ブランカニエベス
ハンターは三杯目になるカップラーメンを、音をたててすすっていた。駐車場の車止めに座っていて、地面にはスープまできっちり飲み干されたカップラーメンの残骸が袋につめて置かれている。
車内で食べるなんて言われたら逃げようかと思っていたが、雨がぽつりぽつりと落ちても、ハンターはそれを言い出さなかった。もしかしたら、ヴァンパイアは不自由だと言ったが、ハンターにも不自由があるのかもしれない。たとえば、所有者が中にいない家や車には侵入できないとか。
「これ、お湯入れてきて」
ハンターから四杯目を渡される。時間を見てから、受け取って、店へと向かう。ドアを押して開けると、レジの前にいた店員がこちらへ顔を向けて、いらっしゃいませを言いかけた口を閉じた。代わって言うには。
「すみません。お湯、もう少し待ってください。水を足しちゃって、まだ沸いてなくて」
「ああ、いえ……いえ、こちらこそ何度もすみません。何かまだ食べるつもりみたいで」
とりあえず封を切って、作り方に従って、お湯を注ぐ直前までたどり着く。外を見ると、ハンターは三杯目を完食したらしく、こちらに向かってジェスチャーで訴えていた。早く来いとか、まだなのかとか、そのあたりだろう。
「あ、もういいと思います」
「そうですか。何度もすみません。ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず」
お湯を注いで、現在時刻を確認して、カップラーメンを手に、体でドアを押し開けて外へ。
「遅い!」
「中身をぶちまけてもいいなら急ぐけどどうする?」
「はあ!? ダメに決まってるだろ!? もったいない!」
ちょっとした冗談に対して、ハンターは素直に慌てた。少年にも見えるヴァンパイアがやれば子どものように思えただろうが、ハンターはどう見ても大人のおねえさんというやつだ。残念ながら、可愛いとは思えない。
黒髪に白い肌、赤いくちびる。美人であると思うが、ハンターというより、ヴァンパイアそのものと言われても納得してしまう。
「はい。どうぞ」
「あと何秒だ?」
「二百秒弱」
カップラーメンを引き渡し、私も別の車止めに腰を下ろした。ぽつりぽつりと落ちたあと、結局雨は降っていないようだ。
「話がないなら帰るよ」
「あるある。人間、お前、ヴァンパイアに血をやっただろ? それ犯罪だから。だが安心しろ、初犯は無知無罪で、厳重注意だ」
「それどこの法律?」
「グリスキオンだ」
「あー……?」
どこ?
どうやら私にはとても関係なさそうだなあ。ハンターの話で眉間にしわが寄っていたのが、すっとほぐれた。帰ることにした。ラーメンがあるからか、ハンターは私を追っては来なかった。