落日の境界
見下ろしても灰色の町。隣に誰かがいたところで感じるものは変わらない。ヴァンパイアは三日に一度訪れる。私は食事の栄養バランスをほんの少し気にするようになって、鶏も食べなくなった。ハンターには遭遇していない。
「あ。あんこ」
一口かじったお饅頭を寄越されて、ためらってから受け取った。結局、あんこはただの好き嫌いで、死にはしないらしい。
「これ食べたらいいの?」
「え? いい……あっ、まってだめ。ち、もらってから」
「だろうね」
訪ねてきたのに、血を要求するでもなく、私があちこちからもらっていたお菓子をぱくぱく食べていたヴァンパイア。私がこのお饅頭を食べたところで、血にあんこの風味が出るとは思わないが。ひとまずラップでくるんでおく。
日が暮れる。夕焼けはなくて、どんよりした曇り空。ヴァンパイアを拾って、もう一週間が過ぎたのか。隣でお菓子を食べている姿をじっと眺めた。
美少年的な美しさは、つまり儚さであるのだろうか。儚さと呼ぶには、瞳が強い。運命を自ら定めて生きる強さがある。ヴァンパイアって生きているのか?
じっと見ていると、ヴァンパイアが顔をあげた。
「きみは、はつもうでいく?」
「初詣ね、たぶん行かないと思う。でもどうして?」
「かみさまにはきらわれる」
返事を聞いて、彼女はやはり吸血鬼なんだなあと思った。八百万のこの国で、神様に嫌われる人間なんて、いるはずがない。誰一人、味方のいない人間なんて、いるはずがないのだ。