアミュレット、あれは何でできてるの? 銀が黒ずんだみたいな微妙な色合いだけど。それと、あなたの名前も聞いてなかった。あなたたちの仲間のこととかも聞いてみたい」
「あみゅはち、わたしのち。わたしのなまえ、みしぇる。わたしたちはあんまりつながらない。どうるいのことは、ろどりすってよぶ。たしか、あかいみずのいみ」
「ミシェル?」
「うん」
血。ミシェル。ロドリス。うーん、わからん。考察しようとかいう気はないし、血をあげるだけで深く関わるつもりもないが、ヴァンパイアは、ミシェルはどうにも放っておけない気にさせる。私にそれを言った人も、こんな気持ちだったのだろうか。
夜の真ん中を、あてもなく走る。そういえば太陽は平気なのかと聞こうとしたが、ミシェルの寝息が聞こえてきて、やめにした。夜行性というわけでもないらしい。