遅れてきた運命
セキレイはカラスほど賢くないのだろうか。車道を走って渡ろうとして、車に轢かれかけて飛び立つセキレイを眺めてみる。前に見かけたカラスは、横断歩道を渡ろうとして、しかも渡る前に左右の確認までしていた。
渋滞だ。車が進まない。
「羽根があるのに飛ばないなんて。鎖で縛られてもいないのに」
たしかに、なぜわざわざ歩いて道路を。と、心中で同意して、突然、助手席の存在感に気づく。見知らぬ女が、愛車の助手席に座っている。いつの間にと考えて、どうやってと考えて、答えを導き出せそうにないと落ち着ける。
「誰?」
「はじめまして、人間。私はヴァンパイアハンターだ」
見知らぬ女を、見つめてしまった。目付きが悪いと言われたことがあるので、睨み付けているように見えるかもしれない。
ヴァンパイアハンター。ヴァンパイアを狩る者。私を人間と呼ぶのなら、彼女は人間ではないのだろうか。ヴァンパイアと言われて今思い浮かぶのは、一人。
「ふざけたあいさつ。それじゃ、用事も身元も伝わらない」
「十分に伝わったはずだ」
「ヴァンパイアハンターというのは、随分、お行儀が悪い」
女は鼻で笑う。
「はっ、ヴァンパイアどもは好き勝手に人間の家へ上がれないからな。このように、車に乗り込むことも。制限の多い不自由な奴らだ」
「用件をどうぞ」
自称ヴァンパイアハンターの女から視線を外し、周囲の様子をたしかめる。変わらず渋滞しているが、少し前の車がブレーキから足を離した。ハンターへ話を聞くというアピールも兼ねて、停まっていた場所のすぐ前だったコンビニに入る。
「ちょうどいい。空腹だったんだ。感謝してやってもいい」
まさか私に食事をおごれと言っているわけではないと思いたいが、駐車場に車を停めると、エンジンを切る前に女は車を飛び出した。ラーメンと言い、店へ走る。これは、また、変なのを拾ってしまったようだ。いや今度のは拾ってはない。