ミシェルの十字架
ハンターをコンビニに放っておいて家へ帰ると、玄関を入ったところにヴァンパイアが座っていた。どうやって部屋に入ったのかわからないが、一度招かれれば次はいつでも入れるのだろうか。
「おかえり」
「あ、うん。ただいま」
ヴァンパイアは私を見上げて、すんすんとにおいを嗅ぐように鼻を鳴らした。俯いて言う。
「ごめん」
「それは何のごめん?」
「きみがへんなのにからまれた? それはわたしのせい。ぐりしぃおんのやつら、せかいのすべて、しはいしているつもり。ばか」
グリシィオンというのは、ハンターが言ったグリスキオンと同じだろう。彼らが世界のすべてを自らの支配下にあると考えているなら、私に法律を押しつけてくることも理解はできる。
「バカなのか」
「そう、おばかさん。わたしも。これ、わたすのわすれてた。おまもり。みつからないやつ」
ヴァンパイアは立ち上がって、私に両手を伸ばした。少し背伸びするので、こちらからも頭を下げて屈むようにする。首に何かペンダントがかけられた。
「これが、お守り?」
「あみゅ」
もやっとして首をかしげる。だって、私の首にかかるペンダントのトップはどう見ても、やはりどう見ても十字架だ。
「おそかったけどまにあう。つけなくてももっていて」
「わかった。ありがとう」
「ありがと」
ふわっと微笑むと、ヴァンパイアは氷上を滑るようになめらかに家から出ていった。ヴァンパイアのお守り、アミュレットが十字架。ヴァンパイアにしてもハンターにしても、彼女たちはこの世界の存在ではないのだろうか。