よるのあと
ミシェルと過ごすはずだったホテルで夜を明かす。朝焼けが涙を誘った。酒が入っているせいかもしれない。眠くならないのも、私が変わってしまったせいか。ミシェルを殺したからか。朝焼けが、ミシェルの瞳の色をしている。
「それで」
「なんだ?」
「私、あなたの組織の仲間になったつもりなんてない」
「あのヴァンパイアは何と?」
「たしか……世界を支配しているつもりの組織だと」
「……まあ、木っ端はそうだな。はじまりの男が利用するためにかき集めた無能の馬鹿共だ。結局、私とはじまりの男しか、ヴァンパイアを殺せる者はない。今は、なかった、と言うべきだが」
「何人殺せた?」
「世界中探しても、死にたがりのヴァンパイアは少ない」
「……何人生きてる?」
「私と、はじまりの男が、殺せずに傷つけたのは、世界中にあと二人。まだ生きていれば、だ」
すでに誰かに出会って、その誰かに殺されているということもあるかもしれない。
「そういえば、あなたの名前を聞いてなかった」
ブランカニエベスは黙った。私が勝手に呼ぶ白雪姫を、それでいいと聞き流してきたブランカ、ハンター。それでいいということは、それではないということ。
「それは必要か?」
「いいえ、必要ではない。ただ、ともにいるなら、呼び名はあったほうがいいかと。何でもいいなら、今まで通りにする」
「ブランカでいい。お前は?」
「そう、じゃあ……私のことは、クルスとでも呼んで」
「十字架か」
「……そうかもね」
栗栖理香。私の名前。そういえば、ミシェルには結局、名乗っていないのだった。だから、当然、呼ばれたこともない。なぜ、名前を言わなかったのか、思い出せない。何も理由があったわけではないのに。




